円安・円高のニュースを見ていて、「結局、何が理由なの?」と引っかかったままになることがあります。
円安は輸入コストや物価に効きやすく、円高は輸出企業の収益に効きやすいです。
でも本題はなぜ動いたかです。
よく「減税は円安、増税は円高」と言われますが、為替はそんなに単純ではありません。減税でも円高に寄ることがあれば、増税でも円安が進むこともあります。見ているのは政策でじゃなく、その先の想定です。
この記事で扱う軸は3つだけ。金利・インフレ・財政が噛み合っているかどうか。減税も増税も、単体では判断されません。次に為替などのニュースを見たとき、どこを見ればいいか。わかるように解説していきます。
【1】円安・円高は政策の善悪ではなく「どう受け取られたか」で決まる
円安か、円高か。 それを決めているのは、その政策が良いか悪いかという話ではありません。
為替市場は、提出された答案を採点する場所ではなく、その答案を見た後に「これからどう転びそうか」と未来を想定する場所だからです。 多くの人の見方が、ある一点で重なった結果が数字として現れる。ここを取り違えてしまうと、どれだけニュースを読んでも「なぜ?」という疑問が残り続けてしまいます。
「減税=円安、増税=円高」という落とし穴
よく耳にするのが「減税なら円安、増税なら円高」という説明です。 確かにわかりやすい構図ですが、実際の為替はもっと複雑です。同じ減税でも円高に動くことがあれば、増税のニュースが出ても無反応、あるいは円安が進むことさえあります。
なぜこういったことが起きるのか。それは、市場が見ているのが「政策の名前」ではなく、その後に「国の方向性がどうなるか」だからです。
たとえば減税の話が出たとき、市場はこう問います。 「これで景気は本当に動くのか?」 「国債が増えて、将来の利払いが重荷にならないか?」
増税のときも同じです。単に税収が増えることを喜ぶのではなく、それによって「消費や投資が冷え込み、成長の余地が消えてしまわないか」を警戒します。減税も増税も、それ単体で評価されることはまずありません。他の条件と並べて、「トータルでの安定感」を見ています。だからこそ、単純な方程式が当てはまらないんです。
「起きたこと」よりも「これから」が先に値札に付く
為替のもう一つの厄介な性質は、出来事に反応しているようでいて、実はその「一歩先」を常に先取りしようとすることです。
新しい政策が発表された瞬間、市場はその内容よりも「その後の方向」を先回りして評価し、価格に織り込みます。
- この政策は、本当の意味での成長に繋がるのか。
- 財政は最後まで持ちこたえられるのか。
- そして、中央銀行の金融政策と矛盾なく噛み合っているのか。
この流れに筋が通っていれば、安心材料として評価されます。 逆に、財源が曖昧なまま支出だけが増えるような未来が見えてしまえば、不安が勝り、円はじわじわと売られていきます。そこには感情的な好き嫌いはなく、あくまで淡々と「リスクへの距離感」があるだけです。
金利・インフレ・財政、3つの歯車の重なり
ここで、判断の基準を整理しておきます。 円の評価が最終的にどこに落ち着くかは、結局のところ「金利・インフレ・財政」の3つがどう組み合わさっているかで決まります。
- 金利が低ければ、持っているメリットが少ない。
- インフレが進めば、お金自体の価値が目減りしていく。
- 財政が不安定なら、将来的な負担が重くのしかかる。
どれか一つが良くても、他の歯車が逆回転していれば評価は伸びません。 減税も増税も、この「3つのバランスをどう変化させるか」という材料の一つに過ぎないのです。この視点を持ってニュースを眺めてみると、今までバラバラだった情報の断片が、少しずつ繋がり始めるんです。
【2】円安・円高の土台にあるのは金利差という前提
為替が動く理由は、景気、政治リスク、地政学など、挙げればキリがありません。ですが、それらすべての根底には「共通のベース」があります。それが金利です。
ここを飛ばして減税や増税の話だけを追いかけると、急に話の輪郭がぼやけてしまいます。逆に言えば、金利を起点にするだけで、複雑な為替のニュースも驚くほどシンプルに整理できるんです。
為替のスタートは「どの通貨を持つのが得か」
為替市場の動きは複雑怪奇に見えますが、その出発点はいたってシンプルです。 「どの通貨を持っていたほうが得か」。まずはそこから考えます。
ここでいう「得」とは、単なる気分の問題ではなく、「持っている間にどれくらい利息がつくか」という現実的な収益の話です。
- 金利が高い通貨は、持っているだけで増えていく。
- 金利が低い通貨は、持っていても増えにくい。
当たり前のことですが、この金利差が、世界中の巨大な資金がどちらへ流れるかを決める最初の分かれ道になります。難しい理屈というより、極めて合理的な話です。
円が置かれている「不利な位置」
日本円は、長らく世界的に見ても極めて低い金利が続いてきました。 もちろん、これは国内の景気を下支えするための政策的な選択ですが、為替の世界では別の意味を持ちます。他の通貨と並べたとき、どうしても円を持つ理由が薄くなってしまいます。
利回りという一点で比べれば、円はどうしても見劣りしてしまいます。すると、投資家たちは円を売り、より金利の高い通貨を選ぼうとします。 時には、日本で特に税制などの大きな発表がない日でも、海外の金利が上がっただけで「円安」が進むことがあります。ニュースではあまり大きく報じられませんが、実はこうした「金利差」の力学によって、円は常に少し不利なポジションに置かれているのが現状です。
金利が動かないと、政策のメッセージが届かない
もう一つ重要なのが、金利が固定されていると、他の政策の効果が見えにくくなるという点です。
本来、金利が柔軟に動く国であれば、政府の政策に期待が集まれば金利が上がり、不安が広がれば金利が下がるといった反応が起きます。それによって為替も調整されていく。 ところが、金利がずっと低いまま据え置かれていると、減税をしても増税をしても、その「良し悪し」が市場の数字としてダイレクトに反映されにくくなります。
政策の良し悪しが判断できない(あるいは反応が薄い)ため、市場は判断を保留したり、とりあえず「金利の低い円」を売るという消極的な選択に流れたりしやすくなります。 金利というベースとなる部分が動かないことで、かえって減税や増税といった他の政策の輪郭がぼやけてしまう。円安・円高の説明がどこか噛み合わなく感じる背景には、こうした構造的な問題もあるんです。
【3】インフレ率は金利の意味を書き換えてしまう
金利をベースに考える。そこまでは納得できても、それでも為替の動きが腑に落ちないことがあります。 「金利は変わっていないはずなのに、なぜ円安が進むのか?」といった疑問です。
その答えは、金利という数字は同じでも、その「中身」が変わってしまうことがあるからです。その変化を引き起こす正体が、インフレです。
名目金利と実質金利、その「手触り」の違い
まず、私たちが普段目にしている金利は「名目金利」と呼ばれるものです。銀行の預金金利や国債の利率として書かれている、あの数字です。 ですが、為替市場が見ているのは、そこから一歩踏み込んだ「実質金利」の方です。
実質金利とは、簡単に言えば「名目金利からインフレ率を差し引いたもの」です。 物価が上がる(インフレ)ということは、お金の価値が削られていくということ。もし金利が1%ついても、物価が3%上がっていれば、実質的にはお金のパワーは2%分マイナスになっている計算になります。 数字は同じでも、インフレによってその金利の実体は全く別物になってしまう。為替はこの違いを極めてシビアに見ています。
インフレが進むと、通貨の魅力は薄まっていく
インフレが進むということは、同じ1万円で買えるものがどんどん減っていくということです。 生活の中では私たちは食料品や電気代の値上げとして実感しますが、為替の世界では「通貨の価値が薄まっていく」と受け取られます。
もし金利が上がれば、その目減り分をカバーできるので、通貨の価値は保たれます。しかし、金利が動かないまま物価だけが上がると、実質金利はどんどん下がっていく。 このとき、市場はこう考えます。 「この通貨を今、持ち続ける理由はどこにあるだろうか?」 答えが曖昧になれば、資金はより「実質的な価値」が守られる通貨へと逃げていきます。派手な政治的ニュースがなくても円が売られる裏側では、こうした数字の組み合わせがじわじわと進んでいるのです。
「金利据え置き」と「インフレ」が重なる怖さ
今の日本を考えると、金利が極めて低い状態で固定されている一方で、インフレ率はかつてないほど意識されています。 この組み合わせが意味するのは、円の「実質金利の低下」です。
表面上の金利(名目金利)は変わっていない。でも、インフレによって円という通貨の価値が、確実に悪くなっている。 為替市場から見れば、円を持ち続けるメリットが削がれているように映ります。だからこそ、金利が変わっていないのに円安が進む、という一見すると唐突な動きが起きてしまうんです。
ここまで来ると、減税や増税といった個別の政策は、もはや単独では評価されません。「その政策がインフレを加速させ、さらに実質金利を下げることにならないか?」といった、より深いバランスの視点で見られるようになるのです。
【4】市場は正解ではなく、無難なほうへ寄っていく
為替市場は、常に最も正しい経済の答えを探して動いているわけではありません。 未来が誰にも見えない中で、多くの人が「これなら説明がつく」「後から困らない」と思える選択が積み重なって、大きな動きになります。この市場特有の「癖」を知っておくと、円の動きがぐっと読みやすくなります。
為替は「一番筋が通りそうな解釈」に集まる
経済の数字には、たいてい複数の読み方があります。同じ統計を見ても、ある人は「景気がいい」と言い、ある人は「バブルだ」と悲観します。 だからこそ、市場で選ばれやすいのは「唯一の正解」ではなく、最も「筋が通って多くの人が考えそうな道」です。
「金利が低い。そしてインフレが進んでいる」 だから、「円は弱いよね」という物語を非常に作りやすい。難しい補足がいりませんし、多くの運用担当者が上司や投資家にも説明しやすいんです。 為替が動くというより、みんなの「考え方」が揃ってしまう。そんな感覚に近いかもしれません。
先が見えないときほど、円は選ばれにくくなる
不確実性が高まったとき、市場は「身軽さ」を選びます。つまり、持ち続ける理由をはっきりと言葉にできる通貨が好まれるんです。
- 金利がはっきり高い。
- 政策の方向性が分かりやすい。
- 先読みがしやすい。
こうした条件がそろう通貨は、投資判断が楽です。 一方で、日本の円はどうでしょうか。金利はなかなか動かず、政策も「様子見」が続くことが多い。この状態では、円を積極的に買い増す理由を見つけるのが難しくなります。 「円を売っておくのが、今は一番無難だ」という消極的な選別。これが結果として、円安の勢いを強めることがあります。
政策は「一本のストーリー」として通るか
市場は、政策の細かい条文まで丁寧に読み込むで想定していることは稀です。それよりも、全体として「一本の流れ」になっているかを見ています。
- その政策で、成長の形が見えるか。
- 財政の規律は保たれているか。
- 金融政策(金利)と矛盾していないか。
この3つが矛盾なく並ぶと、市場はその政策を「信頼できる物語」として受け入れます。 逆に、どんなに素晴らしい減税や増税の案であっても、どこかに矛盾やつじつまの合わなさを感じると、市場は疑いの目を向けます。中身の良し悪し以前に、「道理が合わない」ことで評価されない。そこに市場という場所の、少しドライな面があるのです。
【5】減税は円安にも円高にも振れる「諸刃の剣」
「減税」と聞いた瞬間、反射的に円安を連想する方は多いかもしれません。ニュースでもそのように報じられることが多いからです。 ですが、ここまで見てきた「金利・インフレ・財政」の視点に立つと、減税が必ずしも円安を招くわけではないことが見えてきます。受け取られ方次第で、評価は真逆の結果をもたらします。
円安に寄ってしまう減税の形
減税が円安要因としてネガティブに捉えられるのは、そこに「将来への不安」が同居しているときです。
- 財源の裏付けはしっかりしているのか。
- ただ国債を増やし、財政を悪化させるだけではないのか。
- 金利を上げられない中で、インフレをさらに加速させないか。
こうした疑問が残ったまま減税の規模だけが強調されると、市場は身構えます。短期的には景気が好転するかもしれませんが、後始末が見えない政策は「通貨の価値を下げる行為」とみなされてしまう。結局円は、力強く売られていくことになります。
円高へと繋がる減税のシナリオ
一方で、減税が円高方向の「期待」に変わる場面もあります。それは、その政策が明確な「成長の呼び水」になると確信されたときです。
たとえば、企業投資を強力に促す減税によって、中長期的な国の体力が底上げされると見られるケース。 「これで日本の生産性が上がり、将来の税収も増えるだろう」という筋書きが共有されれば、それは円を買う正当な理由になります。減税を単なる「バラマキ」ではなく、将来への「投資」だと市場が納得したとき、円の評価はポジティブに転じるのです。
為替が見ているのは、常に「全体の釣り合い」
結局のところ、為替市場は「減税」という単語そのものに反応しているわけではありません。 「その減税によって、国全体の釣り合い(バランス)がどちらに進むのか」を予想しています。
金利はそれに見合って動くのか。インフレが悪化しないか。そして、財政の持続性を損なわないか。 これら他の要素との組み合わせによって、同じ「減税」というニュースが、ある時は売り材料になり、ある時は買い材料になります。
「減税のニュースが出たのに、なぜか円高になった」という日がもしあれば、それは市場がその先に「強い経済の復活」という物語を読み取った証拠かもしれません。
【6】増税しても円高にならないことがある理由
増税と聞くと、「国の財政が安定して円高に向かう」というイメージが一般的かもしれません。教科書的にも、そのように理解されることが多いです。 ですが現実には、増税の発表があっても為替が動かない、あるいは逆に「円安」方向に進むことも珍しくありません。ここにも、市場特有のシビアな視点があります。
円高と受け取られるための「厳しい条件」
増税が円高(ポジティブ)に受け取られるのは、それが「財政の健全化」という目的に対して、市場が納得できる道筋を示しているときだけです。
- これで国の赤字はどれくらい減るのか。
- 国債の発行を具体的にどれだけ抑えられるのか。
- 将来の利払い負担が軽くなることが、数字で見えるか。
これらが具体的に示されて初めて、「この国の通貨を持っていても大丈夫そうだ」という安心感が生まれます。増税そのものが好まれているわけではなく、「先にある不安が一つ消えた」という安堵感が、円を買い支える評価に変わるのです。
景気を冷やす増税は「ただの重り」になる
一方で、増税が「将来の成長を削るもの」と見なされると、評価は真逆になります。
- 消費が落ち込み、内需が冷え込まないか。
- 企業の投資意欲を削ぎ、技術革新を止めてしまわないか。
- 結果として、長期的に見ると税収が減ってしまうのではないか。
こうした懸念が強まると、増税は「安定への一歩」ではなく、国を停滞させる原因となります。財政の帳尻は合っても、国全体の活力が失われる姿が見えてくると、市場は円を持つ理由を失います。 「安定と停滞は、紙一重」。市場はこの差を、敏感に嗅ぎ取ります。
為替が重視するのは「安定」よりも「動ける余地」
結局、市場が気にしているのは、今の数字が安定しているかどうかだけではありません。「これから先、どれだけ柔軟に動ける余地があるか」を見ています。
増税によって経済の動きが止まり、将来の選択肢が減ってしまう。そう受け取られると、たとえ借金が減ったとしても、通貨としての魅力は下がります。 増税しても円高にならない場面があるのは、市場が「帳尻合わせの先の、その先の停滞」を恐れているからに他なりません。
「今」を整えるための増税が、「未来」を縛っていないか。 市場は、常にこの「時間軸のバランス」を見ているんです。
【7】金利・インフレ・財政が噛み合わなくなるとき
ここまで見てきたように3つの要素は、別々に評価されているわけではありません。 為替市場は、常に「金利・インフレ・財政」の3枚の要素を重ね合わせて、一つのストーリーを想定しています。
本当に問題になるのは、どれか一つの数字が悪いときではありません。それぞれの歯車が向いている方向に「ズレ」が生じたとき、通貨への評価は悪化していきます。
インフレだけが進み、金利が動かない歪み
物価が上がれば、本来は金利を上げて通貨の価値を守るのが一般的です。 ですが、インフレが進んでいるのに金利が動かない(動かせない)状態が続くとどうなるか。
表面上の金利は変わっていなくても、インフレによって実質的な価値はどんどん削られていきます。為替から見ると、それは「通貨を守る仕組みが機能していない」と映ります。 この歪みが放置されると、円を持つ理由は日ごとに薄れ、気づいたときには評価が一段下に落ちている。そんな静かな、しかし確実な円安が進行します。
財政は動いても、成長の形が見えない不安
減税や財政出動で、政府がお金を動かすことがあります。それ自体は刺激策になりますが、市場はそれだけでは納得しません。
- そのお金は一時的な消費で終わるのか、それとも将来の生産性を上げるのか。
- 国債が増えるスピードに対して、成長のスピードは追いつくのか。
出口の見えない財政刺激は、期待ではなく「将来の負担」への不安へと姿を変えます。 「国債は増えるけれど、稼ぐ力は増えない」。そう見なされた瞬間、財政の動きは評価の追い風ではなく、通貨を売り崩す向かい風になってしまいます。
三つの歯車が逆回転を始めるとき
金利は低い。インフレは高い。そして財政負担だけが膨らんでいる。 この3つが揃い、かつ相互に矛盾し始めたとき、為替市場にとって「円を売る」という選択は、疑いようのない「最悪のパターン」として完成してしまいます。
どれか一つの政策が悪い、という話ではありません。 「物価を守るための金利」と「景気を支えるための財政」が、お互いの足を引っ張り合っている。その「噛み合わせの悪さ」そのものが、通貨の信頼を根底から揺さぶります。
為替は残酷なまでに現実的です。バランスを失った歯車の違和感を、市場は見逃さず、価格という形で突きつけてくるんです。
【8】なぜ日本の減税・増税は為替に効きにくく見られるのか
減税や増税のニュースが世間を騒がせても、肝心の為替はほとんど動かないことが多い。そんな場面に何度も出くわしたことがあるはずです。「中身が不十分だからだ」と批判されることも多いですが、実はそれ以前に、市場から見たときの「情報の伝わり方」に構造的な問題があるように思えます。
「期限付き」の政策が、市場を慎重にさせる
日本の政策には、よく「期間限定」や「状況を見て判断する」といった条件が付きます。 もちろん慎重さは大切ですが、為替市場という「先の先を読む場所」からすると、こうした期限付きの措置は見通しがつきずらいので扱いにくいというのが本音です。
評価されやすいのは、一度きりの対応ではなく、その国の構造を変えるような「続く前提のある動き」です。 「途中で変わるかもしれない」という疑念が残る以上、市場はそれを長期的な円買いの理由にはできません。結果として、大きなニュースの割に反応は限定的、という空振りが増えてしまうのです。
財政・金融・物価がバラバラに語られるもどかしさ
これが一番大きな理由かもしれませんが、日本では財政(減税・増税)の話と、金融(金利)の話、そして物価の話が、まるで別々の世界の出来事のように語られがちです。
- 減税は検討されているが、それに合わせて金利をどうするのかは見えない。
- 物価目標は掲げられているが、財政政策との整合性が取れていない。
ここまで見てきた通り、為替は「3つの歯車の相関」で動いています。 バラバラに届く情報は、市場にとっては「一本のストーリー」になり得ません。全体像が見えない以上、円を買うのも売るのも判断がつかず、結局「反応なし」という形になってしまうんです。政策の中身そのものよりも、その「繋がりのなさ」が評価を妨げているように感じます。
中長期の「国の形」が見えてこない
市場が本当に知りたいのは、細かな制度の数字ではなく、「日本はどこへ向かおうとしているのか」という大きな流れです。
人口減少や生産性の低さを、どう補っていくのか。 膨らんだ財政と金利の関係を、どう着地させるのか。 これらが一本の太いストーリーとして伝わらない限り、どんなに個別の減税や増税を打ち出しても、市場の期待を大きく動かすことは難しいでしょう。
日本の政策が為替に効きにくいのは、「断片的なものしか渡されていない状態」だからかもしれません。目的地が示されないままでは、市場も、どちらへ進むのか決めきれないんです。
【9】円安・円高を自分の言葉で説明できる形に戻す
ここまで、金利、インフレ、財政をそれぞれ見てきました。 普段のニュースも、たいていはこの順序が分断して伝えられます。ですが、為替市場はそれらを分解して判断してはいません。三つを同時に見て、全体のバランスがどちらへ傾いたかを直感的に、かつシビアに感じ取っているだけです。
ここで一度、バラバラになった話を一本の線に戻してみましょう。
インフレが上がると、金利の「実体」はどう変わるか
まず、インフレ率が上がれば、それだけでお金の価値は目減りします。 もし表面上の金利(名目金利)が据え置かれたままなら、実質金利(名目金利からインフレ率を引いたもの)は下がります。銀行に預けて利息はついているのに、買えるものが減っているので「実は損をしている」という状態です。
為替が見ているのは、インフレそのものではなく、「インフレによって、金利の効き目がどれだけ削られたか」です。ここに焦点を当てるだけで、ニュースの見え方は劇的に変わります。
実質金利が下がると、円はどう見られるか
実質金利が下がれば、その通貨は持っているだけで「損をする」可能性が高くなります。 他の国と並べたとき、わざわざ円を選ぶ理由がなくなります。この段階で、円はすでに売られやすい状態です。
そこに「財源の不透明な減税」や「先の見えない財政不安」が重なると、市場の判断は一気に一方向へと傾きます。円安は、突然のハプニングで起きているのではありません。多くの場合、こうした「実質の価値」の目減りが静かに積み重なっていた結果なんです。
すべては「未来の釣り合い」で読まれている
減税も増税も、それ単体では大した意味を持ちません。 それがインフレをどう動かし、金利とどう噛み合い、最終的に「国の持続性」をどう変えるのか。為替市場が見ているのは、今の数字ではなく、その「先の釣り合い」です。
この3つの歯車を並べてみて、違和感がないか、道理が合っているかを確かめる。 この見方ができるようになると、円安・円高は「予測できない結論」ではなく、一つの「途中経過」として読めるようになっていきます。
【10】ニュースを見て腑に落ちないのは、あなたのせいではない
円安・円高のニュースを追っているのに、どこか引っかかりが残る。説明は聞いたはずなのに、腹に落ちない。その感覚は、決して知識が足りないからでも、考え方が間違っているからでもありません。
情報の「渡され方」そのものに、ズレがあるからです。
情報が「別々の箱」に入ったまま届くもどかしさ
ニュースでは、話題ごとに担当者が違うかのように切り分けて伝えられます。金利は「金融政策」、減税・増税は「財政政策」、インフレは「物価」という具合です。 ですが、為替はこれらが複雑に絡み合う「相関」で動いています。バラバラのままの情報では、頭の中で線がつながらなくて当然なんです。
「結果」だけが切り取られるから、唐突に見える
また、ニュースは「円安になった」という結果を強調しがちです。なぜそう読まれたのか、どの条件が重なったのか、という背景は時間の都合で省かれてしまいます。 円安・円高は原因ではなく、あくまで結果にすぎません。プロセスが抜け落ちた状態で結果だけを見せられれば、動きが唐突に感じられるのは自然なことです。
【11】まとめ
円安・円高は、誰かの意図や一つの決定で決まるものではありません。 金利、インフレ、財政。この三つがどう並び、どう噛み合ったかという評価が、あとから数字となって現れている結果です。
減税が良いか悪いかといった「正しさ」で考えると、為替はかえって読めなくなります。市場は正しさよりも「無理がないか」「続きそうか」というバランスを、驚くほど冷徹に確認しています。
次に為替の話題を見たときは、結論よりも、その「途中」にある違和感を考えてみてください。 それだけで、円安・円高のニュースは、あなたを振り回す「得体の知れないもの」から、世界の動きを読み解くための指標へと変わっていくはずです。
編集後記
私自身も以前は、円安・円高のニュースに放置されている感覚がありました。 専門家の解説は聞いているし、個々の数字も分かっている。それでも、なぜか頭の中で話が一本の線に繋がらない。そのモヤモヤがありました。あとから気づいたのは、足りなかったのは「知識」ではなく、「並べる順番」だったということでした。
金利、インフレ、財政。 要素はわかっているのに、どこを向いているのかわからない状態でした。それぞれの要素がどう影響し合っているのか、その背景と関連性に目を向けたとき、ようやくクリアに見えてくるようになりました。
この記事は、円安か円高かを当てるためのものではありません。 為替のニュースを見たときに、自分の中で話を咀嚼できるようになるのようなものです。
編集方針
・円安・円高を政策の善悪ではなく市場評価として再定義。
・為替は結果ではなく評価のプロセスであることを明確に。
・金利・インフレ・財政の相関を理解できる状態を目的とする。
・専門用語をかみ砕き、判断の順番を示す実務視点を重視。
・ニュースを自分の頭で解釈できる判断軸を提示。
参照・参考サイト
名目金利と実質金利の違い
https://www.smtb.jp/personal/column/market-column/sera-column_22
インフレと為替の関係
https://www.bk.mufg.jp/tameru/gaika/column/004/index.html
円安・円高の基本と為替の仕組み
https://www.daiwa-am.co.jp/etf/article/article018/
日本銀行の金融政策と金利
https://www.boj.or.jp/mopo/outline/index.htm


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