絵を描く人と、デザインをする人。
どちらも「形」をつくるけれど、目の向きが違う。
画家は、自分の中にあるものを外に出そうとする。
思いのままに、線や色を重ねる。
デザイナーはその逆で、誰かに伝わるように形を整える。
見る人の気持ちを想像しながら、線を引く。
言葉の世界も、それに少し似ている。
詩人や小説家は画家に近い。
心の奥深くまで潜り、ことばで描こうとする。
ライターはデザイナーに近い。
読む人の理解を考えて、言葉を並べる。
どちらが正しいわけでもない。
でも、いい文章はそのあいだに生まれる気がする。
感情だけでは伝わらない。構造だけでは心が動かない。
内と外のちょうど真ん中に、伝わる言葉の輪郭がある。
地頭のいい人の話を聞くと、
その“捉え方”の正確さにいつも感心する。
まっすぐに本質を見て、
それを誰もがわかる言葉に置き換える。
たとえば、ひとつの比喩を出すだけで、
抽象的な話が景色へと変わる。
むずかしい話なのに、なぜかすっと理解できる。
説明ではなく、見せてくれるような話し方。
だから聞いているうちに、
頭の中の点がつながっていく。
「あっ、そういうことか」と、自然に腹の底に落ちる。
文章を書くというのも、それに似ている。
最初は、伝えたいことが雲のようにぼんやりしている。
一つずつ言葉にして、霧を少しずつ剥ぐように
余計なものを取り除いていく。
そうして最後に残ったコトバが、
ほんとうに言いたかったことなのかもしれない。
それが誰かの中でも形になって、
理解へと変わっていく。
書くことは、描くことでもあり、整えることでもある。
心の中のあいまいな線を、少しずつ外の世界に写していく。
そしていつか、
その線の向こうに、
誰かの景色があらわれる。


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