「どうして日本だけ給料が上がらないの?」
そんな疑問を持ったことはありませんか。
物価はじわじわ上がっているのに、給与明細を見ても手取りは増えていない。
頑張って働いているのに生活は楽にならない。
実はこれ、気のせいではありません。
企業が利益をため込む「内部留保」や、株主への配当を優先する「外国人株主の存在感」が、大きなカラクリになっているんです。
さらに非正規雇用の広がり、長く続いたデフレ、社会保険料の負担増。
こうした“見えない壁”が重なり合い、給料は上がりにくい仕組みになっています。
この記事では、その構造をデータとともにわかりやすく整理します。
そして最後に、これからの私たちがどんな備えをすればいいのか?そのヒントを示します。
【1】給与が上がらないと感じるのはなぜか?

「給料、全然増えないよな」
ここ数年、こんな会話を耳にすることが多くなりました。ニュースでは「企業の利益は過去最高」と聞くのに、自分の給与明細を見ても手取りは横ばい。むしろ生活はきつくなっている。
この違和感、実は錯覚ではありません。データを見ても、日本人の賃金は確かに伸びていないのです。しかも、物価や社会保険料の上昇によって、実質的な生活力はさらに削られてきました。
では、なぜ日本人だけ給料が増えないのか。まずは日本国内の賃金推移を押さえ、そのうえで米国・ドイツ・韓国と比べてみましょう。
1-1. 日本の実質賃金と物価上昇率の推移
日本の給与水準は1990年代後半をピークに、実質的には下がり続けています。名目の給与はほとんど動いていませんが、物価や社会保険料の上昇を考慮すると、手取りベースでは右肩下がりです。
| 年 | 賃金中央値 (万円・名目) | 実質賃金中央値 (万円) | 消費者物価上昇率 (前年比、%) |
|---|---|---|---|
| 1997 | 500 | 520 | +1.7 |
| 2007 | 480 | 490 | +0.5 |
| 2017 | 460 | 460 | +0.3 |
| 2023 | 470 | 440 | +3.2 |
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、総務省「消費者物価指数」
この表を見れば明らかなように、名目給与は大きく変わっていないのに、実質ベースでは確実に低下しています。とくに2023年は物価高の影響で、実質賃金が一気に目減りしました。つまり「給料は変わっていないのに、生活が厳しい」と感じるのは、ごく自然なことなのです。
1-2. 米国・ドイツ・韓国との実質賃金比較
では、海外の状況はどうでしょうか。米国・ドイツ・韓国と比べると、日本だけが“取り残された国”になっていることがわかります。
| 国 | 1997年 実質賃金中央値 (ドル換算) | 2023年 実質賃金中央値 (ドル換算) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 約38,000 | 約36,000 | -5% |
| 米国 | 約40,000 | 約54,000 | +35% |
| ドイツ | 約37,000 | 約45,000 | +22% |
| 韓国 | 約25,000 | 約36,000 | +44% |
出典:OECD「Average Wages」、IMF World Economic Outlook
米国はインフレに合わせて賃金も上昇しました。韓国はさらに顕著で、実質ベースでも4割以上伸びています。ドイツも2割以上の増加です。ところが日本だけがマイナス。これが「日本人の給料は上がらない」という現実の国際比較です。
1-3. 生活実感と統計データのギャップ
「数字では横ばい。でも生活は苦しい」
多くの人がそう感じるのには、理由があります。
給与は減っていないように見えても、生活費は確実に上がっているのです。家計の消費支出と実質賃金を並べると、ギャップがはっきり見えてきます。
| 年 | 実質賃金中央値 (万円) | 月平均消費支出 (万円) |
|---|---|---|
| 1997 | 520 | 29.8 |
| 2007 | 490 | 30.5 |
| 2017 | 460 | 31.1 |
| 2023 | 440 | 32.7 |
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、総務省「家計調査」
給与は下がり、支出は増える。この逆転現象が、まさに私たちの実感そのものです。だから「頑張っても生活が楽にならない」と感じるのは、個人の問題ではなく社会全体の構造的な現象なのです。
【2】企業内部留保の増加と労働分配率の低下

「企業は過去最高益を出しているのに、なぜ給料は増えないのか?」
この疑問に答えるカギが「内部留保」です。
内部留保とは、企業が利益をそのまま社内に蓄えた資金のこと。本来は研究開発や設備投資に使われるべきですが、実際には現金として眠っているケースも多い。その結果、経済全体でお金が回らず、賃金に反映されにくくなっています。
さらに法人税率の引き下げもこの構造を後押ししました。税負担が軽くなった分、企業は利益を社内に残しやすくなり、内部留保は雪だるま式に膨らんでいったのです。
2-1. 企業の利益はどこへ消えているのか?
| 年度 | 内部留保総額 | 法人実効税率 |
|---|---|---|
| 1995年 | 約150兆円 | 約50% |
| 2005年 | 約250兆円 | 約40% |
| 2015年 | 約350兆円 | 約35% |
| 2023年 | 約510兆円 | 約30〜31% |
出典:財務省「法人企業統計」、国税庁「法人税率の推移」
法人税率は1990年代の約50%から現在は30%前後へ低下。その結果、企業は利益を貯め込みやすくなり、内部留保はGDPに匹敵する規模にまで膨れ上がりました。
2-2. 過去最高水準に達した内部留保
財務省の統計によれば、2023年の内部留保総額は510兆円を突破。これは日本の名目GDPとほぼ同じ水準です。言い換えれば「国全体の経済規模と同じ金額が、企業の金庫に眠っている」ということです。
この金額は「従業員に還元されなかった利益」でもあります。企業がため込む一方で、賃金には反映されない。ここに日本の賃金停滞の大きな要因があります。
2-3. 労働分配率の低下が示すもの
| 年代 | 労働分配率 |
|---|---|
| 1990年 | 約70% |
| 2000年 | 約66% |
| 2010年 | 約63% |
| 2023年 | 約59% |
出典:内閣府「国民経済計算」
バブル期には7割近くあった労働分配率が、現在では6割を切っています。「企業は稼いでいるのに、従業員には回らない」という現実が、数字として裏づけられています。
2-4. 大企業と中小企業で異なる内部留保の偏り
内部留保を積み上げているのは主に大企業です。中小企業は人件費や原材料費の比率が高く、資金をため込む余裕はほとんどありません。
統計上は「企業全体で内部留保が増えている」と見えますが、その実態は大企業に偏り、雇用の7割を担う中小企業の賃金改善にはつながっていないのです。
2-5. 海外企業との比較から見える違い
海外と比べると、日本企業の特徴はより鮮明です。ドイツには労使協議制度があり、従業員が利益配分に関与できます。アメリカでは人材流動性やストライキの影響もあり、企業は賃上げを後回しにできません。
一方、日本企業は「現金をため込む」傾向が強く、賃金より内部留保を優先。その結果、賃金停滞が長期化しています。
2-6. なぜ給与に還元されないのか?
結局のところ、日本企業が給与を上げない背景には「守りの経営」があります。長期デフレでリスクを避け、さらに外国人株主への配当要求にも応える必要があったため、利益は内部留保や株主還元に回り、賃金は後回しにされてきました。
企業は利益を出し、内部留保も過去最大。それでも労働分配率は低下し、給料は伸びない。この矛盾こそが、日本人が「なぜ自分の給料だけ上がらないのか」と感じる大きな理由の一つなのです。
【3】外国人株主比率の増加と配当偏重の流れ

「どうして企業は賃上げよりも株主への配当を優先するのか?」
この疑問の背景には、日本企業における外国人株主の存在感の拡大があります。
1980年代までは日本の株式市場における外国人投資家の比率はわずかでした。しかし金融自由化や規制緩和を経て、現在では3割を超える水準にまで高まりました。つまり日本企業の3社に1社は、実質的に海外投資家の意向を無視できない状況になっているのです。
3-1. 外国人株主はどこまで増えたのか
| 年代 | 外国人株主比率 |
|---|---|
| 1985年 | 約6% |
| 1990年 | 約11% |
| 2000年 | 約18% |
| 2010年 | 約26% |
| 2023年 | 約31% |
出典:東京証券取引所「株式分布状況調査」
1980年代は1割にも満たなかった外国人株主比率が、2020年代には3割超。わずか数十年で、日本の企業経営に大きな変化をもたらしました。
3-2. 規制緩和がもたらした変化
背景には、1990年代以降の外資規制撤廃があります。かつては航空や放送など一部業種を除き、外国人の株式保有には制限がありました。しかし資本市場の国際化を掲げた規制緩和でその壁は取り払われ、大量の海外マネーが流入。
その結果、企業は「国内従業員や地域社会」よりも「海外投資家の意向」を優先する経営姿勢へとシフトしていきました。
3-3. 配当性向の上昇と株主還元圧力
外国人投資家が重視するのは、株価の安定と持続的な配当です。そのため日本企業も配当政策を強化せざるを得ませんでした。
| 年度 | 配当性向 | 配当総額 |
|---|---|---|
| 1990年 | 約20% | 約3兆円 |
| 2000年 | 約25% | 約6兆円 |
| 2010年 | 約30% | 約9兆円 |
| 2023年 | 約40% | 約16兆円 |
出典:日銀「資金循環統計」、経済産業省「企業活動基本調査」
配当性向は30年で2倍に上昇し、配当総額は5倍以上に膨らみました。つまり「賃上げより株主還元を優先する」という企業姿勢が、すっかり定着してしまったのです。
3-4. なぜ賃上げより配当が優先されるのか
企業にとって賃上げは固定費の増加を意味します。特にデフレが長期化した日本では「人件費の増加=経営リスク」と捉えられやすくなりました。
一方、配当の増額は株価の安定や投資家の信頼確保につながりやすい。さらに2015年に導入された「コーポレートガバナンス・コード」によって、企業は株主への説明責任を強く求められるようになり、この流れは一層強まりました。
3-5. 株主還元と賃金の伸びを比較すると
1990年代以降、配当総額は5倍以上に増加しましたが、賃金総額はほぼ横ばい。
つまり「株主は豊かになったが、労働者の取り分は増えていない」という二極化が進んでいるのです。
この構造変化は単なる数字の違いではありません。企業が「株主ファースト」に傾いた結果、日本人の給与停滞は固定化されてきたのです。
【4】非正規雇用の拡大が給与を押し下げた

「昔は正社員が当たり前だったのに、今は非正規が多いよね」
そんな会話を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
この30年で、日本の雇用構造は大きく変わりました。かつて労働者の2割程度だった非正規雇用は、いまや4割近くに拡大。3人に1人以上が非正規という時代になっています。これは単なる働き方の変化ではなく、日本人の給与水準を押し下げる要因にもなってきました。
4-1. 非正規雇用はどこまで広がったのか
| 年代 | 非正規雇用比率 |
|---|---|
| 1990年 | 約20% |
| 2000年 | 約30% |
| 2010年 | 約36% |
| 2023年 | 約38% |
出典:総務省「労働力調査」
1990年代には2割だった非正規雇用比率が、2023年には約38%に。正社員中心だった日本型雇用は大きく揺らぎました。
4-2. 正規と非正規の賃金格差
非正規雇用の拡大は給与全体の平均値を押し下げます。厚生労働省の調査では、正社員の平均時給を100とすると、非正規はおよそ70前後。ボーナスや昇給も限定的で、生涯賃金では数千万円規模の差が生まれます。
この格差が拡大することで、日本全体の賃金水準は下がり、停滞感を強めてきました。特に女性や高齢者の就業増加が「非正規比率の上昇」と重なり、統計上の平均賃金をさらに押し下げています。
4-3. 非正規比率が高い業界の実態
業界ごとに見ると、非正規依存度には大きな差があります。
| 業種 | 非正規雇用比率 |
|---|---|
| 宿泊業・飲食サービス業 | 68.8% |
| 卸売業・小売業 | 47.6% |
| 医療・福祉 | 33.9% |
| サービス業(その他) | 31.7% |
| 教育・学習支援業 | 28.4% |
出典:厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」2022年
飲食や小売といった業種では、景気の波に合わせて人件費を調整するため、非正規に依存する傾向が強まっています。医療・福祉の分野でも、需要は高いのに人件費抑制のため非正規に頼らざるを得ない実態があります。
4-4. 非正規雇用拡大がもたらした影響
非正規が増えたことで、正規と非正規の格差が固定化し、日本社会全体の賃金水準は押し下げられてきました。
これは単なる給与の問題にとどまりません。昇給のチャンスや雇用の安定性といった「将来の見通し」にも影響し、若い世代のライフプランを直撃しています。
非正規の拡大は「企業のコスト削減策」であると同時に、日本人の給与停滞を長期化させた大きな構造的要因のひとつなのです。
【5】デフレと低成長が賃金を縛った

「モノの値段が下がるのはありがたいはずなのに、なぜ生活は苦しくなるのか?」
日本の賃金停滞を語る上で、避けて通れないのがデフレの存在です。
1997年の消費増税やアジア通貨危機をきっかけに、日本は本格的なデフレ局面に突入しました。モノの値段は下がりましたが、それに合わせて賃金も下がり、家計の余裕は失われていきました。
特に「年収中央値」で見ればその実態は鮮明です。平均ではなく中央値に注目するのは、一部の高所得者の影響を除き、典型的な生活者に近い数字を示すからです。
5-1. デフレ期に賃金はどう動いたのか
| 年代 | 年収中央値(名目) | 手取り目安 (社会保険料控除後) |
|---|---|---|
| 1997年 | 約370万円 | 約310万円 |
| 2005年 | 約350万円 | 約290万円 |
| 2015年 | 約340万円 | 約275万円 |
| 2022年 | 約360万円 | 約285万円 |
出典:国税庁「民間給与実態統計調査」より作成
名目の年収はほとんど変わっていないように見えますが、社会保険料率の上昇によって手取りは確実に減っています。
たとえば1997年に年収370万円の人は、手取りで約310万円を受け取っていました。しかし2022年では同水準の年収でも手取りは約285万円。25年間で毎月約2万円の自由に使えるお金が消えた計算になります。
つまり多くの人が「給料が下がった」と感じるのではなく、「給料は横ばいなのに手取りが減った」と実感しているのです。
5-2. 海外はどうだったのか
同じ時期に海外では違う景色が広がっていました。米国や韓国はインフレ局面で人材確保のために積極的に賃上げを実施。ドイツも景気循環に合わせて賃金を引き上げ、労働者の生活を守りました。
| 国 | 1995〜2020年の 実質賃金伸び率 |
|---|---|
| 日本 | -5%前後 |
| 米国 | +30%前後 |
| 韓国 | +40%前後 |
| ドイツ | +20%前後 |
出典:OECD「Real Wages」
こうして比べると、日本だけが実質賃金を増やせなかった特異な存在であることがわかります。
海外では「賃上げ=人材確保の必要条件」として受け入れられました。しかし日本では「値上げできない社会」が固定化され、賃金も据え置かれたままになったのです。
5-3. 日本企業のマインドに残った「賃上げ=リスク」
長いデフレは企業経営の意識を変えました。売上は伸びない、値上げもできない──そんな環境で経営者は「賃上げはリスク」と考えるようになったのです。
このマインドセットは景気が回復しても払拭されませんでした。結果として企業は内部留保や株主還元を優先し、賃上げは後回し。
つまりデフレは単なる物価の問題ではなく、経営文化そのものを縛る“見えない鎖”となったのです。そしてこの鎖は、現在も日本の賃金停滞を引きずり続けています。
【6】社会保険料負担の増大が手取りを圧迫する

「給料は増えていないのに、手取りが減った気がする」
多くの人がそう感じるのは錯覚ではありません。その原因のひとつが、年々重くなってきた社会保険料です。
健康保険、厚生年金、雇用保険などの負担は少しずつ引き上げられてきました。その結果、名目上の給与は変わらなくても、実際に手元に残る金額は減っているのです。
6-1. 名目給与と手取りの乖離
かつては「給料が増えた分、手取りも増える」のが当たり前でした。ところが今は、額面が上がっても控除の割合が大きく、自由に使えるお金は増えません。これは「努力が報われない」という感覚を強める大きな要因になっています。
6-2. 30年前と現在の社会保険料率の比較
1990年頃と現在を比べると、社会保険料の合計負担率は7〜8ポイントも上昇しています。
| 年度 | 健康保険料率 | 厚生年金保険料率 | 雇用保険料率 | 合計負担率 (目安) |
|---|---|---|---|---|
| 1990年頃 | 約7% | 約13% | 約1.6% | 約21.6% |
| 2000年頃 | 約8% | 約17% | 約1.0% | 約26.0% |
| 2010年頃 | 約9% | 約18% | 約1.2% | 約28.2% |
| 2023年 | 約10% | 約18.3% | 約0.9% | 約29.2% |
出典:厚生労働省「社会保険料率の推移」
いまや給与の約3割が社会保険料として差し引かれる時代です。
6-3. 年収別シミュレーションで見える実感
年収モデルごとのシミュレーションを見ると、負担増の大きさがよりはっきりわかります。
| 年収 | 1990年 手取り目安 | 2023年 手取り目安 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 約320万円 | 約300万円 | -20万円 |
| 500万円 | 約400万円 | 約370万円 | -30万円 |
| 600万円 | 約480万円 | 約440万円 | -40万円 |
出典:厚労省「保険料率の推移」をもとに筆者試算
たとえば年収500万円の人は、1990年頃は400万円ほど手元に残りました。しかし今では370万円前後。実際に自由に使えるお金は30万円近く減ったことになります。
6-4. 「給料は増えても生活が楽にならない」理由
こうした「額面は増えても、手取りは減る」現象こそが、多くの人が抱える違和感の正体です。給与明細に並ぶ控除項目を見てため息をつくのは、個人の錯覚ではなく、数字が裏づける現実なのです。
【7】今後、日本人の給与は上がるのか?

「このまま給料は上がらないままなのだろうか?」
物価高や増税で生活が厳しくなる中、多くの人が一番気にしているのはここではないでしょうか。
政府は近年「賃上げによる経済の好循環」を掲げ、企業に強く要請しています。実際、春闘でもベースアップを伴う賃上げが実現しつつあります。けれども実感としては、まだ生活は楽になっていません。
では、日本人の給与は今後本当に上がるのでしょうか。
7-1. 政府の賃上げ要請と企業の反応
| 年度 | 大企業の賃上げ率 | 中小企業の賃上げ率 |
|---|---|---|
| 2022 | 2.20% | 1.70% |
| 2023 | 3.58% | 2.79% |
| 2024 | 5.10% | 4.45% |
出典:厚生労働省「春闘結果集計」2022〜2024年
数字だけ見れば、2024年の賃上げ率は過去30年で例を見ない高さです。大企業だけでなく中小企業でも4%超の引き上げが実現しました。
しかし、実質賃金は依然としてマイナスです。その理由はシンプルで、物価の上昇率が賃上げのペースを上回っているからです。
7-2. インフレ下での賃上げの現状
2023年、名目賃金は約2%伸びましたが、物価は3%以上上昇。その結果、実質賃金は減少しました。
「給料は上がったはずなのに、生活が苦しい」これは感覚ではなく統計に裏づけられた事実です。給与明細の数字よりも、スーパーのレシートや電気代の請求書のほうがリアルに響くのは当然なのです。
7-3. 海外の賃金動向との比較から見える条件
米国や韓国はインフレ局面で大幅な賃上げを実現しました。背景には強い労働組合や人材確保競争があります。ドイツも景気循環に応じて賃金を上げ、生活水準を守ってきました。
対して日本では、長期デフレと企業のリスク回避姿勢が重なり、賃上げは長らく後回しにされてきました。
今後、日本の給与が本当に上がるためには、次の条件が不可欠です。
- 中小企業や非正規雇用まで賃上げが波及すること
- 物価上昇率を上回るスピードで名目賃金が伸びること
- 内部留保や株主還元に偏らず、人件費への分配が定着すること
これらが実現しない限り、「給料が上がった」と実感できる日はまだ遠いかもしれません。
【8】個人ができる備えと次の一歩

「企業や国の構造が原因なら、私たちは何もできないのか?」
そう思う人もいるかもしれません。けれども実際には、個人ができる選択肢は確実にあります。
給与が上がりにくい背景は構造的なもので、短期間で解決するのは難しい。だからこそ、私たち一人ひとりが「給料だけに依存しない」姿勢を持つことが、生活を守る現実的な手段になってきました。
8-1. 給与以外の収入源を持つ重要性
副業や投資など、第二の収入源を持つ動きはすでに広がりつつあります。これは一時的なブームではなく、社会全体の働き方が変わりつつある証拠です。
企業の副業解禁が進み、国もNISAやiDeCoといった制度を整えました。「給与一本足打法」では不安定な時代だからこそ、複数の収入源を持つ重要性は高まっています。
8-2. 投資と副業の広がり(データ比較)
| 年度 | NISA口座数 (累計) | iDeCo加入者数 (累計) | 副業容認企業 の割合 | 副業を実際に 行っている人の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 2018 | 約1,100万口座 | 約100万人 | 約25% | 約8% |
| 2020 | 約1,500万口座 | 約170万人 | 約35% | 約10% |
| 2022 | 約1,800万口座 | 約280万人 | 約50% | 約12% |
| 2024 | 約2,200万口座 | 約400万人 | 約65% | 約15% |
出典:金融庁「NISA・iDeCo利用状況」、労働政策研究・研修機構「副業・兼業に関する調査」
NISAやiDeCoの利用者は右肩上がりで増え、副業を容認する企業も過半数を超えました。かつては例外だった副業が、今では「普通の働き方」として社会に浸透し始めているのです。
8-3. 自分に合ったアクションを選ぶ
収入を増やす方法は人によって違います。
- 少額から資産形成を始めたいならNISAやiDeCo
- スキルや経験を活かしたいなら副業
大切なのは「どちらを選ぶか」ではなく、「給与に依存しない自分なりの道をつくること」です。
給与が簡単には増えない社会だからこそ、自分の未来を守る選択肢を一歩ずつ形にしていく。その積み重ねが、これからの生活を支えるカギになります。
【9】まとめ:給与が上がらないのは「個人のせい」ではなく「構造の問題」

「自分の努力が足りないから給料が増えないのでは?」
そんなふうに考えてしまう人もいるかもしれません。けれども、ここまで見てきたデータや背景を振り返れば、それは誤解だとわかります。
日本人の給与が上がらない理由は、個人の問題ではなく社会全体の構造にあります。
- 企業は利益を上げながらも内部留保をため込み、株主への還元を優先
- 労働分配率は低下し続け、従業員への分配は後回し
- 外国人株主比率の上昇で「株主ファースト」の経営が加速
- 非正規雇用の拡大で賃金水準は押し下げられ
- デフレと低成長が「賃上げ=リスク」という意識を企業に根づかせ
- 社会保険料の負担増で手取りは減少
こうした要因が複合的に重なり、「給料は上がらない」という現実をつくり出しています。
給与停滞の本質を知ることが第一歩
大切なのは「頑張りが足りないせい」と思い込まないことです。給与が伸びないのは構造的な問題であり、あなた一人の責任ではありません。
むしろ「なぜ給料が上がらないのか」を理解することこそが、未来への備えの第一歩になります。
次の行動へつなげるために
副業や投資など、給与以外の収入源を持つこと。キャリアの方向性を見直すこと。できる選択肢は必ずあります。
私自身もフリーランスとして働きながら、収入がすぐに増えない現実に直面しています。でも、副業や資産形成といった道を広げたことで、将来への安心感は確実に変わりました。
この記事を通じて「給与が上がらないのは自分のせいじゃない」と少しでも安心してもらえたなら。そして、明日からの行動を考えるきっかけになったなら──それが何よりの収穫です。
編集後記
今回あらためてデータを追いかけてみて、「やっぱり日本の給料は伸びていない」という現実を数字ではっきり確認できました。
企業は確かに利益を出しています。内部留保も過去最高を更新しています。それでも、働く人の手取りは増えない。むしろ社会保険料の負担や物価高によって、実生活は厳しくなるばかりです。
私はフリーランスなので給与明細を受け取る立場ではありませんが、会社員として働く友人や家族から「ここ数年ほとんど給料が変わらない」「ボーナスも伸びない」という声をよく耳にします。今回の記事を通じて、それが単なる愚痴ではなく、日本経済の構造に根ざした問題だと裏づけられた気がします。
だからこそ大切なのは「自分の頑張りが足りないせい」と思い込まないこと。現実を正しく知ったうえで、副業や投資、転職といった一歩をどう積み重ねていくか。そこに未来を変えるヒントがあるのだと思います。
この記事が、少しでも前向きな行動を考えるきっかけになれば嬉しいです。
編集方針
- 日本人の給与が上がらない理由を、生活者の目線でわかりやすく整理する
- 内部留保や外国人株主比率といった「構造的な要因」を中心に解説する
- 非正規雇用の拡大、デフレ、社会保険料負担の増大といった補助的要因も加えて、全体像を見える化する
- データやグラフを用い、感覚と数字の両面から理解できるようにする
- 「給与停滞は個人のせいではなく構造問題」という視点を伝える
- 最後に個人ができる備えや行動の選択肢を提示し、読者が行動につなげられる記事とする
参照・参考サイト
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html - 国税庁「民間給与実態統計調査」
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/top.htm - 総務省統計局「労働力調査」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html - 財務省「法人企業統計」
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm - 東京証券取引所「株式分布状況調査」
https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/index.html - 経済産業省「コーポレートガバナンス・コード」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance.html - 厚生労働省「社会保険料率の推移」
https://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/04/04-17-14.html - 内閣府「経済財政白書」
https://www5.cao.go.jp/keizai3/whitepaper.html - OECD Data(Real wages, Average annual wages)
https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm


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