電気料金の明細に小さく載る「再エネ」の項目。山に増えた太陽光パネル。環境にいいはずなのに、家計から出るお金と、地域に戻ってくる実感が釣り合っていないと感じた人は多いはずです。
この記事は、専門用語をできるだけ減らして、お金の流れをまっすぐ見ます。国が電気を“決まった値段で買います”と約束していた時期があった。これがいわゆるFITです。最近は市場の値段に合わせる仕組みが広がっている。これがFIPです。名前は覚えなくても困りません。大事なのは、収益がどこへ上がり、負担がどこへ沈むかです。
家計では、毎月いくら出ていくのか。地域では、税収や雇用がどれだけ残ったのか。土地の持ち主にとっては、契約と撤去まで含めて収支が合っていたのか。
賛成か反対かの前に、仕組みの大枠をつかむことが先でした。入るお金と出ていくコストを同じ紙面上に置き、どこを整えれば良い方向に進むのかを解説していきます。
【1】気づいたら風景が変わっていた──広がった理由をたどる

山の斜面や休耕地に、黒いパネルが並ぶ光景が増えた。誰かが「ここに作りましょう」と大きく決めたわけではない。それでも、風景は少しずつ変わっていっています。制度の動きが地域の時間よりも速く、現場が気づいたときには計画が先に進んでいた。そんな場所が各地にあります。
1-1. パネルが増えたとき、裏で動いていたこと
放置された土地を活用する。最初は前向きな話に聞こえたと思います。けれど実際には、国が「発電した電気を一定の値段で買います」と約束する制度が始まり、事業の流れが一気に動きました。電気を売れば収益が出る。そうした明確な仕組みが整ったからです。
制度の後押しで、農地の転用や森林の伐採も進みました。山の形が少し変わったり、雨の道筋が変わったり。目に見えるのはパネルでも、その下で動いていたのは土地のルールやお金の仕組みだったのかもしれません。現場の人たちが「急に増えた」と感じたのも無理はないと思います。
1-2. 「エコだから良い」だけでは語れなかった
再エネは基本的に良いことです。環境負荷を減らし、次の世代につなぐ力を持っています。ただ、設置の場所や規模によって、風景の印象も生活のリズムも変わっていきました。
たとえば、反射光が住宅の窓に差し込むようになったとか、大雨で水の流れが変わったとか。数字で見れば発電量が増えても、生活の側では別の形の負担が生まれていた。良さと違和感が同じ場所に同居するのが現実でした。
1-3. 進み方のずれ──説明はあったけれど、納得までは届かなかった
多くの地域では説明会が開かれました。書類の手続きも形式上は整っていた。けれど、実際の会場では「質問しても答えが短くて終わる」「話し合いというより報告に近い」と感じる人も多かったようです。
事業者は「説明した」と思い、住民は「聞かされただけ」と受け取る。どちらも嘘ではないのに、理解の距離は縮まらなかった。
制度のスピードは早く、地域の合意はゆっくり育つ。その時間差が今の違和感を生んでいます。
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【2】誰が得をしているのか──お金の流れを見てみる

環境に良いと言われてきた再エネ。その代表がメガソーラーです。けれど、風景が変わっても、地域の財布の中身はあまり変わらなかった。
ここでは、「誰が儲かり」「誰が負担しているのか」を立場別に整理していきます。
発電事業者
メガソーラーの中心にいるのは発電事業者です。
国が「電気を一定の値段で買います」と約束したことで、20年間の安定収入が見込めるようになりました。だから、太陽光は“投資商品”として一気に広がったのです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な収入 | 売電収入(20年間固定)/環境価値取引(カーボンクレジットなど) |
| 優遇制度 | 設備導入補助、税制優遇 |
| 主な負担 | 設備の維持・除草費、災害リスク、撤去費の積立不足 |
| 平均利回り | 5〜10%(初期FIT期では最大12%) |
安定した仕組みが整っていたことで、資金は全国から集まりました。
ただ、発電所の利益は地域の外に流れることが多く、地元に残るお金は少なかったようです。
投資家・ファンド
投資家にとって、メガソーラーは手間のかからない資産でした。
仕組みを作れば、あとは配当が入る。そんな構造です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な収入 | 売電益の分配金、節税効果(減価償却など) |
| 優遇制度 | グリーン投資減税、再エネREITの税制優遇 |
| 主な負担 | 出資額(数千万円〜)、市場価格の変動リスク |
| 平均利回り | 初期FIT期:7〜10%、現在:4〜6% |
初期の案件では年10%を超える配当もありました。
投資としては成功例が多い一方で、地域への還元はほとんど見えません。
金融機関(銀行・地銀)
銀行にとって再エネ融資は国が保証する安定案件でした。
電気代の買い取りが担保になるため、貸し倒れリスクが低かったのです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な収入 | 長期融資の利息、保証料 |
| 優遇制度 | グリーンファイナンス支援枠、低金利融資 |
| 主な負担 | 審査・担保管理コスト、不良債権リスク |
| 平均利回り | 年1〜3% |
FITが終わるにつれ、採算が崩れた案件も増えています。
安定案件として始まった融資が、今は慎重な見直しの対象になっています。
EPC業者(設計・建設)
建設会社は、発電所を作る段階で利益を得ます。
設置が終われば利益は確定するため、短期的には安定していました。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な収入 | 設備施工費、メンテナンス契約 |
| 主な負担 | 資材高騰、人件費の上昇 |
| リスク | FIT終了後の案件減少 |
| 利益率 | 10〜20%(初期案件) |
ただ、資材価格の上昇や人手不足で、今は採算が厳しくなっています。
地元の業者が下請けに回る構造も多く、利益は薄くなりがちです。
土地オーナー(地主)
「遊んでいた土地が収益になる」と期待して契約した人も少なくありません。
けれど、長期契約や撤去費のリスクを抱えることになったケースも多いのが現実です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な収入 | 土地賃料(月5〜15万円/1,000坪) |
| 主な負担 | 固定資産税、契約解除時の撤去費 |
| リスク | 長期契約トラブル、事業者撤退 |
| 平均収益 | 年1〜3%相当 |
初期投資は不要でも、契約内容次第で利益より負担が上回ることもあります。
地元でトラブルが起きやすいのはこの層でした。
自治体
自治体は「地域振興」「雇用創出」を期待して誘致しました。
しかし、得られる税収は限定的。説明会や災害対応などの負担が残っています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な収入 | 固定資産税、法人税収入 |
| 主な補助 | 地域再エネ交付金、地方創生支援事業 |
| 主な負担 | 住民説明、災害対応、環境維持 |
| 実質的な効果 | 税収増は限定的、管理コストが上回る例も |
地域の看板としては「環境都市」を掲げても、職員の手間や地域調整の負担は増えていました。
国(制度側)
国の目的は再エネ普及率の向上です。
そのためにFITや補助金が整えられましたが、費用はすべて電気料金に上乗せされています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 再エネ導入率の向上、脱炭素目標の達成 |
| 主な支出 | 再エネ賦課金(年約3兆円) |
| リスク | 負担の偏り、制度疲労 |
| 実態 | 費用は国民が広く負担、利益は一部企業に集中 |
制度としての目的は達しても、実際のコストは暮らしの中で支払われています。
利益の流れを並べて見ると、方向はおのずと見えてきます。
お金は投資家・金融・メーカーといった上流へ。
リスクと負担は地主・自治体・住民といった下流へ。
理念は持続可能でも、経済の構造はまだ持続しにくいんです。

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【3】地主にとっては夢か罠か──「土地で稼ぐ」という話の裏側

「使っていない土地が太陽光でお金を生む」と聞けば、少し心が動くのは自然なことです。
地方や山間地では、そうした誘い文句で契約に踏み切った地主も少なくありません。
最初は夢のような話だった。けれど、時間がたつほどに見えてきたのは、利益より責任が重いという現実でした。
3-1. 遊んでいた土地が収益源に?──期待と現実
太陽光発電の広がりとともに、「土地を貸すだけで毎月お金が入る」という話が増えました。
実際、1反(約1,000㎡)あたり年間数万円から十数万円の地代が相場です。何もしなくてもお金が入るという魅力は確かにあった。
ただ、契約期間は20年以上に及ぶことが多く、途中解約ができないケースも少なくありません。
「そんな先のことまで考えられなかった」という地主の声は、各地で聞かれます。
| よくある声 | 内容 |
|---|---|
| 話が違った | 固定資産税が思ったより重い、途中で事業者が変わった |
| 情報が来ない | 売電が止まっても地主には連絡がない |
| 将来が不安 | 契約が終わった後、誰が撤去するのか分からない |
出典:国民生活センター「再エネ契約トラブル事例(2024)」
最初は静かな期待。けれど、数年たつと「こんなはずじゃなかった」という後悔が少しずつ積み上がっていきました。
3-2. 撤去費やメンテの見落とし──設置で終わりではなかった
メガソーラーは設置して終わりではありません。
20年後には撤去や原状回復が必要になります。
けれど、契約書にその費用の積立が明記されていないケースが多い。事業者が倒産すれば、その約束は消えてしまいます。
| 費用項目 | 想定負担者 | 平均費用(目安) | コメント |
|---|---|---|---|
| パネル撤去・廃棄 | 事業者(倒産時は地主) | 約300〜500万円/1ha | 処理費用は年々上昇 |
| 基礎・架台撤去 | 発電事業者 | 約200万円/1ha | 重機搬入にコスト増 |
| 植生復元・地形回復 | 地主または自治体 | 約100万円/1ha | 山間地では負担が大きい |
出典:経済産業省「再エネ設備の廃棄・撤去ガイドライン(2024)」/環境省「再エネ設備廃棄物処理費用実態調査」/会計検査院「再エネ設備撤去実態報告(2023)」
利益は数年で得られるのに、負担は20年後にやってきます。
この時間のずれが、最も大きなリスクになっています。
3-3. うまくいった人に共通する工夫
もちろん、すべての地主が失敗しているわけではありません。
きちんと備えて、安定した収入を得ている人たちもいます。
うまくいっている人に共通するのは、次のような点でした。
| 工夫のポイント | 内容 |
|---|---|
| 営農型(ソーラーシェアリング)を選んでいる | 農地を使い続けながら発電できる。補助金や地域の理解も得やすい。 |
| 契約書に撤去時の責任を明記 | 第三者保証や信託契約で、倒産時の撤去費をカバー。 |
| 地元と協調して進める | 「儲け」ではなく「共存」を前提に。反発を受けにくい。 |
出典:農林水産省「営農型太陽光発電の手引き」/環境省「地域主導型再エネ導入モデル事例集」
このように、土地を貸すことを収益事業ではなく、地域と続ける取り組みとして考えた人ほど長く安定しています。
地主は短期的には利益を得ても、長期的なリスクを負いやすい立場です。
撤去や維持費の不透明さが、20年後の負債化を招くこともある。
再エネを地域でうまく回すには、土地の価値を「貸すもの」ではなく、「守りながら使うもの」として考える視点が欠かせません。
【4】地元の声は届いたのか──自治体と住民、それぞれの期待と不満

「地域のため」と始まったメガソーラー。
けれど、出来上がった風景を見て「少し違う」と感じた人は多かったと思います。
自治体は税収と雇用を、住民は安心と納得を求めていた。
その二つの期待が、制度のスピードに追いつけなかっただけかもしれません。
4-1. 税収、雇用、補助金──期待したけど、違った
多くの自治体は、メガソーラーを地域振興策として受け入れました。
造成工事や設備搬入の時期には確かに人が動き、短期的な仕事も生まれた。
けれど、発電が始まってしまえば現場に必要な人手はごくわずか。
雇用効果は長続きせず、税収も思ったほど増えなかったのです。
| 期待された効果 | 実際の影響 | コメント |
|---|---|---|
| 雇用創出 | 施工期のみ一時的 | 維持運営は数名規模 |
| 地域経済の活性化 | 限定的 | 資材や機器の多くが域外調達 |
| 税収増 | 固定資産税収入のみ | 減価償却後は減少傾向 |
| 環境対策・防災費 | 増加 | 開発に伴う維持コストが発生 |
出典:総務省「地域再エネ事業の経済効果調査(2024)」/環境省「地方再エネ導入実態報告」
一時的な利益のあとに、長期的な管理コストが残る。
“地域のため”という言葉の中身が、少しずつ空洞になっていったのかもしれません。
4-2. 説明はあった、けれど納得はなかった
多くの地域で事業説明会が開かれました。
しかし、「聞いたけれど理解できなかった」「質問しても答えが短かった」と感じた人が少なくありません。
ある説明会で住民はこう話します。
「パネルの反射が家に届かないかと聞いたら、問題ありませんで終わった」
「土砂流出が心配だと言っても、対応しますの一言だけだった」
形式上の説明はあっても、納得するための会話にはなっていなかったのです。
事業者は「法的に説明した」と考え、住民は「聞かされた」と受け取る。
どちらも嘘ではないのに、理解の距離は縮まらなかった。
説明資料は専門用語が多く、「再エネ=良いこと」という前提で語られる。
結果として、“理解ではなく同意を求める場”になっていた印象があります。
4-3. 再エネが嫌われたのではなく、プロセスが嫌われた
風景が変わり、暮らしに影響が出る。
それ自体に反対している人は多くありませんでした。
けれど、「知らないうちに決まっていた」「説明が形だけだった」という経験が、地域の信頼をすり減らしていった。
事業者は制度と利益を熟知している。
行政は国の方針に沿って動く。
住民は制度の仕組みを事前に知る術がない。
この情報のずれが、反対運動ではなく静かな失望を生んでいます。
嫌われたのは再エネではなく、その進め方。
言い換えれば、「正しいことを、正しく伝えられなかった」ことが問題の中心にありました。
地域の信頼が欠けたままでは、どんな理想も長くは続きません。
再エネは環境の話である前に、関係の話でもあります。
制度が動くスピードと、人が理解し合うスピードを合わせること。
それが、次の再エネを続けるための最初の条件なのだと思います。
【5】誰が損をしているのか──見えない赤字の構造をたどる

メガソーラーの仕組みは、一見すると「みんなが少しずつ得をする」ように見えます。
けれど実際には、利益の矢印は上流へ、負担の矢印は下流へ流れていました。
発電事業者や投資家が得る安定収益の裏で、住民や自治体、そして環境そのものが静かにコストを背負っている。
この章では、その見えない赤字を立場ごとに整理します。
5-1. 住民──家計から出ていく「再エネ賦課金」
再エネの普及を支えているのは、投資家ではなく私たち一人ひとりです。
毎月の電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」は、全国民が支払う私的な税金のようなもの。
発電所が増えるほど、この負担も増していきます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な負担 | 電気料金への再エネ賦課金(平均月800〜1,000円/世帯) |
| 追加コスト | 景観・騒音・災害リスク対応、固定資産税転嫁など |
| 利益 | 地元還元は限定的(自治体経由の間接効果のみ) |
| 実質的影響 | 年間約1万円前後の負担増(全世帯平均) |
出典:資源エネルギー庁「再エネ賦課金単価の推移」/会計検査院「再エネ制度の検証」
環境のためと聞けば納得してきた負担。
けれど、生活の中で実感できる“戻り”がほとんどないまま、支払いだけが積み上がっている。
それが現実です。
5-2. 地主──20年後にやってくる“静かな赤字”
「遊んでいた土地が生かせる」と契約した地主も多い。
けれど、20年の契約が終わる頃には、撤去費や原状回復の負担が待っている。
最初は利益、終わりは負債。そんな構図も見えてきました。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な負担 | 契約終了時の撤去義務(1MWあたり約1,000〜1,500万円) |
| リスク | 事業者撤退・倒産による責任不明確、土地汚染リスク |
| 収益 | 地代 月5〜15万円(契約期間固定) |
| トラブル | 撤去費未積立、相続時の処理困難、無断転貸など |
出典:国土交通省「再エネ設備撤去費用調査」/農林水産省「営農型太陽光のリスク対応」
儲かる土地活用のはずが、負債化する土地に変わる。
メガソーラーが去った後、残るのはコンクリの基礎と手続きの山。
土地を貸す契約は、同時に責任を引き受ける契約でもありました。
5-3. 自治体──収入よりも管理コストが上回る現場
自治体にとって再エネは新しい収入源でした。
しかし、現実には税収よりも災害対応や住民調整などのコストが大きい。
現場の職員が制度の穴を埋めるかたちで日々動いています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な負担 | 説明会運営・災害対応・許認可事務コスト |
| 税収効果 | 固定資産税収入は限定的(年数百万円規模) |
| 追加コスト | 苦情対応・環境維持・撤去未履行対策 |
| リスク | 税収減少・放置案件の増加・訴訟リスク |
出典:総務省「地方税収統計」/環境省「地域脱炭素支援実態調査」
再エネは「環境政策」として進んでも、行政の現場では労務政策になっていた。
手続きの重さと説明責任の板挟みが、現場を疲弊させています。
5-4. 地場の施工業者──波が去ったあとに残る疲弊
初期の建設ラッシュでは地元の施工業者にも仕事が回りました。
けれど、次第に大手の下請け・孫請け構造になり、価格競争が激化。
「環境ビジネス」と呼ばれた熱気のあとに残ったのは、疲弊した現場でした。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な負担 | 資材高騰・薄利受注・保証リスク |
| 取引構造 | 大手EPCの下請・孫請中心(単価2〜4割減) |
| リスク | 事故責任の押し付け、遅延違約金など |
| 実質損失 | 一時的雇用にとどまり、継続利益は限定的 |
出典:中小企業庁「地域建設業の再エネ案件実態調査」/経産省「再エネ工事費の動向」
地域を支えた職人たちが、最も不安定な立場に置かれている。
再エネが地域経済の新しい柱になるはずだったのに、現実はそう単純ではありませんでした。
5-5. 地銀・地域金融──安定案件が重荷案件に
FITの時代、再エネ融資は「国が電気を買い取るから安全」と言われていました。
ところが撤去費未積立や事業撤退で、融資先のリスクが急増。
担保にしたパネルの価値も年々下がり、地銀には負担が残っています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な負担 | 不良債権化リスク・担保価値下落 |
| リスク | SPC倒産・撤去費未履行・回収不能 |
| 実質損失 | 評価損・引当金増加による収益圧迫 |
出典:日本政策投資銀行「再エネ融資リスク調査」/金融庁「グリーンファイナンスの課題」
再エネが金融商品として扱われた結果、地域の信用も制度の揺らぎに巻き込まれた。
安全資産のはずが、手放せない重荷に変わりつつあります。
5-6. 環境そのもの──一番静かに損をしている存在
そして、最も損をしているのは“環境そのもの”かもしれません。
森を削り、地形を変え、水の流れを変える。
脱炭素の名のもとに、別の自然を犠牲にしてしまう現場もありました。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主な負担 | 森林伐採・土壌流出・水循環の変化 |
| リスク | 野生動物の生息地喪失・治水コスト増 |
| 実質損失 | 流域崩壊・農業被害・景観喪失 |
出典:環境省「太陽光発電施設設置による環境影響評価報告」/林野庁「森林保全と再エネ導入調整ガイドライン」
CO₂は減っても、森の命は戻らない。
“環境に良い”という言葉が、本当に誰の環境を指しているのか。
それを一度、立ち止まって考える必要があります。
利益の流れを見れば上流に、負担の流れを見れば下流に。
メガソーラーの現実は、まるで“滝のような構造”をしていました。
水は上から下へ流れ、上では資本が回り、下では責任が溜まっていく。
再エネの理想は「持続可能」でも、仕組みはまだ持続しにくいままでした。
お金と責任がきちんと循環しない限り、それは再生可能ではなく再分配されないエネルギーなのかもしれません。
電気料金にひそむ「再エネ賦課金」の実態も気になる方はこちら ⇒ “再エネ賦課金の仕組みと“見えない税金
【6】この差はなぜ生まれた?──制度と仕組みの歪みを追う

メガソーラーの理想は「環境のため」でした。
けれど現実には、得をする人と損をする人が分かれていった。
その原因は、誰かの悪意というよりも制度の設計そのものにありました。
この章では、その仕組みをもう少しだけ掘り下げていきます。
6-1. FITからFIPへ──ルールが変わると、得をする人も変わった
「国が電気を決まった値段で買います」と約束していたのがFIT(固定価格買取制度)。
発電した分だけ確実に収入が入る仕組みで、事業者や投資家にとっては非常に安定したモデルでした。
その安定を支えていたのが、私たちが電気料金で負担している“再エネ賦課金”です。
その後に登場したのがFIP(市場連動型)。
これは電気の値段が市場で変動し、その分だけ売電収入も上下する仕組みです。
「競争を促す」と言われていますが、実際は資金力と情報力のある企業ほどリスクを吸収できる。
制度が“公平”に見えても、勝てるのは準備ができている側というわけです。
| 制度 | 仕組みの特徴 | 有利になる立場 | 不利になる立場 |
|---|---|---|---|
| FIT(固定価格買取) | 国が一定価格で電力を買い取る。リスクが少なく、収益が安定。 | 投資家・大手事業者・金融機関 | 国民(賦課金負担)・自治体(管理コスト) |
| FIP(市場連動型) | 市場価格に連動。高値時は利益増、低値時はリスク増。 | 大企業・外資系事業者 | 地域会社・中小事業者 |
出典:経済産業省「FIT/FIP制度の比較」/環境省「市場連動型支援制度の概要」
制度が変わるたびに、得をする層も変わっていく。
けれど、負担する側はいつも変わらない。
そこに、この構造のゆがみがあります。
6-2. 国策なのに、地元の信頼が崩れた理由
多くの自治体は「国の方針だから」と再エネを受け入れました。
けれど、実際の計画や補助金の流れは中央で決まり、地域が関われる余地は少なかった。
そのため、現場が当事者ではなく手続き担当になってしまったのです。
| 構造上の問題 | 現場で起きたこと |
|---|---|
| 計画・許認可が中央集中型 | 説明会が形式化、地域の合意形成が進まない |
| 補助金が企業単位で配分 | 地元企業への発注率が2〜3割にとどまる |
| 行政の縦割り(環境省・経産省・農水省) | 「誰に相談すればいいのか分からない」現場 |
| 撤去・監視の責任が不明確 | 放置設備・所有者不明案件の増加 |
出典:会計検査院「再エネ導入における行政課題」/総務省「自治体による再エネ事業実態調査」
地域が関われなければ、信頼も育たない。
「環境のため」が「地域のため」に変わらないまま、制度だけが先に進んでしまった。
それが、今の違和感の根にあります。
6-3. 知っている人と知らない人の間に生まれた格差
再エネの世界では、情報の差がそのまま損得の差につながります。
契約や補助金、撤去のルール──こうした情報を知っているかどうかで、20年後の結果が変わるのです。
| 立場 | 情報アクセス | 損得の傾向 |
|---|---|---|
| 外資系・大手事業者 | 専門部署・顧問弁護士・税理士が常駐 | 制度を有利に活用できる |
| 地主・中小業者 | 自力で情報収集、行政説明に依存 | リスクを見落としやすい |
| 住民 | メディアや口コミが主な情報源 | 後から被害・不信感が生じる |
出典:経済産業省「地域再エネ支援実態調査」/国民生活センター「再エネ契約トラブルの動向」
知っているか・知らないかの差が、
やがて納得しているか・裏切られたと思うかの差へと変わっていく。
情報は正義のためだけでなく、信頼をつくるために共有されるべきものです。
制度を「正しく設計すること」もまた、環境保全の一部です。
誰が負担を担い、誰が報われるのか。
その線引きが、地域の未来を決めていく。
環境にやさしいエネルギーを作る前に、人にやさしい制度を整えること。
それが、次の再エネ政策に求められる本当の持続可能性だと思います。
【7】再エネを地域の力に変えるには──今できること、これからの工夫

メガソーラーをめぐるお金の流れをたどってきました。
その中で見えてきたのは、利益は外へ、負担は内へという構図。
けれど、すでに各地ではその流れを変えようとする動きが始まっています。
「再エネ=外から来る事業」ではなく、「地域が自分たちで選ぶ資源」として取り戻す試みです。
7-1. 地元主体の取り組み、少しずつ広がっている
再エネを自分たちのものに変える。
そんな動きが、日本のあちこちで静かに芽を出しています。
キーワードは「地産地消」と「共同出資」。
| 地域 | 取り組み内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 長野県飯田市 | 住民共同出資型の太陽光発電(おひさま進歩エネルギー) | 売電益を福祉・教育の基金に再投資 |
| 北海道ニセコ町 | 宿泊業者と町の協働による再エネ導入 | 観光と環境の両立モデル |
| 兵庫県丹波市 | 農地共存型(営農型)太陽光 | 地主と若手農家の協働運営 |
| 熊本県阿蘇市 | 自治体主導の小水力発電 | 再エネ収益を防災基金へ還元 |
出典:環境省「地域主導の再エネ導入モデル事例集」/経済産業省「地域エネルギー事業の成功要因分析」
これらに共通するのは、「利益を外に出さない」仕組みを持っていること。
外資ではなく、地域の意思でお金の流れを設計しているのです。
小規模でも、信頼の循環をつくるという意味で、大きな変化だと思います。
7-2. 情報が見えると、納得も進む──透明性の力
再エネをめぐる不信の多くは、「知らされなかったこと」から生まれました。
だからこそ、情報を隠さず共有するだけで、状況は大きく変わります。
最近では、自治体や事業者が発電量や収益、撤去計画を公開する「見える化」に取り組む例も増えています。
| 可視化の取り組み | 効果 |
|---|---|
| 発電量・収益のWeb公開 | 誤解を防ぎ、透明性を高める |
| 撤去・契約情報の掲示 | トラブルを未然に防止 |
| 説明会の録画アーカイブ化 | 情報格差の縮小、信頼の構築 |
出典:環境省「地域共生型再エネ推進事業報告」/国土交通省「情報公開と合意形成の効果分析」
数字を隠さないことは、立場を守ることでもあります。
情報は武器ではなく橋。
その橋ができるだけで、地域の空気が少しやわらかくなるのです。
7-3. 善か悪かではなく、“どう整えるか”で考える
メガソーラーの話題は、賛成か反対かで語られがちです。
けれど本当に大事なのは、そのどちらでもなく「どう設計するか」。
誰が利益を受け、誰が責任を持ち、どう次の世代に引き渡すのか。
| 課題の軸 | これまでの構造 | これからの方向性 |
|---|---|---|
| 所有 | 企業・外資主導 | 地域・共同出資 |
| 情報 | 非公開(クローズド) | 公開(オープン) |
| 目的 | 投資利益 | 地域利益・教育・防災 |
| 関係性 | 依存・対立 | 協働・共創 |
出典:環境省「地域共創による脱炭素ロードマップ」/内閣府「地域循環共生圏構想」
誰が得かではなく、どう続くか。
再エネは、制度や企業のものではなく、地域が成熟していくための道具に変えていけるはずです。
制度の速度より、人の理解の速度を大事にする。
それだけで、見える風景は変わっていくと思います。
再エネの本当の価値は、電気そのものではなく、
それを通じてどんな関係をつくるかにあるのかもしれません。
【8】得か損かじゃなく、どう一緒に生きるかを問い直す

ここまで、メガソーラーの利益と負担の流れをたどってきました。
数字を追えば、誰が得をし、誰が損をしているのかは見えてきます。
けれど、そこにもうひとつ重ねて考えるべきものがあります。
それは「信頼」という目に見えない資本です。
メガソーラーの構造を見ていくと、理想と現実の間に距離があることが分かります。
再エネは未来のために作られた仕組みのはずでした。
けれど、制度が複雑になるほど、お金の流れと人の納得が離れていった。
環境を守ることと、誰かの犠牲で成り立つことは、両立しません。
再エネを「ビジネス」から「関係の仕組み」へ。
自然と地域と人が、同じテーブルで未来を考えられる社会へ。
その方向に舵を切れるかどうかが、これからの分かれ道です。
もしあなたの地域で、新しい再エネの計画が持ち上がったら、
「誰が得をするのか」より先に、「どうすれば続けられるのか」を考えてみてください。
お金も責任も、きちんと循環する仕組みになっているか。
その視点さえ持てば、制度の複雑さに振り回されることは少なくなります。
再エネの課題は、電気の問題ではなく、人の関係の問題でした。
制度を動かすのは国でも企業でもなく、理解しようとする一人ひとりの意志です。
「環境にやさしい」は、やがて「人にやさしい」に重なっていく。
その転換点に、いま私たちは立っているのだと思います。
編集後記
メガソーラーという言葉を、最初に聞いたときは少し未来的な響きがありました。
けれど、実際に目で見ると、光よりも影の方が印象に残る場所もありました。
山の斜面に並ぶ黒いパネル。
その下には、誰かが儲かっていることや、環境への不安が積もっていました。
再エネは本来、敵でも味方でもない。
使い方を間違えなければ、地域を支える力になる。
けれど、その「間違えない」という部分にこそ、人の理解と対話が必要なのだと思います。
私はもともとデザインの仕事をしていて、社会の“見え方”を作る側にいました。
今はライターとして、“見えにくい構造”を言葉に置き換える仕事をしています。
数字や制度の裏にあるのは、いつも人の生活や気持ちです。
そのつながりを少しでも見えるようにすることが、この連載の目的でもあります。
再エネは、環境の話に見えて、実は暮らしの話です。
この文章が、あなたの地域や日々の選択を見直すきっかけになればうれしいです。
編集方針
・メガソーラーの「環境にいい」という通念を再定義
・再エネ事業の構造と利益の偏りを明確に
・制度・経済・地域の関係性を可視化することを目的とする
・数字と現場の両面から“実務的な理解”を重視
・筆者自身の経験と調査をもとに、信頼できる一次情報を提示
・読者が「再エネをどう受け止め、どう選ぶか」を考えられる視点を提示
・情報を一方的に断じるのではなく、構造的に理解する文化を促進
参照・参考サイト
エネ特(エネルギー対策特別会計)とは
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/about/
令和6年度(2024年度)エネルギー対策特別会計補正予算 補助金・委託費等事業(事業概要)
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/energy-taisakutokubetsu-kaikeir02/2024hosei_00001.html
太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分に関する調査資料
https://www.env.go.jp/content/900523828.pdf
エネルギー対策特別会計 (令和5年度予算)
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/special_account/fy2023/2023-kakuron-6.pdf
太陽光発電設備の廃棄・リサイクルをめぐる状況及び論点(経産省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/resource_circulation/solar_power_generation/pdf/001_03_00.pdf
使用済太陽電池モジュールの適正処理・リサイクル Q&A
https://www.jpea.gr.jp/wp-content/themes/jpea/pdf/handout_qa.pdf
太陽光発電設備の3R推進について|東京都環境局
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/resource/recycle/solarpower




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