エスカレーターはなぜ不便な場所に? ショッピングモールに隠された回遊設計とメリット・デメリット

column_marke_mollショッピングモールに隠された回遊設計 マーケティング

ショッピングモールを歩いていて「なんでエスカレーターって、こんな不便な作りなんだろう」と感じたことはありませんか。目の前に目的の店があるのに、わざわざ通路を横切らされる。上下の移動口が同じ場所にそろっていなくて、ぐるぐると回らされ、行きたい階へすぐにいけない。あのちょっとした不便さには、実は緻密な戦略が隠されています。

ショッピングモールの設計には「回遊デザイン」と呼ばれる仕組みがあります。来館者をまっすぐ目的地に届けるのではなく、あえて遠回りさせる。通路沿いの店舗や広告を“偶然の発見”として目に入らせる。その積み重ねが滞在時間を延ばし、購買単価を押し上げる──効率よりも「歩かせること」を優先した空間戦略です。

エスカレーターの配置はその象徴的な例です。けれど仕掛けはそれだけではありません。通路のカーブや吹き抜けの見せ方、フードコートやアンカーストアの位置まで、すべてが来館者の行動を設計図のように誘導しています。数字を見てもその効果は明らかで、滞在時間が10%延びるだけで購買単価は大きく上がると報告されています。

この記事では、そんなモールの回遊デザインを「エスカレーター」「通路」「視線誘導」「テナント配置」といった要素ごとに分解し、さらに店舗・運営・客それぞれの立場から見たメリットとデメリットを整理しました。最新のデジタル技術による動線制御や、今後のモールがどう変わっていくのかも取り上げます。

次にモールを訪れたとき、あなたの目に映る風景はきっと変わります。単なる買い物の通路ではなく、緻密に設計された“舞台装置”の中を歩いている感覚になるはずです。気づいた瞬間、普段の買い物がちょっとした観察ゲームに変わっていきます。

【1】なぜエスカレーターは“変な場所”にあるのか

column_marke_moll【1】なぜエスカレーターは

モールに行くと、多くの人が一度はこう思ったことがあるはずです。「なんでこんな場所にしかエスカレーターがないんだろう」と。目の前の店舗に直行したいのに、なぜか手前には移動手段がなく、結局ぐるっと回らされる。上下のエスカレーターも同じ場所にそろっていない。行きたい階に戻るのに、思った以上に歩かされる。

その不便さは偶然ではありません。商業施設の設計は、単にスペースを埋める作業ではなく「人をどう動かすか」を意識的に組み込んだデザインなんです。

1-1. モールで感じる“遠回りの感覚”

例えば、食品売り場を探していたら、雑貨やアパレルの店舗を横切らされる。映画館に行こうとしたら、フードコートを経由しないとたどり着けない。そんな経験をしたことがあるでしょう。
利用者からすれば「不便」でしかない導線も、運営側にとっては「寄り道のチャンス」になっています。通路を横切るときに新しい店舗の看板や商品が目に入り、ついでに立ち寄るきっかけになるからです。

つまり、遠回りに見える配置は「歩かされる不便さ」ではなく「歩くことで発見を生む仕掛け」として設計されているのです。

1-2. 不便さの正体は“回遊デザイン”

モール設計で使われる専門用語に「回遊デザイン」があります。来館者を最短距離で目的地に届けるのではなく、あえて動線をずらし、滞在時間を引き延ばす仕組みです。
この設計がなければ、人は目当ての店だけに立ち寄ってすぐに帰ってしまいます。けれど、少し歩かされることで通路沿いの店に触れ、偶然の発見や“ついで買い”が生まれる。運営にとっては売上につながり、客にとっては思いがけない楽しみになることもある。

だからこそエスカレーターは「変な場所」に置かれている。あの違和感こそが、モールを支える戦略の出発点なのです。

【2】回遊デザインとは何か?基本の考え方

column_marke_moll【2】回遊デザインとは

「回遊デザイン」とは、来館者を単に歩かせるだけではなく、「施設内を循環させ、複数の店舗やエリアに触れさせる仕組み」のことです。都市計画でいう「歩行者回遊性」と同じ発想で、ショッピングモールに応用されたものです。

効率よく目的地に直行できる導線は、一見便利に見えます。けれどそれでは、買い物は必要な分だけで終わってしまう。回遊デザインは「ついで買い」「偶然の発見」を増やすことで、モール全体の売上を底上げしてきました。

2-1. 商業施設における「回遊性」の定義

回遊性とは、来館者が館内を巡り歩き、複数の店舗を行き来する度合いを指します。入口から出口へ直線的に移動するのではなく、寄り道や発見を繰り返す動き。
たとえば「スーパーに行くつもりが、通りかかった雑貨屋で小物を買う」「ランチをした帰りにアパレルを覗く」といった体験がそうです。

もし回遊性が弱ければ、客は目的の店だけに立ち寄って短時間で帰ってしまう。逆に回遊性が高ければ、買い物は思いがけない広がりを見せ、施設全体に波及していきます。

2-2. 滞在時間と売上の関係

売上を左右するのは来館者数だけではありません。「1人あたりの滞在時間」と「滞在中に立ち寄る店舗数」が重要です。
日本ショッピングセンター協会の調査によれば、平均滞在時間が1時間を超えると購買単価は明確に上がり、90分を超えるとさらに伸びが加速していました。

  • 1時間未満:必要な買い物だけで帰る
  • 60〜90分:軽食や雑貨の“ついで買い”が増える
  • 90分以上:飲食・アパレルなど広範囲に波及

短時間の効率的な買い物に比べ、少し長く滞在するだけで消費の幅は大きく変わるのです。

2-3. 海外との比較が示す“時間の差”

海外のモールを見ると、日本との違いがよりはっきりします。アメリカの大型モールでは平均2〜3時間、中国の新興都市のモールでは半日滞在が前提のところもある。これに対し、日本の郊外型モールは平均1.5〜2時間程度にとどまっています。

この差を埋めるため、日本のモールは「体験型」「エンタメ型」の要素を強化してきました。映画館やアミューズメント施設、イベントスペースを組み込むことで、買い物以外の楽しみを加え、回遊性を高めているのです。

【3】エスカレーターの配置が生む回遊

column_marke_moll【3】エスカレーターの配置

ショッピングモールでエスカレーターを探して「あれ、さっき上がった場所に下りがない」と迷ったことはありませんか。あるいは乗っている途中に、視界の端におしゃれなショップやイベントがふっと入ってきたこと。あれはすべて偶然ではなく、モールの設計者が仕掛けた“回遊の装置”なんです。

3-1. 上下を同じ場所に置かない理由

もし上りと下りが同じ位置にあれば、人はただ上がって降りるだけ。往復するだけで買い物は終わってしまいます。だからモールはわざと上下をずらす。帰り道に別のエリアを横切らせ、思いがけない店舗に視線を向けさせる。
不便に見えても「少し歩くことで出会いが生まれる」。それこそが設計の狙いなんです。

3-2. 移動の数十秒が“宣伝の舞台”になる

エスカレーターに乗っているとき、斜めに広がるフロアが自然に視界に入ります。普段なら気に留めない雑貨屋やショーウィンドウが、あの数秒間で印象に残る。
吹き抜けに面したブランドショップや、エスカレーター前の催事スペースがいつも賑やかなのも偶然ではありません。移動中の視線をつかまえる場所に、宣伝効果の大きいテナントを配置しているからです。

3-3. エスカレーター周辺に集まる“売れ筋”

上下の前後に置かれる店にも法則があります。化粧品や雑貨のように衝動買いしやすいものは通過点に。下り口のそばにはスイーツや食品が多い。帰り際に「せっかくだから」と手を伸ばしやすいからです。
エスカレーターの周囲は誰もが必ず通る道。だからこそ、モール全体の売上を支える重要な“舞台袖”になっているのです。

【4】通路と視線誘導の仕掛け

column_marke_moll【4】通路と視線誘導

ショッピングモールの通路は、ただ人を通すための道ではありません。曲がり角の位置や吹き抜けの見せ方、休憩用のベンチまで、一つひとつが「人を歩かせるための装置」として組み込まれています。歩きながら何度も“次の景色”が現れるようにデザインされているんです。

4-1. 直線ではなくカーブを描く通路

まっすぐな道だと、奥まで一度に見通せてしまいます。そうなると人は目的地だけを目指して一直線。回り道なんてしない。
けれど通路がゆるやかにカーブしていれば、角を曲がるたびに新しい店舗や景色が目に飛び込んでくる。ドラマの「次回予告」のように、先が気になってつい歩き続けてしまう。モールはその心理を利用しているのです。

4-2. 吹き抜けがつくる“見上げる視線”

モールの中央に広がる吹き抜けは、開放感を出すためだけのものではありません。自然と人の視線を上下に動かし、別のフロアやイベントへと注意を向けさせます。
見上げたときにカフェのテラス席が目に入る。下を覗けば雑貨のポップアップが賑わっている。そうした「視線の誘導」で、階をまたいだ回遊が生まれるのです。

4-3. ベンチや休憩スペースも“仕掛け”

買い物に疲れて腰を下ろすと、周りの店が自然と視界に入る。ベンチの前に置かれたディスプレイや香りの強いパン屋は、まさにその瞬間を狙っています。
また、子どもの遊び場や待ち合わせスポットに隣接する店舗は滞在時間の恩恵を受けやすい。休憩のために止まった時間が、次の購買行動を生む。利用者からすれば「ちょっと休んだ」だけでも、運営側から見れば立派な回遊デザインなんです。

【5】テナント配置とアンカーストアの役割

column_marke_moll【5】テナント配置とアンカーストア

モールの地図を眺めると、端や角に必ず大きな店が入っています。スーパー、映画館、スポーツ用品店──いわゆる「アンカーストア」です。これらは単なる目玉ではなく、館全体を動かす“磁石”のような存在なんです。

5-1. アンカーストアは“磁石”の役割

人は大きな目的地をめざして歩きます。週末の買い出しならスーパー、家族連れなら映画館。そうした大きな店舗をモールの端や上階に置くことで、自然と長い距離を歩かせることができる。
その途中に並ぶ小さな店やカフェが「ついでの発見」を生む。アンカーストアは集客の柱であると同時に、他のテナントへ客を流す“動線の起点”でもあるのです。

5-2. カテゴリーの配置にも法則がある

食品とアパレル、雑貨と家電。まったく違うジャンルをあえて離して配置することで、利用者は館全体を回遊せざるを得なくなります。
もし似たような店ばかりが同じエリアに固まっていたら、客はその区画だけで満足して帰ってしまうでしょう。ジャンルを散らすことで、気づかぬうちに「歩かされる導線」ができあがるのです。

5-3. フードコートは“滞在時間の装置”

モールに欠かせないのがフードコート。食事のために一度腰を落ち着けると、滞在時間は一気に延びます。
食後のデザートに甘い匂いのスイーツ店が目に入る。帰り道にゲームセンターで子どもが足を止める。食べるという行為そのものが、モール全体を回遊させるスイッチになっているんです。

【6】数字で見る回遊効果

column_marke_moll【6】数字で見る回遊効果

ここまで「回遊デザインの仕組み」を説明してきました。では実際に、数字の上ではどれほどの効果があるのでしょうか。滞在時間や訪問店舗数と売上の関係をデータで確かめてみると、「歩かせる設計」がどれだけ有効かが見えてきます。

6-1. 滞在時間が延びると購買単価はどれくらい上がるか

モールに1時間未満しか滞在しない人と、90分以上いる人とでは、行動がはっきり分かれます。長く過ごすほど予定外の買い物や飲食が増え、購買単価も自然に伸びていくのです。あなたも「用事だけのつもりが、気づけばランチや雑貨まで買っていた」という経験があるのではないでしょうか。

滞在時間平均購買単価(相対値)備考
1時間未満1.0(基準値)必要な買い物中心で短時間利用
60〜90分約1.15倍ショッピングと軽食が増える傾向
90分以上約1.3倍飲食・雑貨・アパレルなどに波及

出典:日本ショッピングセンター協会「SC白書」

6-2. モールの回遊率と売上の相関

「来館中に何店舗回るか」も売上を左右します。目的の店だけで帰れば支出は限定的ですが、3店舗以上を回ると購買単価もリピート率も安定して高まります。

回遊率
(訪れる店舗数)
購買単価の傾向リピーター傾向
1店舗のみ低い(目的買い中心)リピーター率も低い
2店舗中程度一部にリピーターが生まれる
3店舗以上高い(ついで買い増加)リピーター率が安定

出典:三井不動産「商業施設データブック」

6-3. 研究データが示す「歩かせる設計」の有効性

学術研究でも、直線的な導線より選択肢がある導線のほうが滞在時間は長くなると報告されています。心理学的に言えば「偶然の発見」が行動を引き延ばすからです。これはSNSで意図せず面白い投稿に出会う感覚に近い。モールはその「偶然」を空間で再現しているのです。

設計タイプ滞在時間の傾向
直線的な導線短時間で目的買い中心
選択肢の多い導線滞在時間が延び、偶然の購買が増加

出典:日本建築学会「都市施設における回遊性研究」

【7】デジタル技術と回遊促進の最新事例

column_marke_moll【7】デジタル技術と回遊促進

最近のモールは、単に「歩かせる」仕組みだけでは物足りなくなっています。アプリやサイネージ、センサーを組み合わせて、「楽しく動いてもらう」仕掛けへと進化しているんです。

7-1. アプリやクーポンで誘導する仕組み

公式アプリを開くと、その日のクーポンやスタンプラリーがずらり。例えば「3店舗分のレシートで抽選参加」といった企画は、自然に複数店舗へ足を向けさせます。ただ割引を配るだけではなく、まるでゲームをしているように回遊を楽しませる工夫です。

7-2. デジタルサイネージやARナビゲーション

館内の大きなモニターやサイネージも、今では広告以上の役割を果たしています。イベントやセールの情報がその場で更新され、人の流れを誘導する。さらに、スマホをかざすと通路にARの矢印が浮かび上がるナビゲーションも登場しています。目的地へ案内しつつ、途中で寄り道したくなる情報まで差し込んでくれるのです。

7-3. 人流データを使ったリアルタイム最適化

Wi-Fiやセンサーで人の流れを読み取り、混んでいる場所には新しいイベントを追加、逆に空いている通路には「こちらもおすすめ」と表示して誘導する。まるでモール全体が生き物のように動き、来館者の足取りをやさしくコントロールしているかのようです。

【8】立場別で見る回遊設計のメリット・デメリット

column_marke_moll【8】回遊設計のメリット・デメリット

回遊設計は一見すると「売上を上げるための万能の仕組み」に見えます。けれど、実際には店舗・運営・客それぞれの立場で受け止め方が違うんです。ある人にとってのメリットは、別の立場ではデメリットになることもある。だから三者の視点を整理してみると、モール設計がなぜ難しいのかが浮かび上がってきます。

8-1. 店舗の立場(偶然の発見 vs 立地格差)

  • メリット
    • 通路やエスカレーター近くの店舗は通行量が増えて集客しやすい
    • 雑貨・アパレルなど衝動買いを誘う業種に有利
  • デメリット
    • 回遊動線から外れると通行量が減り、売上格差が生まれる
    • テナント間で「立地の当たり外れ」が明確になる

8-2. 運営側の立場(売上最大化 vs 不便感リスク)

  • メリット
    • 滞在時間を延ばし、モール全体の売上を底上げできる
    • デジタルサイネージやアプリと組み合わせ、人流制御が可能
  • デメリット
    • 「不便すぎる」と感じさせると顧客満足度を下げリピーター離れにつながる
    • 設計や調整コストが高い

8-3. 客の立場(新しい発見 vs 歩かされ感)

  • メリット
    • 普段行かない店舗や商品に出会える
    • “ついで買い”が増えて買い物の楽しみが広がる
  • デメリット
    • 「無駄に歩かされている」と感じる瞬間がある
    • 子ども連れや高齢者にとって移動が負担

8-4. 三者のバランスが設計のカギ

モールの回遊設計は、店舗・運営・客の三者がそれぞれ異なる期待を持ちながら利用する場をどう調和させるかにかかっています。店舗の都合を優先すれば「歩かされている」と感じる人が増え、客の利便性を徹底すれば滞在時間は短くなり売上につながりにくい。だからこそ成功するモールは、立地の公平性や動線の快適さを細かく調整し、三者の利害が重なる地点を探っています。短期的な売上ではなく、長期的に「また来たい」と思わせる体験を積み重ねること。それが回遊設計の本当のゴールだといえます。

【9】未来のモール設計はどう変わるか

column_marke_moll【9】未来のモール設計

これまでのモールは「人を歩かせる」ための工夫が中心でした。けれど、これからは違います。買い物の場であると同時に「過ごす」場所へ。デジタル技術と体験型の仕掛けが、その変化を後押ししています。

9-1. AIによる人流予測と動線制御

スマートフォンの位置情報や館内センサーのデータをもとに、人の流れを予測して混雑を回避する仕組みが実用化されています。たとえば「午後3時にフードコートが混みやすい」とわかれば、サイネージで人を別のエリアに誘導したり、クーポンの配布タイミングを調整したりできる。固定的な設計から、状況に応じて動的に変化する設計へのシフトです。

9-2. 体験型・エンタメ型の買い物空間へ

最近のモールでは「買う」ことそのものよりも「過ごす体験」に重きが置かれています。屋内アスレチック、シアター、ポップアップイベント。子どもと一緒に遊び、友人と映画を楽しみ、その流れで買い物もする。そんな複合的な過ごし方が増えています。単なる店舗巡りではなく、日常と余暇をまとめて満たす空間へ変わりつつあるのです。

9-3. 「買う場所」から「過ごす場所」への進化

モールはこれから「商品を買う場所」から「生活を丸ごと体験できる場所」へと進化していきます。単なる商業施設ではなく、小さな街やコミュニティのような役割を果たしていくのです。

たとえば——

  • 学びの場との融合:カルチャースクールやワークショップスペースを常設し、ヨガ・料理教室・プログラミング体験などを提供。買い物ついでに学びの時間を楽しめる。
  • ヘルスケア拠点化:クリニックやフィットネスジム、睡眠測定や食事指導などの健康サービスが隣接。モールが「健康管理のハブ」になる。
  • 子育て・教育のインフラ:屋内アスレチックや知育スペース、図書館機能を持つゾーンを設置。親子が安心して過ごせる“日常の延長”としてのモール。
  • 地域交流の場:コワーキングスペースやイベントホールを取り込み、仕事と余暇をシームレスに。地元コミュニティの文化祭や展示会の場にもなる。
  • デジタルとリアルの融合:来館者が専用アプリで「自分だけのルート」を組み立て、AIが混雑状況や好みに合わせて最適な順路を提案。歩きながらスタンプが貯まる仕組みや、ARで隠れたイベントが見つかる遊び要素も加わる。

こうした仕掛けによって、モールは「商品を買うために行く場所」から「時間を過ごす目的で訪れる場所」へとシフトします。家族で1日過ごせる“全天候型レジャー施設”に近づき、同時に地域の生活インフラとしての価値も高まっていくでしょう。

【10】まとめ:回遊デザインの本質と日常へのヒント

モールの「不便さ」は偶然ではなく、計算された戦略でした。

  • 長居してもらうことで購買単価を上げる
  • 複数店舗を回遊させることで売上を安定させる
  • 偶然の発見を演出して体験価値を高める

こうした仕組みを支えているのが、通路やエスカレーターの配置、ゾーニング、デジタル施策です。表面的には「歩かされている」と感じても、裏では売上と体験を両立させるための緻密な設計が働いているのです。

大切なのは、店舗・運営・客の三者のバランスをどう取るか。どこか一方に偏れば、不満や格差が強まる。だからこそ「また来たい」と思わせる体験づくりがゴールになります。

次にモールを訪れたときは、配置や導線の意図に目を向けてみてください。エスカレーターの位置、通路の曲がり方、ベンチの場所。そこに込められた意図を感じ取ると、買い物はただの用事ではなく、都市や商業の仕組みを読み解く体験に変わるはずです。

編集後記

よく行くショッピングモールでも無印良品とユニクロが建物の両端にあって、結局行ったり来たりしたり、エスカレーターが上下になっていなくて回り込んだところにスタバがあってふと立ち寄ったりということがありました。

日常で「ちょっと不便だな」と感じたとき、その裏に緻密な設計が潜んでいると知ると視点が変わります。実際にデータや事例を追いながらまとめてみると、買い物空間は偶然ではなく戦略の積み重ねでできていることが改めて見えてきました。

私は普段、Webマーケティングやデータ分析の仕事をしています。アクセス解析やサイトの導線設計を考えるとき、リアルのモール設計と驚くほど重なる部分が多い。人はどこで立ち止まり、何に目を留め、どう次の行動につながるか──その一つひとつを意識することで体験の質が変わるのです。

だからモールを歩くときも、ただの買い物の場ではなく「仕掛けを読み解くフィールド」として眺めてみると面白いです(実際は歩き疲れたりしますけど)。読者の皆様もきっと日常の中に、これまで気づかなかった小さな発見が増えていくはずです。

編集方針

  • 読者が日常で感じる「不便さ」の正体を明らかにすることを目的とする。
  • 回遊デザインを生活に直結する知識として提示。
  • データと事例を交えて納得感を重視する。
  • 店舗・運営・客の三者の視点を整理し公平性を確保。
  • 読後に観察と行動につながる構成に設計する。

参照・参考サイト

日本ショッピングセンター協会「SC白書」
https://www.jcsc.or.jp/sc_data/data/overview

三井不動産 商業施設事業
https://www.mf-shogyo.co.jp/sc/sc_map.html

日本都市計画学会 論文検索
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/journalcpij

イオンモール株式会社 事業紹介
https://www.aeonmall.com/business/

CBRE「リテール市場の動向」
https://www.cbre-propertysearch.jp/article/retail_marketview-q2-2025-index/

執筆者:飛蝗
SEO対策やウェブサイトの改善に取り組む一方で、社会や経済、環境、そしてマーケティングにまつわるコラムも日々書いています。どんなテーマであっても、私が一貫して大事にしているのは、目の前の現象ではなく、その背後にある「構造」を見つめることです。 数字が動いたとき、そこには必ず誰かの行動が隠れています。市場の変化が起きる前には、静かに価値観がシフトしているものです。社会問題や環境に関するニュースも、実は長い時間をかけた因果の連なりの中にあります。 私は、その静かな流れを読み取り、言葉に置き換えることで、「今、なぜこれが起きているのか」を考えるきっかけとなる場所をつくりたいと思っています。 SEOライティングやサイト改善についてのご相談は、X(@nengoro_com)までお気軽にどうぞ。
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