企画を考えるとき、私たちは無意識のうちに“型”の中で考えています。
過去の成功例、上司の感覚、限られた予算やスケジュール。
どれも必要な前提だけれど、それが視野を狭めてしまうこともあるんです。
新しい発想は、奇抜なアイデアからではなく、「当たり前を当たり前と思わないこと」から生まれます。
壊すよりも、見直す。
ゼロに戻すより、見えなくなっていた“はじまり”を見つけ直す。
それが、企画の第一歩なんだと思います。
ブレストが空回りしてしまうのも、前提が固まったままだから。
どんなに多くの意見が出ても、土台が動かなければ景色は変わらない。
だからこそ、“壊す”ことより“問い直す”ことに力を向けたいんです。
企画を立てるというのは、世界をもう一度組み立て直すような作業です。
何を残し、何を変え、どんな意味をそこに込めるのか。
そのプロセスの中で、発想は自然と動き出していきます。
この記事では、固定概念を見抜く方法、水平思考と垂直思考の行き来、
そして“問いの立て方”が発想をどう変えるかを考えていきます。
むずかしい理論よりも、日常の中で試せる小さな視点を重ねながら。
企画はセンスではなく構造。
構造を理解すると、考えることが少し楽しくなる。
アイデアが出なくて悩んでいるとき、行き詰まった思考をほどきたいとき、
そのときに思い出してもらえるような“考え方の地図”を、一緒に描いていきましょう。
- 【1】企画は「当たり前を疑う」ことから始まる
- 【2】なぜ人は固定概念に縛られるのか──思考・組織・心理の構造
- 【3】“ゼロベース思考”を誤解していませんか?──壊すだけでは企画は生まれない
- 【4】思考を止める“固定概念”の正体──正しく疑う力を取り戻す
- 【5】ブレストが形骸化する理由──“意見を出す場”ではなく“前提をほぐす場”に戻す
- 【6】発想を動かす3段階──ブレスト・水平思考・垂直思考
- 【7】「問いの質」が企画の質を決める──再構築型ブリーフィングの思考
- 【8】常識を壊して成功した企業から学ぶ
- 【9】固定概念を“壊して整える”ための3ステップ
- 【10】企画とは「意味を組み替える力」──壊すより、問い直す勇気から始まる
- 参照・参考サイト
【1】企画は「当たり前を疑う」ことから始まる

新しい企画を考えるとき、多くの人が最初に思うのは「どうすれば良いアイデアが出せるか」かもしれません。
けれど、アイデアが出ない原因の多くは、“考え方の土台”にあるんです。
その土台こそが「当たり前」や「常識」と呼ばれるもの。
つまり、固定概念です。
人は、自分が見ている世界を“正しいもの”として信じがちです。
仕事のやり方、企画の通し方、プレゼンの形式。
それらは日々の経験から積み重なった“暗黙のルール”ですが、
気づかないうちに発想の幅を狭めていることがあります。
1-1. アイデアが出ないのは才能ではなく“思い込み”の問題
「自分はアイデアマンじゃないから」と言う人がいます。
でも、発想力は“才能”ではなく、“見えない前提に気づく力”のことです。
同じ景色を見ても、違う部分に目を向ける人が新しい企画を生み出します。
たとえば、誰もが「売上を上げる」ことをゴールにしているとき、
一人だけ「なぜ上げなければいけないのか?」と問い直す人がいます。
その問いが、新しい目的の再定義につながるんです。
1-2. 企画の出発点は、壊すことではなく“見直すこと”
「固定概念を壊せ」と言われると、何かを否定しなければいけない気がします。
でも、壊すより先に大切なのは、“どんな前提で動いているか”を見直すことです。
たとえば、商品の新しい使い方を考えるとき。
既存のコンセプトを全部否定するのではなく、
「この前提はまだ生きているか」「この言葉は誰の視点で作られたか」と問い直していく。
その過程の中で、企画は少しずつ新しい形に変わっていきます。
1-3. 固定概念を捨てるとは、“前提を意識化する”ということ
固定概念を手放すというのは、何も持たないことではありません。
むしろ、自分がどんな前提で世界を見ているかに気づくことです。
「これが普通」「これが常識」という言葉の奥に、
自分でも気づかない“初期設定”が隠れています。
それを意識に上げるだけで、発想の可能性は一気に広がります。
見直すとは、壊すことではない。
見えない構造に光を当て、もう一度意味を取り戻すこと。
企画の第一歩は、その静かな“再定義”から始まります。
【2】なぜ人は固定概念に縛られるのか──思考・組織・心理の構造

「考え方を変えよう」と思っても、なかなか変えられない。
それは意志の弱さではなく、人間の仕組みそのものに理由があります。
脳は効率を求め、組織は安全を守り、心は安心を欲しがる。
この3つが重なると、人は自然と“固定概念”に戻ってしまうんです。
2-1. 脳は効率を求めて“自動思考”を作り出す
脳は、生き延びるために省エネルギーで動くよう設計されています。
それは、繰り返した行動を“自動思考”として記憶に刻む仕組み。
同じ判断を何度も下さなくていいように、最短ルートを作り出します。
でも、企画においてこの“効率の正義”は、創造の敵になることがある。
過去の成功パターンを守ろうとする力が、新しい発想を押し戻してしまうからです。
大事なのは「新しい答えを出すこと」よりも、「古い問いを疑うこと」。
2-2. 組織では“前例=安全”という文化が定着する
どんな会社にも、“うまくいった前例”があります。
それは組織にとって便利な地図。
けれど、その地図を守りすぎると、誰も道を作らなくなる。
会議で「前回はこれで成功した」という言葉が出た瞬間、
思考は未来ではなく過去に向かうんです。
だからこそ、企画者はときどき「このルール、今も生きてる?」と問い直す必要があります。
2-3. 安心したい心理が、新しい発想を無意識に拒む
人は不確実な状況を嫌います。
知らないこと、試したことがないこと、数字で説明できないこと。
そうした“見えない領域”を避けたくなるのは当然の反応です。
けれど、その反応の裏には「怖さ」と同じくらいの“可能性”が隠れています。
未知は、敵ではなく素材。
「失敗するかもしれない」と思える場所にこそ、
次の企画の種が落ちていることがあります
2-4. 固定概念とは“安心の構造”であることを理解する
固定概念を単なる“悪者”とみなすのは簡単です。
でも、本当はそれがあったから人も組織もここまで生き延びてこられた。
つまり固定概念とは、“安心の構造”なんです。
問題は「持つこと」ではなく、「見えなくなること」。
自分たちの“安心の形”を知るだけで、
発想の限界線は少しずつ外に広がっていきます。
「固定概念=敵」ではなく「構造」だと捉えること。
そう思えた瞬間、壊すべきは世界ではなく、自分の見方だと気づきます。
【3】“ゼロベース思考”を誤解していませんか?──壊すだけでは企画は生まれない

「一度すべてをゼロにして考えよう」
会議でそんな言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。
けれど、実際に“ゼロ”にできた企画なんて、ほとんど存在しません。
本当のゼロベース思考とは、過去を捨てることではなく、前提を見直すことです。
新しい企画は、真っ白な紙から生まれるのではなく、
“何を引き継ぎ、何を削ぐか”という編集から始まります。
壊すためではなく、整えるための「ゼロ地点」を見つけること。
ここを誤解していると、企画は空中で迷子になります。
3-1. ゼロベース思考は“白紙”ではなく“初期設定の見直し”
ゼロベース思考は、記憶を消して真っさらになることではありません。
むしろ、思考の“初期設定”を確認する作業です。
「なぜこの前提を信じているのか?」をひとつずつ棚卸ししていく。
たとえば「顧客は安さを求めている」という前提。
それは本当に“顧客”の声なのか、“企業”の都合なのか。
この境界を見つめ直すことが、真のゼロベースです。
3-2. 過去を否定するのではなく、文脈を整理して透明化する
新しい発想を出したいとき、人はつい「過去を捨てよう」と言います。
けれど、過去を消してしまえば、文脈も消えてしまう。
企画の本質は“積み重ねの上に何を変えるか”にある。
大切なのは、“否定”ではなく“整理”。
過去を見える形にして、そのどこに前提が潜んでいるかを明らかにすることです。
そうすれば、何を残すべきで、どこを壊すべきかが見えてきます。
3-3. ゼロではなく“ゼロ地点”を見つける発想法
ゼロに戻すというより、“どこから再構築を始めるか”を探す。
それが、企画における「ゼロ地点」の発想です。
どんな企画にも、完全な無ではなく、“再出発点”があります。
たとえば、古い事業の改善であっても、
「何を守り、何を壊すか」を決めること自体がクリエイティブです。
企画は壊すことよりも、“選び直す”ことで強くなります。
3-4. 構造を壊すより、“構造を見える化”することが創造の始まり
本当の意味で創造的な仕事とは、壊すことではなく、構造を見える化することです。
なぜこの仕組みは生まれたのか、誰のために存在しているのか。
その構造を描き出せたとき、自然に新しい形が見えてきます。
ゼロから作るよりも、既存の構造を透明にするほうが、はるかに難しく、そして美しい。
発想とは、無の中から何かをつくることではなく、
“見えていなかった前提”を、見えるようにする作業なんです。
要するに、壊すことは目的ではなく、整理の手段。
本当に新しい企画は、「何を壊すか」ではなく、「どこから組み立て直すか」から始まります。
破壊ではなく再構築。
これが、ゼロベース思考の本当の使い方です。
【4】思考を止める“固定概念”の正体──正しく疑う力を取り戻す

企画を考えるとき、多くの人がつまずくのは「アイデアが浮かばない」からではありません。
本当の理由は、“あたりまえ”とされている前提が、考える余地を奪っているからです。
4-1. 固定概念は“思い込み”ではなく、“無意識の前提設定”
「固定概念」と聞くと、堅い意見や古い価値観を想像しがちです。
けれど実際はもっと静かで、わかりにくい形をしています。
たとえば、会議の中ではこんな前提が無意識に共有されています。
- 「この予算の中でやるもの」
- 「若者向けならSNS動画が当たり前」
- 「売上は数字で証明しなければいけない」
誰も口にしていないけれど、最初から選択肢が狭められている。
だからこそ、企画の幅がいつも同じになってしまうんです。
4-2. 固定概念の厄介さは、“間違っていないから崩しにくい”ところにある
固定概念は、間違っているとは限りません。
むしろ多くの場合、「それで成功してきたから正しい」という裏付けがあります。
だから人は疑いにくくなります。
「正しいかどうか」ではなく、「今の目的に合っているのか」を確認する必要があるんです。
例えるなら、
家の鍵を毎日かけるのは正しい習慣。でも、家の中にいるときまで鍵をかけたら、動きづらくなります。
前提も同じで、目的が変われば、正しさの基準も変わるということです。
4-3. 固定概念を疑うための視点は、たった三つだけでいい
むやみに逆張りをしなくてもいい。
ただ、次の3つを静かにたずねるだけで、思考は少し自由になります。
- 「そもそも、なぜそう考える必要があるんだっけ?」
- 「それを守ることで、何が守られて、何が捨てられている?」
- 「もし、その前提を一回外したら、何が見えるだろう?」
これは反抗ではなく、“探索のための質問”です。
否定するために使うのではなく、視野を少し広げるために使う問い。
固定概念は、敵ではありません。
ただ静かにそこにあって、私たちの視野を少しだけ狭くしているだけです。
大事なのは、完全に壊すことでも、すべて疑ってかかることでもなくて、
「今の目的に合っているかな?」と一度立ち止まる姿勢です。
前提を疑うのは怖いことかもしれません。
けれど、その一歩があるだけで、企画の空気はずっと軽くなる。
完璧でなくても、気づこうとする意識だけで充分です。
【5】ブレストが形骸化する理由──“意見を出す場”ではなく“前提をほぐす場”に戻す

ブレストの時間が苦手だと感じたことはありませんか。
たくさん意見を言わなきゃいけない気がして、結局いつも同じような案が並ぶ。
その違和感の正体は、ブレストの目的がすり替わってしまっているからです。
本来のブレストは「斬新なアイデアを出す会」ではなく、
思考の前提をほぐして、揺らぎをつくる時間でした。
ここでは、そのズレを一度ほどき直します。
5-1. ブレストがうまくいかないのは、“正解探し”になっているから
会議が始まって数分後、誰かが言います。
「それ、現実的じゃなくない?」
「で、結局どれが正解なんだっけ?」
この瞬間、空気は固まります。
言われたくないと感じた人たちは、発言を控えて静かになります。
ブレストが止まる理由は、「意見が少ないこと」ではなく、
評価される前提で話さなきゃいけない空気があること。
だからこそ、最初に壊すべきなのは企画の内容ではなく、
「正解を出さなければいけない」という思い込みです。
5-2. 本来の目的は“意見を出す”ことではなく、“前提を見える化すること”
ブレストは、答えを決める前の時間です。
本当の目的は、こんなことに近いんです。
- みんながどの前提で考えているのかを出し合う
- 「なぜそう思ったのか」まで話してみる
- 正解ではなく、考えの土台をそろえる
たとえば「売上を上げたい」という会議でも、
人によって“その先に見ている景色”は違います。
- 売上=新規顧客の獲得
- 売上=リピート率の改善
- 売上=ブランド価値の上昇
このズレを揃えないまま案を出しても、噛み合わないのは当然です。
だからブレストは、「答え探し」ではなく「視点合わせ」から始めるべき時間なんです。
5-3. 「問いを出すブレスト」と「答えを出すブレスト」は分けて考える
現場でよく混同されるのが、この2つ。
| 種類 | 目的 | 話すべきこと |
|---|---|---|
| 問いのブレスト | 何を考えるべきかを探す | 現状への違和感、なぜ?という問い |
| 答えのブレスト | どう解決するかを考える | 手段・施策・具体的な形 |
最初から「どんな広告にする?」と聞かれても、
その広告が何のために必要なのか、問いが定まっていなければ考えようがありません。
だから企画の初期は、「問いを探すブレスト」だけに集中してもいいんです。
問いが定まれば、答えは自然に絞られていきます。
5-4. “ダメ出し禁止”の本当の意味は、アイデアを守ることではなく“揺らぎを守ること”
よく言われる「ダメ出し禁止」。
これは雰囲気作りではなく、もっと根っこにある意図を持っています。
アイデアがまだ曖昧な段階では、
形になる前の“揺れ”こそが一番大事です。
そこに「無理じゃない?」「前例ある?」と言われると、揺れが止まり、固まってしまう。
つまり、「ダメ出し禁止」は思考が崩れるための余白を守るルールなんです。
否定しないことが目的ではなく、揺れることを許すための装置。
ブレストがうまくいかない理由は、
方法が悪いからではなく、“空気の目的”がずれてしまったからです。
- 意見ではなく、前提を出す場に戻すこと
- 問いのための時間と、答えのための時間を分けること
- 揺らぎを許す空気をつくること
たったこれだけで、ブレストは「苦痛の時間」ではなく、
企画の地図がゆっくり描かれていく時間に変わります。
完璧にやろうとしなくても大丈夫です。
「今は正解探しになっていないかな?」と、会議の途中で気づけるだけで、
企画の空気は少し柔らかくなります。
【6】発想を動かす3段階──ブレスト・水平思考・垂直思考

企画を考えるとき、私たちはいつも「いいアイデアを出さなきゃ」と焦ってしまいます。
けれど、発想とはひとつの型ではなく、“動かし方”なんです。
企画の現場では、多くの場合この3つのモードを行き来しています。
| 思考モード | 役割 | 向いているタイミング |
|---|---|---|
| ブレスト | 思考のストレッチ。固まった頭をゆるめる | 発想の準備段階 |
| 水平思考 | 視点をずらし、別の地図を見る | とにかく広げたいとき |
| 垂直思考 | 「なぜ?」を掘り下げ、本質に近づく | 絞る・形にする段階 |
この3つを意識するだけで、行き詰まりや“堂々巡りの会議”は減っていきます。
6-1. ブレストは“思考のストレッチ”
ブレストは「たくさんアイデアを出す」ための時間ではありません。
固まった思考をほぐすための準備運動です。
- 正解を探す時間ではない
- とりあえず話す。雑でもいい
- 恥ずかしい案より、黙り込むほうがブレーキになる
笑いが少し混じるくらいの空気がちょうどいい。
そうやって頭の可動域を広げたあとに、本当の企画が始まります。
6-2. 水平思考は“異なる地図”を描く時間
水平思考とは、今の前提を一度置いて、まったく別の角度から見ること。
- 「同業ではなく、異業種ならどう考えるか」
- 「そもそも、これは本当に必要なのか?」
- 「逆にやったらどうなる?」
現実かどうかは気にしない段階です。むしろ、常識を揺らしてみることに意味があります。
そこから、“今の前提”が初めて輪郭を持って見えてきます。
6-3. 垂直思考は“なぜ?”を掘り下げるドリル
水平に広げたあとは、垂直に掘っていく時間。
- 「なぜそのアイデアが刺さると思ったのか」
- 「なぜ今やる必要があるのか」
- 「それは誰にとって意味があるのか」
掘るほど、偶然のひらめきが「確かに、それは必要だよね」という納得に変わっていく。
アイデアが現実の構造に接続される瞬間です。
6-4. 壊す・広げる・掘る──往復することが力になる
思考は、直線では進みません。
壊す(前提を疑う)→広げる(視点を増やす)→掘る(本質に近づく)。
この往復が自然にできると、アイデアは“ただ面白いもの”から“実際に動くもの”へ変わっていきます。
思考のモードを完璧に切り替えることなんて、誰にとっても難しいです。
でも、「今は壊す段階かも」「もうそろそろ掘ってもいいかもしれない」と、
自分の思考の位置を意識するだけで、企画の迷い方は少し優しくなると思います。
立ち止まったときは、こんな問いを置いてみてください。
- いま、考えすぎていないか(=もっと壊していいかもしれない)
- 逆に、散らかりすぎていないか(=そろそろ掘ってもいい頃かもしれない)
行きつ戻りつしながら、企画は少しずつ形になっていきます。
急がなくて大丈夫です。
まだアイデアが形にならなくても大丈夫です。
「いまは広げたいのか」「そろそろ掘るべきなのか」。そんなふうに自分の思考の位置を意識するだけで、企画の迷い方は静かに変わっていくと思います。
この“思考をどう動かすか”というテーマは、別の記事でももう少し深く掘っています。
水平思考と垂直思考の違い、考え方のクセをどうほどくか──気になる方はこちらもどうぞ。▶ 考える力を鍛える|水平思考と垂直思考
水平思考 vs 垂直思考|違いと融合で固定観念を突破する実践法 - ねんごろ水平思考と垂直思考。耳にしたことはあっても、「どう違うの?」と聞かれると答えに迷う人は多いはずです。 水平思考は「とりあえずアイディアを出しまくる発想」垂直思考は「一つのアイディアを深掘りしていく発想」 広げる力と深める
【7】「問いの質」が企画の質を決める──再構築型ブリーフィングの思考

企画が浅くなるのは、アイデアが弱いからではありません。たいていの場合、“問いが弱い”だけです。問いがずれたまま走り出すと、どれだけ時間をかけても企画は本質に近づいていきません。逆に、問いが変わるだけで視点もゴールも自然に変わっていく。ここでは、良い企画の土台になる“問いの立て方”と、そのための思考習慣を整えていきます。
7-1. 企画の本質は「何を問うか」で決まる
良い問いほど、企画の向かう先を静かに変える力を持っている。
「どう売るか?」と最初に問えば、答えは広告施策や販促に寄っていく。
でも「なぜ、それを売らなければいけないのか?」から始めると、企画そのものの存在理由に触れざるを得ない。
問いが浅いと、施策も浅くなる。問いが深いと、企画は自然と深みを持ち始める。
問いこそが、企画の“骨格”になる部分だった。
7-2. 問いを変えるだけで、アイデアは自然と変わっていく
いいアイデアが浮かばないとき、多くの人は「もっと考えなきゃ」と焦る。
けれど、本当にやるべきことは問いを変えてみることかもしれない。
たとえば、
- 「どうやってこのサービスを広めるか?」ではなく、
- 「そもそも誰が、何に困っているのか?」と問い直す。
問いが変われば、アイデアも勝手に方向を変えていく。
発想は、問いの器の中でしか動けないからです。
7-3. “なぜ?”から始めるブリーフィング設計
ブリーフィング(企画の指針を整理するプロセス)は、本来「目的の再確認」をする時間です。
でも実際には「やるべきことの共有会」になってしまっていることが多い。
本来の流れはシンプル。
- なぜ、この企画に取り組むのか
- その目的は、誰のために存在しているのか
- その先に、どんな変化をつくりたいのか
ここが曖昧なまま走り出すと、途中で迷い始める。
逆に、目的と前提が共有された企画は、スピードが落ちてもブレない。
7-4. 前提と目的を見える化する“再構築型ブリーフィング”
再構築型のブリーフィングとは、「答え」ではなく「問い」と「前提」を共有する作業です。
アイデアを出す前に、次のようなものを書き出しておく。
- この企画が解決したい“違和感”は何か
- その違和感を生んでいる“前提”は何か
- 目的は、数字ではなく“人の変化”で説明できるか
言語化すると、自分たちの“思考の立ち位置”がはっきりする。
そこから初めて、発想・設計・編集のプロセスに入っていける。
問いを立てることは、派手なクリエイティブではないし、すぐに答えが出る作業でもありません。
けれど、企画が迷ったときに戻る場所になってくれるものです。
問いが整えば、アイデアも、設計も、伝え方も自然に動き出す。
それは“正解を見つける力”というより、“考え続ける余白をつくる力”に近いのかもしれません。
今すぐ大きな答えがなくても大丈夫です。
まずは、「なぜ?」と静かに立ち止まってみる。そこから企画は、ゆっくりと形を取り戻していくのだと思います。
【8】常識を壊して成功した企業から学ぶ

企画の本質を理解するために役立つのは、派手な“成功例”ではなく、
「どんな前提を疑い、どの視点を再構築したのか」という思考のプロセスです。
ここでは、既存の構造を壊したのではなく、“見直し、意味を組み替えた”企業の企画を取り上げます。
8-1. 無印良品|「個性の時代」に“無個性”を価値にした発想
・1980年代、ブランド競争が激化し「個性・デザイン・派手さ」が求められていた。
・無印良品はあえて逆に、「何も足さない」「素のまま」というコンセプトを提示。
・商品を“飾るもの”ではなく“生活の余白に馴染む道具”として再定義した。
→ 壊したのは「ブランドとは、主張すべきもの」という前提。
8-2. Airbnb|「宿泊施設」から“人の暮らしを共有する場所”へ
・ホテル業界が「清潔・サービス・安心の提供」を競っていた頃、
Airbnbは「家の空き部屋でも、価値になるのでは?」と問い直した。
・宿泊=サービスではなく、“誰かの日常に一時的に入り込む体験”へ再構築。
→ 壊したのは「宿泊は施設で提供されるもの」という概念。
8-3.任天堂 Wii|“高性能競争”を捨てて「体験の再設計」へ
・ゲーム機市場では「グラフィック性能・処理速度」が競争の軸だった。
・Wiiはその前提を捨て、「誰でも遊べる体験そのもの」を中心に設計。
・リモコン型コントローラーという「動作=操作」の構造を作り、ゲームの意味を再定義した。
→ 壊したのは「ゲームとはコントローラーで操作する、高性能な娯楽である」という常識。
8-4.共通点は「壊す」のではなく、「意味を組み替えている」こと
どの企業もやったことは、派手な破壊ではありません。
共通しているのは――
- 前提を一度“外側”から見直したこと
- 常識の否定ではなく、“意味の再編集”をしたこと
- 構造を壊すのでなく、“構造の見方”を変えたこと
新しい企画をつくるというのは、大きな革命を起こすことではないのかもしれません。
無印良品も、Airbnbも、任天堂も、
最初から奇抜なアイデアを求めたわけではなく、
「本当にこの前提は、今も生きている?」と静かに問い直しただけでした。
だから、何か新しいものをつくりたいとき、
大胆な発想や特別な才能はなくても大丈夫です。
必要なのは、“見慣れた前提をそっと脇に置いてみる視点”だけ。
その小さな揺らぎが、企画のはじまりになるのだと思います。
【9】固定概念を“壊して整える”ための3ステップ

企画を動かす力は、奇抜なアイデアではなく、“見えない構造をどう扱うか”にあります。
ここでは、使い捨てのアイデアではなく、再現性のある企画思考にするための3つのステップを整理します。
9-1. Step1:自分や組織の“当たり前”を棚卸しする
企画が止まっているとき、最初にすべきことは「何をつくるか」より先に、「何を前提にして考えているか」を確認することです。
たとえば──
- 「若者向けならSNS動画でしょ」
- 「売上=KPIで測るもの」
- 「競合より安くするのが市場原理」
こうした前提は間違いではないけれど、今の目的に本当に合っているか? という視点が抜け落ちた瞬間、固定概念になります。
まずは「前提の棚卸し」から始める。それだけで思考の視野は一段広がります。
9-2. Step2:その前提は“誰のため”かを問い直す
前提が見えてきたら、次に問います。
- その前提は、誰の利益を優先している?
- 守っているのは効率?それとも安心?
- それを失うと困るのは誰?現場?顧客?上司?
問い直してみると、思っていたより“自分たちの都合”で作られた前提も多いものです。
たとえば、「売上を上げる」を目指していたつもりが、実は「上司に怒られないための数字」だった。
こういうズレこそ、企画の失速ポイントになります。
9-3. Step3:壊す・広げる・掘る・そして“整える”
前提を認識し、問い直したら、ようやく構造に手を入れる段階です。
企画思考の流れは、直線ではありません。
壊す(前提を疑う)→広げる(水平思考)→掘る(垂直思考)→整える(意味の再配置)
この往復で形が整っていきます。
整えるとは、単にまとめることではありません。
壊して広げた視点を、目的に沿って“意味として再接続する”こと。
ここで初めて、企画は「案」から「提案」に変わります。
◆ 企画の思考は、“循環”する場所で育つ
構造を見抜き、整えていく作業は、一人で完結するものではありません。
どれだけ良い問いや視点を持っていても、届く場所がなければ、企画は動き出さないからです。
大事なのは、正解を出す人ではなく、問いや考え方をチームにめぐらせられる人。
結果だけでなく、「どう考えてそうなったのか」というプロセスが共有されると、
思考は個人の所有物ではなくなり、他の誰かの視点と交差しながら育っていきます。
思考は才能ではなく、届く場所と、巡る仕組みで強くなる。
前提を疑う空気がひとつでも許されていれば、企画は何度でも立て直せます。
壊す・広げる・掘る。そのサイクルを、個人ではなく“場”として持てたとき、企画はようやく動き始めます。
【10】企画とは「意味を組み替える力」──壊すより、問い直す勇気から始まる
企画の仕事というと、「面白いアイデアを出すこと」だと思われがちです。
けれど実際には、企画とはもっと静かで地道な作業です。
それは、世界の見え方を一度ほどき、もう一度組み替えていくこと。
10-1. 壊すとは、否定ではなく“意味を組み替える”行為
固定概念を壊すとは、すべてをゼロに戻すことではありません。
壊すのは構造ではなく、「当たり前」という見え方だけです。
- 「それは本当に正しいのか?」
- 「そもそも、なぜこうなっているのか?」
- 「誰のためのルールだったっけ?」
問いが入った瞬間、意味の組み立て方が変わり始めます。
壊す=否定ではなく、“再構築の入り口”なんです。
10-2. 新しさは“無”からではなく、文脈の再配置から生まれる
まっさらな状態から企画が生まれることは、ほとんどありません。
本当に新しいものは、過去を否定した場所ではなく、文脈を別の角度に置き直した場所から現れます。
- 商品を「機能」で語るのではなく、「使い手の気持ち」で語り直す。
- 売上を「数字」ではなく、「変えたい行動」と捉え直す。
- 競争を「奪い合い」ではなく、「役割の違い」と見る。
新しさの正体は、視点の再配置だったりします。
10-3. 自由な発想には、戻るべき“目的の場所”が必要
どれだけ自由に考えても、目的の場所に戻れなければ企画は漂います。
自由には軸がいる。遊ぶためには、帰る場所が必要なんです。
- 何のための企画なのか
- 誰のために考えるのか
- その先で、どんな変化を願っているのか
この目的さえ握れていれば、遠くまで発想を飛ばしても、必ず地図に戻ってこられます。
10-4. 当たり前を疑うとは、世界をもう一度信じ直すこと
当たり前に疑問を持つことは、世界を否定することではありません。
むしろ、「本当はどうなっているんだろう」「もっと良くなる余地はないのかな」と、世界を信じ直す行為に近い。
固定概念を壊すとは、
世界に背を向けるのではなく、もう一度よく見つめ直すということ。
「ここから、もう一度考えられる」と信じることから、企画は始まります。
● 終わりに──壊す勇気より、“気づき続ける姿勢”を
企画に正解はありません。
でも、「なぜ?」と問い直すことなら、いつでもどこからでも始められる。
すぐに大きなアイデアが出なくても大丈夫です。
目の前の“当たり前”に少しだけ疑問を向ける。
その小さな揺れこそが、思考の扉を静かに開けます。
企画の第一歩は、才能ではなく姿勢です。
捨てる勇気ではなく、感じ直す余白を持つこと。
今日、何かひとつでも「これって、どうなんだろう」と思えたら、
すでに企画のエンジンは動き始めているのだと思います。
編集後記
企画や思考法の話は、どうしても「正しくあるべき」と語られがちです。
けれど実際の現場では、正しさよりも迷いや違和感から始まることのほうが多い。
私自身、Webディレクターとして企画を考える仕事を続けてきましたが、
「考え方はこうあるべきだ」と決めつけた瞬間に、アイデアは息苦しくなっていきました。
だから今回は、“正しい方法”ではなく、考え続けられる状態をどう保つかをテーマにしました。
うまくいかなくてもいい。前提をそっと外してみたり、問いを置き直してみたり。
その繰り返しの中で、企画は少しずつ形になっていくと思っています。
何か特別な才能がなくても、企画はつくれる。
必要なのは、最初の一歩として「当たり前を鵜呑みにしない」という姿勢だけかもしれません。
あなたが、次に企画を考えるとき。
今日読んだ何かが、少しでも思考の支えになったらうれしいです。
編集方針
・「壊す」ではなく「見抜く」企画思考を提示。
・固定概念を疑うことを“創造の第一歩”として再定義。
・理論だけでなく、人の思考構造と感性を両輪で描く。
・ブレスト〜水平思考〜垂直思考を、実務に落とせる流れで整理。
・哲学的視点を織り込みつつ、読後に“考えたくなる余白”を残す。
参照・参考サイト
● 固定概念・思考法の基礎理解
Forbes JAPAN|「固定概念」の意味とは?正しい使い方と類義語・言い換え表現
https://forbesjapan.com/articles/detail/82096
AdTech Management|固定概念とは?意味・具体例・影響・打破する方法を徹底解説
https://adtechmanagement.com/minnadepr-column/2025/02/06/fixed-concept-meaning-examples-impact-break/
GIP Service Blog|「固定観念」と「固定概念」の違いとは?意味や類語を紹介
https://www.gipservice.com/blog/240808/
● ゼロベース思考・発想法
グロービス知見録|ゼロベース思考とは?意味・メリット・使い方をわかりやすく解説
https://globis.jp/article/5528
note(大貫実)|仕事につながる固定概念の崩し方
https://note.com/onukiminori/n/n552ddfa495ae
● 一次情報に近い実験・理論
国立国会図書館リサーチ・ナビ|デザイン思考(Design Thinking)関連資料
https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-hon-202110.php
日本認知科学会(JCSS)|思考と問題解決・「機能的固着(Functional Fixedness)」に関する学術情報
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jcss/-char/ja
● 企業事例・実務での「前提の壊し方」
IDEO|Design Thinking(公式ページ)
https://www.ideo.com/jp
無印良品|MUJIの思想・企業メッセージ「感じ良いくらし」
https://www.muji.com/jp/message/
任天堂|社長が訊く Wiiプロジェクト/従来の「ゲームの前提」を壊した開発思想
https://www.nintendo.co.jp/wii/topics/interview/vol1/index.html
Netflix|企業情報/組織カルチャーデック・「自由と責任」に基づく意思決定思想
https://about.netflix.com/ja



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