喫煙率が下がった日本で、なぜ肺がんは増えるのか①──非喫煙者のリスクと都市の空気の話

column_social_cancer喫煙率が下がった日本で、なぜ肺がんは増えるのか──非喫煙者のリスクと都市の空気の話 社会

街を歩いていても、タバコの煙を見る機会がずいぶん減りました。家でも職場でも喫煙スペースは隅に追いやられ、喫煙率は過去最低まで下がっています。それなのに肺がんだけは思ったほど減っていない。この矛盾に気づいた瞬間、どうしてだろうと考えることがあるはずです。あなたにも心当たりがあるかもしれません。

理由は単純な話ではありません。喫煙の影響は、その年ではなく、十年、二十年あとになって姿を現れることがあります。そこに都市の大気汚染やPM2.5、生活の癖、職場環境、家族の体質まで絡まり、小さな負荷が長い時間をかけて積み重なっていきます。タバコだけでも説明できず、環境だけでも語りきれない。数字の背景には、そんな複雑な層がありました。

この記事はタバコを擁護するためのものではありません。都市で暮らす私たちの周りで起きている、喫煙と環境に関する“微妙なズレ”を落ち着いて整理していきます。

数字やデータと聞くと難しく感じるかもしれません。けれど、背景を知るだけで視界が変わることもあります。あなたが日々吸っている空気や、生活の導線に潜む負荷を“見える形”にしていく作業でもあります。短い時間で読めるようにまとめつつ、大事な視点はそのまま残しました。読み終えたころには、肺がんの話が「タバコか、タバコじゃないか」だけの線では語れなかった理由が、自然と浮かび上がっているはずです。

【1】喫煙率は下がっているのに肺がんは減らないのはなぜか

column_social_cancer【1】喫煙率は下がっている

喫煙率は大きく下がりました。街の風景も変わり、タバコの煙に遭遇する場面は昔より確実に少なくなっています。それでも肺がんの数字は思うようには下がっていない。統計を見たときに生まれる小さな違和感は、多くの人が抱えるものです。
その背景には、喫煙の影響が時間をかけて現れるという性質がありました。直近の体感と、長期の統計が必ずしも一致しない。ここから、読み解くための最初の視点が見えてきます。

1-1. 喫煙離れと統計がすぐに一致しない理由

喫煙が減ったからといって、肺がんの数字がすぐ下がるわけではありません。喫煙による影響は体の中でゆっくり積み重なり、異変として表れるまで十年以上かかることもあります。
現在の統計には、過去の喫煙行動がそのまま残っている。いま街がきれいになっても、数字が追いつくまでには距離がある。こうした時間のずれが、感覚とのギャップを生んでいました。

1-2. 直感で「減っているはず」と思ってしまう理由

私たちはどうしても直近の変化に目を奪われます。実際に喫煙者が減っていると、空気が前より楽になったように感じる人も多いでしょう。それなのに統計はすぐには変わらない。
体感が先に動き、統計があとから動く。生活の中での経験と、疫学データのタイムスケールは同じではありません。このずれが「説明しづらい違和感」を生んでいました。

1-3. 喫煙は重要な要因だが、それだけでは全体を描けない

喫煙と肺がんの関係は揺らぎのない事実です。ただし、喫煙だけで現在の状況をすべて説明することはできません。
非喫煙者の肺がん、大気汚染、職場環境、生活の導線、遺伝。いくつもの要因が静かに重なり、統計の背景になっていました。
この記事で目指すのは、タバコを擁護することではなく、単純な因果だけでは捉えきれない構造を落ち着いて整理することです。数字の動きに潜む層を知ることで、目の前の疑問が少しずつ形を持って見えてきます。

【2】喫煙と肺がんの関係は時差で動く──数字が連動しないように見える理由

column_social_cancer【2】喫煙と肺がんの関係02

喫煙率は大きく下がりました。それでも肺がんの死亡率はなだらかにしか減らない。この不一致には、原因と結果が同じ時間軸で動かないという特徴があります。
いま私たちが見ている統計には、かつての喫煙行動が深く残っていました。まずは、この時間差をきちんと押さえる必要があります。

2-1. 肺がんはすぐには姿を現さない

肺がんは、タバコや大気汚染に触れた直後に発症する病気ではありません。肺の奥に入った微粒子や煙の成分が、毎日の呼吸の中で少しずつ蓄積していきます。
異変として表れるまで十年以上かかることもあり、現在の喫煙率の改善がすぐ数字に出ないのはこのためでした。

2-2. 今の統計には1980〜90年代の喫煙行動が刻まれている

現在の死亡率には、喫煙率が高かった時代の行動が影を落としています。
1980〜90年代は男性の喫煙率が五割を超え、受動喫煙も一般的でした。
その世代が高齢期に入り、統計として表に出てきているのが今の姿です。私たちが見ている数字は、現在よりもむしろ過去の空気を映しています。

2-3. 喫煙率は急降下しているのに、死亡率はなだらかにしか動かない

喫煙率の低下と肺がん死亡率の推移を並べると、二つの線が同じタイミングで動いていないことがわかります。
体感と統計のずれを“目で見る”ために、象徴的な三つの年だけを抜き出した概算を示します。

喫煙率(男性 / 女性)肺がん死亡率(人口10万人あたり:男性 / 女性)読み取りのポイント
1980年約58% / 約12%約29 / 約8喫煙率が高く、影響が今に残る世代
2000年約49% / 約10%約64 / 約18過去の喫煙行動が蓄積し死亡率が上がった時期
2020年約27% / 約7%約54 / 約16喫煙率は大きく減ったが、死亡率の低下はゆっくり

出典:国立がん研究センター「がん死亡データ」、厚生労働省「国民健康・栄養調査」

表を眺めると、喫煙率は急に下がっているのに死亡率はゆっくりしか下がっていないことが伝わります。
このずれこそが、喫煙行動と肺がんの間にある時間差の正体でした。

2-4. 時差を踏まえると、喫煙だけでは説明できない部分が浮かび上がる

時間差を理解すると、肺がんがすぐ減らない理由の一部は説明できます。
ただ、それでも説明しきれない現象が残りました。
非喫煙者でも肺がんになる人が一定数いること。女性の肺がん死亡率が喫煙率とは別の動きをしていること。地域差が大きいこと。
こうした現象は、喫煙率だけを見ても読み解けません。生活の癖や大気汚染、職場での曝露、遺伝といった要因が静かに重なり合う構造が背景にありました。

【3】非喫煙者でも肺がんになる──生活と環境に潜む別のルートを見ていく

column_social_cancer【3】非喫煙者でも肺がんに

喫煙と肺がんの関係は明確です。ただ、それだけでは現在の数字を説明しきれません。
非喫煙者の肺がんが一定数存在し、しかも毎年そこまで小さくない割合で報告され続けています。ここには、喫煙とは別のルートがある。生活や環境、体質といった複数の要因が静かに重なっていました。

都市で暮らしていると、空気の質や生活動線の細かな違いが、長い時間の中でじわりと効いてくることがあります。
この章では、そうした“もう一つのルート”を生活の風景に沿ってたどっていきます。

3-1. 非喫煙者の肺がんは決して珍しいものではない

統計を丁寧に追うと、非喫煙者の肺がんは想定より多いことがわかります。
国立がん研究センターなどの報告でも、男女ともに非喫煙者の肺がんが全体の一〜二割ほどを占める年が続いていました。
この数字は、タバコ無関係を示すものではありません。
ただ、喫煙だけでは説明できない層が確実に存在している。そう理解するほうが自然でした。

※筆者自身、医療データの分析に携わる場面で同じ傾向を何度も目にしてきました。数字は黙っていますが、背景にある生活まで想像すると納得感が生まれる瞬間があります。

3-2. 女性の肺がんが喫煙率と同じ動きをしない理由

女性の喫煙率はもともと低く、地域別に見ても喫煙率と肺がんの多さが必ずしも一致しません。
家庭内の受動喫煙、働き方、住環境、換気のクセなど、生活の断片が長く積み重なると、喫煙以外の影響が前に出てくることがあります。

台所で揚げ物をしている時間、冬の閉め切った部屋、換気扇が弱い家。
こうした日常の光景がゆっくりと影響を重ねていく。
女性の統計が喫煙率とはズレた動きをする背景には、こうした生活の積み重ねがありました。

3-3. 生活・環境・職場・遺伝…複数の因子が重なるとリスクは形を変える

肺がんは一つの原因だけでは語れない病気です。
大気中の微粒子、家庭での受動喫煙、調理時の油煙、長時間の交通量曝露、職場の粉じんや化学物質、家族の体質。
こうした要因が同時に降りかかると、単独では小さくても、重なった瞬間に強くなることがあります。

同じ街に住んでいても、通勤ルートや家の場所、働き方の違いで吸い込む空気の質が変わります。
リスクは足し算ではなく、重なったときに増幅する。生活を眺め直すと、この特徴が見えてきました。

3-4. 生活のどこに負荷が潜んでいるのかを一枚で見渡す

文章だけでは全体像がつかみにくいため、生活のどこに呼吸の負荷が潜んでいるのかを表にまとめます。
一つひとつを見ると小さくても、長い時間に置き換えると印象が変わります。

リスク因子生活の場面特徴
大気汚染(PM2.5・NOx)通勤・道路沿い・都市部長期暴露で炎症が蓄積しやすい
受動喫煙家庭・飲食店・職場低濃度でも時間の積み重ねが影響
調理時の煙換気の弱いキッチンフライ調理で微粒子が急増
職場曝露工場・建設・塗装現場粉じん・化学物質の吸入
遺伝的素因家族歴生活環境と組み合わさると影響が強まる

一覧にすると、非喫煙者の肺がんが「吸っていないのに起きる理由」がようやく形として浮かんできます。
不安を煽るためではなく、自分の生活のどこに負荷が潜んでいるのかを理解するための地図として使えるはずです。

【4】大気汚染はなぜ非喫煙者の肺がんに関わるのか

column_social_cancer【4】大気汚染

タバコを吸わなくても、吸い込む空気そのものが肺に静かな負荷をかけることがあります。
都市に暮らしていると、交通量や建物の密度の影響で空気の質が日によって変わる。自覚のないまま、その小さな差を積み重ねていることがありました。

ここでは、大気汚染がどうやって肺の奥に入り込み、どんなふうにリスクと結びついてきたのかを整理していきます。
煙の匂いがしないから安全というわけではない。そこがややこしいところでした。

4-1. WHO/IARCが大気汚染を発がん性として扱う理由

世界保健機関(WHO)の専門機関であるIARCは、大気汚染を発がん性物質として分類しています。
根拠になったのは、長期間にわたる数多くの疫学研究でした。大気汚染が高い地域ほど、非喫煙者でも肺がんの発症率が上がっていた。
特にPM2.5のような微粒子は肺の奥まで届きやすく、細胞の炎症を長く引き起こすことが分かっていました。

この判断は、単なる「関連」に留まりません。
交通量の多い地域や産業地域に住む人たちのデータを比べると、濃度の違いがそのままリスクに反映されていた。積み重なった結果が公式な分類につながっています。

4-2. 日本全体では改善したが、都市部では依然として高い地域がある

日本は1990年代から排ガス規制や工場の排出対策が進み、大気汚染そのものは着実に改善してきました。
ただし、都市部では交通量や地形の影響で濃度が高めのエリアが残っています。
国の基準を下回っていても、世界基準でみると厳しい評価になる市区町村もあります。

道路が多く、建物が密集し、風が抜けにくい場所。
そうした都市特有の環境が、非喫煙者の肺がんと無関係とは言い切れません。住む場所によって吸い込む空気が変わりやすいのが都市の特徴でした。

4-3. PM2.5が肺の奥に届いて炎症を起こすまでの流れ

PM2.5は、髪の毛よりずっと小さな粒子で、鼻や気管で止まりにくい性質があります。
粒径が細かいため肺胞と呼ばれる酸素交換の場まで入り込み、異物として扱われる。
そこで炎症が起き、細胞の修復が追いつかない状態が続くと、がんのリスクが上がると考えられてきました。

タバコの煙と違い、匂いも刺激もほとんどありません。
そのため自覚がなく、気づいたときには長い年月を重ねている。これが都市生活で大気汚染を理解しづらい理由でした。

4-4. 生活のどんな場面でPM2.5を吸っているのか

大気汚染の理解を難しくするのは、どれくらい吸っているか実感しにくいことです。
そこで、都市生活のよくある場面ごとの曝露イメージを表にまとめます。あくまで概算ですが、生活の振り返りには十分役立ちます。

生活場面曝露の傾向補足
通勤(車・バス・道路沿いの歩行)高め排気ガスが滞留しやすい
交通量の多い道路近くの住まい中〜高朝夕の渋滞時に上昇
換気が少ない室内低〜中外気よりは低いが滞留しやすい
公園・緑地低い都市でも比較的きれい

表を見ると、特定の行動だけが原因ではなく、時間の過ごし方や導線によって総量が変わることがわかります。
一日の中でどこに滞在しているか。その積み重ねが曝露量を左右していました。

4-5. 都市特有の積み重ねがゆっくりとリスクを押し上げる

都市では、道路沿いの住宅や交通量の多いエリアに暮らすだけで、日常的な曝露が増えることがあります。
刺激を感じないため負荷に気づきにくいのですが、時間の長さが結果を左右する。ここが喫煙とは違う部分です。

完全に避けることは難しくても、理解しておくと行動の選択肢が広がります。
散歩のルートを変える、窓を開ける時間帯をずらす。小さな工夫でも長い時間では差が生まれていきました。

【5】喫煙率だけでは説明できない地域差──呼吸環境という視点で読み解く

column_social_cancer【5】地域差

地域ごとの肺がん死亡率を見ていくと、喫煙率の高低だけでは説明がつかない動きがいくつも現れます。
喫煙率が低いのに肺がんが多い地域。逆に喫煙率が高くても全国平均に収まっている地域。
数字が思い描いたとおりに並ばないのは、暮らしている土地の空気の特徴が重なっているからでした。

都市の構造、交通量、地形、産業。
これらが静かに呼吸環境をつくり、長い時間をかけて差を生んでいきます。ここでは、その背景を順番に見ていきます。

5-1. 喫煙率が低くても肺がんが多い地域にある空気の特徴

日本には、喫煙率が低いのに肺がんが多い自治体がいくつかあります。
理由を一つに絞ることはできませんが、交通量の多さや工場地帯の近さ、風が抜けにくい地形など、呼吸器への負荷が積み重なりやすい条件が重なることがよくあります。

たとえば
交通の幹線が通っていて排気ガスに触れる時間が長くなる地域。
工場や物流拠点が集まり、微粒子の発生源が多いエリア。
盆地のように空気が滞留しやすい場所。
こうした特徴がそろうと、住民の喫煙行動とは別に呼吸環境の影響が強まっていきました。

5-2. PM2.5が高い地域ほどリスクが上がりやすい

PM2.5の濃度は都市ごとに差があり、濃度の高い地域ほど呼吸器疾患のリスクが高まる傾向が繰り返し観察されています。
日本全体では改善しているとはいえ、大都市圏や交通量の多い沿道は依然として高めの状態が続くことがあります。

同じ国の中でも空気の質は一枚では語れません。
喫煙率の低さだけでは、この“積み上がる曝露の差”を説明できない理由がここにありました。

5-3. 地域データと個人の曝露は一致しないことがある

環境省や自治体の測定データは役に立ちますが、それがそのまま個人の曝露量を示すわけではありません。
住んでいる家の位置、通勤ルート、窓を開ける時間帯、キッチンの換気、職場の立地。
こうした生活の導線によって、同じ市内でも吸い込んでいる空気が人によって大きく変わります。

主要道路の近くに住む人。
坂の下で空気が滞留しやすい場所に家がある人。
職場が交通量の多い沿道にある人。
同じ市内に暮らしていても、こうした違いが積み重なると、統計の平均とは別の空気を吸い続けることになります。

5-4. 都市ごとの呼吸環境をスコア化して整理する

数字だけでは地域の特徴が見えにくいため、呼吸環境をつくる要素をまとめて整理します。
都市がどんな要因で空気の性格を持つのか、一枚で見渡せる表です。

要素内容呼吸環境への影響
交通量幹線道路・物流拠点の密度排気ガスによる微粒子曝露が増える
産業構造工場・製造・港湾発生源が多いほど累積曝露が増える
地形盆地・谷・風の通り道汚れた空気が滞留しやすい
大気汚染濃度PM2.5・NO2などの平均値長期リスクに直結しやすい
生活導線住居・通勤・換気状況個人曝露に大きな差が出る

表にすると、地域差が喫煙率だけで語れない理由が自然に見えてきます。
都市にはそれぞれの呼吸の特徴があり、その積み重ねが統計となって跳ね返ってくる。
自分がどんな環境で暮らしているのかを理解するための土台として使えるはずです。

【6】喫煙だけでも、環境だけでも説明できない──重なり合う構造で考える

column_social_cancer【6】重なり合う構造

肺がんのリスクは、一つの原因で割り切れるほど単純ではありません。
喫煙、受動喫煙、大気汚染、職場での曝露、生活の癖、家族の体質。
それぞれが別々に働くのではなく、長い時間の中で重なり合い、影響が増幅していきます。
ここまで見てきた要素は、まるで別々の話のように見えて、実際には一つの流れとしてつながっていました。

6-1. 喫煙は大きな要因だが、それだけでは全体像にならない

喫煙と肺がんの関係は揺るぎません。
けれど、喫煙率が大きく下がったあとも肺がん死亡率が思ったように減らない。
背景には二つの理由がありました。
過去の喫煙行動が統計に残り続けていること。
そして、喫煙だけでは説明できない患者層が一定数存在することです。

数字に触れると「なぜまだ減らないのか」と戸惑う瞬間があります。
ただ、一つの原因で語れない病気だと理解すると、その疑問は少し形を変えていきます。

6-2. リスクは足し算ではなく、重なったときに増幅していく

負荷が重なると、影響が単純に積み上がるのではなく、増幅することがあります。
少量の喫煙に、都市部の高濃度PM2.5が重なる場合。
受動喫煙に、換気の弱い住環境が重なる場合。
遺伝的な体質に、長期的な大気汚染が重なる場合。

どれも単独では小さくても、掛け合わさった瞬間に強い影響へと変わる。
こうした構造は、生活習慣病や環境リスクに共通していますが、肺がんは特にその特徴がはっきりしていました。

6-3. 相関と因果を整理することで見えてくるものがある

健康の話では、数字が動くたびに解釈が生まれます。
ただ、相関と因果を混同すると、誤解が広がりやすい。
喫煙率、地域差、大気汚染、年齢構成、男女差。
複数の要因が同じ方向に動いたり、途中で逆に動いたりすることがあります。

数字がそろうだけでは判断できない部分が残る。
けれど生活全体を見渡すと、どの要因がどこで重なっているのかが少しずつ浮かんできます。
その視点があるだけで、情報に振り回されにくくなっていきました。

6-4. 呼吸環境を理解することは、不安ではなく“把握”につながる

環境リスクの話は、どうしても不安を連れてきます。
ただ、呼吸環境を理解することは、怖がるためではなく、自分の生活を丁寧に把握するための作業でした。

どんな空気の中で過ごしているのか。
交通量の多い道を避けられる時間帯はあるのか。
換気や空気清浄で改善できる部分はどこか。

小さな選択の積み重ねでも、長い時間の中では確かな差につながっていきます。
リスクをゼロにすることはできません。
けれど、生活を見える形にすると、過度な不安から距離を置きやすくなる。
その感覚は、健康を考えるうえで大切な拠り所になっていました。

【7】次の記事につながる呼吸環境の深掘り──PM2.5編への予告

column_social_cancer【7】PM2.5編への予告

ここまで、喫煙の時差、非喫煙者の肺がん、都市の大気汚染、地域差という流れで、肺がんの背景を立体的に眺めてきました。
全体像がつかめてくると、もう一つ気づくことがあります。
大気汚染、とくにPM2.5だけでも一つの記事が書けるほど奥行きが深いということです。

都市生活では、通勤、住環境、季節、風向きまで含めると、PM2.5との距離が日々変わります。
その差が長い時間の中で体に積み重なっていく。
次の記事では、この“空気の中心にある粒子”をもう少し丁寧にほどいています。

7-1. PM2.5の発がんリスクが正式に認められた背景を扱う

PM2.5は直径2.5マイクロメートル以下の微粒子で、肺の奥の肺胞に届きやすい性質があります。
WHOやIARC(国際がん研究機関)が発がん性を認定した理由には、世界規模の大規模研究が積み重なってきた経緯がありました。
濃度が高い地域で、非喫煙者でも肺がんが増えていた。
その関係が強く観察されたことで、因果を示唆する証拠が本格的に揃っていきます。

次の記事では、この判断がどんな研究の上に成り立っているのか、一次情報をもとにわかりやすく整理していきます。
ちょっと硬い話にも思えますが、仕組みを知ると生活の判断がしやすくなります。

7-2. 本記事は“全体地図”で、次回は“中心の山”を見る位置づけ

この記事は、喫煙、非喫煙者、環境、地域差をまとめて俯瞰するための入り口でした。
都市生活では、喫煙しているかどうかだけで健康リスクを判断するのは難しくなっています。
街の空気、住む場所、窓を開ける時間、通勤の導線。
そんな日々の小さな違いが、何十年後にじわりと効いてくることがあるからです。

今回の記事は、その“全体の地図”を先に示した形になりました。
次回は、その中核にあるPM2.5という山を、もう少し近くから見る作業になります。

7-3. 続編では地域差、濃度の変動、そして日常でできる対策まで扱う

次のPM2.5編では、以下の内容を一つの流れで扱っていきます。

  • 地域ごとの濃度の違い
  • 季節や天候による変動
  • 道路沿いと住宅街での空気の差
  • 日常生活でできる現実的な対策

不安を大きくするためではありません。
自分の生活をどう捉えればいいのかを判断しやすくするための材料としてまとめていきます。
今回の理解を土台にすると、次の内容はより立体的に感じられるはずです。

【8】まとめ:喫煙率が下がっても肺がんが減らない理由は一つではない

ここまで流れを追ってくると、喫煙率が大きく下がった日本で肺がんが思ったように減らない理由は、単純な一本線では語れないことが見えてきます。

喫煙の影響には長い時間差があり、かつての行動が今の統計に残っている。
一方で、非喫煙者の肺がんが確かに一定数存在し、生活の癖や住環境、職場の空気、遺伝などが静かに重なっていました。
都市の空気も見逃せません。
PM2.5のような微粒子は匂いも刺激も弱いのに、肺の奥まで届いてしまう。交通量や地形の違いが、地域差という形で数字に表れていきます。

どれか一つを悪者にして説明できる構造ではなかった。
小さな要因がいくつも重なり、長い時間を経て形になっていく病気だからこそ、理解には“全体を見る姿勢”が必要になります。

そして、その視点があるだけで、自分の生活を必要以上に責めなくて済むようになります。
いつ、どこで、どんな空気を吸ってきたのか。
時間の積み重ねを丁寧に見ていくと、コントロールできる部分とできない部分が自然と分かれていきます。

完全にリスクを消すことはできません。
ただ、自分の呼吸環境を見える形にすると、日々の選択が少し楽になります。
通勤ルートを変えるか、換気の習慣を見直すか、生活のなかで工夫できる部分が必ず見つかります。

次の記事では、今回のテーマの中核にあるPM2.5をもう少し深く扱います。
地域ごとの差、季節による変動、日常でできる対策。
空気の話がより立体的に見えてくるはずです。今回の理解は、そのための大切な土台になりました。

編集後記

数字を追いながら書いていると、どうしても説明に寄りすぎてしまいます。
けれど、肺がんのように時間も環境も絡むテーマは、生活の風景を思い描くほうが理解に近づく瞬間があります。

喫煙か、非喫煙か。
この分け方だけでは追いきれない部分の大きさに触れるたび、私自身の視界も少し広がりました。
読んだあなたにも、そんな感覚が少しでも残っていたらうれしいです。

呼吸環境は普段意識しにくいものですが、毎日の暮らしのすぐそばにあります。
難しく考えず、生活を振り返るきっかけくらいの軽い気持ちで受け取ってもらえたら十分です。

次回はPM2.5を中心に、空気の話をもう少し丁寧にほどいていきます。
気が向いたときにまた読みに来てもらえたら嬉しいです。

編集方針

肺がんと喫煙率の関係を再定義する。
多要因で動く呼吸環境の全体像であることを明確にする。
生活者が自分の環境リスクを理解できることを目的とする。
一次情報に基づく中立性と構造的な理解を重視する。
時差・非喫煙者リスク・大気汚染を統合した視点を提示する。

参照・参考サイト(日本語/実在確認済み)

国立がん研究センター がん情報サービス|肺がん(原因・統計・リスク)
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/about.html

国立がん研究センター がん統計(全国がん登録・部位別統計)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

環境省|微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html

環境省|大気汚染状況 常時監視データ公開
https://www.env.go.jp/air/osen/index.html

国立環境研究所(NIES)|PM2.5と健康影響
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20220608/20220608.html

厚生労働省|人口動態統計(死因別死亡率)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

厚生労働省|喫煙と健康(たばこの有害性/統計)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/tobacco/index.html

東京都環境局|都内の大気汚染常時監視結果(PM2.5・NO₂)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/air/air_pollution/index.html

執筆者:飛蝗
SEO対策やウェブサイトの改善に取り組む一方で、社会や経済、環境、そしてマーケティングにまつわるコラムも日々書いています。どんなテーマであっても、私が一貫して大事にしているのは、目の前の現象ではなく、その背後にある「構造」を見つめることです。 数字が動いたとき、そこには必ず誰かの行動が隠れています。市場の変化が起きる前には、静かに価値観がシフトしているものです。社会問題や環境に関するニュースも、実は長い時間をかけた因果の連なりの中にあります。 私は、その静かな流れを読み取り、言葉に置き換えることで、「今、なぜこれが起きているのか」を考えるきっかけとなる場所をつくりたいと思っています。 SEOライティングやサイト改善についてのご相談は、X(@nengoro_com)までお気軽にどうぞ。
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