地図を見て、風を読む

essay02地図を見て、風を読む エッセイ

子どものころ、数学が好きだった。
めちゃくちゃ得意というほどではなかったけれど、考える時間が好きだった。
一つずつ順を追っていけば、ちゃんと答えにたどり着く。
その感じが心地よかった。

大学生のころ、塾で中学生に数学を教えていた。
ある日、生徒のひとりが言った。
「先生、数学なんて意味ないよね。大人になって使わないし」

その言葉を聞いたとき、不思議と腹は立たなかった。
たぶん、自分も昔そう思ったことがあったからだ。
でも、その頃にはもうなんとなく気づいていた。
数学は“答え”を出すための勉強じゃなく、“考える”ための訓練だということを。

社会に出てから、その感覚はさらに強くなった。
仕事で意見がぶつかったとき、
私はまず相手の「前提」を探すようになった。
どの条件で話しているのか。
何を“1”とみなしているのか。
それが見えると、話はずっとスムーズになる。

私は仕事で下に人をつけてもらうとき、よく言う。
「数学ができる人に。でも、文系の人でお願いします」と。

それは、論理的に物事を考えられる人であり、
同時に、俯瞰で全体を見渡せる人という意味だ。
数字に支配されず、現実を見ようとする人。
数字の正確さも大事にしながら、
人の感情や現場の空気を想像できる人。
そういう人が、現実の中では強い。

もちろん、理系にもそういう人はたくさんいる。
だから、文系というより“視野の広い人”という方が近いかもしれない。

私はただ、論理と想像のバランスを持つ人と働きたいと思っている。
というのも、人の“思考パターン”は、そう簡単には変えられないからだ。
スキルや技術は後からでもつけられるけれど、
ものの考え方の癖は、根っこの部分にあってなかなか変えられない。
そこがすでに整っている人なら、教育にかかる工数は少なくてスムーズだ。

特に人をつけてもらう場合、
その人は最終的に自分の手足となって動いてもらうことになる。
だからこそ、思考の構造が似ているかどうかが大事になる。
論理で動き、感情で止まらない人。
けれど、冷たくはならない人。
そんな人が、チームを支えてくれる。

これからの時代、特にAIと関わる仕事では、
この「考える力」がますます大事になると思う。

AIは、よくあるパターンを組み合わせて答えを出す。
でも、「何を目的に置くか」「どんな方向に進むか」を決めるのは人間だ。
AIへの最初の指示(いわゆるプロンプト)は、
人間が俯瞰して物事を見て、総合的に考えた結果を最終的に言葉にする作業だ。
それは、AIにはまだできない。

子どもを育てることも、人を育てることも、
本質的には同じだと思う。
目の前の点数や結果を教えるのではなく、
「どう考えるか」を一緒に探していくこと。

AIがどれだけ進化しても、
自分の頭で考え、他人の心を想像する力だけは、
人間にしか残らないと思う。

数学は、ただの教科ではなかった。
人が考えるための、最初の練習だったのかもしれない。

執筆者:飛蝗
SEO対策やウェブサイトの改善に取り組む一方で、社会や経済、環境、そしてマーケティングにまつわるコラムも日々書いています。どんなテーマであっても、私が一貫して大事にしているのは、目の前の現象ではなく、その背後にある「構造」を見つめることです。 数字が動いたとき、そこには必ず誰かの行動が隠れています。市場の変化が起きる前には、静かに価値観がシフトしているものです。社会問題や環境に関するニュースも、実は長い時間をかけた因果の連なりの中にあります。 私は、その静かな流れを読み取り、言葉に置き換えることで、「今、なぜこれが起きているのか」を考えるきっかけとなる場所をつくりたいと思っています。 SEOライティングやサイト改善についてのご相談は、X(@nengoro_com)までお気軽にどうぞ。
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