「こども家庭庁って、結局なにをしているところ?」
「支援があるって聞くけれど、変わってない気がする。」
そんな声を、SNSなどでよく耳にします。
それは誤解ではありません。制度の仕組み上、いまは“効果が見えにくい時期”にあるからです。
こども家庭庁の役割は、お金を配ることではなく、
これまで省庁や自治体に散らばっていた支援を、ひとつの線でつなぎ直すことにあります。
いわば「支援が届くための地図」を描く役所です。
だから、変化はすぐには形になりません。
制度を整え、通り道を作り、現場が動けるようになるまでには時間がかかる。
いまは、その“配線”を組み立てている段階にあります。
この記事では、
- なぜ「効果がない」と言われるのか
- 予算はどこに使われているのか
- 支援が生活に届きにくい理由
- そして、変化を実感できるまでの時間
この四つを、制度の構造と現場の動きから整理していきます。
結論を急ぐより、まずは“見えにくさ”の正体をほどいていく。
それが、こども家庭庁を正しく理解するための最初の一歩になると思います。
【1】「こども家庭庁は効果がない」と言われる理由

ニュースやSNSでは、「こども家庭庁は意味がない」「また無駄な省庁を作っただけだ」という言葉がよく並びます。
けれど、その印象の奥には、きちんとした理由があります。
多くの人が「変わっていない」と感じるのは、制度が動いていないからではありません。
効果が見えるまでの道のりが長く、その途中が見えにくいからです。
1-1. SNSでは「また役所を増やしただけ」という声が目立つ
SNSやコメント欄を覗くと、こども家庭庁を「新しい支援を出すための役所」と誤解している意見が多く見られます。
期待の多くは「新しい制度」や「追加の給付」など、目に見える変化に向けられがちです。
けれど実際のこども家庭庁は、すでにある支援や制度を“つなぎ直す”ことを任された司令塔のような存在です。
そのため、発足してもすぐには「変化の実感」が得られにくい。
期待の形と実際の役割がずれて見えることで、「思っていたのと違う」という落差が生まれます。
その落差こそが、「効果がない」と感じられる出発点になっています。
1-2. 支援を受けても“変化を感じにくい”心理がある
制度が整っても、生活の中では「助かっている」と実感するまでに時間がかかります。
たとえば、保育園の枠が少し増えたり、相談窓口が一本化されたりしても、日常ではすぐには見えません。
子育て中の人にとっては、目の前の大変さのほうがずっと強く感じられます。
支援は静かに動いていても、「まだ何も変わっていない」と思いやすい。
この支援は遠く、苦労は近くという感覚の距離が、
「支援されていないような気がする」という体感を生むのだと思います。
1-3. 実際は「成果」よりも「届くまでの仕組み」の問題が大きい
ここが、いちばん誤解されやすい部分です。
こども家庭庁は、政策を決めて終わる組織ではありません。
実際に支援が家庭に届くまでには、
国 → 都道府県 → 市区町村 → 学校や医療・福祉 → 家庭
という長い経路を通る必要があります。
つまり、制度を作っても、支援が届く経路が整うまでに時間がかかる。
いま起きているのは「支援が止まっている」わけではなく、
支援が通るための道筋を組み直している途中の段階です。
この仕組みの途中を見ずに「結果が出ていない」と判断すると、
本当の姿が見えなくなってしまいます。
制度というのは、光よりも“電気の通る道”に似ています。
回路が整わないうちは、スイッチを押しても灯りはつかない。
でも、いまはその道を一本ずつつなぎ直している最中です。
それを「効果がない」と言い切るのは、
配線の途中で灯りがまだ届いていないだけ、という段階なのかもしれません。
1-4. 「こども家庭庁=新しいお金が増えた」という誤解
もうひとつの誤解は、「こども家庭庁が新しい予算を大量に得た」という思い込みです。
「7兆円の新規予算」「巨大な新省庁」という見出しが広がり、
“税金が増えたのに暮らしが変わらない”という感情が強まりました。
けれど、実際のこども家庭庁は新しいお金を生み出したわけではありません。
厚生労働省・内閣府・文部科学省などに分かれていた既存の予算を束ね直した再編組織です。
つまり、これは“新設”ではなく“再配線”。
新しい支出を増やすためにできたのではなく、
今ある支援を迷わず届けるための仕組みづくりを進めている途中です。
見かけ上は予算規模が大きく見えますが、その多くは以前から存在したお金です。
「新しい役所=新しい支出」というイメージのズレが、
「無駄に見える」「何をしているのか分からない」という感情を生んでいます。
【2】そもそも、なぜこども家庭庁が必要だったのか

「こども家庭庁は効果がない」と語られるとき、
「そもそも、なぜ作られたのか」の前提が抜け落ちていることが多いです。
新しい役所を作る、というと派手に聞こえますが、
実際には“現場の限界”をなんとかするための再編でした。
支援の制度があっても、肝心の家庭に届かない。
家庭にスムーズに届けるために、こども家庭庁は生まれました。
2-1. 虐待対応・ヤングケアラー支援の課題が2010年代に急増
2010年代、社会の形が少しずつ変わりました。
共働き家庭の増加、地域のつながりの希薄化、ひとり親世帯の拡大。
その結果、家庭の中で限界徐々に積み上がっていきました。
児童相談所への虐待相談件数は、約20年で3倍以上に増えています。
家族を介護する子どもヤングケアラーも全国で確認されるようになりました。
「学校に通ってはいるけれど、もう疲れ切っている」子がいるという現実。
それでも、当時の支援は省庁ごとに分断されていました。
虐待は厚労省、教育は文科省、家庭支援は内閣府。
問題は“子ども”に起きているのに、制度には線が引かれていたのです。
2-2. 相談窓口が省庁ごとに分断されて混乱していた
たとえば、一つの家庭で問題が起きたとき。
学校の先生は文科省ルート、児童相談所は厚労省ルート、
心理支援は自治体の別部署、母子・父子家庭支援はまた別。
支援の地図がバラバラで、現場の誰も“全体を見渡せない”状態でした。
「どこに相談すればいいのか」「誰が最初に動くのか」。
判断が遅れるうちに、家庭では時間が過ぎていく。
そして、助けが届く前に関係が壊れてしまうケースも実際に起きていました。
現場の人たちは繰り返し訴えていました。
バラバラに動くのではなく、最初から問題を一直線で見て支援したいと。
2-3. 「省庁再編」で司令塔機能を一本化する必要があった
その声を受けて、国は方針を変えます。
厚労省・内閣府・文科省に分かれていた子ども施策を統合し、
子どもや家庭を総合的に支援を一本化する。
それが、こども家庭庁です。
誤解されやすいのですが、こども家庭庁は「新しいお金を作る」役所ではありません。
既存の支援を整理し、つなぎ、迷いを減らす機能を持つ。
つまり、
- 相談が迷子にならないルートをつくる
- 国・自治体・学校・医療・福祉が同じ線上で動く
- 家庭に届くまでの支援のルートを設計する
こうした“支援の再設計”が、まさに今進められていることです。
こども家庭庁が担っているのは、「新しい支援を生み出す」仕事ではなく、
支援がきちんと届くように道を整える仕事です。
それは根っこの部分を変える作業です。
制度がひとつに束ねられれば、これまで届かなかった家庭に光が届く可能性が高まる。
こども家庭庁とは、「支援の線を結び直すための組織」
その誕生の背景には、長い年月をかけて積み重なった現場の声があります。
【3】予算と役割:何に使われ、何を担うのか

こども家庭庁の「予算の使い道」は、SNSなどで想像されるような“新しい給付を作るための費用”ではありません。
実際は、これまで複数の省庁に分かれていた子育て支援の予算を整理し、支援が迷わず届くルートを整えるために使われています。
つまり、こども家庭庁の予算=増やすためのお金ではなく、つなぎ直すための仕組みです。
ここでは、その中身を落ち着いて見ていきます。
3-1. 新しい大型予算ではなく既存制度の再整理が中心
こども家庭庁の予算は、ゼロから生まれた新しいお金ではありません。
児童手当や保育支援、地域子育て支援など、これまで厚生労働省や内閣府がそれぞれ別々に担っていた事業を、ひとつの線で束ね直したものです。
つまり、拡大ではなく再配線。
支援そのものは前からありました。
けれど、その支援へたどり着く道が複雑すぎて、家庭の側から見れば“届きにくい制度”になっていたのです。
こども家庭庁は、まずその道を整理するところから始めました。
だから発足直後は「何も変わっていないように見える」時期がある。
初年度(令和5年度)は、今までの制度の配置換えが中心でした。
ここで、再編前と再編後の「同じ政策領域」を合算した予算推移を見てみましょう。
数字の上にも、構造の再編という性質がはっきりと表れています。
| 年度 | 政策領域 | 予算規模 (概算) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 令和4年度 (再編前) | 厚労省+内閣府+文科省による子ども・子育て関連 | 約4.5兆円 | 省庁に分散していた時期 |
| 令和5年度 (再編初年度) | こども家庭庁 (移管分中心) | 約4.8兆円 | 新規拡大ではなく再整理が中心 |
| 令和6年度 | こども家庭庁 | 約5.9兆円 | 保育・少子化対策の強化が本格化 |
| 令和7年度 (予算案) | こども家庭庁 | 約7.3兆円 | 児童手当強化など、ここで初めて大幅な政策拡充が反映 |
出典:こども家庭庁「第3次少子化社会対策大綱(2023)」、内閣府「こども未来戦略方針(2023)」、総務省統計
新しい支援が、いきなり増えるわけではありません。
まずは「どこに、どんな支援があるのか」を、迷わずたどれるようにする。
その整備が済んで、ようやく次の拡充が動き出すんです。
令和6〜7年度の予算増は、まさにそのタイミングにあたります。
言い換えれば、
「お金を配る前に、支援の道を修理している段階」だった、ということ。
見えにくい理由は、制度が停滞しているからではありません。
届けるため準備期間だから、あまり動いていないように見えるだけです。
3-2. 家計・保育・地域・困難家庭支援の4本柱で構成
こども家庭庁の施策と予算は、大きく次の4つの柱で整理されています。
- 家計支援(児童手当・出産育児関連)
- 保育・教育支援(保育所・こども園・医療との連携)
- 地域支援(子育て支援センターや自治体窓口の整備)
- 困難家庭支援(児童相談所、ヤングケアラー支援、訪問支援)
どの領域にも共通しているのは、「困ったときに迷わないようにする」という目的です。
支援があるのに“届かない。
この時間差を短くするために、こども家庭庁は制度の線を整理し、通り道を滑らかにしようとしています。
家計・地域・保育・困難家庭、それぞれの現場で支援が噛み合えば、ようやく生活の中に小さな変化が積み上がっていく。そのための基礎づくりが、いま進んでいる最中です。
3-3. 「お金を配る役所」ではなく「支援経路を整える機関」
「結局、お金は増えていない」という声をよく聞きます。
たしかに、給付そのものが急増したわけではありません。
けれど、その評価だけでこども家庭庁を語ると、全体の半分しか見えていません。
こども家庭庁は、支援を家庭に届ける“通り道”を設計する司令塔です。
直接お金を配る省庁ではなく、支援を流す回路そのものを整える機関なのです。
支援は、
国 → 自治体 → 相談窓口 → 学校・医療・福祉 → 家庭
という段階を経て流れていきます。
この経路の途中で滞っていた部分をつなぎ直している。
だからこそ、「効果が見えにくい」という感想が生まれるのです。
届くルートを整備している途中という現実は、
「動いていない」ではなく、「動く準備をしている」と言い換えられます。
こども家庭庁は、目立つ新制度を次々打ち出す存在ではありません。
けれど、いま整えているのは、どの支援も通る共通の場所です。
場所ができれば、次の政策はそこを通って家庭に届く。
つまり、未来の支援を通すためのインフラをつくっているということ。
静かな作業に見えて、実はもっとも基盤的な仕事をしているのが、こども家庭庁の姿です。
【4】支援が届きにくい理由を「構造」で見る

こども家庭庁の政策は、制度としては動いています。
けれど、家庭の実感としては「まだ届いていない」と感じる人が多い。
その違和感の背景には、支援が国から家庭へ届くまでにいくつもの“層”があることがあります。
制度が動き出しても、生活がすぐに変わるとは限らない。
そこには、仕組みの速度差という構造的な問題が潜んでいます。
4-1. 国が制度を作り、自治体が動かす「分業構造」
こども家庭庁は、国レベルで政策や法律、予算の方向を決める司令塔です。
けれど、実際に人と接し、支援を届けるのは自治体です。
国は制度を設計する。
自治体は現場の仕組みを整える。
そして、現場の最前線にいるのは、学校や医療・福祉の担当者たちです。
この分業があるからこそ制度は全国で動かせる。
でも同時に、スピードの差も生まれます。
A市では新しい窓口ができても、B市ではまだ準備中。
地域によって進捗にばらつきが出るのは、仕組みの構造上避けられません。
つまり、支援の「実感」に差が出るのは、制度が悪いのではなく、
届ける主体が複数に分かれているからなんです。
4-2. 届け先は学校・医療・福祉など多層で、連携が複雑
「子どもと家庭の支援」は、ひとつの窓口で完結しない領域です。
ひとりの子どもに関わる人が多いほど、連携は複雑になります。
たとえば
不登校や家庭の困難が重なるケースでは、
学校が状況を把握し、スクールカウンセラーが心理的ケアを行い、
保健師が家庭を訪ね、医療や福祉とつなぎ、
最終的に市の相談センターが全体を調整する。
こうして関係者が増えるほど、情報共有の基準も揃いにくくなります。
自治体ごとにルールが違い、連携を担う人の数も足りない。
結果として、支援があるのに流れていかない状態が生まれる。
制度は整っていても、接続点が弱いと、支援は細く滞ります。
水が流れるはずの管の途中に、まだ繋がっていない継ぎ目がある。
そんな状態が、全国のあちこちにまだ残っています。
4-3. 制度が始まっても、現場整備には「時間」がかかる
制度は決まっても、それを動かすのは人です。
現場の整備には、どうしても時間が必要になります。
自治体では、部署の再編や担当者の調整、こども家庭センターの設置が進められています。
同時に、学校・医療・福祉が横断的に動けるよう、ルールづくりや研修も行われています。
制度が完成しても、現場の人が動けるようになるまでにはラグがあります。
だからこそ、発足直後のいまは「まだ変わっていないように見える」時期なのです。
これは失敗ではなく、配線を太くしている途中の過程。
支援の流れを滞らせないために、一本ずつ道を整えている段階です。
見えないところで、線が少しずつ繋がり始めています。
まだすべてのランプは点いていないけれど、確実に電気は流れ始めている。
こども家庭庁が抱える届きにくさは、
制度の遅れではなく、現場の時間という現実です。
だから焦るよりも、どの段階が整い、どこがまだ途中なのかを見ていくことが、
本当の意味での「評価」に近づいていくはずです。
「支援はあるのに、見つけにくい・申請されにくい」という問題があります。
選択肢を一度整理しておくだけでも、景色は少し変わります。【関連記事】:助成金・給付金を体系的にまとめた記事
助成金と天下りの関係をデータで検証|国交省・経産省の構造と歳費削減の可能性 - ねんごろ「助成金」と聞くと、多くの人は“困っている企業や団体を支える制度”だと思うはずです。けれど現場を追っていくと、少し違う景色が見えてきます。 審査の基準が不透明なまま、同じ企業が何度も採択される。支援の名のもとに巨額の資金
【5】政策別に見る成果と課題

ここまで見てきたように、「こども家庭庁は効果がない」と言われる背景には、
制度が動いても家庭が実感するまでに時間がかかるという構造があります。
けれど、領域ごとに見ると、変化は確かに進んでいます。
ここからは主要な三つの柱、家計支援・保育と地域支援・困難家庭支援を、
「数字」と「実感」の両側から見ていきます。
5-1. 家計支援(児童手当・出産育児支援)
「一番わかりやすい支援」として多くの人が思い浮かべるのが、児童手当などの家計支援です。
最も直接的に家庭へ届く制度でありながら、「実感が薄い」と言われがちな領域でもあります。
まずは、どのような変化が起きているのかを整理してみます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 予算規模(概算) | 約3.1兆円 |
| 主な使い道 | 児童手当の所得制限撤廃、支給拡大、出産・育児支援の継続 |
| 進捗(受給世帯数) | 2022年度 約949万世帯 → 2023年度 約1,012万世帯(+約63万) |
| 見えている効果 | 「子育てを社会で支える」方向性が明確化。低所得世帯では実質的な安心感が拡大。 |
| 実感しにくい理由 | 物価上昇や教育費の増加により、中間層では体感が薄い。 |
| 課題 | 単発の給付ではなく、継続的支援の安定化が必要。 |
出典: 内閣府「こども予算関連資料」(2024年)、こども家庭庁「予算案概要」
支援は拡大していますが、生活者の実感は「増えた」ではなく「なんとか踏みとどまれている」。
この違いは大きい。
たとえば、月末に急な医療費がかかったとき、児童手当があることで「今回は乗り切れる」と思える。
それが“安心の持続”です。
家計支援の本質は、家計を豊かにすることではなく、崩れないよう支えること。
制度の狙いは、支援の額より安心の継続にあります。
5-2. 保育・医療・地域支援
次に見ていくのは、もっとも地域の違いが出やすい分野です。
保育や地域支援は制度と人の両方がそろわなければ動かない。
そのため、数字の進捗と体感の間にギャップが生じやすい領域でもあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 予算規模(概算) | 約2.4兆円 |
| 主な使い道 | 保育所・こども園運営費、保育士・相談員の人件費、医療的ケア児支援、地域子育て拠点整備 |
| 進捗(効果の中間値) | 待機児童:2017年 約26,000人 → 2023年 約2,680人(約1/10に減) 地域子育て支援拠点:7,300 → 8,200か所 |
| 見えている効果 | 都市部で保育環境が改善。医療・相談支援の連携が円滑化。 |
| 実感しにくい理由 | 地方では専門職不足により支援が届きにくい。 |
| 課題 | 人材を「育てる→定着させる」中期計画の強化。 |
出典: 厚生労働省「保育行政報告」(2024年)、こども家庭庁「地域支援政策資料」
待機児童は減少し、保育所や支援拠点も増えています。
しかし、数字が示す改善の裏側には“現場の限界”もあります。
都市部では保育環境が整い、医療との連携も進んでいます。
一方で地方では、「制度はあっても担い手がいない」という状況が続く。
ある自治体の保育士は言いました。
「保育所を増やすより、働き続けられる環境を整えてほしい。」
制度は形を作る。
でも、それを動かすのは人。
人の持久力が、支援の届き方を左右します。
5-3. 困難家庭・ヤングケアラー支援
最後に見るのは、もっとも時間のかかる領域です。
こども家庭庁が特に力を入れている「こども家庭センター」の整備が、
この数年で大きく進みました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 予算規模(概算) | 約0.8兆円 |
| 主な使い道 | こども家庭センターの設置、学校・医療・福祉の連携整備、家庭単位の継続支援体制 |
| 進捗(効果の中間値) | センター設置率:2023年 約32% → 2024年 約65%(倍増) |
| 見えている効果 | 支援の軸が「個人」から「家庭全体」へ転換。機関間でケース共有が進展。 |
| 実感しにくい理由 | 支援対象が複雑で成果が数値化しづらい。自治体によって運用レベルが異なる。 |
| 課題 | 支援をつなぐ人材(コーディネーター・ケースワーカー)の不足。 |
出典: こども家庭庁「こども家庭センター設置状況調査」(2024年)
センターの整備は急速に進み、支援が「個人」ではなく「家庭単位」で動き始めています。
しかし、変化が数値に出にくいのは、この分野が人の関係を扱う領域だからです。
「困っている人を支援する」ではなく、「支援が切れないように支える」。
その発想への転換が、ようやく起き始めた段階。
ただ、最前線で動く人材が圧倒的に足りません。
制度の整備だけでは支援は流れない。
支援の道筋を“人の手”で太くしていく作業が、これからの焦点です。
これら三つの領域に共通するのは、
「支援そのもの」ではなく「支援が届く道」を整えている途中だということです。
政策は動いている。
けれど変化は徐々にやって来る。
家計では安心の底が厚くなり、
地域では保育と医療の線がつながり、
家庭支援では「切れない支援」の形が生まれ始めている。
数字は点。
点を結ぶのが政策であり、こども家庭庁の仕事です。
【6】自治体格差で変わる「体感」

こども家庭庁の制度は全国共通です。
けれど、実際に「支援が届く」と感じる度合いは地域によってまったく違います。
それは、制度の優劣ではなく、現場の準備と人の動きの違いです。
同じ仕組みでも、支援が流れるスピードと温度には差がある。
それが、いわゆる「自治体格差」です。
ここでは、架空のA市とB市を例に、なぜ体感が変わるのかを見ていきます。
6-1. A市:連携が進み、相談がつながるように
A市では、こども家庭センターを中心に学校・保健師・福祉・医療が連携しています。
それぞれの機関が同じ地図を見ながら動くため、情報共有に迷いがありません。
困りごとを先生が察知すると、すぐにセンターに共有。
家庭は「どこに相談すればいいか」で迷うことがなくなりました。
状況に応じて医療やカウンセラーにつながり、支援が届くまでの時間が短くなっています。
支援は探すものではなく、届くものになっていく。
A市では、こども家庭庁の施策が“実感として見える”段階に入りつつあります。
現場の担当者の一人はこう話していました。
「制度そのものより、部門をまたいで顔が見える関係ができたことが大きい。」
制度を整えることと、人をつなぐことは違う。
A市では、後者を着実に積み上げています。
6-2. B市:窓口が分散し、家庭が迷う状態が残る
一方で、B市では同じ制度があっても、動き方がまだ整っていません。
こども家庭センターは設置されているものの、
学校・福祉・医療との間での情報共有がまだスムーズでない。
相談内容によって窓口が変わり、担当者によって案内が違う。
支援にたどり着くまでの時間が長く、家庭は“制度のどこに立てばいいのか”分からないまま。
「支援があるのは知っている。でも、どこに行けばいいのか分からない。」
この声は、B市だけでなく全国各地で聞かれます。
制度は動いているのに、家庭が受け取るのは“届かない感覚”。
それは、支援が機能していないからではなく、
人や運用がまだ届いていないからです。
6-3. 制度は同じでも、現場次第で温度差が生まれる
A市とB市の違いは、制度の中身ではありません。
支援に関わる人の数と、情報をつなぐ仕組みの成熟度。
そのわずかな差が、体感の温度を大きく変えます。
制度は全国共通でも、
- 人材の確保状況
- 担当部署の距離感
- 他機関との情報共有ルール
- 調整役(コーディネーター)の力量
これらが違えば、支援の速度も変わる。
つまり、「こども家庭庁の政策がどう機能するか」は、
現場の力にかかっています。
いま起きているのは、制度が整ったあとの現場フェーズです。
こども家庭庁が全国に同じ地図を配り、
各自治体がその地図をどう描き写していくか。
その描き方の差が、地域の支援の「温度差」として現れています。
支援の仕組みは全国で同じでも、
「届く速度」も「感じる温度」も違う。
それは、制度が機械ではなく、人で動いているからです。
こども家庭庁がいま作ろうとしているのは、全国一律のシステムではなく、
どの街でも迷わず支援につながれる地図です。
効果の大小よりも、その地図がどこまで細かく描けていけるか。
それこそが、これからの評価軸になります。
支援の温度差は「現場の努力」だけでは埋まりません。
そもそも予算がどう配分され、どこで目減りするのか。
その流れを知ると、なぜ差が生まれるのかが見えてきます。【関連記事】歳出構造を整理
減税を可能にするのは歳費削減?日本の財政支出から見える背景 - ねんごろ「減税してほしい」と思う人は多い。でもその裏で必ず出てくるのが「財源はどこから?」という問いです。国の財布は毎年100兆円を超える支出でいっぱい。その半分以上を年金や医療、そして借金の返済が占めていて、ここを大きく削るの
【7】「効果が見えるまで」どのくらいかかるか

こども家庭庁の政策は、スイッチを入れた瞬間に結果が出るような性質のものではありません。
支援が家庭に届くまでには、制度を作り、現場を整え、人が動くという長い経路があります。
だからこそ、いまは「動いていない」ように見えても、
それはまだ芽が出ていない段階であることが多いのです。
政策は、決まった瞬間に終わるのではなく、届くまでの時間を含めて設計されるプロセス。
では、その時間はどれくらいかかるのか。
ここでは、三つのフェーズに分けて整理してみます。
7-1. 短期(1〜3年):こども家庭センターの設置と相談体制の整備期
最初の数年は、制度よりも基礎工事の段階です。
自治体がこども家庭センターを設け、部署を再編し、
「どこに相談すればいいのか」を一本化する。
この時期に起こる変化は目立たない。
けれど、迷わなくなるという形で現れ始めます。
職員が「これは自分の担当ではない」と言わなくなる。
家庭が電話を何度もたらい回しにされなくなる。
そんな細部の変化が、支援の通り道を少しずつ開いていきます。
まだ結果とは呼べないけれど、方向が定まり始める時期です。
7-2. 中期(3〜7年):教育・医療・福祉の連携が本格化する時期
3年を過ぎるころから、学校や医療・福祉が横断的に動き始めます。
こども家庭センターを中心にケースを共有し、支援が“個人単位”から“家庭単位”に切り替わっていきます。
この時期になると、家庭の中で「支援がちゃんとつながってきている」という実感が少しずつ出てきます。
不登校の子どもに医療とカウンセリングが連動する、ヤングケアラーに定期訪問が入る。
そうした具体的な成果が見え始めるのがこのフェーズです。
ただし、自治体ごとの差はまだ残ります。
制度が同じでも、動かす人の数と経験が違うためです。
だからこそ、この時期の主役は「調整役(コーディネーター)」と呼ばれる人たちになります。
支援の流れを止めない存在。現場をつなぐ新しい専門職です。
7-3. 長期(7〜15年):社会指標に変化が現れる時期
そして、7年以上経つころ。
ようやく、社会全体の数値に変化が現れます。
子どもの貧困率、虐待相談件数、不登校や孤立の割合。
こうした指標は、一つの制度だけでは動きません。
何年にもわたる運用の成果が、ようやく形になってくるのがこの時期です。
これは「結果が遅い」のではなく、
積み重ねて初めて意味を持つ政策領域だからです。
家庭を支える仕組みとは、急速に花を咲かせるものではなく、
何層もの根が下りて、ようやく芽を出すもの。
こども家庭庁の本当の成果は、その根が社会にどれだけ深く根ざすかで測られます。
変化は、ゆっくりと確かに進んでいます。
支援の道が一本ずつ太くなり、家庭の中に届く時間が少しずつ短くなっていく。
「効果がない」と感じる今は、
もしかすると、いちばん深いところで土を掘っている時期なのかもしれません。
焦るよりも、どの段階にいるのかを知ること。
それが、この政策を正しく見定めるための第一歩です。
【8】なぜ「税金の無駄遣い」と思われるのか
こども家庭庁に対しては、「税金の無駄遣いではないか」という声が根強くあります。
その多くは、現場の支援にお金が届いている実感が薄いことから生まれています。
つまり、怒りの矛先は“お金そのもの”ではなく、“届き方が見えない構造”に向いている。
ここでは、その批判がどこから来ているのかを、構造の視点から整理します。
8-1. 新しい組織を作ったことによる「運営コスト」
新しい庁をつくるということは、それ自体に運営のコストが発生します。
幹部ポストや管理部門の増設、省庁間調整のための会議体の新設、庁舎整備やシステム移管など。
これらは家計に直接届くお金ではありません。
だから「現場ではなく机上に使われている」と見えやすい。
ただし、制度を統合し、支援の地図を描くための“中枢機能”には、一定の運営費が不可欠です。
問題はその存在ではなく、透明性と説明の不足にあります。
「何に、どれだけ、どう効果があったのか」を示せないことが、不信になっています。
8-2. 「やった感」が出やすいイベント・キャンペーン費
次に批判されやすいのが、“見える成果”を演出するためのPR費用です。
たとえば「こどもまんなかアクション」関連イベントでは、広告制作費として約1,350万円が使われたと報道されました。
もちろん、広報や啓発は必要な仕事です。
しかし、生活者から見れば「支援の実体ではなく、支援の発信にお金を使っている」と感じられやすい。
短期的な話題づくりよりも、静かな支援の継続に回してほしいという声が出るのは自然です。
8-3. 目的がぼやけた補助金
もう一つの論点は、“目的との距離がある支出”です。
たとえば、結婚式需要を促進する「ブライダル補助金」構想。
ロジック上は「結婚支援→少子化対策→子育て支援」に含まれると説明されます。
けれど、現場の感覚としては「本当に困っている家庭の助けになるのか」という違和感が残ります。
つまり、目的と支出の距離が遠いほど、納得感が薄れる。
“制度として正しい”けれど、“生活としてピンとこない”。
このズレが、批判の温床になります。
8-4. 「予算の中抜き構造」を疑われやすい理由
こども家庭庁の年間予算は7兆円を超えます。
しかし、そのすべてが新しい支援に使われているわけではありません。
多くは既存制度の再配置であり、複雑な流れをたどります。
国 → 自治体 → 委託先団体 → 実施機関 → 現場
こうした段階を経るほど、「どこに流れたのか」「何に使われたのか」「誰が得をしたのか」が見えにくくなる。
“見えにくさ”こそが不信の源です。
■では、本質的な問題はどこにあるのか?
多くの人が迷うのは、
「無駄遣いなのか、必要な支出なのか、結局どっちなのか」という点です。
結論から言えば、
こども家庭庁が“無駄遣いしている”と断定するのは正確ではありません。
しかし、“支援が必要な家庭に直接届きにくい構造”があるのは確かです。
問題は「金額」ではなく、「届き方のデザイン」。
こども家庭庁は制度をつなぎ直す役所ですが、
その“つなぎ方”自体がまだ過渡期にあります。
だからこそ、国民が支援を実感するまでに時間差が生まれる。
見えないのは、止まっているからではなく、
配線の途中だからなのです。
【9】まとめ:「こども家庭庁は効果がない」と決めつける前に
こども家庭庁の効果は、すぐに数値で測れるものではありません。
いまは、支援が届く道を整えている途中です。
変化は、政策の発表ではなく、
日々の現場で少しずつ積み上がっています。
「効果がない」という言葉の奥には、
“まだ届いていない途中”という現実がある。
それを知るだけで、見える景色は変わります。
支援の線は確かにつながり始めています。
焦らず、見届けていくこと。
それが、いま社会にできるいちばんの支え方です。
編集後記
ニュースや政策の話は、ときに「正しい・間違っている」で分けられがちです。
けれど、現実の変化はもっとひっそりと、もっと小さな場所から始まります。
職員室の前の廊下。
保健室の会話。
役所の窓口で呼ばれる名前の声。
その一つひとつに、支援の温度があります。
私自身も、子育ての中で感じたのは制度の理屈より温度感でした。
困ったとき、制度の大きな仕組みよりも、
誰かのひと言に救われた経験がある人は多いと思います。
こども家庭庁の話を考えるときも、
数字や是非だけでなく、「暮らしの側から」見てみると見え方が変わります。
今はまだ、地中を流れるような小さな動きかもしれません。
でも、その流れがやがて社会の形を変えていく。
変化は遠くにあるようで、案外、すぐそばで始まっています。
あなたのまちでも、静かに。
編集方針
・こども家庭庁に対する「効果がない」という評価を再定義。
・制度の良し悪しではなく「届くまでの構造」を見る視点であることを明確にする。
・読者がニュースの印象ではなく、自分で判断できる理解を持つことを目的とする。
・生活者の実感と、政策の仕組みをつなぐ説明を重視。
・短期の成果ではなく、長期的な支援基盤の整備プロセスを提示。
参照・参考サイト
- 「こども予算」を巡るいくつかのファクト
https://kodomo-gov.note.jp/n/nab996d728990 - こども家庭センターの設置状況について(令和7年5月1日時点)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/b50dfb26-a570-4740-935f-eb9a515136c0/8932fb35/20250730_policies_jidougyakutai_setchijokyochosa_04.pdf - 令和7年度こども家庭庁予算案のポイント
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/88749a20-e454-4a5b-9da8-3a32e1788a23/5cbb6234/20241227_policies_budget_53.pdf - こども家庭庁の予算はどう使われているか?(公明党)
https://www.komei.or.jp/km/taniguchi-mutsuo-kariya/2025/07/31/%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E5%AE%B6%E5%BA%AD%E5%BA%81%E3%81%AE%E4%BA%88%E7%AE%97%E3%80%80%E5%85%A8%E5%BB%83%E3%81%97%E3%81%9F%E3%82%89%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%AA%E3%82%8B/ - こども家庭センターの設置状況等について
https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/setchijokyochosa - [PDF] こども家庭センターガイドラインのポイント
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a7fbe548-4e9c-46b9-aa56-3534df4fb315/c9ebb0ca/20240401_policies_jidougyakutai_Revised-Child-Welfare-Act_26.pdf - 【予算解説】こども家庭庁令和6年度予算から見る子ども・子育て
https://journal.labid.jp/article/2ME_3_48 - こども家庭庁予算案7.3兆円 「未来戦略」を本格実施
https://fukushishimbun.com/jinzai/38520 - 令和7年度予算案の概要(事業別の資料集)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/88749a20-e454-4a5b-9da8-3a32e1788a23/86f71a32/20250306_policies_budget_63.pdf




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