「フェルミ推定」という言葉を耳にすると、少し難しそうに感じるかもしれません。就活の面接で出題されると聞いたことがある人もいれば、ビジネスの場で役立つと紹介されて興味を持った人もいるでしょう。
フェルミ推定とは、限られた情報をもとに「おおよその数値を筋道立てて導く方法」です。正解をぴたりと当てることよりも、どう考えたかという過程を示すことに価値があります。だからこそ、コンサル面接や総合商社の採用試験で重視され、就活生にとって避けて通れないテーマになっているのです。
一方で、この考え方は面接対策だけにとどまりません。マーケティングで市場規模をざっくり見積もるとき、営業で潜在顧客数を概算するとき、さらには日常の中で「この駅を利用する人は1日どれくらいだろう」と思ったときにも応用できます。数字を扱う感覚や仮説思考を鍛えるトレーニングとして、誰にとっても役立つスキルなのです。
この記事では、定義や歴史から入り、基本の手順や例題、面接での答え方、実務での活用方法までを体系的に整理しました。数字が苦手な人でも読み進められるよう、表や図解を交えながら丁寧に解説していきます。読み終える頃には「自分でも挑戦できそうだ」と感じられるはずです。
【1】フェルミ推定とは?

フェルミ推定という言葉を初めて聞くと、なんだか専門的で近寄りがたい印象を持つかもしれません。でも本質はとてもシンプル。統計や正確なデータがなくても、身近な常識や数字感覚を手がかりに「だいたいこのくらいだろう」と合理的に近似する思考法のことを指します。初心者でも簡単に試せる方法で、特別な数学の知識がなくても取り組めるのが魅力なんです。
1-1. フェルミ推定の定義と由来
フェルミ推定とは、限られた情報から合理的に数値を見積もる推定手法です。複雑な数式を使わず、いくつかの仮定を置き、それを掛け合わせることで答えに近づけていきます。
この名前の由来は、20世紀を代表する物理学者エンリコ・フェルミ。彼は実験の場で即興的に数値を推定することに長けており、原爆実験の際には「爆風で飛んだ紙片の落下距離」から威力を見積もったと伝えられています。観察と論理だけで現実的な数値に迫る姿勢が、この手法の原点になっているのです。
つまりフェルミ推定とは、数字に強い一部の専門家だけの技術ではなく、「常識+仮定+計算」で誰でも挑戦できる合理的な近似の方法と言えます。
1-2. どんな場面で使われるのか(就活・ビジネス・日常)
フェルミ推定は就活の面接でよく登場します。コンサルや総合商社の採用試験で定番の問いかけは「日本にピアノの調律師は何人いるか?」「東京駅を1日に利用する人数は?」といったもの。ここで問われているのは正解を知っているかではなく、問題をどう分解し、どんな仮定を置き、どうやって筋道を立てるかなんです。
ビジネスの現場でも役立ちます。たとえば新商品の市場規模をざっくり把握したいときや、広告施策の効果を会議中にその場で見積もるとき。詳細な調査に時間をかけなくても、フェルミ推定を使えば「根拠ある概算」を短時間で提示でき、議論を一歩前に進められます。
さらに日常生活でもトレーニングになります。「電車の車両は全国でどのくらい?」「日本で1日に飲まれるコーヒーは何杯くらい?」といった問いを考えてみるだけで、数値感覚や仮説思考が自然に鍛えられます。特別な知識がなくても、日常の疑問を推定に変えてみることができるのです。
フェルミ推定は、就活やビジネスに必要なスキルであると同時に、日常の疑問を楽しむ「思考の筋トレ」にもなります。数字が苦手だと思っている人でも、まずは簡単な練習問題から試してみることで、「自分でもできた」という実感を得られるはずです。
【2】フェルミ推定の基本構造と考え方

フェルミ推定を理解するうえで大切なのは「どのように考えるのか」というプロセスです。答えの正確さよりも、どうやってそこに至ったかが評価されます。ここでは、基本の思考プロセスと、仮説思考・ロジカルシンキングとの関係、さらに「なぜ筋道が大切にされるのか」を数理的に補足します。最後に、図や表を使ってプロセスを視覚的に整理し、初心者でも理解できるようにしていきます。
2-1. フェルミ推定の思考プロセス:分解→仮定→計算
フェルミ推定の流れはシンプルです。
- 問題を大きな要素に分解する
- 各要素に妥当な仮定を置く
- 仮定を掛け合わせ、近似計算で答えに近づける
たとえば「東京のスターバックスの売上」を推定するとします。人口→利用者割合→来店頻度→平均客単価、といった具合に要素を分ければ、一見答えが出せなそうな問題でも段階的に近づけます。
2-2. 仮説思考・ロジカルシンキングとの関係
フェルミ推定は「仮説思考」と「ロジカルシンキング」の実践形です。仮説思考とは「こうだろう」という前提を置き、その妥当性を検証していく思考法。ロジカルシンキングは筋道を立てて考えを整理する力。フェルミ推定では、この二つを同時に使いながら答えを組み立てます。つまりフェルミ推定に慣れることは、これらの思考力を自然に鍛えることにつながります。
2-3. なぜ正解よりも“筋道”が重視されるのか
フェルミ推定は「答え合わせの問題」ではありません。誤差が大きくても、論理の流れが一貫していれば評価されます。たとえば実際の市場規模が1兆円だったとして、自分の推定が7,000億円や1兆3,000億円でも、筋道がしっかりしていれば「合格」なのです。
理由は2つあります。
- 不確実な環境で正確な数字を出すのはそもそも不可能だから
- 問題解決に必要なのは「正確さ」より「合理的に見通しを立てる力」だから
つまりフェルミ推定は「正確さを求めるゲーム」ではなく「筋道で相手を納得させる練習」なのです。
2-4. 思考プロセスを図解で理解する
言葉だけだと難しく感じやすいので、図解で整理してみましょう。
例:日本のコンビニ数を推定する場合
- ステップ1:日本の人口を仮定(1.2億人)
- ステップ2:1店舗あたりがカバーする人口を仮定(2,000人)
- ステップ3:人口 ÷ 1店舗あたりの人口 = コンビニ数(約6万店)
こうしたツリー分解や計算フローを図で描くと、数字がどのように積み上がっていくのかが直感的に理解できます。仮定の部分を色分けすれば「ここが推測部分」「ここが計算部分」と明確になり、初心者でも整理しやすくなります。
フェルミ推定の本質は「分解・仮定・計算」というシンプルなサイクルにあります。正解に近づくことよりも、筋道を示して他者を納得させることが評価される。そのため、面接や実務でこの手法が重視され続けているのです。
【3】フェルミ推定の手順を解説

フェルミ推定は一見シンプルですが、実際に取り組むと「どこから手をつければいいのか」で迷いやすい手法です。そこでここでは、初心者でも順番に進められるように、基本のステップを5つに整理しました。数値を出すことが目的ではなく、筋道を相手に伝えるプロセスにこそ価値があるのだと意識して読み進めてみてください。
3-1. 問題を定義する(ゴールの明確化)
最初に決めるべきは「何を知りたいのか」です。
たとえば「日本のピザ市場規模」を推定するとしましょう。その場合、「売上金額」を出すのか、「消費枚数」を出すのかを明確にしておく必要があります。ゴールが曖昧だと、途中の仮定も計算もすべてぶれてしまうんです。
3-2. 大きな要素に分解する(ツリー化)
次に全体をいくつかの要素に分けます。イメージはツリーを枝分かれさせるようなもの。
ピザ市場なら「人口 × ピザを食べる人の割合 × 消費頻度 × 平均単価」と分解できます。こうして「掛け算で全体が導ける形」に整理することで、複雑に見えたテーマも扱いやすくなります。
3-3. 数字の仮定と根拠づけ
分解した要素には数字を仮定します。このとき大事なのは「なぜその数字を選んだのか」を説明できること。
「人口は1.2億人程度」「若者の3割が月1回はピザを食べる」といった仮定に、常識や生活実感を添えるだけで説得力が大きく変わります。フェルミ推定とは簡単に言えば、根拠づけされた仮定の積み重ねなんです。
3-4. 計算と近似で答えを導く
仮定した数字を組み合わせ、概算で計算します。ここでは小数点まで追う必要はありません。むしろ「ざっくりと方向性を示す」ことが目的です。
たとえば100万人を「100万」と簡略化するなど、近似を使うと短時間で見通しが立ちます。
3-5. 結論と限界の提示
最後に出た答えを「今回の仮定ではこの数字」と提示します。ここで「限界」を添えるのがポイントです。
「消費頻度を月1回と仮定したので、実際はもう少し大きいかもしれません」と一言加えるだけで、誠実さと柔軟性が伝わります。
【4】フェルミ推定の基本ステップを例題で体験

フェルミ推定の一番の魅力は、特別なデータや数式を知らなくても「仮定を置き、分解し、計算する」ことで現実に近い数字を導けることです。ここでは実際の例題を使って、考え方の流れを一緒に見ていきましょう。
4-1. 東京駅の1日利用者数を推定する
定番の問題として「東京駅を1日に利用する人数は?」があります。統計を覚えていなくても、身近な知識を組み合わせれば近い答えにたどり着けます。
| 要素 | 仮定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 首都圏人口 | 約3,500万人 | 関東1都6県をまとめた大まかな値 |
| 鉄道を使う人の割合 | 6割 | 通勤・通学で多くの人が電車を利用する実感 |
| 東京駅を使う人の割合 | 5% | 新幹線・在来線・地下鉄が集まる大ターミナル |
| 計算結果 | 3,500万人 × 60% × 5% = 約100万人 |
大事なのは「なぜそう考えたのか」という説明です。
首都圏の人口は「日本の3割=3,000万人以上」と知っていれば十分。鉄道利用率は、ラッシュ時の混雑を思い出せば「半分以上は妥当」と考えられます。そして東京駅は確かに大きな駅ですが、新宿・渋谷・池袋など他の巨大駅もあるため「その中の1つとして5%」と置くのが現実的です。
こうして仮定を積み上げるだけで「東京駅は1日約100万人」という推定に近づきます。実際の発表値も同水準なので、完全な的外れではないことがわかります。フェルミ推定は“暗記力”ではなく“筋道を示す力”が評価されるのです。
4-2. ピザ市場の規模を見積もる
別の例題を見てみましょう。「日本で1年間に食べられるピザの枚数は?」。これも分解して考えます。
- 日本の人口は約1億2,000万人
- ピザを食べる人の割合は3割程度
- 1人あたり年間に食べる枚数を5枚と仮定
すると「1億2,000万 × 0.3 × 5 = 約1億8,000万枚」という推定が出てきます。
この仮定の根拠は「ピザは日本人の食卓では日常的ではないが、ファストフードや宅配で一定の需要がある」という実感です。完全な正解ではなくても、「そう考えるのが自然だ」と説明できれば十分評価されます。
4-3. スマホ販売台数を推定する
もう少しビジネス寄りの問題も考えてみましょう。「日本で1年間に販売されるスマホの台数は?」。
- 日本の人口は約1億2,000万人
- スマホ保有率は8割程度
- 平均して1人が3〜4年で買い替える
この仮定から「1億2,000万 × 80% ÷ 4 = 約2,400万台」と推定できます。
ここで根拠になるのは「身近な友人や家族が3〜4年で買い替えている実感」です。もし就活面接でこの答えを出せば、数字そのものよりも「人口→普及率→更新頻度」という分解の仕方が評価されるでしょう。
4-4. 知識の下地がないと推定はできない
ここまでの例題で共通しているのは「ある程度の知識や感覚を前提にしている」という点です。
たとえば「コンビニは2,000人に1店舗くらい」といった感覚を持っていないと、そもそも市場規模を考えることはできません。フェルミ推定は“無から数字を生む魔法”ではなく、“常識や経験をもとに数値を組み合わせる技術”なんです。
だからこそ、就活生や若手ビジネスパーソンは普段から「人口」「世帯数」「平均支出」などの基礎知識に触れておくことが大切です。そうすることで仮定が自然に立てられるようになり、推定の精度も高まります。
フェルミ推定は「定義を知る」だけでなく、「自分の知識を材料に数字を組み立てる」ことが核心です。東京駅やピザ、スマホの例題のように、生活感覚を下敷きにするからこそ初心者でも実践できます。最初は精度よりも流れを追うこと。徐々に知識の引き出しを増やしていけば、どんな問題にも対応できるようになります。
【5】就活・面接でのフェルミ推定対策

フェルミ推定は、特にコンサルや総合商社の就活面接で頻出するテーマです。答えの正確さを問うものではなく、短時間での「思考の筋道」を見るために使われます。就活生にとっては避けて通れない試練であり、同時に論理的思考力をアピールできるチャンスでもあります。
5-1. なぜ面接でフェルミ推定が出されるのか
フェルミ推定が課されるのは、「限られた情報から合理的に考える力」を見たいからです。
企業は「この人が入社後に未知の課題に出会ったとき、どう動くか」を試しています。市場データや統計がなくても仮定を立て、数字を組み立て、結論を導く。その姿勢こそが評価されます。
たとえば面接官が「日本で年間に販売されるアイスクリームの数を推定してください」と質問したとします。正しい数値を当てることよりも、「人口→消費者層→頻度」という分解が自然にできるかを見ているのです。
特に外資系の面接では「1分で答えて」など時間の制約も追加されることもあります。
5-2. 面接官が見ている3つのポイント
面接で評価されるのは大きく次の3点です。
- 論理性:答えが数字に至るまでの道筋が明確か
- 柔軟性:突っ込まれたときに仮定を修正できるか
- 仮説力:限られた知識を組み合わせて仮定を立てられるか
つまり、数値を出したこと自体ではなく、その過程を口頭で論理的に説明できるかが肝心です。ここを勘違いして「大きな数字を出せば評価される」と思い込むと失敗します。
5-3. 面接での答え方フレームワーク
就活生がつまずきやすいのは「頭の中で計算して黙ってしまう」ケースです。面接官は思考のプロセスを聞きたいので、声に出して筋道を伝えることが必須になります。
基本の流れはこうです。
- 問題の確認:「つまり〜という人数を推定すれば良いという理解でよろしいでしょうか」
- 分解の宣言:「大きく〇つの要素に分けて考えます」
- 仮定を口頭で説明:「例えば首都圏の人口は〜人程度と仮定します」
- 計算の共有:「それを掛け合わせると〜になります」
- 結論と限界を伝える:「この仮定でいけば答えは〜人です。ただし他の仮定を置けば数値は変わると思います」
短い言葉で「何をしているのか」を伝えるだけで、面接官には論理性と冷静さが伝わります。
5-4. 実際の質問例と解答モデル
質問 例1:日本全国にある美容室の数を推定してください。
- 「日本の人口は約1億2,000万人」
- 「美容室を利用する人は人口の半分程度」
- 「1人が月1回行くとすると、年間利用は6億回」
- 「美容室1軒あたり年間延べ3,000回利用されるとすると…」
- →「6億 ÷ 3,000 = 約20万軒」
質問 例2:新宿駅を1日に利用する人数を推定してください。
- 「首都圏人口は3,500万人」
- 「そのうち2割が新宿駅を利用すると仮定」
- →「3,500万 × 20% ÷ 365 ≒ 約20万人/日」
このように根拠を簡潔に言葉にすれば、面接官は「なるほど、この人は考えを整理して説明できる」と感じます。
フェルミ推定の面接対策で大切なのは、正しい数を出すことではなく、仮定から結論までの道筋を声で伝えることです。論理性・柔軟性・仮説力という3つの観点を意識すれば、答えの精度が多少ずれても評価は下がりません。むしろ「考え方をどう説明するか」が、就活での勝敗を分けるのです。
【6】実務で使えるフェルミ推定の応用

フェルミ推定は就活だけでなく、実際のビジネス現場でも威力を発揮します。統計や市場調査を待つ時間がないときでも、仮定を置いて合理的に数字を出す力があると議論を前に進められるからです。初心者でも簡単に取り入れられる場面はたくさんあります。
6-1. マーケティングの現場での実例:市場規模推定
たとえば新商品の会議。上司から「このサービスの市場規模は?」と聞かれたとします。資料が手元になくても、次のように即座に推定できます。
- ターゲット層:20〜40代の都市部在住者と仮定
- 人口ベース:1,000万人程度
- 想定利用率:20%
- 平均単価:月2,000円
→ 市場規模は「1,000万 × 20% × 2,000円 × 12か月 = 約4,800億円」
完璧な数字ではなくても、「こういう前提ならこれくらい」と提示できれば、会議は具体的な方向性を持って進みます。実際に私自身、広告代理店で働いていた頃、こうした即席の推定を会議で出すだけで議論が活発になり、上司がその場で投資判断を進めたことがありました。
6-2. 営業・経営企画での利用シーン
営業現場では「このエリアに潜在顧客がどのくらいいるのか」をざっくり見積もるときに使えます。
例えば「都内の中小企業に勤める20代社員を対象にしたサービス」の場合。
- 都内企業数:約40万社
- そのうち中小企業比率:99%
- 平均従業員数:20人と仮定
- 年齢構成:従業員の3割が20代
→ 約240万人の潜在顧客という推定が導けます。
経営企画の場では「この施策で売上がどれくらい伸びるか」を議論するときに活用されます。具体的な統計を待たずとも、数字を置いて会話できるかどうかで、意思決定のスピードは大きく変わります。
6-3. 日常生活でのトレーニング
フェルミ推定は仕事だけでなく、日常の小さな疑問を考える練習問題にもなります。
- 「日本全国にある電車の車両数はどれくらい?」
- 「一日に日本で飲まれるコーヒーの杯数は?」
こうした問いを自分なりに簡単に推定してみると、自然と数字感覚が鍛えられます。初心者が「フェルミ推定とは何か」を理解するには、日常の身近なテーマから取り組むのが最適です。
実務でのフェルミ推定は、正解を出すためではなく、会話を前に進めるための数字づくりに意味があります。マーケティング会議で市場規模を推定する、営業で潜在顧客をざっくり見積もる、経営企画で施策の効果を試算する──どれも「仮定を置いて数字を形にする」ことが役立つのです。もっとロジカルシンキングの基礎を学びたい方は、関連記事(ケース面接対策や論理思考の記事)も参考になるでしょう。
【7】初心者がやりがちな失敗と回避法

フェルミ推定はシンプルな手法だからこそ、慣れないうちは典型的なミスに陥りやすいんです。面接でも実務でも「惜しい…!」という結果にならないよう、初心者が気をつけるべき失敗とその回避策を整理しました。ここで紹介する内容は、就活や練習問題に取り組むときにも役立ちます。
7-1. 根拠のない仮定を置いてしまう
最も多いのが「なんとなくこのくらいだろう」という直感だけで仮定を置くケースです。例えば「日本人の半分が毎日ピザを食べる」と設定してしまえば、計算結果は現実から大きくズレてしまいます。
回避法: 必ず「なぜその数字にしたのか」を言葉で説明しましょう。
「人口は約1.2億人と学校で習った」「電車通勤者は都市部に多いから2割くらい」といった生活感覚や一般的なデータに基づけば、飛躍を防げます。初心者がフェルミ推定を簡単に始めるときほど、この根拠づけを意識することが大切です。
7-2. 計算過程を省略してしまう
面接や会議で「答えだけ」を伝えてしまうのも典型的な失敗です。これでは思考の筋道が相手に伝わらず、評価されません。
回避法: 途中の計算を必ず言葉にしましょう。
「ここでは人口を1.2億人と仮定します」「利用者割合は3割と置きます」と逐一説明するだけで、論理の透明性が高まります。練習問題に取り組むときも、メモに式を書きながら進めると流れが自然に整理されます。
7-3. 数字を“正解”に合わせようとする
「正解を出さなければ」という意識が強いと、最後に数字を無理やり調整しがちです。すると全体の筋道がゆがみ、かえって説得力を失ってしまいます。
回避法: 「この仮定ならこういう答えになりました」と正直に伝えましょう。
さらに「仮定を月1回から月2回に変えると、もっと現実的になるかもしれません」と柔軟に補足できれば、かえって評価が高まります。就活の面接官も、数字の正確さより筋道を語れるかどうかを見ているのです。
フェルミ推定は「数字を当てる技術」ではなく「考えを伝える技術」です。初心者が失敗を避けるには、①根拠ある仮定を置く、②計算プロセスを省略しない、③無理に正解に寄せない──この3点を意識するだけで精度が一気に上がります。就活の練習問題や実務シーンでも「筋道を示すこと」が評価されると心得ておきましょう。
【8】自分で挑戦!フェルミ推定の練習問題集

ここまででフェルミ推定の考え方や手順を学んできました。けれど、本当に力がつくのは「自分で手を動かす」ことなんです。就活の面接対策やビジネスの練習だけでなく、初心者でも簡単に試せる題材を通して数値感覚を鍛えられます。ここでは取り組みやすい2つの練習問題を紹介します。正解を当てるよりも「どう分解するか」「なぜその数字を置いたのか」を言葉にすることを意識してみてください。
8-1. 日本全国にある美容室の数を推定する
問い:「日本には美容室が何店舗あるのか?」
考え方のヒント:
- 人口は約1億2,000万人
- ほぼ全員が年に数回は美容室を利用する
- 1人あたりの利用頻度(年間何回カットするか)を仮定
- 1店舗あたりがカバーできる顧客数を設定
これを組み合わせると、式は「人口 ÷ 1店舗あたりの顧客数」になります。
例えば「平均して年6回通う人が多い」と仮定し、1店舗が年間延べ2,000人を対応するとすれば、全国で6万店舗前後という推定になります。
👉 ポイントは、数字そのものより「なぜ6回と考えたのか」「なぜ2,000人をカバーできると仮定したのか」と説明できることです。
8-2. 日本で1年間に消費されるおにぎりの数
問い:「全国で1年間に食べられるおにぎりの数は?」
考え方のヒント:
- 日本人の大半はおにぎりを食べる
- 平均して週に何回食べるかを仮定
- 1年間は52週なので、年間回数を掛け合わせる
- 人口を基準にして全体を推定
例えば「1人が週に2回食べる」と仮定すると、1人あたり年間で約100個。これを人口1億2,000万人に掛けると、およそ120億個になります。実際の数字とは多少ズレても、「なぜ2回と考えたか」を伝えることが大切です。
フェルミ推定の練習問題は、日常に近いテーマを選ぶと続けやすいんですよ。美容室やおにぎりのような身近な題材なら、誰でも仮定を置きやすい。大事なのは筋道を声に出して説明すること。自分なりの生活感を根拠にすれば十分評価されます。就活の対策としてはもちろん、日常の「思考の筋トレ」としても取り入れてみてください。
【9】まとめ:フェルミ推定を使いこなすコツ
フェルミ推定は「正解を当てるためのクイズ」ではありません。考え方の筋道を見せる練習なんです。定義を理解し、分解して仮定を置き、計算して結論を出す。その流れを相手にわかりやすく示すことこそ評価されます。
2章で触れたように、誤差が±50%あっても意味があります。限られた情報しかない状況では、細部の正確さよりも「合理的にどう見通すか」が大事だからです。就活の面接では、その筋道が伝わるかどうかが合否を分けますし、実務では意思決定を前に進める力になります。
ここまでの例題からもわかるように、必要なのは高度な統計学ではありません。「コンビニは2,000人に1つくらい」「ピザは月に1回くらい食べる」──そんな常識レベルの数字感覚が、推定の出発点になるんです。大事なのはその仮定を「なぜそう考えたのか」と言葉にできること。そこに説得力が生まれます。
就活の面接であれ、マーケティング会議であれ、フェルミ推定が評価されるのは「筋道を伝える技術」として機能するから。数値の当たり外れにこだわるのではなく、仮定の根拠を説明し、限界を認めながらも結論にたどり着く姿勢が信頼につながります。
最後に意識したいのは、この手法を「日常の習慣」にしてしまうこと。街を歩きながら「この駅は1日何人くらい使っているのか」「このカフェの売上はいくらくらいだろう」と考えてみる。そんな小さな練習が積み重なると、自然に「数値をざっくり見積もる力」が育ちます。
編集後記
フェルミ推定は「知識が豊富な人だけが扱える特別なスキル」と思われがちですが、実際はもっと身近なものです。日常の数字感覚を少しずつ磨くことで、誰でも取り入れられる思考法なんですよ。
私自身、マーケティングや戦略の現場で数字と向き合ってきました。市場規模をざっくり試算したり、企画会議で「だいたいこのくらい」と目安を示したり。統計データがすぐに手に入らない場面でも、仮定を置いて筋道を組み立てるだけで議論が前に進む。その経験を重ねるうちに、フェルミ推定は計算のテクニックではなく、**「考えを形にする型」**だと実感するようになりました。
この記事を読んで「なるほど」と思った方は、ぜひ身近な場面で試してみてください。通勤電車の乗客数、近所のスーパーの売上、家族が年間に使うティッシュの枚数。どれも完璧な答えは出ませんが、自分なりの筋道をつけてみることに意味があります。
数字に強くなるだけでなく、論理を積み上げて伝える力も育ちます。それが就活や仕事の評価につながり、ひいては「この人と話すとわかりやすい」と信頼を得られる力になるはずです。
編集方針
- 初めて読む人でも「フェルミ推定とは何か」がすぐに理解できるようにする。
- 定義や手順だけでなく、面接や実務で役立つ具体的な場面までイメージできるようにする。
- 数字が苦手な人でも読み進められるように、図解・表・言葉での補足をバランスよく取り入れる。
- 「正解よりも筋道が大切」という本質を、数理的な説明と実例で納得できるように示す。
- 読み終えたときに「自分も挑戦してみよう」と思える、行動につながる記事に仕上げる。
参照・参考サイト
フェルミ推定 例題・出題例13選!考え方と解答例も紹介
https://www.onecareer.jp/articles/1056
フェルミ推定の解法 基本の4ステップはこれでマスターしよう
https://factlogic.jp/best_strategy_of_felmi_estimation/
フェルミ推定とは?解き方や対策方法、よくある例題を紹介
https://unistyleinc.com/techniques/1459
解説付き フェルミ推定の厳選問題集〜基礎編〜
https://reverse-inc.jp/caseinterview/1186/
フェルミ推定はコツさえ掴めば誰でも解ける|豊富な例題
https://careerpark-agent.jp/column/7673


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