「減税してほしい」と思う人は多い。でもその裏で必ず出てくるのが「財源はどこから?」という問いです。国の財布は毎年100兆円を超える支出でいっぱい。その半分以上を年金や医療、そして借金の返済が占めていて、ここを大きく削るのは現実的には難しいんです。
だからといって、政治家の「減税します」という言葉を鵜呑みにすると空振りになりかねない。借金をさらに重ねるか、無駄を減らすか。選べる道は限られています。
この記事では、社会保障や国債費のような“削れない支出”と、公共事業・補助金・文通費のように政治判断で動かせる歳費を分けて見ていきます。どこに手をつけられるのか、そして本当に減税の財源を生み出せるのか。結論を先に言えば、減税の第一歩は歳費削減にしかないということです。
【1】減税はなぜ実現しにくいのか|財源不足と歳出構造の現実

減税してほしい。そう願う人は多いはずです。物価が上がり、手元に残るお金は増えない。家計の重さを思えば「税が少しでも軽くなれば」と考えるのは自然なことです。
けれど、減税は気持ちだけで実現できるものではありません。国の収入が減る分、必ず穴埋めが必要になる。借金を積み増すか、どこかの支出を削るか。選択肢は実は限られています。
日本の歳出は毎年100兆円を超えます。その半分以上を、年金や医療などの社会保障費と、国の借金返済にあたる国債費が占めている。家計にたとえるなら住宅ローンや光熱費のように、どうしても避けられない固定費です。
となると、調整できるのは残りの部分。公共事業や防衛費、補助金、議員の経費など、政治の判断で動かせる歳費です。ここをどう扱うかが、減税を考えるうえでの現実的な条件になってきます。
1-1. 減税への国民の期待と現実のギャップ
消費税を1%下げると、税収は年間で約2.6兆円減ります。数字にすると、公共事業や防衛費を丸ごとひとつ削る規模にあたる。家計でいえば「1か月分の食費をゼロにする」ような無理のある調整です。
多くの人が「減税してほしい」と思う一方で、実際に必要な財源の大きさを知ると現実との距離が浮かび上がる。ここに大きなギャップがあります。
1-2. 歳出構造を知らなければ減税は語れない
国の支出は大きく分けて「削れない固定費」と「削減可能な裁量費」があります。社会保障や国債費は大幅な見直しが難しい領域。だからこそ、政治判断で動かせる歳費にどこまで切り込めるかが鍵です。
減税を現実的に考えるなら、財源が必要だという前提、削れない支出が歳出の大半を占めているという事実、そして残された歳費に手をつけるしかないという現実。この三つを頭に入れておくことが欠かせません。
【2】日本の財政支出の全体像と長期推移

減税の現実性を考えるには、日本の支出がどこに向かっているのかをまず知る必要があります。大きく分けると「どうしても支払わなければならないもの」と「政治の判断で増やしたり減らしたりできるもの」があるんです。前者の代表が社会保障費と国債費で、今では歳出の半分以上を占めています。後者には公共事業や補助金、防衛費といった項目が並びますが、全体に占める割合は小さくなってきました。
2-1. 財政支出の大分類:社会保障・国債費・公共事業・防衛費など
日本の一般会計歳出は、ざっくり言えば次のように分けられます。
- 社会保障費:年金、医療、介護、子育て支援など。高齢化や少子化の影響でじわじわ膨らんでいる。
- 国債費:過去に借りた国債の利息や返済。国の意思で減らせない固定費。
- 公共事業費:道路やダムなどのインフラ整備。選挙や景気対策に左右されやすい。
- 防衛費:人件費や装備の更新。近年は安全保障の緊張で増加傾向。
- 地方交付税交付金:自治体の財源補填。一定規模で続いている。
- その他:教育や科学研究、経済対策、予備費など。
こう並べると、どこにお金が流れているかイメージしやすいと思います。特に社会保障費と国債費、この二つが国の財布を固めてしまっているのが現実です。
2-2. 1990年代〜現在までの推移表とグラフ的イメージ
実際に数字を見てみましょう。
| 年度 | 社会保障費 | 国債費 | 公共事業費 | 防衛費 | 一般会計総額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1990年度 | 約11兆円 | 約11兆円 | 約8兆円 | 約4兆円 | 約67兆円 |
| 2000年度 | 約17兆円 | 約22兆円 | 約7兆円 | 約5兆円 | 約84兆円 |
| 2010年度 | 約28兆円 | 約21兆円 | 約6兆円 | 約5兆円 | 約92兆円 |
| 2020年度 | 約35兆円 | 約24兆円 | 約6兆円 | 約5兆円 | 約102兆円 |
| 2024年度 | 約37兆円 | 約26兆円 | 約6兆円 | 約7兆円 | 約112兆円 |
出典:財務省「我が国の財政関係資料」などを基に作成
この表によると、社会保障費が年ごとに膨らみ、公共事業は縮小、防衛費は近年増加している様子がわかります。国債費も下がることなく高止まりしたまま。つまり、日本の財政は「増える一方のもの」と「削っても目立たないもの」とが入り混じり、動かしにくい構造になってきたということです。
【3】社会保障費 増加の内訳と税収割合

日本の財政を一番重くしているのが社会保障費です。年金、医療、介護、子育て──どれも生活に欠かせないものなので、簡単には削れません。それでも人口構造の変化で支出は増え続けています。結果として、集めた税収の多くがこの分野に流れ込み、減税の余地を狭めてしまっているのです。
3-1. 税収との関係でみる社会保障費の膨張
税収の中で社会保障費がどのくらいを占めているかを追うと、その重さが実感できます。
| 年度 | 税収 | 社会保障費 | 税収に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 1990年度 | 約60兆円 | 約10兆円 | 17% |
| 2000年度 | 約51兆円 | 約17兆円 | 33% |
| 2010年度 | 約42兆円 | 約28兆円 | 67% |
| 2020年度 | 約60兆円 | 約34兆円 | 57% |
| 2024年度(予算) | 約69兆円 | 約36兆円 | 52% |
出典:財務省「我が国の財政関係資料」、厚労省「社会保障費用統計」などを基に作成
1990年には税収の6分の1程度だった社会保障費が、2010年には3分の2まで膨らみました。いまも半分以上を占めていて、「税を集めても、まず社会保障で消えていく」構図が続いています。
3-2. 内訳別にみる税収に占める割合
さらに内訳を比率で見ると、どの分野が膨張を引き起こしているのかが見えてきます。
| 年度 | 年金 | 医療 | 介護 | 子育て | 合計 (税収比率) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1990年度 | 約10% | 約5% | 1%未満 | 1%未満 | 17% |
| 2000年度 | 約18% | 約12% | 約2% | 約2% | 33% |
| 2010年度 | 約26% | 約24% | 約12% | 約5% | 67% |
| 2024年度 | 約19% | 約17% | 約12% | 約5% | 52% |
出典:財務省「我が国の財政関係資料」、厚労省「社会保障費用統計」などを基に作成
1990年代までは年金と医療が中心でしたが、2000年代以降は介護と子育て支援も本格的に増えました。特に介護は制度ができてから20年あまりで一気に膨らみ、税収の1割を超える規模に広がっています。
社会保障費の内訳をこうして追うと、単に「高齢者が増えたから」だけではなく、支えるべき領域が複合的に膨らんでいることがわかります。
3-3. 削れない支出としての社会保障
年金を減らせば高齢者の暮らしが立ち行かず、医療や介護の抑制は健康や命に直結します。少子化のなかで子育て支援を縮小すれば、将来の担い手を弱らせることにもなる。だから社会保障費は「義務的経費」とされ、削減がほとんど不可能なんです。
社会保障費がこうして膨らんでいる現実を前にすると、「減税したい」という声が現実の数字にぶつかってしまう。そのギャップこそが、財政議論を難しくしている背景だと言えるでしょう。
支援は「ある・ない」ではなく、「どう届くか」で体感が変わります。
こども家庭庁では、この“届く経路”そのものを整える取り組みが進んでいます。【関連記事】支援が“見えにくい”理由
【4】無駄と指摘されるその他の支出

社会保障や国債費と違って、金額の大きさが一目で伝わりにくい歳出があります。けれど生活者の感覚に近く、「無駄ではないか」と話題になりやすいのはむしろこちら。文通費や補助金、公共事業といった項目です。表やデータを通して、どこに削減の余地があるのかを見ていきます。
4-1. 文書通信交通滞在費(文通費)の実態
国会議員に支給される「文書通信交通滞在費」は、かつては月100万円が定額で支給されていました。領収書不要で全額非課税。事務所経費や通信費に充てる目的とはいえ、1日在籍しただけで満額支給といった制度のゆるさが、長く「特権的」と批判されてきました。
2022年以降は日割り支給など改善が進んでいますが、透明性は依然として十分とは言えません。一般家庭で「レシートなしの経費精算」が認められることはなく、この感覚のズレが国民の不信感につながっています。
あわせて読みたい関連記事:
「国会議員の報酬は本当に高い?内訳と世界比較でわかる“高すぎる”の正体」では、文通費の不透明さ(領収書不要問題)についても詳しく触れています。
4-2. 社会保障以外の主要支出の推移(2024年度を含む)
社会保障費と並んで注目されるのが「その他の主要歳出」です。特に公共事業や防衛費、地方交付税交付金などは、財政の柔軟性に大きく影響します。
| 年度 | 公共事業費 | 防衛費 | 地方交付税 交付金 | 補助金関係費 | 合計(社会保障除く) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1990年度 | 約10兆円 | 約4兆円 | 約15兆円 | 約7兆円 | 約36兆円 |
| 2000年度 | 約8兆円 | 約5兆円 | 約16兆円 | 約8兆円 | 約37兆円 |
| 2010年度 | 約6兆円 | 約5兆円 | 約17兆円 | 約9兆円 | 約37兆円 |
| 2020年度 | 約6兆円 | 約5兆円 | 約16兆円 | 約10兆円 | 約37兆円 |
| 2024年度 | 約6.1兆円 | 約7.9兆円 | 約17.8兆円 | 約11兆円 | 約42.8兆円 |
出典:財務省「2024年度予算概略」などを基に作成
公共事業費は90年代から大きく減っており、2024年度も6兆円前後で推移しています。一方、防衛費は近年の安全保障環境を背景に急増し、2024年度には7.9兆円と過去最高水準に。地方交付税交付金も17兆円台後半まで拡大し、補助金も11兆円とじわじわ増加しています。
こうして見ると「公共事業だけを減らせばいい」という単純な話ではなく、むしろ近年は防衛費や補助金などの支出が新たな財政の重しになってきているのが実態です。
4-3. 各種補助金・交付金の課題
補助金や交付金は、農業・中小企業・観光振興など幅広い分野に配られています。もちろん必要な支出もありますが、効果検証が曖昧なまま継続される制度も少なくありません。自治体では「前年踏襲」で予算が組まれることも多く、家庭でいえば「使っていないサブスクを放置している」ようなもの。削減可能性が高い歳費の一つです。
4-4. 「無駄な歳費」ランキング
世論調査やメディア企画でよく話題になるのが「無駄な歳費ランキング」です。
| 順位 | 支出項目 | 指摘理由 |
|---|---|---|
| 1位 | 文書通信交通滞在費 | 領収書不要・透明性欠如 |
| 2位 | 政党交付金 | 使途の不透明さ |
| 3位 | 公共事業の一部 | 需要の少ない“箱もの” |
| 4位 | 補助金の一部 | 効果検証不足 |
| 5位 | 海外出張関連費 | 成果が見えにくい |
出典:複数メディア調査を基に作成
こうしたランキングは感覚的な要素も大きいですが、共通しているのは「説明責任の不足」です。つまり金額の大小以上に「納得できる説明がない支出」が、国民から「無駄」とみなされやすいということです。
4-5. 公共事業の象徴性と現実
公共事業は「無駄」として批判される一方、災害リスクの高い日本では不可欠な側面もあります。大切なのは、必要なインフラ整備と、象徴的に語られる“箱もの”を切り分ける視点です。地方に行くと、立派な施設がほとんど使われないまま残されている光景に出会うことがあります。数字以上に強く「無駄」を感じるのは、そうした現場のリアルです。
【5】歳入の構造と国債依存の現実

ここまで歳出の中身を見てきましたが、国の財布は「入るお金」と「出ていくお金」の両輪で考えなければなりません。どれだけ支出を整理しても、歳入が安定していなければ財政は回りません。けれど現実には、税収だけでは支出をまかないきれず、赤字国債で穴埋めする状態が何十年も続いています。本章では、税収と国債の推移を見ながら、日本がどれほど「借金に依存する構造」になってしまったのかを整理します。
5-1. 税収推移と景気循環
税収は景気と連動します。バブル期の1990年度には60兆円を超えましたが、長期停滞で2009年度には38兆円まで落ち込みました。リーマン・ショックやコロナ禍でも急減し、国家財政はそのたびに不安定さを露呈しました。直近の2024年度予算では69兆円が見込まれていますが、これは景気回復や物価上昇による一時的な増収の影響も大きいのです。安定したベース収入とは言いがたいのが現実です。
家計に置き換えると、ボーナス頼みで住宅ローンを払っているようなもの。好景気ならしのげても、不況が来れば一気に収支が崩れてしまうわけです。
5-2. 赤字国債の拡大と国債費の負担
不足分を埋めるために発行されてきたのが「赤字国債」です。2000年代以降、発行額は毎年30〜40兆円規模が当たり前になり、累積残高はGDPを超える水準まで膨れました。当然、借りたお金には返済と利息がつきます。国債費は現在25兆円規模に達し、歳出全体の2割を占める巨大な固定費に変わっています。
本来なら教育や子育て、イノベーションに使えるはずのお金が、過去の借金返済に吸い込まれていく。これが「借金依存のコスト」です。
5-3. 歳入不足と歳出増大が同時進行
支出は高齢化で増え続ける。税収は景気次第で乱高下する。足りない分は国債で埋める。――これが日本の財政の基本構造です。
参考までに主要データを整理すると次のとおりです。
| 年度 | 一般会計 歳出総額 | 税収 | 国債発行額 | 国債費 (支出内訳) | 税収依存度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1990年度 | 約70兆円 | 約60兆円 | 約10兆円 | 約16兆円 | 約86% |
| 2000年度 | 約84兆円 | 約51兆円 | 約33兆円 | 約20兆円 | 約61% |
| 2010年度 | 約92兆円 | 約42兆円 | 約44兆円 | 約21兆円 | 約46% |
| 2020年度 | 約102兆円 | 約60兆円 | 約43兆円 | 約23兆円 | 約59% |
| 2024年度 (予算) | 約112兆円 | 約69兆円 | 約34兆円 | 約25兆円 | 約62% |
出典:財務省「我が国の財政関係資料」
数字から見えてくるのはシンプルです。バブル期には税収で支出の大部分をまかなえていたのに、2000年代には半分近くを借金に頼るようになった。その後、税収は少し戻りましたが、同時に国債費という「借金返済コスト」も増えているのです。
収入は天気次第、支出は毎年膨張、借金の返済も確実に増えていく。これでは減税をしたくても、その余地がほとんど残らないのは当然です。
「どこにお金が使われているか」は見えやすい一方、
「どんな支援が受けられるか」は見えにくくなりがちです。【関連記事】助成金・給付金を“まずは一覧で知りたい
【6】削れない支出と削減可能な支出の線引き

「減税したい」と言っても、すべての歳出が同じように削れるわけではありません。人口構造や国際関係に縛られ、国が手をつけられない固定費もあれば、政治判断や制度改革で見直せる分野もあります。ここでは、削れない領域と削減余地がある領域を整理し、現実的にどこから手をつけるべきかを考えます。
6-1. 社会保障・国債費・防衛費=削れない領域
社会保障費は高齢化と医療技術の進歩で自然増を続けています。年金を減らせば高齢者の生活が立ち行かず、医療や介護を削れば健康や命に直結します。国債費は過去の借金の返済と利息ですから、払わないという選択肢はありません。防衛費も国際情勢の緊張が増すなかで縮小は難しく、むしろ増加傾向にあります。
つまり、社会保障・国債費・防衛費の3つは「国の意思で勝手に削れない固定支出」です。ここを削って減税財源にするのは非現実的だと言えます。
6-2. 公共事業・補助金・議員経費=削減余地がある領域
一方で、公共事業や補助金、議員経費のように「政治判断次第で規模を動かせる」分野もあります。
- 公共事業はインフラ更新や防災に欠かせませんが、景気対策や選挙対策として膨張しやすい側面があります。
- 補助金は産業育成や地域振興の名目で拡大を続け、効果検証が甘いまま積み上がってきたものも少なくありません。
- 議員経費(歳費や文通費)は金額としては小さいものの、透明性の欠如が「特権的な無駄」と見られ、象徴的な削減候補になっています。
中でも補助金は規模が大きく、改善余地が最も広い分野だと言えます。
6-3. 「どこを削るか」を巡る政治的攻防
削減余地があるとはいえ、実際に手をつけるのは簡単ではありません。公共事業は地域の雇用や票田と結びつき、補助金は業界団体や政治家との関係が絡みます。議員経費にしても、改革には議員自らが自分の利益を削る覚悟が必要です。
つまり「削れる支出」とはいえ、それは単なる会計処理の問題ではなく、政治そのものの問題でもあるのです。
固定支出と変動支出の整理表
| 区分 | 主な項目 | 削減可能性 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 固定支出 | 社会保障費(年金・医療・介護・子育て)、国債費、防衛費 | ほぼ不可 | 高齢化や借金返済に直結し、国の意思では削れない |
| 変動支出 | 公共事業費 | 中 | インフラ維持は必要だが、規模は政治判断で変動 |
| 変動支出 | 補助金 | 高 | 効果検証が甘く、膨張を続ける。改善余地が最も大きい |
| 変動支出 | 議員経費(歳費・文通費) | 小〜中 | 金額は小さいが象徴的。削れば政治不信の緩和に効果 |
| 変動支出 | 予備費 | 中 | 緊急時のために必要だが、透明化で圧縮の可能性 |
大枠を整理すると、削れる余地があるのは「変動支出」の側です。中でも補助金は金額規模が大きく、無駄が混じりやすい分野。議員経費は規模は小さくても象徴性が強く、政治改革の入り口として有効です。
ここまでの整理から見えてくるのは、減税を現実的に進めるなら、まず変動支出の透明化と圧縮に取り組むべきだということです。
【7】減税の財源は“歳費削減”で確保できるのか

政治家が「減税」を掲げると、国民の期待は一気に高まります。けれど、その裏付けとなる具体的な財源は示されないまま終わることが少なくありません。本章では、減税に必要な予算規模を試算し、歳費削減でどこまでまかなえるのかを整理します。
7-1. 政治家が語る「減税発言」と国民の期待
選挙シーズンになると「消費税を下げます」「所得税を減らします」といったキャッチーな公約が並びます。生活者にとって減税はすぐに家計を助けてくれる政策ですから、支持が集まりやすいのも当然です。けれど財政の仕組みを踏まえずに発言すれば、現実味のない「お約束」で終わってしまいます。
7-2. 減税に必要な予算規模の試算
では、減税には実際どれほどの財源が必要になるのでしょうか。
代表例である消費税を見てみます。
- 消費税1%引き下げ → 約2.6兆円の税収減
- 消費税5%に戻す → 約13兆円の税収減
所得税や住民税でも、数兆円単位で税収が減ることになります。つまり「減税をやる」と言うだけで、国家予算の大規模な穴をどう埋めるかを問われるのです。
7-3. 歳費削減でどこまで穴埋めできるのか
次に、歳費削減で確保できる規模を整理します。大幅な改革を前提にしても、現実的には以下のような水準です。
| 項目 | 削減額(概算) | 備考 |
|---|---|---|
| 国会議員歳費(給与・手当の一部削減) | 約300億円 | 報酬2割削減と仮定 |
| 文通費(透明化+縮小) | 約600億円 | 月100万円→半減と仮定 |
| 特殊法人・独立行政法人の整理統合 | 数千億円〜1兆円 | 本格的改革が前提 |
| 公共事業費の見直し | 数千億円規模 | 災害対策以外を圧縮 |
| 補助金削減(10%削減) | 約1兆円強 | 総額11兆円の一部 |
| 予備費の抑制 | 数千億円規模 | 不測事態への対応を考慮 |
合計すると 2〜3兆円程度。つまり、歳費削減を徹底すれば「消費税1%分(約2.6兆円)」にかろうじて届くかどうか、という規模感です。
要するに、政治家が掲げるような「大規模減税」を歳費削減だけで支えるのは難しいのが現実です。
7-4. 歳費削減の象徴的意味と政治改革の可能性
数字のうえでは限界がある歳費削減ですが、それでも重要な意味を持ちます。
国民に負担を求める前に、政治が身を削る姿勢を示すこと。 これが信頼回復の第一歩になります。
たとえ消費税数%分をまかなえなくても、歳費削減が「無駄を減らす」「政治を変える」という象徴として機能すれば、減税議論に実効性を与えるきっかけになるはずです。
【8】まとめ:国民に負担を求める前に、まず国の財布を整理せよ
ここまで見てきたように、日本の財政には二つの顔があります。
ひとつは人口動態や借金返済に縛られた削れない固定支出。もうひとつは政治判断で規模を動かせる変動支出です。
前者には社会保障費・国債費・防衛費が並びます。いずれも生活や国際関係に直結し、大胆に削ることは現実的ではありません。
後者には公共事業や補助金、議員経費、予備費が含まれます。規模感は限定的でも、改善の余地は確かに存在します。
要点を整理すると、次の通りです。
- 減税を実現するには「財源はどこから?」という問いを避けて通れない
- 固定支出は削れないため、対象は変動支出に絞られる
- 補助金は規模が大きく、効果検証が甘いため改善余地が最も大きい
- 議員経費は金額は小さいが象徴的で、政治不信を和らげる意味を持つ
- 歳費削減だけで大規模減税は不可能だが、改革の入口として重要
結論はシンプルです。減税を可能にする第一歩は、国が変動支出を整理すること。
国民に「負担を分かち合ってほしい」と言う前に、政治が無駄を減らす姿勢を示す。それが信頼の回復につながり、減税議論が現実に近づいていきます。
最後に問いかけたいのは「どこから削るべきか」です。補助金なのか、公共事業なのか、それとも議員経費か。選択肢は複数ありますが、大事なのは「国の財布をまず自ら整理する」という優先順位を共有すること。そこからしか、減税の現実的な道筋は見えてこないはずです。
編集後記
この記事を書きながら感じたのは、「歳費」という言葉が想像以上に幅広いことでした。社会保障や国債のように誰でも知っている支出もあれば、文通費や補助金のように普段はニュースに埋もれてしまうものもあります。調べていくうちに、自分自身も「これは削れないんだな」「ここは改善の余地があるかもしれない」と思わされました。
減税の話題は、どうしても政治家の発言だけが切り取られがちです。でも実際の数字を見ていくと、簡単にできる話ではないとわかってきます。だからこそ、まず国がどうお金を使っているのかを知ることが、私たちにとっても大事なんじゃないかと思います。
今回まとめたことが、読んだ方がニュースを見るときに「この支出はどうだろう」と一歩踏み込んで考えるきっかけになればうれしいです。
編集方針
- 減税を語る前に、歳費の全体像を整理することに重点を置く。
- 「削れない支出」と「改善できる支出」を明確に区分する。
- 表やデータを組み込み、スマホでも理解しやすい構成にする。
- 数字と国民感覚のギャップを取り上げ、生活者視点を残す。
- 結論を押しつけず、読者が一緒に考えられる余白を確保する。
参照・参考サイト
日本の財政関係資料(令和7年4月) — 財務省
https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/related_data/202504.html
財政関係パンフレット・教材 — 財務省
https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/related_data/index.html
財政関係基礎データ(令和7年4月) — 財務省
https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/basic_data/202504/index.html
特別会計の歳出予算額 — 財務省
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/special_account/yosan.html
令和5年度「国の財務書類」のポイント — 財務省
https://www.mof.go.jp/policy/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2023/point.pdf
社会保障給付費の推移等 — 内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/2030tf/281020/shiryou1_2.pdf
経済・財政一体改革の点検・検証(概要) — 内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2024/0402/shiryo_04-1.pdf
「国家財政の見える化」 実現に向けた提言 — 生活経済団体連合会
https://www.seidanren.jp/wp-content/themes/seidanren_Theme/previous-data/activity_content/37.pdf




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