病院はどうやって稼いでるの?
家計簿で医療費を見直したとき、ふとそんな疑問が浮かぶことがあります。最近は「経営が厳しい」と耳にすることも増え、街を歩けば閉院した病院の跡地がそのまま残っていることもありました。医療は身近なのに、そのお金の流れは思っている以上に複雑です。
外来・入院・在宅。見た目はどれも“医療”ですが、収益のつくり方は驚くほど異なっています。医療の世界では、保険診療に関しては「自由に値段をつけられない」という前提があり、診療報酬という制度の枠の中で動いています。そこに人口構造や法律といった外側の要因が重なり、丁寧な医療を続けていても、制度が少し変わるだけで急に赤字になることさえあります。
この記事では、病院の収益が「制度 × 現場 × 外部環境」でどう決まっているのかを、できるだけやさしく、そして構造として解きほぐします。数字や制度が苦手な人でも読み進められるよう、生活に近い例を交えながら整理しました。外来・入院・在宅の“儲け方”の違い、赤字になる理由、そしてこれから病院がどこへ向かうのかまでを、一つの線でつないでいます。
読み終える頃には、病院の黒字化が経営者の力量ではなく制度の仕組みによって左右されてきたことが、自然と理解できているはずです。そのうえで、病院がどこまで動けるのか、どんな戦略なら現実的なのか――そんな視点も紹介していきます。
【1】病院って、そもそもどうやってお金を稼いでいるの?

病院と聞くと、診察や検査、手術のような医療行為そのものが思い浮かびます。けれど経営の視点に立つと、これらは収益の入口にすぎません。病院は値段を自由につけられず、国の制度に沿って収入が決まっている。外来も入院も在宅も同じ医療に見えるのに、稼ぎ方の仕組みがまったく違っています。
まずは、病院がどこで収益を得ているのか。そして、なぜ一般企業とは異なる構造になるのかを整理していきます。制度をひとつ知るだけで、病院はなぜ儲けにくいのかが少し見えやすくなります。
1-1. 病院の9割以上の収入源は「診療報酬」ってほんと?
病院の収入の多くは、患者が窓口で払うお金ではありません。患者負担は最大で3割程度で、残りは公的医療保険から支払われています。これが診療報酬で、国が定めた点数表に沿って計算される仕組みです。
つまり、同じ医療を提供しても単価はほぼ固定になります。
一般企業のように値上げができないため、病院はどうしても量で稼ぐ構造になりやすい。丁寧な医療を続けていても、単価が自動的に上がることはありません。
1-2. 外来・入院・在宅で“儲け方”がまったく違う理由
外来、入院、在宅――医療の提供スタイルが変われば、収益の仕組みも別のかたちになります。
外来は患者数がそのまま収入に響くため、比較的わかりやすい収益モデルです。診療の回転がよければ、その分だけ収益が積み上がります。
反対に入院は、医師や看護師を一定数確保する必要があり、固定費が重くのしかかります。収入と支出の動きが噛み合いづらい部分が多く、慎重な運営が欠かせません。
在宅医療はさらに特徴的で、移動やスタッフの時間が必要なため、1件あたりの効率が外来とはまったく違っていました。
その結果、外来は黒字でも入院は赤字という病院も珍しくありません。
医療機能ごとに収益のクセが違うので、全体の収益を一枚の表だけで判断すると実態を見誤りやすくなります。
1-3. 赤字になるのは経営が下手だから? いいえ、制度の問題です
赤字病院のニュースを見ると、「経営努力が足りないのでは」と思われがちです。
ただ、現場に近いところで制度を見ていると、むしろ逆のことが多いと感じます。
診療報酬は簡単に上がらず、人件費や設備投資は上がりやすい。地域によっては人口減少で患者数が減る。
こうした外部要因が重なると、経営者の努力だけではどうにもならない場面が増えていきます。
だからこそ、病院の赤字は“個人の努力不足”ではなく、制度がつくる構造の問題として理解する必要があります。制度のクセを知ることが、病院経営を考える入り口になっていました。
【2】黒字になりにくいのは、収入と支出のズレにある

病院が黒字になりにくい理由は、経営が下手だからではありません。収入と支出のしくみが根本からかみ合っていないためです。
収入は診療報酬という固定された単価で決まり、病院が自由に値段を変えることはできません。
一方で、支出には人件費や医療機器の維持費など、調整しづらい要素が多く含まれていました。
さらに、患者数は季節や地域の人口動態に左右されるため、収入の予測がむずかしい。支出は簡単に減らせない。
このズレが積み重なることで、病院経営は赤字へと傾きやすくなります。ここでは、そのズレの正体を制度と現場の両面から整理していきます。
2-1. なぜ入院は赤字になりやすい? DPC制度のクセ
入院医療の収益は、DPCという包括払い制度で決まっています。
DPCとは「病名や重症度によって、一日あたりの収入があらかじめ決まる」仕組みです。提供した医療の量と収入が必ずしも連動しないのが特徴になります。
たとえば容体が急に悪化して検査や処置が増えても、収入は基本的に変わりません。
病棟を動かすには医師や看護師を確保する必要があり、コストは下がらない。
その結果、収入は一定なのに負担だけ増えるという状況が起こり、入院部門は赤字になりやすくなっていました。
2-2. 医師も看護師も減らせない――人件費という固定負担
病院の支出の大きな部分を占めるのが人件費です。医師、看護師、薬剤師、検査技師、事務職。医療は人の力で成り立っています。
ただ、患者数が減ったからといって、自由に人員を削ることはできません。
たとえば「病棟の夜勤体制」や「看護配置基準」といったルールがあり、患者の安全を守るための最低人数が決まっています。
需要に合わせて人を増減させることがむずかしく、人件費は重い固定費として経営にのしかかる状態が続きます。
2-3. CTや手術室などの高額設備がコスト地雷になる
病院には高額な設備が多くあります。CTやMRIのような医療機器、手術室や救急室の設備も例外ではありません。
導入時に補助金が出ることはありますが、維持や更新には大きな費用が必要でした。
さらに、地域の人口が減れば設備の稼働率が落ち、回収が難しくなります。
医療機器は簡単に減らせないため、収益とのバランスが崩れた瞬間に赤字の原因になることがありました。
2-4. 「患者が減ると即赤字」に陥る構造的な理由
病院の固定費は重く、収入は診療報酬で固定されている。
そのため、患者数が少し減るだけで収益は大きく落ち込みます。
一般企業なら値上げや商品ラインの変更で調整できますが、病院はその手段を持ちません。
人口減少、季節変動、地域の競争状況、感染症の流行。
これらが重なると、病院は一気に赤字へと傾きます。
これは経営者の力量というより、制度と人口に依存するビジネスモデルが生み出す必然に近いと感じます。
【3】病院の経営は、外からの風向きに左右されている

病院の経営は、院内の工夫だけで安定するものではありません。診療報酬の改定や人口減少、高齢化、法律の変更、医療DXの流れ。こうした外側の動きが、病院の収入と支出を大きく揺らしていました。
どれだけ内部の改善を積み重ねても、制度改定があるだけで数字が急に変わることがあります。地域の人口が減れば、患者の流れが細くなる。
病院が努力ではどうにもならない部分を抱えているのは、この外部環境の影響が大きいからです。
ここでは、外側からの影響をPESTLEという枠組みで整理し、病院がどこに振り回されやすいのかを見える化していきます。
3-1. PESTLEで外部環境を見える化
病院に影響する外部環境は、政治・経済・社会・技術・法律・環境の6つに整理できます。
PESTLEを使うと、病院が“自力で変えられない部分”がどこにあるのかが把握しやすくなります。
以下は、病院経営に影響する外部要因を整理した表です。
病院経営に影響する外部環境(PESTLE)
| 要素(PESTLE) | 病院への影響 |
|---|---|
| 政治(Policy) | 診療報酬改定、税制、補助金、医療提供体制の方針が収益に直結する |
| 経済(Economy) | 景気変動、医療費抑制の圧力、人件費の上昇などが支出を押し上げる |
| 社会(Society) | 高齢化、人口減少、患者ニーズの変化が“儲け方”に影響する |
| 技術(Technology) | 医療DX、AI、電子カルテ更新が必須化し、投資負担が増える |
| 法律(Legal) | 配置基準、労働規制、安全基準が固定費を大きくする |
| 環境(Environment) | 地域差、災害、感染症流行が患者数と支出に影響する |
こうして並べると、病院の経営が外側からの動きにいかに左右されているかがよくわかります。
3-2. 診療報酬改定が1回あるだけで黒字病院が赤字に
診療報酬は病院収益の大部分を占めています。
その点数が2年に1度見直されるため、この改定は経営にとって大きな分岐点になります。
急性期入院の点数がわずかに下がるだけで、病棟全体の収益が一気に落ち込むことがあります。
どれだけ丁寧に医療を提供していても、制度が変わるだけで黒字から赤字へ転じることがありました。
私も製薬会社や医療機器メーカーのサイト改善に携わっていたとき、診療報酬の解説セミナーに申し込みが殺到した経験があります。医療関係者にとって、診療報酬改定がどれだけ大きな出来事なのかを実感した場面でした。
制度変更は努力ではどうにもならないため、病院にとって“もっとも影響の大きい外部要因”になっています。
3-3. 高齢化と人口減少でもうけ方そのものが揺らぐ
地方では特に、人口減少の影響が直撃しています。患者数が減れば収益も減る。どれだけ医療の質を保っても、地域に人がいなければ病院は回りにくくなる。
さらに高齢化が進むと、急性期医療より慢性期・回復期のニーズが増えるため、急性期中心の病院ほど収益構造が合わなくなるケースが出てきました。
病院の経営は、地域の人口構造そのものに強く影響される仕組みだと実感する場面が多いです。
3-4. 医療DXは選択ではなく必須になった
電子カルテ、オンライン予約、AI画像診断など、医療DXが進むと業務効率が一気に上がります。
ただ、導入にはまとまった初期投資と運用コストが必要でした。資金力に余裕のない病院ほどDXが遅れ、遅れがさらに非効率を生み、経営を圧迫する。
今ではDXは便利ではなく、やらないと持続できない領域に近づいています。
3-5. 法律や配置基準が“自由な経営”を封じている
病院には法律と配置基準による制約が多くあります。
看護師の人数、夜勤体制、救急の受け入れなど、安全のためのルールが細かく決められているからです。
ただ、この基準が人件費の固定化につながり、経営の柔軟性を小さくしているのも事実です。
一般企業のように営業時間を変えたり、人員を調整したりといった動きが難しい。
制度そのものが、病院の“動ける範囲”を決めてしまうところがあります。
【4】病院の中の構造が、思い切った改革を難しくする

病院が動きづらい理由は、外側の制度や人口だけではありません。
院内の組織の仕組みや文化、システムの作り方にも“変わりにくさ”が深く入り込んでいました。医療は安全が前提になるため、現場が急に変わることはほとんどありません。良い意味でも悪い意味でも、慎重さが積み上がっていきます。
ここでは、病院内部の構造を7つの視点で整理することで、どこに壁が潜んでいるのかをつかみやすくしていきます。
4-1. 7Sで病院組織を見える化
7Sは、組織を「戦略・組織・仕組み・人材・スキル・価値観・文化」という7つの要素で見える化するフレームです。
病院の内部構造がどう経営改善を難しくしているのかを理解する助けになります。
病院内部の構造(7S)
| 要素(7S) | 病院の特徴(要点) |
|---|---|
| 戦略(Strategy) | 地域医療や安全を優先し、収益戦略の自由度が小さい |
| 組織(Structure) | 診療科の縦割りが強く、横の連携が動きづらい |
| 仕組み(Systems) | 電子カルテや検査の連携が複雑で、変更の影響範囲が広い |
| 人材(Staff) | 専門職に依存し、採用も配置も常にギリギリ |
| スキル(Skills) | 医療技術は高いが、改善やマネジメントのスキルが定着しづらい |
| 価値観(Values) | 患者第一が強く、効率やコスト改善と衝突しがち |
| 文化(Culture) | 安全最優先で変化に慎重。改革がゆっくり進む |
こうして並べて見てみると、「病院はなぜ改善しづらいのか」が少し立体的に見えてきます。
4-2. 医師や看護師の専門職文化が変化を拒む
医師や看護師は高度な技術と責任を担い、日々の判断が患者の安全に直結しています。
そのため、一度身についた手順や慣れた仕事の流れを大きく変えることに慎重になりやすい。安全を守るための姿勢なので、当然と言えば当然です。
ただ、この専門職文化が改革のスピードをゆっくりにしてしまうことがあります。
「リスクが見えない変更」を避ける空気が強く、改善は“少しずつ積み上げるもの”になりやすいのです。
4-3. システムと現場フローが「できる改革」を制限する
病院の業務は、電子カルテ、検査機器、会計、予約など多くの仕組みが複雑につながっています。
どこか一か所を良くしようとすると、別の部署で負担が増えることがある。
たとえば、外来の入力を簡単にすると、病棟のチェックの手間が増える。
検査の流れを変えると、会計の処理が滞る。
こうした“システム同士の綱引き”が起こり、現場では理想の改善がそのまま採用できないことが多いです。
だからこそ、病院の改革は「何を変えるか」より「どこが連動するか」を考える必要がありました。
4-4. 「患者第一」は正しい。でもコストとのせめぎ合いが続く
病院は患者の安全や満足を第一に考えています。
ただ、その姿勢が人員増や設備投資につながり、結果として固定費を押し上げることがある。
「もう少し余裕を持って対応したい」
「待ち時間を減らしたい」
「より正確な設備を入れたい」
こうした現場の願いは正しいものですが、それがそのまま経営に跳ね返ります。
良い医療と持続可能な経営。その両方をどう両立するかは、病院がいつも抱えている課題でした。
【5】病院は自由競争していない。その代わり制度に縛られている

病院は一般のサービス業とは違い、価格を自由に設定できません。
診療報酬という国のルールの中で動き、参入や退出にも高いハードルがある。
こうした特殊な環境の中で“競争”が起きているため、他の産業と同じようなビジネス分析がそのまま当てはまらないことがあります。
そこでここでは、病院の置かれている状況を「5Forces」というフレームで整理し、どこが一般産業と違うのかを見ていきます。
5-1. 5Forcesで医療産業の特性を見える化
5Forcesは、業界の競争構造を「既存の競争・新規参入・代替品・買い手・売り手」の5つで整理する方法です。
医療に当てはめると、病院がいかに“制約の多い市場”で動いているかがわかります。
医療産業の競争構造(5Forces)
| 要素(5Forces) | 病院の特徴(要点) |
|---|---|
| 既存企業間の競争 | 価格競争がないため、激しいシェア争いになりにくい |
| 新規参入の脅威 | 設備・人材・許認可のハードルが高く、参入がほぼ不可能 |
| 代替品の脅威 | 医療は代わりが少なく、患者が選択しにくい |
| 買い手(患者)の交渉力 | 価格は国が決めるため、患者が値段で病院を動かせない |
| 売り手(医療従事者)の交渉力 | 専門職不足が続き、医師・看護師の確保が経営の肝になる |
この表を見ると、医療産業が“競争よりも制度に強く縛られる市場”だとわかります。
5-2. 病院の敵は隣の病院ではなく「制度」と「人手不足」
外来も入院も価格は国が決めています。
そのため、病院同士の競争は一般の市場のように激しくはなりにくい。
むしろ病院が直面する“本当の敵”は、制度の変更と人手不足でした。
診療報酬が下がれば、どの病院も同じだけ収入が減る。
医師や看護師が確保できなければ、病床を動かせなくなる。
こうした外部の変化が、病院の経営を揺らし続けていました。
競争相手は隣の病院ではなく、制度のうねりと専門職の不足だと言っても大げさではありません。
5-3. 値下げしない・できない・しなくても選ばれる理由
病院は値下げをしません。
というより、値下げできない仕組みになっています。
診療報酬が国で決められているため、自由に価格をつけられる領域がほとんどないのです。
その結果、患者は価格ではなく、
場所、評判、専門性、紹介ルート
といった別の基準で病院を選びます。
この“価格以外の軸”で選ばれる構造が、医療産業を他の市場とはまったく違う形にしています。病院は価格ではなく、機能や信頼で勝負する産業になっていました。
5-4. 新規参入の少なさが“業界の硬直性”を生んでいる
新しく病院を作るには、
許認可、設備、人材、地域医療計画との整合性など、同時にいくつものハードルを超えなければなりません。
莫大な投資と専門職の確保が必要で、実際には参入がほぼ不可能な領域です。
そのため、市場には新しいプレイヤーがほとんど入ってこない。
既存の病院同士が横並びになりやすく、改革競争が生まれにくい。
医療産業に漂う“硬直性”は、この参入障壁の高さが背景にありました。
【6】それでも病院には選べる戦略が残されている

病院は価格を自由に変えられず、制度や人口動態にも左右されます。
だからといって、まったく動けないわけではありません。
診療報酬の枠内であっても、病院が主体的に調整できる領域はいくつかあり、その組み合わせによって収益が大きく変わっていきます。
ここでは、病院が現実的に動かせる範囲を「4P」という基本フレームで整理しながら、どんな戦略が可能なのかを見ていきます。
6-1. 4Pで病院が動かせる領域を見える化
4Pは本来マーケティングの枠組みですが、病院の戦略整理にも使えます。
価格は動かせなくても、他の要素には調整の余地が残っています。
病院が動かせる戦略要素(4P)
| 要素(4P) | 病院が動かせるポイント |
|---|---|
| Product(提供機能) | 急性期・回復期・在宅など、どの医療機能に注力するかを決められる |
| Price(価格) | 診療報酬で固定。自由度はほぼゼロ |
| Place(提供体制) | 地域連携、紹介ルート、外来体制、在宅支援などは病院ごとに最適化できる |
| Promotion(情報発信) | 専門外来や診療時間など、選ばれる理由を伝える工夫が可能 |
表を見ると、動かせるのは“価格以外の3つということがはっきりします。
6-2. 急性期・回復期・在宅――どこに注力するかで利益が変わる
病院は万能ではありません。
どの機能を強みにするかで、収益の形は大きく変わります。
急性期を強化すれば、医師や看護師の人件費と高額設備の維持が重くなる。
回復期を伸ばせば、病床回転率がカギになる。
在宅を伸ばすなら、外来との連携が欠かせない。
どの機能にも“儲け方のクセ”があり、何を伸ばすかで収益構造の性質がまったく変わるのです。
特にいまの日本では、地域医療計画と照らし合わせながら自院の役割を明確にすることが求められています。
6-3. 自由に価格を決められない病院が勝負できるのは“量と機能”
病院は値段を変えられない以上、勝負できるのは大きく2つです。
・どれだけ効率よく診療できるか(量)
・どの機能に強みを作るか(機能)
量とは、患者数そのものだけでなく、
外来動線の見直し、業務の標準化、DX化による“診療の回転効率”も含みます。
機能とは、急性期・回復期・在宅といった医療機能で「なぜ選ばれるのか」を明確にすること。
病院が取りうる現実的な戦略は、この2つの掛け合わせに集約されていました。
6-4. 紹介ルートと地域連携が“安定経営”の生命線になる
病院の患者は、広告ではなく“流れ”で生まれます。
特に急性期と回復期を持つ病院では、紹介ルートの安定が経営を大きく左右します。
紹介ルートが安定すれば、
病床が急に空いたり、外来が不自然に落ちたりしない。
逆に紹介が弱いと、医療の質が高くても患者が途切れてしまう。
地域包括ケア、ケアマネ、在宅クリニック、近隣病院。
複数の流れを結び直せる病院ほど、外部環境の変化に強くなります。
病院経営の世界では、集客ではなくつながりが安定の鍵になると言っていいと思います。
【7】黒字病院と赤字病院を分けるのは内部の最適化

病院は価格を自由に変えられず、外側の環境にも強く左右されます。
だからこそ、経営を支えるのは“中の整え方”でした。
同じ制度の中で、同じ人口減少にさらされていても、黒字の病院と赤字の病院が分かれる。その違いは、内部の仕組みがどれだけ最適化されているかにあります。
ここでは、内部の強さを決める要素をCSFという枠組みで整理し、病院が持つべき基盤を確認していきます。
7-1. CSFで「内部の整え方」を見える化
CSFは、成果を左右する“欠かせない条件”を整理するフレームです。
病院の内部効率に直結する要素を並べてみると、どこが弱点になりやすいかが見えてきます。
病院の内部最適化に必要な要素(CSF)
| 要素(CSF) | 内部最適化につながるポイント |
|---|---|
| 人材(Human) | 医師・看護師の離職が少なく、チームが安定している |
| 病床運用(Bed) | 稼働率・回転率が高く、ムダな空床が出にくい |
| 診療プロセス(Process) | 動線・記録・手順が整い、診療量が落ちない |
| 経営管理(Management) | 原価・収益の見える化と意思決定の速さ |
| 連携(Linkage) | 院内外の情報が途切れず、患者の流れが安定する |
| 投資(Investment) | 設備やDX投資の計画性があり、負担が偏らない |
病院の競争力は、外側ではなくまず“内側の強さ”で決まるというのが、この表を見るとよくわかります。
7-2. 働きやすさと人材の安定が、内部最適化の一丁目一番地
黒字病院に共通していたのは、現場が落ち着いていることでした。
人が辞めない。欠員が出ない。急な人件費の膨張が起きにくい。
この“人材の安定”が、外来の診療量や病床の回転率を下支えしていきます。
働きやすさは単なる福利厚生ではなく、経営の基盤そのものです。
現場が整えば、診療の処理能力が自然と上がる。
入院も外来も乱れずに回っていきます。
7-3. 病床数ではなく「病床の回し方」が内部効率を決める
病床は病院の主要資産であり、もっとも重い固定費でもあります。
黒字の病院は病床を持つことより、どう回すかを重視していました。
たとえば
・平均在院日数が短い
・稼働率が安定して高い
・急性期や回復期など、役割に合った患者が入っている
この3つがそろうだけで、同じ病床数でも収益は大きく変わります。
内部の流れを最適化すると、外部環境の揺れにも耐えやすくなる。
病床という資産の“回し方”が、病院経営にとって非常に大きな意味を持っていました。
7-4. 業務DXは内部効率を底上げする再設計になる
医療の現場は、人手不足と高齢化が同時に進行しています。
そのため、業務効率を上げるDXは、もはや選択ではなく必須に近いものになりました。
黒字病院は、DXを単なる便利ツールとしてではなく
診療量を落とさずに現場の負担を軽くする仕組みとして取り入れています。
記録の自動化、搬送や見守りの機械化、外来動線の分析など、さまざまな改善が内部の処理能力を底上げしていく。
限界に近い現場の体力を取り戻すための“再設計”としてDXを使っているのが特徴でした。
【8】地域と患者を理解することが、病院経営の仕組み改善の第一歩になる

内部の仕組みを整えるだけでは、病院の収益が安定するとは限りません。
地域の人口構造や患者の行動がどう変わっているのかを理解していないと、努力の方向がずれてしまうからです。あなたも、自分が通う病院を選ぶとき、距離だけで決めたわけではない経験があるかもしれません。
病院が“どの機能を強化すべきか”を見極めるには、まず地域と患者の姿をとらえることが欠かせません。ここでは、その外部理解を「顧客特性分析」という形で整理していきます。
8-1. 顧客特性分析で「地域×患者」の姿をつかむ
顧客特性分析とは、地域に暮らす人々の特徴を医療提供の視点から整理する方法です。
来ている患者だけを見ると、病院の判断はどうしても偏りが出てしまいます。
来ていない人や他院へ流れている人まで含めて見ることで、病院が強化すべき領域が少しずつ見えてきます。
地域・患者を理解するための顧客特性(Hospital Customer Profile)
| 要素(顧客特性) | 地域・患者の動きを読むポイント |
|---|---|
| 年齢構成 | 高齢化率、子どもの数、働き盛り世代の流出入 |
| 受診行動 | 外来が集中する時間や曜日、紹介の有無、診療科の偏り |
| 医療ニーズ | 急性期ニーズか、慢性期・回復期ニーズかの読み分け |
| 行動圏(生活圏) | 行動範囲の広さ、車移動の比率、駅前・郊外での流れ |
| 流入・流出 | どこから来て、どこに流れているか |
| 病院選択理由 | 距離、評判、待ち時間、紹介元、専門性など |
| 疾患傾向 | 地域に多い疾患、季節変動、慢性疾患の割合 |
| 在宅・生活支援ニーズ | 入退院支援、訪問診療、訪問看護、家族サポートの需要 |
この表を見るだけでも、病院が誰のために、何を優先するべきかを判断しやすくなります。
8-2. 患者は「近い病院」より「評判と体験」で選ぶようになっている
病院の選ばれ方は、静かに変わっています。
昔は近さが大きな理由になっていましたが、いまはそれだけではありません。
丁寧な説明、口コミ、紹介元の信頼度。
SNSでの評判や、家族の経験談が判断材料になることも多い。
実際、立地に恵まれていない病院でも、外来対応の改善や説明の工夫で患者が戻ってくる例はよくあります。
患者は「距離」ではなく、体験の質で病院を選ぶようになっていました。
8-3. 高齢化地域では、病院に求められる機能が大きく変わる
高齢化が進む地域では、急性期のニーズが相対的に減り、慢性期・回復期・在宅医療の重要度が高まります。
急性期中心の病院ほど、患者構成の変化と収益のズレを抱えやすい。
病院がどの役割を担うかを見直すタイミングは、地域の年齢構成や疾患構造の変化に強く影響されます。
地域ニーズの転換を読み取れる病院ほど、戦略の精度が高まりやすいのです。
【9】2025年問題とその先――病院の未来はどこへ向かうのか

内部を整え、地域と患者の姿をつかんだとしても、病院の前には “変えようのない未来条件” が立ちはだかっています。
人口構造の変化、医療需要の増加、働き手の減少、病床再編、DXの進展。こうした流れは、病院の努力とは関係なく進んでいきました。
2025年を境に、医療の負荷は一段と大きくなります。
団塊の世代が後期高齢者に入り、支える側の働き手が減っていく。
病院はこの矛盾と向き合いながら、持続できる形を探す必要があります。
ここでは、これから避けて通れない変化を整理し、病院がどんな未来に向かうのかを考えていきます。
9-1. 医療需要は増えるのに人手は減るという矛盾が続く
2025年以降、医療・介護の需要は長期的に増えていきます。
急変するというより、じわじわと押し寄せる波のように増え続けるイメージです。
ただし、その一方で医師・看護師・事務職といった働き手の数は減っていきます。
現場ではすでにその兆しが見えていて、診療量を維持するには効率化が欠かせない状況になっていました。
内部の最適化だけでは追いつかず、仕組みで負荷を吸収する時代 に入っていると感じます。
こうした外部条件は、単なる背景ではなく未来を決める土台になります。
9-2. 病床再編が進み、病院は役割をはっきり示す時代になる
人口の変化に合わせて、病床の再編と機能分化が加速しています。
これは病院同士の競争ではなく、地域全体の医療体制を守るための動きです。
病院は、次のどれを軸にするのかを明確にする必要があります。
・急性期を担うのか
・回復期・慢性期を強みにするのか
・在宅医療と一体で運営するのか
・地域連携の“ハブ”になるのか
役割が曖昧な病院ほど、患者の流れが不安定になり、収益が揺らぎやすくなる傾向があります。
反対に、役割がはっきりしている病院は、内部最適化と外部理解が結びつき、経営のリズムが整っていきます。
9-3. 遠隔診療・AI・DXが“病院経営の稼ぎ方”を塗り替える
病院は価格を変えられない産業です。
そのためDXは、単なる効率化の道具ではなく、新しい稼ぎ方に直結していきます。
遠隔診療、AI画像診断、外来動線の自動化、病棟データの可視化。
こうした技術は、現場の負荷を軽くするだけでなく、
・待ち時間を減らす
・紹介ルートを安定させる
・病床の稼働を高める
など、収益構造の改善にもつながります。
働き手が減っていく未来では、DXは病院経営の補助ではなく、経営戦略そのもの になっていきます。
【10】結論:病院の儲けは努力ではなく“制度と人口”が決めてしまう
病院の経営は、一般のビジネスとは形がまったく違います。
値段を自由に変えられず、地域の人口構造に寄り添いながら運営していく制度産業に近い立ち位置でした。
そのため、黒字と赤字を分ける最大の要因は、個々の経営者の腕前というより
制度の設計と人口の変化 です。
外来・入院・在宅では収益のつくり方が異なり、人件費と設備費の固定化が重くのしかかり、患者数が減ればすぐに赤字へ傾く。
努力でどうにかできる範囲より、構造の影響のほうがずっと強かったということです。
ただ、仕組みで決まる産業であっても、病院ができることは残っています。
内部の最適化で現場の処理能力を守り、外部理解で地域と患者の流れをつかむ。
そのうえで、地域連携や在宅との一体運用、DXによる業務再設計を積み上げていく。
病院の儲け方を知ることは、医療の持続可能性を考えることにもつながります。
制度と人口が変わるなかで、現場が働きやすく、患者が安心できる医療をどう守るのか。
その問いに向き合う姿勢こそ、これからの病院経営のスタート地点になると感じています。
編集後記
医療の仕事に関わり続けるなかで、ずっと胸のどこかに引っかかっていたものがあります。
病院の経営は、努力だけではどうにもならない構造の壁に囲まれているということです。
製薬会社や医療機器メーカーのサイト改善に携わっていた頃、診療報酬の解説セミナーに申し込みが殺到したことがありました。制度ひとつで現場の空気が変わるのを目の当たりにし、「これは経営者だけの努力の話ではないな」と感じたのを覚えています。
この記事は、その違和感を少しでも言葉に残そうとして書いたものです。
複雑な仕組みをひとつずつほどいていくと、医療を見る目が少し柔らかくなる瞬間があります。
医療を支えているのは制度でも設備でもなく、人の手と判断でした。
その人たちが働きやすい未来に、少しでも近づけばいいなと思いながら書いていました。
編集方針
・病院経営を努力ではなく構造で理解する対象として再定義
・制度・人口・現場の三層が収益を左右する仕組みであることを明確に
・読者が病院の収益構造を実務的に理解できる状態を目的。
・制度の制約と現場の経験に基づく本質的な視点を重視
・誤解されやすい病院経営の実態を信頼性のある形で提示
参照・参考サイト
中医協(中央社会保険医療協議会)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html
令和6年度 診療報酬改定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
医療経済実態調査(医療版ナショナルデータベース)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryoukikan.html
DPC/PDPS(入院医療等の調査・評価分科会)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128166-2.html
令和6年(2024)年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/index.html
令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/
人口動態調査(e-Stat)
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001028897
医療施設調査(基幹統計)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1b.html
地域包括ケアシステム(厚労省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-4.pdf
医療DX(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html


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