中国の渡航規制で日本にはどれほどの影響があるのか──観光消費とGDPの意外な真実

column_economy_travel_中国の渡航規制 経済

中国がここ最近、相次いで渡航規制を強めています。
ニュースが流れるたびに、「このまま日本の観光はどうなるのか」と不安を覚えた人もいるでしょう。

ただ、報じられている今までの消費額の大きさには、日本に実際に残る経済価値と混ざって語られている部分が多く、状況が正しく見えにくくなっていました。規制が強まれば影響は出てきますが、数字を分解していくと、受ける印象は大きく変わってきます。

この記事では、今回の渡航規制が日本経済にどこまで影響するのかをわかりやすく解説します。
まずは、ニュースの表面的な金額よりも、国内に実際どれだけ残るのかという視点を見ていきましょう。

【1】なぜ「数十兆円の損失」という言葉が広がるのか

column_economy_travel【1】数十兆円の損失

中国の渡航規制が続くなか、ニュースやSNSでは大きな金額が一人歩きしやすくなっています。とくに観光関連では、旅行者が支払った総額がそのまま日本の損失として語られることが多く、数字が実態よりも大きく見えてしまう。ここでは、なぜそんな誤解が起きやすいのかを最初に整理します。最初に土台をはっきりさせておくと、次に出てくる数字の読み方がずっとわかりやすくなります。

1-1. 観光消費額をそのまま経済損失と見てしまう理由

旅行者の支払いには、いろいろな取り分が混ざっています。航空会社の収益もあれば、海外OTA(オンライン旅行代理店)の手数料、海外決済アプリの取り分も含まれる。それでも、ニュースでは支払総額だけが切り取られやすく、日本の利益も同じだけ減るように見えてしまう。

本来は、消費額と国内に残る価値を分けて見る必要があります。棚に並んでいる商品を値札だけで判断してしまうのと似ていて、内訳を見ないと本当の利益はわからないままです。

1-2. 大きな数字が不安を増幅させる背景

兆円単位の数字は、それだけで強い印象を持ちます。SNSのタイムラインに並ぶだけで、大きなことが起きているように感じる。読む側は数字が大きいほど因果が単純に見えてしまいがちで、観光客が減ると同じだけ日本が損するように思えてしまう。

発信する側にも理由があります。刺激の強い金額の方が注目されやすく、詳細な内訳よりも総額だけが拡散されることが多い。数字の背景がそぎ落とされて広がるため、実態とのずれが生まれやすくなるんです。

1-3. 日本に残る付加価値で見るための視点

日本経済に影響するのは、旅行者の支払総額ではなく、国内で生まれた価値です。同じ金額でも、国内の宿泊事業者に落ちる支払いと、海外の予約サイトに落ちる支払いでは、残る割合が大きく違ってきます。

だからこそ、まずは総額よりも国内に残る部分に視点を置くことが大事になります。数字の背景にある内訳を一度分けて考えるだけで、見えてくる景色が変わっていきます。

【2】訪日中国人の消費額は大きいが、日本に残る取り分は別の話になる

column_economy_travel【2】訪日中国人の消費額

中国人観光客の支出は、国籍別で見ても確かに大きな割合を占めています。ただ、その金額をそのまま日本の利益と読むと、実態を見誤ります。支払われたお金は費目ごとに流れ先が異なり、日本に残る割合は大きく変わるからです。

ここでは、観光庁のデータをもとに、支払総額と国内に残る価値にどれほど差があるのかを整理します。この違いを押さえておくと、ニュースの大きな数字をそのまま受け取らずに済むようになります。
次の章では、この費目ごとの違いがGDP寄与にどうつながるのかを示します。

2-1. 中国の旅行消費額は大きいが、数字の意味は整理が必要

まずは、国籍別の消費額を確認します。数字だけを見ると中国の比率が高く、存在感が際立ちます。ただし、この段階ではまだ流れ先が混ざっているため、日本の取り分までは読み取れません。

国籍別の旅行消費額

国・地域消費額(円)構成比補足
中国1兆7,265億21.2%買物比率が高め
台湾1兆897億13.4%宿泊・飲食が安定
韓国9,602億11.8%旅行回数が多い近距離
米国9,011億11.1%長期滞在で付加価値が高い
香港6,606億8.1%買物依存が比較的少ない
全体8兆1,257億

出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査 2024年 年間値」

数字としては大きいものの、ここから日本に残る価値を判断するには一段の分解が必要になります。

2-2. 費目によって日本に残る割合は大きく違う

旅行者が払った1万円でも、それが何に使われたかによって国内に残る割合は変わります。宿泊や飲食のように国内で完結する費目は残りやすいですが、航空券や海外OTAのように海外企業が中心になる費目は、日本の取り分が小さくなります。

費目別に見た国内に残りやすい・残りにくい構造

費目日本に残りやすい度合い国内に残る理由/残りにくい理由
宿泊高い運営・人件費・サービスが国内で完結
飲食高い店舗運営や仕入れが国内中心
娯楽・体験高い労働集約で付加価値が国内に生まれる
小売(買物)粗利は国内だが輸入品比率が高い
交通(国内)国内交通機関なら付加価値が残る
航空券(国際線)低い中国系航空会社の利用が多い
OTA予約(Trip.comなど)低い手数料が海外に計上
決済(Alipay / WeChat Pay)低い決済手数料が海外へ

出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査 2024年 費目別構成」

この構造がわかると、総額だけでは日本の経済効果は読み取れないことが見えてきたのではないでしょうか。

2-3. 買物中心から体験中心に移り、日本に残る比率が上がりつつある

かつて象徴的だった爆買いは、今では縮小傾向にあります。中国国内のECが成熟し、越境ECの普及で日本でまとめ買いする必要が薄れたからです。その分、体験や食事に比重が移ってきています。

体験型の支出は国内で付加価値が生まれやすく、日本に残る割合が高くなる傾向があります。消費額の構成が変わるだけで、国内に戻る取り分も変わっていきます。

2-4. 支出10万円を国内に残る額で分けると見え方が変わる

費目ごとに取り分が違うため、旅行支出全体のうち日本に残る額は想像よりも小さくなります。

旅行支出10万円とした場合の国内に残る額

費目支出例日本に残る割合国内に残る額(目安)
宿泊30,000円70〜80%21,000〜24,000円
飲食20,000円70〜80%14,000〜16,000円
小売25,000円20〜40%5,000〜10,000円
国内交通10,000円約60%6,000円
航空券(国際線)15,000円0〜10%0〜1,500円

出典:観光庁公開値をもとに著者作成

10万円使っても、国内に残るのは4〜5万円ほど。この差が、消費額と付加価値の間にある大きな溝です。

【3】航空・OTA・決済で日本に残らないお金が生まれる仕組み

column_economy_travel【3】航空・OTA・決済で日本に残らない

旅行者の支払いはひとつのまとまりに見えますが、実際には入口と出口でまとまった額が国外へ流れています。特に、航空、OTA、決済の三つは流出が大きくなりやすい領域です。

ここでは、どれくらいの金額が、どんな理由で日本に残らないのかを、具体的な数値を手がかりに整理します。

3-1. 航空会社の構造で航空券収入の大半が国外に落ちている

訪日客が最初に支払う航空券。この航空券は、支払額の中でも大きな割合を占める費目です。

問題は、日中路線の座席供給の6〜7割が中国系航空会社で占められていることです。
(国土交通省 国際線座席供給データより)

  • 中国国際航空
  • 中国東方航空
  • 中国南方航空

以上の三社だけで、大半の座席を提供しています。

航空券の収入は航空会社の本社に計上されます。
つまり、訪日客が支払う10万〜20万円のうち、航空券として支払われた分は、ほぼ海外に落ちているということになります。

日本に残るのは空港使用料などの一部だけ。
航空券が旅行支出の中で最も大きいのに、日本のGDPにはほとんど積み上がりません。

3-2. OTAの予約では、宿泊料金の10〜20%が手数料として海外へ

次に出てくるのが、宿泊や航空券の予約です。

中国人観光客は海外OTAの利用率が高く、特にTrip.comの利用が突出しています。
(Trip.com Group 決算資料・観光庁データより)

OTAの手数料は宿泊料金の10〜20%が一般的です。

例えば

  • 宿泊費:30,000円
    → OTA手数料:3,000〜6,000円
    → 日本側の受け取り:24,000〜27,000円

宿泊事業者の売上は、手数料を差し引いた額のみ。
OTA側の取り分は海外企業の収益として計上され、日本の付加価値には積み上がりません。

旅行支出が大きくても、国内に残る額が想像より少なくなる理由の一つです。

3-3. 決済手数料も海外に計上されやすい構造

買物や飲食の支払いで使われる、AlipayやWeChat Payなどの中国系決済。
決済のたびに発生する手数料は、店舗が負担します。

  • 決済手数料の多くが海外プラットフォームへ
  • 日本に残るのは売上本体のみ

たとえば

  • 20,000円の買物
    → 決済手数料 2〜3%(400〜600円)
    → その分は国内に残らない

単価は小さく見えますが、利用回数が多いため、積み上がると無視できない額になります。

3-4. 旅行の入口と出口に海外企業が並ぶと、国内に残る額は自然と小さくなる

航空、OTA、決済の三つは、旅行の最初と最後に位置します。

  • 出発前に航空券
  • 日本に来る途中と滞在中にOTA予約
  • 店舗での支払いのたびに決済手数料

この3つの旅行者が払う総額の中で大きな部分が、国内に入る前に海外企業に吸収されます。

たとえば

  • 旅行総支出が10万円
  • 航空券で2〜3万円が海外航空会社へ
  • OTA手数料で数千円が海外へ
  • 決済手数料でも数百円〜千円単位が海外へ

こうして国内に残る額は自然と減っています。

見た目の消費額が大きくても、GDPとして残る価値が小さくなる理由は、こうした流れの積み重ねにあります。

3-5. 国内宿泊でも例外的に海外へ流れるケースがある(民泊・簡易宿所など)

宿泊は国内で価値が生まれやすい領域ですが、すべてが同じ構造ではありません。都市部を中心に、中国資本や中国籍オーナーが運営する民泊やアパートメントホテルが一定数あります。こうした施設では、宿泊代の一部がオーナー利益として海外に送金されるため、付加価値の国内残存率は下がります。

といっても、観光庁の統計は宿泊の「運営主体の国籍」までは分かれていないため、全国の傾向としては「宿泊=国内に残りやすい」という構造のほうが依然として大きい位置づけになります。航空券やOTAのように明確な流出源とは違い、宿泊の例外は局地的で、全体を大きく変えるほどの規模ではありません。

【4】日本に実際に残るGDP寄与はどれくらいかを現実的に積み上げる

column_economy_travel【4】日本に実際に残るGDP寄与

3章までで、旅行支出のうち どこが国内に残り、どこが海外へ流れていくか を見てきました。
ここでは、その流れをいったん「GDP」という基準に置き直し、日本に最終的にどれだけ価値が積み上がるのかを確認します。

難しい数式ではなく、考え方がそのまま落ちるように組み立てています。

4-1. 消費額とGDPが一致しないのは流れない部分が大きいから

旅行者の支払総額には、国内で価値がまったく生まれない領域がまとまって含まれています。
3章で整理したように、

  • 海外航空会社の航空券
  • 海外OTAの手数料
  • 海外決済アプリの手数料
  • 輸入品を中心とした小売(粗利だけ国内)

こうした支払は、見た目の金額は大きくても GDPには積み上がりません。

GDPは「国内で生まれた付加価値」を数える指標なので、
支払総額のなかでも 宿泊・飲食・体験のような国内サービスだけが残る。

消費額とGDPが離れる最大の理由が、この流れない部分の大きさです。

4-2. 日本に残る取り分はおおむね6,000〜8,000億円の範囲に収まる

2024年の訪日中国人の総消費額は 1兆7,265億円 です。
ただし、これをそのままGDPと読むのは構造上無理があります。

観光庁の費目構成、産業連関表の付加価値率を重ね合わせると、
旅行消費が国内で生む付加価値は 総額の35〜45%が上限 に近いところで落ち着きます。

計算はとても簡単です。

1兆7,265億円 × 35〜45%
→ 約6,000〜8,000億円

兆円単位で見える消費額も、国内に残る価値はこの規模になります。
見かけの規模よりも、こちらが日本経済の実質的な取り分です。

4-3. 「数十兆円の損失」が成立しないのは構造が合わないから

ここまでを整理すると、数十兆円規模の損失が語られやすい理由も、成立しない理由も自然に見えてきます。

理由は三つだけです。

  1. 消費額とGDPが混同されている
  2. 航空・OTA・決済など、国内で価値が生まれない領域が大きい
  3. 国籍が分散し、特定の国が落ちても全体を押し下げにくい

どれも単体では小さな話に見えますが、重なると「総額と実態の差」が大きく広がります。
数字を“国内に残る価値”で読むだけで、極端な悲観が不要になる理由がここにあります。

【5】中国だけでは語れない。国籍シフトが全体を支えている

column_economy_travel【5】国籍シフト

中国からの渡航が揺れると、日本のインバウンドが弱くなったように感じるかもしれません。ただ、訪日客全体を見ると、実際の動きはそれほど急激な変化になるとはいえません。複数の国が役割を分担するように動いているため、一つの国が減っても全体が大きく崩れにくい構造ができているからです。

ここでは、その支え合いの構造を表で整理しながら、全体がどのように補完されているのかを見ていきます。

5-1. 中国は戻り切っていないが、訪日全体はほぼ2019年水準

観光庁の月次データを見ると、中国の回復率は依然として6〜7割程度にとどまっています。
一方で、訪日外客全体は2019年比でほぼ同水準に戻り、月によっては上回る場面もあります。

訪日外客数の動き(概況)

指標状況
中国の回復度コロナ前比で6〜7割前後
訪日外客全体2019年比でほぼ回復(超える月もあり)
差が生まれる理由他国の回復・増加が全体を支えている

中国の戻りが弱くても全体が崩れなかったのは、複数の国が補っていたからです。

5-2. 複数の国が違う特徴で全体を支えている

国籍ごとの役割は明確で、互いが異なる弱点を補うように動いています。
ひとつの国が落ちても、別の国が違う形で支えるため、全体の揺れ幅が小さくなります。

地域ごとの役割と特徴

国・地域特徴全体への貢献
韓国近距離で渡航コストが低い。回復が早い。短期・高頻度の訪日で母数を押し上げる
台湾リピーターが多く安定的年間を通じて安定した渡航数を支える
欧米(米・欧州)滞在が長く支出が高い単価の高さで付加価値を補う
東南アジア若年層の旅行需要が拡大数の増加で全体の底を厚くする
中国支出総額が大きい戻れば総額の押し上げ役になるが、戻らなくても全体は崩れにくい

複数地域が違う形で土台を支えているため、一国依存から自然に離れつつあります。

5-3. 国籍シフトは日本だけでなく観光立国で共通して起きる現象

国際旅行市場では、ここ数年アジアと欧米がそれぞれ伸び、訪問国が分散する傾向が続いています。
ひとつの国だけに依存してしまう構造は、どの国でもリスクが高いため、分散して支え合う状態はむしろ望ましい形です。

日本もこの動きの延長線にあり、国籍の分散は安定のサインとして読む方が近いといえます。

国籍分散のメリット(簡易表)

メリット内容
外部リスクの低減特定国の規制や情勢に振られにくい
需要の平準化季節・イベントごとの偏りが小さくなる
安定成長中長期で下振れしにくい市場構造になる

観光が本来もつ不安定さを抑える役割を果たしています。

5-4. 中国の回復に左右されにくい底の硬さができている

現在の訪日市場は、中国が戻るか戻らないかだけでは判断できない構造になりました。
韓国の高頻度、欧米の長期滞在、東南アジアの増加。それぞれが違う性質を持つため、全体が一気に崩れにくいのです。

観光庁の月次統計を見ても、コロナ期を除けば全体が急落したタイミングはほとんどありません。国籍の波が互いに打ち消し合い、緩やかに積み上がる状態が続いています。

中国の動きがゼロではないにせよ、
今の日本のインバウンドは、単一国に依存しない構造へとゆっくりと移っている状況と言えます。

【6】インバウンドの経済効果は総消費ではなく付加価値で見るべき

column_economy_travel【6】インバウンドの経済効果

インバウンドの話題は、どうしても消費額が大きく取り上げられます。ただ、日本経済に本当に関係するのは、支払総額そのものではありません。国内で生まれた価値、つまり付加価値です。ここでは、GDPの基本に立ち返りながら、なぜ総消費だけを見ても判断を誤りやすいのかを整理します。

6-1. GDPは国内で生まれた価値だけを数える

GDPは、その国の中で生まれた付加価値の合計です。
旅行者が支払うお金には、原材料費や海外企業の取り分が混ざっていますが、GDPには国内で生まれた部分だけが積み上がります。

たとえば、二万円の宿泊費には

  • 食材や備品の仕入れ
  • 外部サービスの費用(クリーニングなど)
  • OTAの手数料
  • 光熱費

こうした支払いが含まれています。
実際に付加価値として残るのは、宿泊事業者が提供したサービス部分だけ。
支払総額のすべてが日本の利益になるわけではありません。

この違いを押さえておくと、渡航規制のニュースが過剰に大きく見えにくくなります。

6-2. 総消費額をそのまま経済効果と読むと判断がずれる

ニュースでは総消費額が強調される場面が多いのですが、これをそのまま経済効果と読むと誤解が生まれます。

理由は単純で、旅行支出には

  • 海外航空会社の収入
  • 海外OTAの手数料
  • 海外決済プラットフォームの手数料

といった国内で価値が生まれない部分が大きく含まれているからです。

消費額が伸びていても、国内の付加価値が伸びていない可能性もあります。逆に、消費額が落ちても付加価値が大きく落ちない場合もある。総額だけで判断しようとすると足元の構造が見えなくなります。

6-3. 旅行支出は国内に残る部分と国外へ流れる部分に分かれて動く

旅行者が支払う費用はひとかたまりに見えて、実際には複数のルートに分かれています。

旅行支出の流れ(簡易表)

流れ方主な対象国内に残る/残らない
国内で価値が生まれる部分宿泊、飲食、体験など国内に残りやすい
海外に流れやすい部分航空券、海外OTA手数料国内にはほぼ残らない
国境をまたぐ部分決済手数料、プラットフォーム利用料海外に流れやすい

とくに訪日中国人の支出は、この海外流出が起きやすい領域の比率が高く、支払総額と国内の付加価値に差ができやすい構造になっています。

総額の大きさだけでは、日本経済への実際の影響が読めない理由がここにあります。

6-4. 特定の国に依存した集客モデルは経済リスクが大きい

付加価値という視点でインバウンドを見ると、もうひとつ大事なことが浮かび上がります。それは、特定の国だけを前提にした集客モデルは、経済的に不安定になりやすいということです。

ある国の訪日客が急増すると、事業者がその国向けの商品やサービスに寄せて投資を行うことがあります。ただ、渡航規制や情勢の変化で客数が急に変わると、依存度が高いほど収益の変動が激しくなり、経営が揺れやすくなります。

観光産業のように外部環境に左右されやすい領域では、国籍を分散し、複数の層を組み合わせて需要を平準化する方が、中長期の安定につながります。付加価値を軸に見ると、このリスク管理の必要性も自然に理解しやすくなります。

【7】数字を誤読しないための経済ニュースとの向き合い方

column_economy_travel【7】経済ニュースとの向き合い方

渡航規制や消費額のニュースが続くと、数字の大きさに気持ちを持っていかれやすくなります。とくに兆円といった桁が並ぶと、それだけで深刻な状況に見えてしまうこともあるでしょう。けれど、数字をそのまま受け取らずに、どこで生まれ、どこへ流れていくかを少しだけ整えて読むだけで、不安は大きく減ります。

ここでは、生活者でもすぐ使える「数字の読み方」を三つのポイントでまとめます。難しい理屈ではなく、日々のニュースを自分の目で確かめられるための基本的な視点です。

7-1. ニュースで数字を見るときに最初に確認したい三つの項目

経済ニュースの数字は、同じように見えて種類が違うことがあります。これを混ぜてしまうと、理解が大きくぶれていきます。まずは、この三つを軽く確認するだけで十分です。

ニュース数字の確認ポイント

確認すること意味
消費額なのか、付加価値なのか支払総額と経済効果を混同しないため
国内分と海外流出分が分かれているか取り分の構造が見えるかどうか
単年の話か、長期の流れか一時的な変動と構造的な変化を区別できる

この三つがそろっていないと、数字の意味を早とちりしやすくなります。

7-2. 兆円という言葉は強く見えるだけで意味は広い

兆円という桁は、聞くだけで大きく感じます。しかし、その中身は

  • 支払総額
  • 推計値
  • 仮定のシミュレーション

と性質が違うものが並ぶことがあります。
同じ兆円でも、意味はまったく違うわけです。

大きな桁に引っ張られる前に、「これは何を表した兆円なのか」を一度確認すると、数字の印象がガラッと変わります。大げさに見えるニュースも、背景がわかれば混乱しにくくなります。

7-3. 情報が多い時代は、数字を構造で読む癖が落ち着きを取り戻す

SNSやニュースが絶え間なく流れてくる今は、一つの数字に振り回されやすい環境でもあります。それでも、数字の背景をざっくり構造でつかむだけで、判断はずっとしやすくなります。

数字を構造で読むとは

視点内容
どこで生まれた数字か航空券か、宿泊か、買物か
どこに流れていく数字か国内の付加価値か、海外企業の収益か
何と比べて語られているか単月か、年間か、コロナ前か

数字を線ではなく、面で見るような感覚です。
表面的な大きさではなく、流れ方の違いを追うだけで、不安の正体が見えやすくなっていきます。

【8】まとめ:数字の見かけではなく中身を見ると、極端な議論に振り回されなくなる

中国の渡航規制は話題になりやすく、兆円単位の消費額が並ぶと、そのまま日本経済が大きく揺れているように感じてしまうことがあります。ただ、ここまで見てきたように、旅行者が支払う総額の多くは国内で付加価値を生んでいません。航空、OTA、決済といった入口と出口で海外に流れ、残るのは宿泊や飲食などサービス中心の領域です。見た目の金額よりも、日本に戻ってくる価値はずっと小さくなる。これだけで、数字の意味は大きく変わって見えます。

さらに、訪日客の国籍は分散しており、中国が弱くても全体が急に落ちる構造ではなくなりました。韓国や台湾の短期リピート、欧米の長期滞在、東南アジアの伸びる需要。それぞれが違う役割で支え合う形になっているため、一国の変動が全体を大きく押し下げることはほとんどありません。

消費額はあくまで見かけの数字で、経済効果は国内で生まれた付加価値で決まります。この視点を一つ持つだけで、ニュースの大きな金額にも冷静に向き合えるようになります。数字そのものより、どこで生まれ、どこに流れたのか。構造を知っておくだけで、極端な議論に引っ張られずに状況を読み取れるはずです。

編集後記

大きな数字が並ぶニュースを見ると、心がざわつく瞬間があります。私もデータを扱う仕事のなかで、同じ感覚を何度も味わってきました。ただ、数字を少しだけ分解していくと、不安がゆっくりほどけていきます。見えていなかった構造が姿を現し、景色が静かに整っていく。そんな感覚が好きで、このテーマを書きました。

経済は遠い世界の話ではなく、日常の延長にあります。旅行の支払いがどこに落ちていくのか。その流れをひとつひとつ追っていくと、難しそうに見える数字も、生活の中の動きとして理解できるようになります。構造で世界を見る視点は、ニュースを受け取るときの小さな防波堤になるはずです。

編集方針

・経済効果を「国内で生まれる付加価値」で再定義する。
・中国依存は規模ではなく構造で判断することを明確にする。
・読者が数字を一次情報で検証できる状態を目的とする。
・実務に基づく取り分の理解を重視する。
・構造で読む視点を提示する。

参照・参考サイト

観光庁「インバウンド消費動向調査」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/gaikokujinshohidoko.html

国土交通省「航空輸送統計」
https://www.mlit.go.jp/k-toukei/koukuuyusoutoukei.html

UNWTO(国連世界観光機関)統計データ
https://www.unwto.org/statistics

経済産業省「商業動態統計」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html

執筆者:飛蝗
SEO対策やウェブサイトの改善に取り組む一方で、社会や経済、環境、そしてマーケティングにまつわるコラムも日々書いています。どんなテーマであっても、私が一貫して大事にしているのは、目の前の現象ではなく、その背後にある「構造」を見つめることです。 数字が動いたとき、そこには必ず誰かの行動が隠れています。市場の変化が起きる前には、静かに価値観がシフトしているものです。社会問題や環境に関するニュースも、実は長い時間をかけた因果の連なりの中にあります。 私は、その静かな流れを読み取り、言葉に置き換えることで、「今、なぜこれが起きているのか」を考えるきっかけとなる場所をつくりたいと思っています。 SEOライティングやサイト改善についてのご相談は、X(@nengoro_com)までお気軽にどうぞ。
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