スターバックスのブルーオーシャン戦略|コーヒーを“体験”に変えたビジネスモデル

business_model10スターバックスのブルーオーシャン戦略 ビジネスモデル

スターバックスに立ち寄ったことがある人は多いでしょう。ドリンクを受け取り、ゆったりとしたソファに腰かける。あの時間は、単にコーヒーを飲むだけではなく、ちょっと特別なひとときなんですよね。

けれど、スターバックスが登場する前のコーヒー市場は違っていました。缶コーヒーや自販機、喫茶店がひしめき、どこも似たような価格と味。差別化は難しく、企業同士は消耗戦に追い込まれていたんです。

ここで重要になるのが「レッドオーシャン」と「ブルーオーシャン」という考え方です。レッドオーシャンは既存市場で血みどろの競争が繰り広げられる状態。対してブルーオーシャンは、まだ誰も切り開いていない新しい価値基準で形づくられる市場を指します。つまり、レッドは既存の土俵で戦う発想、ブルーは土俵そのものをつくる発想なんだと思います。

スターバックスは後者を選びました。「第三の場所(サードプレイス)」という概念を打ち出し、コーヒーを“商品”から“体験”へと変えたんです。

この記事では、5Forces・PESTLE・戦略キャンバス・4P・7Sといった経営分析の定番フレームワークを横断しながら、スターバックスの戦略を分解していきます。そして日本企業の事例も交え、自分の業界に応用できる「体験価値化」のヒントを探っていきます。

スターバックスの成功を知ることは、企業分析にとどまりません。あなた自身のビジネスやキャリアにおいて「当たり前を疑う力」を磨くきっかけになるはずです。

【1】レッドオーシャンだったコーヒー市場

business_model10【1】レッドオーシャンだった

スターバックスが登場する以前、コーヒー市場はすでに成熟しきった典型的なレッドオーシャンでした。企業にできるのは「価格を下げて顧客を奪う」か「立地で勝負する」くらいで、安定的に利益を確保するのはとても難しかったんです。

その背景を理解するのに役立つのが「5Forces分析」です。ハーバード大学のマイケル・ポーターが提唱したこのフレームワークを使うと、当時の市場構造がなぜ熾烈な消耗戦になっていたのかが浮かび上がります。

1-1. コーヒー業界の常識と価格競争

1980〜90年代のアメリカや日本では「安く・早く・大量に」が当たり前でした。

  • 街角には缶コーヒーや自販機
  • オフィスには業務用ドリップマシン
  • 郊外には低価格を売りにするファミレス

どこに行っても似たようなサービスばかりで、差別化は難しかったんですよね。結果として「品質よりもコスト削減」「体験よりも回転率」が優先され、利益率を高めるのはほとんど不可能でした。消費者にとっても「コーヒーは安くて当然」という意識が根強く、事業者は価格競争から逃れられなかったのです。

1-2. 5つの競争要因で分解すると見えてくる構造(5Forces分析)

5Forcesに当てはめると、当時のコーヒー市場の厳しさがよくわかります。

要因コーヒー市場の状況(当時)
既存競合の強さ喫茶店チェーン、ファストフード、缶コーヒー、自販機が乱立し激戦
新規参入の脅威小資本でも開業可能で、新しいカフェが次々登場
代替品の脅威紅茶・炭酸飲料・ジュースなど選択肢が豊富で乗り換え容易
供給者の交渉力コーヒー豆は国際相場依存で価格変動リスクが大きい
買い手の交渉力消費者は「安さ」で選ぶため、常に価格引き下げ圧力が強い

どの要因を見ても「競争激化」と「収益性の低下」がはっきりと示されており、まさにレッドオーシャンの典型だったと言えるでしょう。

1-3. 市場の限界とスタバ登場の必然性

こうした構造の中で、企業はコスト削減と大量販売に頼るしかありませんでした。だからこそ、どの店も似たような「安いコーヒー」しか提供できず、差別化はほぼ不可能だったんです。

この閉塞感を打ち破ったのがスターバックスでした。「価格競争から降りる」という決断は、市場の必然でもあったんだと思います。既存の土俵で戦うのではなく、新しい価値基準を打ち立てる。そこから「第三の場所」というブルーオーシャンが切り開かれていきました。

【2】スターバックスが作ったブルーオーシャン「第三の場所」

business_model10【2】ルーオーシャン「第三の場所」

スターバックスが注目を集めたのは、単にコーヒーを売る会社ではなく「居場所」を提供したことでした。家庭と職場の間にある「第三の場所(サードプレイス)」という考え方は、それまでの喫茶店やカフェにはなかった発想なんです。

その背景には、社会や経済、技術の大きな変化がありました。これを整理するのに役立つのが「PESTLE分析」です。政治・経済・社会・技術・法律・環境という6つの外部要因を切り口にすると、なぜスターバックスが時代にフィットしたのかが見えてきます。

2-1. サードプレイスの発想

「家では集中できない。職場ではくつろげない。」
そんな隙間を埋めたのがスターバックスでした。

店内には居心地のよいソファ席、落ち着いた照明、BGMが流れる空間。コーヒーを買う場所ではなく「もうひとつの生活空間」として設計されていたんです。

結果的に、コーヒーを「飲むもの」から「滞在する理由」に変えることに成功しました。

2-2. コーヒーを「飲み物」から「体験」に変えるシフト

従来の市場では、コーヒーは商品にすぎませんでした。差別化できるのは価格か味くらい。

スターバックスはそこに「体験」という新しい軸を加えました。

  • 名前を呼ばれる接客
  • ロゴ入りカップを持ち歩く習慣
  • バリスタとのちょっとした会話

どれもコーヒーの味そのもの以上に、「過ごす時間の価値」を印象づける仕掛けだったんです。結果として、コーヒーは自己表現の一部に変わりました。

2-3. 社会変化が追い風になった背景(PESTLE分析)

スターバックスが「第三の場所」を広げられたのは、外部環境の変化が後押ししていたからです。

視点当時の背景
Politics(政治)禁煙条例の拡大、公共スペースの規制強化
Economy(経済)都市部での可処分所得増加、プレミアム志向
Society(社会)都市生活者の孤独感、家と職場以外の居場所ニーズ
Technology(技術)モバイル端末やWi-Fi普及で「仕事+カフェ」需要増加
Legal(法律)店舗衛生基準やフランチャイズ規制の整備
Environment(環境)環境意識の高まり、フェアトレード豆やリサイクル活動の拡大

都市化や働き方の変化、禁煙化の流れ、IT技術の普及。こうした時代の流れが「第三の場所の必要性」を自然に押し上げたのだと思います。

スターバックスは「コーヒー=飲料」という固定観念を壊し、「居心地のよい体験空間」という新しい基準を築きました。その背景に、社会や技術の後押しがあったことを忘れてはいけません。

外部要因をどう読むか。そこにこそ、新しい市場を生み出すヒントが隠れているんです。

【3】戦略キャンバスで差別化を見える化

business_model10【3】戦略キャンバス

スターバックスがレッドオーシャンから抜け出せた理由は、「第三の場所」というコンセプトだけではありません。競合と同じ土俵で戦うのをやめ、価値の軸そのものを変えたことにあります。その違いを理解するのに役立つのが「戦略キャンバス」なんです。

3-1. 戦略キャンバスとは?

戦略キャンバスは、価格・回転率・居心地などの競争要因を横軸に置き、各企業の強さを線で示すフレームワークです。多くの競合は似たような曲線を描く一方で、スターバックスはそこから外れた全く違う線を引きました。
つまり「既存市場の延長」ではなく、新しい市場を創造したと視覚的に理解できる仕組みです。

3-2. 削る要素

スターバックスはあえて「低価格競争」や「喫煙文化」を削りました。灰皿を置かず、回転率を犠牲にしてでも居心地を優先したんです。

3-3. 減らす要素

効率やスピードへのこだわりも抑えました。ファストフードのような速さではなく、「あえて時間を楽しめる空間」に切り替えたのです。

3-4. 増やす要素

その代わりに強化したのが、居心地やブランド価値、顧客接点。BGMや照明、接客まで店舗全体をデザインし、ブランド体験を積み重ねました。

3-5. 新しく作る要素

最大の革新は「第三の場所」という新しい軸の創出でした。ラテ文化の導入や、持ち帰りと滞在を両立させる設計、自己表現を支えるカップデザイン。すべてが新市場を切り開く武器となりました。

3-6. 差別化を表で整理

要素分類従来の喫茶店/チェーンスターバックス
削る低価格競争、喫煙文化意図的に排除
減らす回転率重視、スピード提供ゆとりある滞在を許容
増やすブランド価値、顧客接点店舗デザイン・接客・BGMで強化
作る新しい体験要素なし第三の場所、ラテ文化、滞在体験

こうして整理すると、スターバックスが既存の常識を壊し、新しい価値を生み出したことが一目でわかります。価格や回転率の赤い海から抜け出し、「体験」という青い海を描いた。それこそが本当のブルーオーシャン戦略だったのです。

【4】スタバのビジネスモデルを整理する

business_model10【4】スタバのビジネスモデル

スターバックスの強みは、「おしゃれなカフェ」や「居心地の良さ」だけにとどまらないんです。背後には、マーケティングの基本である4P(Product・Price・Place・Promotion)を踏まえた設計がきちんとあります。
4Pとは「商品・価格・流通・プロモーション」の4つの視点で企業の戦略を整理するフレームワーク。スターバックスはこれを自社の強みと結びつけ、体験価値をビジネスモデルに仕立ててきました。

4-1. 商品を「体験」に変える(Product)

スターバックスが売っているのはコーヒーではなく「体験そのもの」です。
カフェラテやフラペチーノといった新しい飲み方を広めつつ、BGM・香り・接客を組み合わせ、五感で楽しめる空間をつくりました。

4-2. プレミアム価格の理由(Price)

一杯の値段は決して安くありません。でもそれは「高いコーヒー代」ではなく、「豊かな時間への投資」なんですよ。滞在空間や自己表現の要素まで含めて、消費者が納得できる価格になっています。

4-3. 都市と地域をつなぐ立地戦略(Place)

一等地や交通の要所に出店する一方で、地域文化や建築に合わせたデザインを採用。画一的ではない店舗づくりが、グローバルでありながら地域に根付いたブランド感を生んでいます。

4-4. 広告よりも体験で伝える(Promotion)

スターバックスはテレビCMをほとんど打たず、店舗そのものを最大の広告としました。そこで生まれた体験が口コミやSNSを通じて広がり、自然にプロモーションの役割を果たしたのです。

4-5. 他チェーンとの比較表

項目スターバックスドトールマクドナルド
Productコーヒー+体験(空間・接客・音楽)コーヒー中心、手軽さ低価格・スピード
Priceプレミアム価格(体験込み)手頃な価格最安値帯
Place都心・地域性ある店舗デザイン駅前・オフィス街中心全国均一、どこでも同じ
Promotion店舗体験と口コミ中心広告+価格訴求大規模広告+価格キャンペーン

スターバックスは「高級カフェ」ではなく、マーケティングの原則に沿って「体験を商品化したブランド」なんです。この違いが他社との差別化を決定づけました。

【5】スタバを支えた組織力

business_model10【5】組織力

スターバックスがブルーオーシャンを切り開けたのは、商品戦略や空間デザインだけの力ではありません。その土台になっていたのは「組織そのものの強さ」でした。

ここで役立つのが「7S分析」です。Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、Systems(仕組み)、Staff(人材)、Skills(スキル)、Style(マネジメントスタイル)、Shared Values(共有価値観)の7つで企業を整理するフレームワーク。スターバックスの体験価値は、この7つが噛み合って初めて形になったんです。

5-1. 戦略と構造

スターバックスは「サードプレイス」という戦略を掲げ、その実現のためにフラットで現場裁量の大きい組織を導入しました。本社主導ではなく、地域ごとの文化に合わせた判断ができる仕組みが現場にあったのです。

5-2. 仕組みと人材

安定して顧客体験を提供するには、制度と人材が不可欠です。スターバックスはマニュアルを超えて「ホスピタリティ文化」を根づかせました。アルバイトであっても顧客に自発的に寄り添えるよう教育され、スタッフは単なる「注文係」ではなく「ブランドの顔」として機能していたんです。

5-3. 共有価値観と文化

スターバックスの最大の強みは、企業理念である「人々にインスピレーションと人間的なつながりを」という言葉がスタッフ全員に浸透していたことです。仕事を「作業」ではなく「ミッション」と捉える文化が現場に根づき、一貫性ある体験を生み出しました。

7Sで整理したスタバの組織力

項目スターバックスの特徴
Strategyサードプレイスを軸にした戦略
Structureフラットで現場裁量が大きい組織構造
Systems教育・評価制度、アプリやカードの仕組み
Staffブランドの顔となるバリスタ
Skills接客スキル+ホスピタリティ精神
Styleトップダウンではなく共感を重視
Shared Values「人間的なつながり」を大切にする理念

スターバックスの成功は、商品や空間デザインに加えて組織全体が「体験を支える仕組み」として機能していたからこそ実現したんです。戦略・人材・文化が噛み合った結果、他社が真似できない一貫した体験を提供できました。

【6】顧客特性とペルソナ分析

business_model10【6】顧客特性

どんなに優れた戦略や組織があっても、顧客のニーズに合わなければ成功は続きません。スターバックスがブルーオーシャンを広げられたのは、「誰に響くのか」を正しく見極めたからなんです。ここでは当時の顧客層をペルソナ的に整理し、なぜ都市生活者の心をつかんだのかを見ていきましょう。

6-1. 都市生活者のニーズ

90年代の都市部では、働く人も学ぶ人も忙しく、移動や待ち時間が増えていました。喫茶店はあったけれど「長居しにくい」「一人で入りづらい」といった空気が強く、落ち着ける空間を求める声が高まっていたんです。スターバックスはその隙間を埋め、「安心してくつろげる場所」を提供しました。

6-2. 学生・知識労働者の行動変化

パソコンや携帯電話が広まりはじめた時代、レポートや仕事準備を外でこなす人が増えていました。スターバックスは電源や広めの机を備え、「勉強や仕事ができるカフェ」という新しい使い方を提示。大学生や知識労働者が自然と集まり、サードプレイス文化を支えたのです。

6-3. 自己表現としてのスタバ利用

スターバックスは単なる飲食の場ではなく、「ブランド体験の場」として機能しました。ロゴ入りカップを持ち歩くこと自体が一種のステータスとなり、とくに若者や女性にとっては「自分のライフスタイルを表現する手段」になっていったんです。

顧客特性を整理すると

顧客層ニーズスタバが提供した価値
都市生活者落ち着ける場所、長居できる空間快適な空間とサードプレイス
学生・知識労働者勉強・仕事ができる場電源・机・静かな雰囲気
若者・女性層自己表現、ステータスブランド体験・ロゴ入り商品

スターバックスが築いたブルーオーシャンは、顧客特性とぴったり重なっていたからこそ拡大しました。
コーヒーはただの飲み物ではなく──都市生活者には安心の場、学生や労働者には作業空間、若者には自己表現の舞台。この多面的な価値こそがスタバを別次元に押し上げた原動力だったのです。

【7】成功要因と模倣困難性

business_model10【7】成功要因

スターバックスは「第三の場所」という新しい価値軸を打ち出し、ブルーオーシャンを切り開きました。しかし、同じようにカフェ事業を展開しても、スターバックスほど成功した企業はほとんどありません。その理由は、彼らの成功要因が「模倣しづらい性質」を持っていたからなんです。

7-1. 一貫したブランド体験

スターバックスが提供したのは単なる店舗デザインや商品ではなく、五感で楽しめる「ブランド空間」でした。コーヒーの香り、バリスタの声かけ、店内の音楽──細部まで統一された体験は、真似しても断片的にしか再現できず、「なんとなく似ている店」で終わってしまったのです。

7-2. 独自の仕組みとロイヤルティプログラム

スターバックスカードやアプリによる決済・リワード制度は、自然に顧客の継続利用を促しました。これは単なる「ポイント」ではなく、データを活用した個別最適化の仕組み。競合が表面だけをコピーしても同じ効果は出せませんでした。

7-3. 人材をブランドの一部にする戦略

スターバックスは従業員を「アルバイト」ではなく「パートナー」と呼び、接客をブランド体験の核に位置づけました。バリスタは商品を提供する人ではなく、ブランドを体現する人。研修や制度によって働きがいを高め、結果として顧客の信頼を育てたのです。

7-4. 組織文化と価値観の共有

スターバックスの文化には「人と人とのつながりを大切にする」という理念が浸透していました。地域ごとの特色を尊重しつつ、全体では一貫性を保つ。そのバランスがブランドへの信頼をさらに強め、模倣を難しくしたのです。

スターバックスの成功要因は、商品や空間といった表面的な部分にとどまりません。体験を一貫させる仕組み、人材をブランドに組み込む戦略、そして文化として根付いた価値観。これらが絡み合い、競合が追随できない「模倣困難性」を生み出したのです。

【8】失敗リスクと学び

business_model10【8】失敗リスク

スターバックスのブルーオーシャン戦略は華やかに語られがちですが、実際にはその表面だけをなぞろうとして失敗した例も少なくありません。空間を整えるだけ、価格を上げるだけでは、顧客にとって魅力ある体験にはならないんです。ここでは代表的な失敗パターンを整理し、企業が学ぶべきポイントを見ていきましょう。

8-1. 空間演出だけを真似した失敗

一部のチェーンは店内を豪華に改装し、BGMや照明に工夫を凝らしました。けれど接客やメニューは従来通り。結果、顧客からは「見た目だけが変わった店」と映り、リピーターが定着しませんでした。体験は「全体の一貫性」があって初めて成立することを示す典型例です。

8-2. 価格戦略を誤った失敗

「高級カフェ」を名乗り、強気の価格設定を導入した企業もありました。しかし肝心の体験価値が伴わず、味や接客は平均的。そのため顧客は「高いだけ」と判断し、むしろ逆効果となったのです。価格はブランド体験と一体で設計しなければ、「負担」として受け止められてしまいます。

8-3. 体験価値を誤解したリスク

さらに深刻なのは、体験価値を「過剰演出」と勘違いしたケースです。形式ばった接客や過度なサービスは、顧客に「押し付けられている」という印象を与え、居心地の悪さにつながりました。本来の体験価値は自然であること、日常に無理なく溶け込むことが前提なんです。

失敗事例から見えてくるのは、体験価値の本質は一貫性と顧客視点にあるということ。空間・商品・価格・接客・文化がすべて連動して、ようやく意味を持つのです。スターバックスが成功できたのは、長年かけてそれらを積み上げてきたから。ブルーオーシャンを目指すなら、部分的な真似ではなく、自然に価値を感じられる「体験設計」が欠かせません。

【9】体験価値化のヒント集:レッドからブルーへ移行した事例

business_model10【9】体験価値化のヒント

スターバックスの成功は特別に思えるかもしれません。でも実際には、日本国内にも「当たり前」を壊して体験価値を軸にブルーオーシャンを開いた企業がいくつもあるんです。ここではQBハウス、ブックオフ、チョコザップの3つを取り上げ、それぞれがどう市場を再定義したのかを見ていきましょう。

9-1. QBハウス:美容室の常識を壊し「早さ」を商品化

従来の美容室はシャンプーやブロー込みが前提でした。そこでQBハウスは余計なサービスを削り、「髪を切る」という本質に集中。10分1,000円というシンプルさで「早さを商品化」しました。忙しいビジネスパーソンに支持され、価格競争から離れた独自市場を築いたのです。

9-2. ブックオフ:古本屋を「再流通体験」に変換

かつて古本屋といえば暗く雑然としたイメージが強いものでした。ブックオフは明るい照明と整理された棚、接客を取り入れ、「古本売買を気軽に楽しめる体験」へと刷新しました。安さだけでなく「安心して利用できる再流通市場」を生み出し、古本を日常の選択肢に押し上げたのです。

9-3. チョコザップ:フィットネスを「日常+気軽さ」へ転換

従来のフィットネスクラブは「本格派」中心で、初心者には心理的ハードルが高い場所でした。チョコザップはあえて本格志向を排除し、機器やメニューをシンプルに。「コンビニ感覚で通えるジム」として日常に溶け込ませました。さらに美容や生活サービスをアプリに統合し、フィットネスを「習慣」に変えたのです。

👉 詳しくは チョコザップのビジネスモデル解説 でも紹介しています。

9-4. 共通する成功の鍵

3つの事例に共通していたのは、既存市場のルールに従わず、「削る・減らす・増やす・作る」の視点で体験を再設計したことです。

  • QBハウス:シャンプーを削り、スピードを商品化
  • ブックオフ:暗い古本屋を減らし、安心できる再流通体験を増やす
  • チョコザップ:ガチ志向を排除し、日常感覚のフィットネスを創出

これはまさに戦略キャンバスの実践です。スターバックスが「コーヒーを飲む」から「居場所で過ごす体験」に転換したように、彼らも既存の価値軸を再定義しました。

ブルーオーシャンは遠い海の向こうにあるわけではありません。既存市場の“当たり前”を疑った先に現れるんです。あなたの業界にも眠っている「体験化のチャンス」がきっとあるはずです。

【10】まとめ

スターバックスは、熾烈な価格競争が常態化していたコーヒー市場で「第三の場所」という新しい価値軸を打ち出し、ブルーオーシャンを切り開きました。その裏側を整理すると、いくつものフレームワークが連動していたことがわかります。

  • 5Forcesで市場構造を把握
  • PESTLEで社会背景を理解
  • 戦略キャンバスで差別化を設計
  • 4Pで体験価値を商品化
  • 7Sで組織体制を支える

これらが噛み合った結果、スターバックスは「飲料」ではなく「体験」として市場を再定義できたのです。

ブルーオーシャン戦略の本質は「新しいことを始める」ことではありません。業界の常識を疑い、顧客体験を再設計することにあります。スターバックスはその典型例であり、価格や商品に縛られた競争から抜け出し、全く新しい市場を描いたんです。

さらに日本でも、QBハウス、ブックオフ、チョコザップといった企業が同じ発想で成果を上げました。共通していたのは、「顧客が本当に求める体験」に焦点を当てたこと。だからこそ既存市場を越えて、新しい需要を作り出せたのです。

ここで問いかけたいのは──あなたの業界に眠る「当たり前」は何か、ということ。価格設定、サービスの流れ、顧客との接点。その中に削るべきものや、新しく加えるべき体験はありませんか?

ブルーオーシャンは遠い世界にあるのではなく、日常の中に潜んでいます。スターバックスの事例をヒントに、ぜひ「体験価値の再設計」に挑んでみてください。

編集後記

この記事で一番大事にしたのは、スターバックスの成功を「おしゃれだから」では片付けないことでした。
5ForcesやPESTLEといった戦略フレームワークを使い、当時の社会背景や組織設計、顧客特性まで掘り下げて整理しています。

私自身、多くのビジネスモデルを分析してきましたが、いつも感じるのは「業界の常識を疑えるかどうか」が勝敗を分けるということ。スターバックスはまさにその典型例で、価格競争から降り、体験価値を中心に据えました。

もちろん、同じことをなぞれば成功できるわけではありません。文化や顧客習慣は短期間では根付かず、模倣困難性の項で触れたように、長い時間をかけて積み上げていくものなんです。

だからこそ、自分の業界にある「当たり前」を問い直し、自社ならではの体験価値をどう育てるかが重要になります。ブルーオーシャンは遠い海の向こうにあるのではなく、足元の現場に潜んでいるのです。

この記事が「身近なところから新しい市場を見つけてみよう」と思うきっかけになればうれしいです。

編集方針

  • ブルーオーシャン戦略の本質を、事例と体験価値で伝える
  • スターバックスを軸に、QBハウス・ブックオフ・チョコザップなど他業界の成功例も紹介する
  • 5Forces・PESTLE・戦略キャンバス・4P・7Sを活用し、初心者でも理解できる形に整理する
  • 読者が自分の業界に応用できるようにヒントを示す
  • 常識を疑い、新しい体験を設計する視点を持ち帰れるように導く

参照・参考サイト

Blue Ocean Strategy(HBR公式解説)
https://hbr.org/2004/10/blue-ocean-strategy

経済産業省「サービス産業」政策ページ
https://www.meti.go.jp/policy/servicepolicy/index.html

中小企業庁「中小企業の成長のためのイノベーション研究会 中間取りまとめ報告」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/seicho_innovation/report/202505report.pdf

経済産業省「我が国のイノベーション・エコシステムの現状と課題」資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/innovation/pdf/005_03_00.pdf

RIETI Discussion Paper「サービス産業のイノベーションと特許・営業秘密」
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j024.pdf

Blue Ocean Strategy.com「QB House | Personal Care Services Industry Case Study」
https://www.blueoceanstrategy.com/blue-ocean-strategy-examples/qb-house/

スターバックス コーヒー ジャパン公式サイト
https://www.starbucks.co.jp/

東洋経済オンライン「スターバックスの戦略と成長の裏側」
https://toyokeizai.net/

ハーバード・ビジネス・レビュー(日本版)「体験価値の経営」
https://www.dhbr.net/

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チョコザップのビジネスモデル解説
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執筆者:飛蝗
SEO対策やウェブサイトの改善に取り組む一方で、社会や経済、環境、そしてマーケティングにまつわるコラムも日々書いています。どんなテーマであっても、私が一貫して大事にしているのは、目の前の現象ではなく、その背後にある「構造」を見つめることです。 数字が動いたとき、そこには必ず誰かの行動が隠れています。市場の変化が起きる前には、静かに価値観がシフトしているものです。社会問題や環境に関するニュースも、実は長い時間をかけた因果の連なりの中にあります。 私は、その静かな流れを読み取り、言葉に置き換えることで、「今、なぜこれが起きているのか」を考えるきっかけとなる場所をつくりたいと思っています。 SEOライティングやサイト改善についてのご相談は、X(@nengoro_com)までお気軽にどうぞ。
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