国旗損壊罪とは、日本国旗を壊したり、汚したりする行為を、刑罰でどこまで扱うのかをめぐる議論です。ニュースやSNSでこの話題を見て、「日の丸を燃やしたら罪になるの?」「配られた小旗を捨てるのもだめなの?」と、疑問をもった人もいるかもしれません。
たしかに、国旗を粗末に扱う場面を見れば、嫌な気持ちになる人はいるはずです。国旗に敬意を持つべきだ、という感覚も自然なものです。
ただ、その気持ちをそのまま刑罰にしてよいのかとなると、話は少し変わります。国旗損壊罪で問題になるのは、日本国旗を使った国家への侮辱表現を、法律でどこまで制限してよいのかという点です。
同じ日本国旗に関する行為でも、他人の国旗を壊す場合、自分の国旗を政治的抗議として扱う場合、古くなった小旗を普通に捨てる場合では、意味が違います。外国国旗を傷つける行為を処罰する外国国章損壊罪との違いも、「外国国旗は守るのに、日本国旗は守らないのか」という一言だけでは片づけにくいところがあります。
この記事では、国旗損壊罪とは何か、今の法律でどこまで対応できるのか、外国国章損壊罪との違い、表現の自由との関係、海外の扱い方、そして日常場面で出てきやすい不安を見ていきます。
感情だけで賛成・反対を決めるには、少し扱いが難しいテーマです。何が処罰対象になり得るのか。どこからが問題になるのか。そこを一つずつ見ていくと、国旗損壊罪が本当に必要なのかも見えてくるはずです。

【1】国旗損壊罪とは何を処罰する法律なのか

国旗損壊罪とは、日本国旗を壊したり、汚したり、取り除いたりする行為を、刑罰の対象にするかどうかをめぐる議論です。
ここでまず押さえておきたいのは、国旗損壊罪が単に「国旗を大切にしましょう」という道徳の話ではないことです。法律として考えるなら、日本国旗を使った国家への侮辱表現を、刑罰でどこまで制限してよいのかが問われます。
そのため、見るべき点はいくつかあります。対象になるのは本物の日本国旗なのか、国旗に似たデザインの表現物なのか。行為は破ることなのか、燃やすことなのか、掲げられた旗を外すことなのか。さらに、刑罰で守ろうとしているものは国家の尊厳なのか、国旗を大切に思う人の感情なのか。
この章では、国旗損壊罪で何が処罰対象になり得るのか、何を守るための法律なのか、そして本当に新しい刑罰が必要なのかを見ていきます。
国旗損壊罪は日本国旗の損壊・汚損を罰する議論
国旗損壊罪は、一般的には日本国旗、つまり日の丸を壊したり、汚したり、取り除いたりする行為を処罰対象にする制度として議論されています。
ただ、国旗損壊罪が作られたとしても、「国旗に失礼なことをしたら何でも罪になる法律」になるとは限りません。法律にするなら、どの行為を対象にするのか、侮辱目的が必要なのか、人前で行われた場合に限るのか、といった条件を条文で決めることになります。
たとえば、同じように国旗を切る行為でも、古くなった旗を処分するために切る場合と、人前で国旗を破って抗議の意思を示す場合では、受け取られ方がまったく違います。
国旗損壊罪で見なければならないのは、破ったかどうかだけではありません。なぜその行為をしたのか。どこで、誰に見える形で行われたのか。そこによって、法的な意味も変わります。
まずは、国旗損壊罪を「日本国旗の損壊・除去・汚損を、国家への侮辱として刑罰で扱うべきかを問う議論」と捉えると、話の出発点がつかみやすくなります。
国旗損壊罪の争点は国家の尊厳か国民感情か
国旗損壊罪の争点は、刑罰によって何を守るのかという点にあります。法律で守ろうとする利益は、法的には「保護法益」と呼ばれます。
国旗損壊罪で想定される保護法益には、大きく分けて「国家の尊厳」と「国民感情」があります。日本国旗は国の象徴として扱われるため、国旗を公然と傷つける行為は国家の尊厳を害する、という考え方があります。
もうひとつは、国旗を大切に思う人の感情を守るべきだ、という考え方です。目の前で国旗が燃やされたり、踏まれたりすれば、不快に感じる人は少なくないでしょう。その感覚自体を、無理に否定する必要はありません。
ただ、国民感情だけを理由に刑罰を広げると、表現の自由との衝突が起きやすくなります。政治、宗教、歴史、社会問題に関する表現には、見た人を強く不快にさせるものもあります。それをすべて「傷つく人がいるから」という理由で処罰できるわけではありません。
だからこそ、国旗損壊罪では「国旗を不快な形で扱ったか」だけでは足りません。刑罰を使ってまで守るべき利益が、どこにあるのか。その説明が欠かせないのです。
国旗損壊罪で問われる損壊・除去・汚損の違い
国旗損壊罪を考えるうえでは、「損壊」「除去」「汚損」という言葉の違いも見ておきたいところです。似た言葉に見えますが、処罰対象を考える場面では意味が変わります。
損壊とは、国旗を破る、切る、燃やすなど、物としての状態を壊す行為を指します。除去とは、掲げられている国旗を引き下ろしたり、取り外したりする行為です。汚損とは、泥や塗料をつける、落書きをする、踏みつけるなど、国旗の外観を汚す行為を指します。
| 用語 | 典型例 | 考えるべきポイント |
|---|---|---|
| 損壊 | 破る、燃やす、切る | 物理的に国旗を壊したか |
| 除去 | 掲げられた国旗を外す、引き下ろす | 誰が管理している国旗か |
| 汚損 | 汚す、落書きする、踏みつける | 外観や象徴性を傷つけたか |
この違いは、「どこから罪になるのか」と迷う場面にも関わります。たとえば、掲げられている国旗を勝手に外す行為と、不要になった小旗を片付ける行為は、どちらも国旗を動かしています。けれど、意味は同じではありません。
具体的にどの行為が処罰対象になるかは、正式な法案本文や条文の書き方によって変わります。報道や骨子段階の説明だけで、「ここまで罪になる」と決めつけるのは避けたほうがよいでしょう。
本物の国旗と国旗風の表現物は分けて考える
国旗損壊罪では、「本物の日本国旗」と「国旗風の表現物」を同じように扱ってよいのかも問題になります。
本物の日本国旗とは、国旗として掲げられているものや、国旗として配布・使用されている日の丸を指します。たとえば、庁舎や学校に掲げられている国旗、式典で使われる国旗、イベントで配られる小旗などです。
一方で、国旗風の表現物には、イラスト、ポスター、漫画、映像作品、SNS用の画像などがあります。日の丸に似た図柄が使われていても、それが本物の国旗として扱われているとは限りません。
ここの線引きが曖昧だと、国旗そのものを傷つけた行為と、国旗をモチーフにした表現が混ざってしまいます。たとえば、実物の国旗を燃やす行為と、映像作品の中で日の丸風のデザインを使う表現では、考えるべき問題が違います。
もちろん、国旗風の表現物であれば何をしても問題にならない、という意味ではありません。内容や場面によっては、別の法律、会場ルール、プラットフォーム規約などが関係する場合があります。
それでも、国旗損壊罪として考えるなら、まず対象が本物の日本国旗なのか、国旗を連想させる表現物なのかは、はっきりさせておきたいところです。
国旗損壊罪に必要な立法事実はあるのか
国旗損壊罪を法律として作るなら、「なぜ今、その刑罰が必要なのか」も問われます。法律を作る根拠になる社会的な事情や必要性は、立法事実と呼ばれます。
刑罰は、単なるマナー違反や不快な行為に対して、すぐに使える道具ではありません。新しい犯罪類型を設けるなら、現行法では対応できない具体的な問題があるのか、処罰範囲が広がりすぎないか、表現の自由を不当に制限しないかを見なければなりません。
国旗損壊罪の場合、特に問われるのは、どの行為が既存の法律では扱いにくいのかという点です。他人の物を壊す行為、火を使って危険を生じさせる行為、施設の管理を妨げる行為などは、すでに別の法律問題として扱われる可能性があります。
そう考えると、国旗損壊罪の必要性は、「国旗を大切にすべきか」という感情だけでは判断できません。処罰対象をどこに置くのか。何を守るための法律なのか。現行法では本当に足りないのか。
そこを曖昧にしたまま刑罰だけを先に置くと、日常的な廃棄や政治的な表現まで不安の対象になってしまいます。国旗を守るための法律であっても、どこまでを刑罰で扱うのか。その線の引き方は、かなり慎重でなければなりません。
【2】日本国旗を壊す・燃やす・捨てる行為は今の法律でどう扱われるのか

日本国旗を壊す、燃やす、捨てる行為は、国旗損壊罪がない今でも、場面によっては別の法律に触れる可能性があります。
ここで気をつけたいのは、「日本国旗に関する行為だから、今は何をしても自由」というわけではないことです。たとえば、他人の国旗を壊した場合は、国旗への侮辱以前に、他人の物を壊した話になります。公的施設に掲げられた国旗を勝手に外せば、所有者や管理者との関係も出てきます。
一方で、自分の国旗を使った政治的抗議や、古くなった小旗を家庭ごみとして処分する場面は、また別の話です。見た目にはどれも「国旗を扱った行為」ですが、法律上の意味は同じではありません。
国旗損壊罪で新しく争点になりやすいのは、主に自己所有の日本国旗を、侮辱目的や政治的表現として壊したり、汚したりした場合です。今の法律で扱える範囲と、新しい法律でなければ扱いにくい範囲を分けて見ると、国旗損壊罪の必要性も考えやすくなります。
他人の日本国旗を壊すと器物損壊罪などが問題になる
他人の日本国旗を壊した場合は、国旗損壊罪の有無とは別に、器物損壊罪などが関わってきます。
たとえば、店先や施設に掲げられている日の丸を勝手に破る。誰かが持っている国旗を奪って燃やす。学校や自治体の備品として管理されている国旗を傷つける。こうした場合は、「国旗を侮辱したか」より前に、他人の物を壊したことが問題になります。
つまり、日本国旗を壊す行為が、現在の法律でまったく扱えないわけではありません。他人の所有物である国旗を壊せば、国旗損壊罪がなくても、既存の法律で問われる可能性があります。
そのため、まず見たいのは、その国旗が誰の物なのかです。他人の国旗を壊したのか。それとも、自分の国旗をどう扱ったのか。ここで話の入り口が変わります。
自分の日本国旗を壊す行為が国旗損壊罪の中心論点になる
国旗損壊罪で中心になりやすいのは、自己所有の日本国旗を壊したり、燃やしたり、汚したりする行為です。
自分で買った国旗や、配布されて持ち帰った小旗は、基本的には自分の持ち物です。自分の持ち物を処分したり、加工したりする行為は、他人の物を壊す場合とは違います。
ただし、自己所有の国旗であっても、人前で破る、燃やす、踏みつけるといった行為には、政治的な抗議や国家への侮辱としての意味が込められる場合があります。ここを刑罰の対象にするのか。そこが、国旗損壊罪の大きな争点です。
反対に、古くなった国旗を自宅で処分するために切る場合や、破れた小旗を家庭ごみとして捨てる場合まで同じように扱うと、日常的な廃棄にも不安が出てしまいます。
自分の国旗を扱う場面では、単に「国旗を傷つけたか」だけでは判断しきれません。侮辱目的があったのか。人前で行われたのか。通常の廃棄と区別できるのか。具体的な範囲は、正式な法案本文や条文の書き方を見なければ決まりません。
公的な国旗や借りた国旗は所有者・管理者も問題になる
公的な国旗や借りた国旗を傷つけた場合は、「国旗への侮辱」だけでなく、所有者や管理者との関係も出てきます。
役所、学校、式典会場、公共施設に掲げられている国旗は、個人が自由に扱える物ではありません。勝手に引き下ろしたり、持ち去ったり、汚したりすれば、器物損壊、窃盗、建造物侵入、業務妨害などが状況に応じて問題になり得ます。
イベントで一時的に借りた国旗や、団体の備品として預かっている国旗も同じです。借りた物を壊す行為は、自分の国旗をどう扱うかという話ではありません。所有者や管理者の意思に反して、物を傷つけた行為として見られます。
たとえば、会場で配られた小旗を持ち帰った後に処分する行為と、会場に掲げられている大きな国旗を勝手に外す行為は、どちらも国旗に関する行為です。けれど、法的な意味はかなり違います。
国旗損壊罪の議論では「日の丸を燃やす行為」に注目が集まりがちです。ただ、今の法律との関係を見るなら、その国旗が誰の物で、誰が管理していたのかを先に確認することになります。
国旗を燃やす行為は公共安全の問題にもつながる
国旗を燃やす行為は、国旗損壊罪や表現の自由だけでなく、火を使うことによる安全の問題も含みます。
屋外の広場、道路、公園、建物の近く、人が多く集まる場所で国旗を燃やせば、火災やけがの危険があります。場所や状況によっては、消防法、軽犯罪法、自治体の条例、施設管理上のルールなどが関わる可能性があります。
ここでは、2つの話が重なっています。ひとつは、日本国旗を侮辱する表現としての問題です。もうひとつは、その場所で火を使ったことによる安全上の問題です。
火気使用が禁止されている場所で国旗を燃やした場合、問われるのは「国旗を燃やしたこと」だけではありません。「そこで火を使ってよかったのか」も問題になります。
逆に、安全が確保された状況で自己所有の国旗を燃やした場合は、公共安全よりも、政治的表現や侮辱目的の有無が前に出やすくなります。
国旗を燃やす行為を一括りにすると、どこが問題なのかが見えにくくなります。火災リスクの話なのか、国家象徴への侮辱の話なのか。そこは分けて見たほうがよいでしょう。
国旗を捨てる行為は通常廃棄・ポイ捨て・汚損で見る
「国旗を捨てると罪になるのか」は、国旗損壊罪の議論で不安になりやすいところです。ただ、国旗を捨てる行為すべてが、国旗損壊罪の対象になるわけではありません。
まず、古くなった国旗や破れた小旗を、家庭ごみとして通常のルールに従って処分する場合があります。この場合は、国旗を侮辱するために人前で見せつける行為ではなく、不要になった物を廃棄する行為に近いでしょう。通常の廃棄まで処罰対象にすると、一般の人の日常生活にまで不安が広がってしまいます。
次に、道路や公園に国旗を捨てるポイ捨てがあります。この場合は、国旗損壊罪というより、不法投棄、ポイ捨て条例、施設管理上のルールなどが関わります。国旗でなくても、不要物をその場に捨てれば問題になるのと同じです。
さらに、国旗を踏みつける、泥をつける、落書きをする、見せつけるように捨てるといった行為もあります。この場合は、通常の廃棄とは違い、国旗への侮辱目的や公然性が争点になりやすくなります。
国旗に関する行為は、次のように場面ごとに見るとわかりやすくなります。
| 行為・場面 | 現行法で問題になる可能性 | 国旗損壊罪で争点になる可能性 |
|---|---|---|
| 他人の国旗を破る・燃やす | 器物損壊罪などが問題になり得る | 国旗への侮辱目的が加わる場合に争点になり得る |
| 自分の国旗を人前で破る・燃やす | 火気使用や場所のルールが問題になる場合がある | 自己所有の国旗を侮辱目的で損壊した行為として中心論点になり得る |
| 公的施設の国旗を勝手に外す | 管理権侵害、器物損壊、業務妨害などが問題になり得る | 除去行為を処罰対象に含めるかが争点になり得る |
| 借りた国旗を汚す・壊す | 所有者との関係で器物損壊などが問題になり得る | 侮辱目的がある場合に争点になり得る |
| 古くなった自分の国旗を通常廃棄する | ごみ出しルールに従えば通常は別問題になりにくい | 通常廃棄まで対象にするかは慎重な線引きが必要 |
| 国旗を道路や公園にポイ捨てする | 不法投棄、ポイ捨て条例、施設管理ルールが問題になり得る | 侮辱目的があるかどうかで争点になり得る |
| 国旗風のイラストを加工・投稿する | 内容によって別の法律や規約が問題になる場合がある | 本物の国旗と表現物を同じ対象にするかが争点になり得る |
国旗をめぐる行為は、今の法律で見る話と、国旗損壊罪で新たに争われる話が重なっています。
特に、「捨てたかどうか」だけで判断すると誤解しやすくなります。家庭ごみとして処分したのか。路上に放置したのか。人前で侮辱する形で汚したのか。そこによって意味は変わります。
この線が曖昧なままだと、国旗損壊罪の議論は、普通の処分にまで不安を広げてしまいます。国旗を守る話であっても、日常の廃棄まで巻き込むのかどうかは、はっきりさせておきたいところです。
【3】外国国旗は罰せられるのに日本国旗はなぜ違うのか
「外国国旗を傷つけると罰せられるのに、日本国旗はなぜ同じように扱われないのか」
国旗損壊罪の話になると、この疑問はよく出てきます。一見すると、たしかに不思議に見えます。外国の国旗は刑法で守られているのに、日本の国旗には同じ規定がない。そう聞くと、「外国国旗のほうを重く見ているのか」と感じる人もいるかもしれません。
ただ、外国国旗を傷つける行為を処罰する外国国章損壊罪は、外国の国旗を日本国旗より大切にしている規定ではありません。中心にあるのは、外国との関係や国際礼譲を守るという考え方です。
刑法92条は、外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊・除去・汚損した者を処罰すると定めています。さらに、この罪は外国政府の請求がなければ公訴を提起できません。
つまり、外国国章損壊罪と、日本国旗を対象にする国旗損壊罪は、似たような話に見えて、守ろうとしているものも、処罰に入る仕組みも違います。「外国国旗は守るのに、日本国旗は守らないのはおかしい」と感じる前に、まずこの違いを見ておく必要があります。
外国国章損壊罪は外国国旗や外国国章を守る規定
外国国章損壊罪とは、外国に対して侮辱を加える目的で、その外国の国旗や国章を損壊・除去・汚損する行為を処罰する規定です。条文上は「外国の国旗その他の国章」が対象になります。
ここでいう国章は、国を示すために使われる公的な象徴物を指すと考えられます。たとえば、外国大使館に掲げられた国旗や、公的な場面で使われる外国の国章などです。
この規定があるため、「外国国旗を傷つける行為は処罰される場合がある」とは言えます。ただし、それは単に「外国の国旗を大切にしましょう」という道徳の話ではありません。
外国に対する侮辱行為が、日本とその外国との関係に影響するかもしれない。だから刑法上の規定として置かれている。そう見ると、外国国章損壊罪の位置づけが少しわかりやすくなります。
そのため、外国国章損壊罪があるからといって、日本国旗にも同じ形の規定が当然に必要だとは言い切れません。外国の国家象徴を傷つける場合と、自国の国家象徴を傷つける場合では、法律の意味が変わってきます。
外国国章損壊罪が守るのは外交関係や国際礼譲
外国国章損壊罪が中心に置いているのは、外国そのものへの敬意だけではありません。日本の外交関係や国際礼譲を守る意味が大きいと考えられます。実際に、刑法上も「国交に関する罪」の中に置かれています。
たとえば、日本国内で外国大使館の国旗が侮辱目的で傷つけられた場合、その行為は国内だけの問題にとどまりません。相手国から見れば、自国の国家象徴が日本国内で侮辱されたことになります。
日本がそのような行為を放置していると受け取られれば、相手国との関係に影響が出る可能性もあります。外国国章損壊罪は、そうした外交上の問題を避けるための規定として見ることができます。
ここが、日本国旗の損壊を処罰する国旗損壊罪との大きな違いです。
日本国旗を傷つける行為は、外国との関係ではなく、国内の問題として扱われます。国家の尊厳をどう考えるのか。国旗を大切に思う人の感情をどこまで法律で守るのか。政治的な表現を刑罰で制限してよいのか。そこが争点になります。
同じ「国旗を傷つける行為」でも、法律が見ている方向は同じではありません。
日本国旗の保護と外国国旗の保護は同じではない
日本国旗の保護と、外国国章損壊罪による外国国旗の保護は、単純に横並びでは比べにくいものです。
外国国章損壊罪では、外国に対する侮辱が日本の対外関係に影響することが問題になります。守ろうとしているのは、外国の国家象徴そのものだけではありません。日本の外交上の利益や、国際関係の安定も含まれます。
一方で、日本国旗を傷つける行為を処罰する場合は、問題が国内に向きます。
日本国旗を国家の象徴として、どこまで刑罰で保護するのか。国旗を大切に思う国民感情を、どこまで法的に扱うのか。自己所有の国旗を使った表現まで処罰するのか。
ここで考えるべきことは、外国国旗の場合とは少し違います。
そのため、「外国国旗は罰せられるのに、日本国旗は罰せられない」という言い方は、わかりやすい反面、保護法益の違いを見落としやすい表現です。
国旗損壊罪の必要性は、外国国章損壊罪との見た目のバランスだけでは決められません。日本国旗をめぐる行為を、国内法としてどの範囲まで刑罰化するのか。その問題として見る必要があります。
外国国章損壊罪は外国政府の請求が必要になる
外国国章損壊罪には、もうひとつ大きな特徴があります。外国政府の請求がなければ、公訴を提起できないという点です。刑法92条2項は、この条件を定めています。
この仕組みは、外国国章損壊罪が外交関係に関わる犯罪であることとつながっています。外国の国旗や国章が傷つけられたとしても、相手国政府が処罰を求めない場合まで、日本の捜査・訴追機関が一方的に事件化する形にはなっていません。
つまり、外国国章損壊罪では、外国政府の請求という入口があります。処罰に進む前に、相手国がどう受け止めるのかが関わってくる仕組みです。
一方で、日本国旗を対象にした国旗損壊罪を作る場合、誰の請求を条件にするのかは簡単ではありません。日本政府なのか。検察が独自に判断するのか。あるいは別の仕組みを置くのか。
日本国旗は、国民全体に関わる象徴です。外国政府の請求のような、わかりやすい条件をそのまま移すことはできません。
この違いを見落とすと、「外国国章損壊罪と同じように作ればよい」と考えやすくなります。けれど、外国国章損壊罪には、外交上の請求という特殊な仕組みがあります。日本国旗の保護を考えるなら、処罰に入る入口をどう限定するのかも、別に考えなければなりません。
日本国旗を非親告罪で扱うと政府の運用が問題になる
日本国旗を対象にした国旗損壊罪を作る場合、非親告罪として扱うかどうかも大きな論点になります。非親告罪とは、被害者などの告訴がなくても、捜査や起訴が可能な犯罪類型のことです。
日本国旗の損壊を非親告罪にすると、誰かが被害を訴えなくても、捜査機関が「国旗への侮辱」と判断して事件化できる余地が出てきます。外国国章損壊罪のように、外国政府の請求で入口を限定する仕組みとは違います。
ここで気になるのは、運用の幅です。
日本国旗は、政府批判や国家観をめぐる表現と結びつきやすい象徴です。基準が曖昧なままだと、どの行為を事件化するのか、誰が判断するのかという不安が残ります。
もちろん、日本国旗を侮辱する行為に強い不快感を持つ人がいることは否定できません。国旗を大切に扱うべきだと考える人にとって、国旗の損壊や汚損は許しがたい行為に見えるでしょう。
ただ、刑罰として制度化するなら、不快感だけでは足りません。どの行為を対象にするのか。誰が事件化を判断するのか。処罰に入る入口をどこで絞るのか。
外国国章損壊罪との比較は、国旗損壊罪を考えるきっかけにはなります。けれど、外国国旗の保護と日本国旗の保護では、守ろうとしているものも、訴追の仕組みも違います。ここを同じものとして扱うと、議論の出発点を見誤ってしまいます。
【4】国旗損壊罪が表現の自由とぶつかる理由

国旗損壊罪が大きな争点になるのは、国旗を傷つける行為が、単なる物の破壊だけでは終わらない場合があるからです。
日本国旗は、国家を象徴するものです。だから、国旗を燃やす、破る、踏みつけるといった行為を見れば、強い不快感を持つ人は少なくないでしょう。国旗を大切に思う人にとっては、国そのものを侮辱されたように感じることもあります。
一方で、国旗は国家の象徴だからこそ、政府や国家への抗議を示す手段として使われることもあります。表現の自由は、穏やかで受け入れやすい表現だけを守るものではありません。見た人が不快に感じる表現でも、政治的な意味を持つ場合があります。
だから、国旗損壊罪を考えるときは、「不快だから罰する」で話を止めるわけにはいきません。どの行為なら刑罰で制限できるのか。どこから先は、政治的表現への過度な介入になるのか。その線が問われます。
国旗損壊は政治的抗議として行われることがある
国旗損壊は、政治的抗議の一部として行われることがあります。たとえば、政府の政策、戦争、外交姿勢、国家権力への反発を示すために、国旗を燃やす、破る、踏むといった行為が選ばれる場合です。
こうした行為は、見た人に強い不快感を与えます。国旗を大切に思う人からすれば、単なる意見表明ではなく、国家への侮辱に見えるでしょう。
ただ、抗議する側から見ると、国旗は国家を象徴するものです。言葉だけでは伝わりにくい怒りや拒否感を、国旗を使って示している場合があります。
つまり、国旗損壊は「物を壊す行為」であると同時に、「国家への抗議を表す行為」でもあり得ます。
この二面性が、国旗損壊罪を難しくしています。他人の国旗を壊した場合は、所有権や器物損壊の問題が前に出ます。これに対して、自分の国旗を使って抗議する場合は、自己所有物の扱いだけでは済みません。政治的表現を刑罰でどこまで制限してよいのか、という話になります。
国旗損壊罪が表現の自由とぶつかるのは、主にこの部分です。
侮辱目的と政治的批判の線引きは難しい
国旗損壊罪を作る場合、処罰対象を絞るために「侮辱目的」が要件になることが考えられます。侮辱目的とは、対象をおとしめる意図や、軽蔑の意思を示す目的のことです。
ただ、実際の場面では、侮辱目的と政治的批判をきれいに分けるのは簡単ではありません。
たとえば、ある人が政府への抗議として日の丸を破ったとします。見る人によっては、国家への侮辱に映るでしょう。けれど、本人は「日本を嫌っているのではなく、政府の政策に強く反対している」と説明するかもしれません。
見る側は侮辱だと感じる。行った側は政治的批判だと考える。こうした食い違いは、十分に起こり得ます。
政治的な表現は、あえて強い形を取ることがあります。穏やかな言葉では届かないと考え、過激に見える方法で抗議する人もいます。そうした表現まで広く侮辱目的と見なせば、政府や国家への強い批判そのものがしにくくなるおそれがあります。
もちろん、「政治的批判」と言えば何をしてもよいわけではありません。他人の物を壊す、危険な場所で火を使う、人を脅すといった行為は、別の法律問題になり得ます。
それでも、国旗損壊罪として処罰するなら、不快に見えるかどうかだけでは足りません。侮辱目的といえるのか。政治的批判として保護される余地があるのか。そこを丁寧に見なければ、表現の自由との衝突は避けられません。
損壊動画のSNS投稿まで罰すると萎縮効果が広がる
国旗損壊罪の運用で不安が出やすいのが、SNS投稿や動画配信です。今は、国旗を傷つける行為がその場で終わらず、動画や画像として広がることがあります。
たとえば、自分の国旗を破る様子を撮影してSNSに投稿した場合、見た人は強い不快感を持つかもしれません。通報や炎上が起きることも考えられます。
国旗損壊罪がある場合、その投稿自体も処罰対象になるのか。損壊行為だけが問題になるのか。動画を共有した人や、批判のために引用した人まで関係してくるのか。ここが曖昧だと、かなり広い範囲に不安が出ます。
ここで処罰範囲が広がりすぎると、萎縮効果が生まれます。萎縮効果とは、本来なら許される表現まで、処罰や炎上を恐れて控えるようになることです。
国旗損壊そのものをしていなくても、ニュース映像を引用した人、批判目的で動画を紹介した人、議論のために画像を共有した人まで「これも危ないのでは」と感じるかもしれません。そうなると、政治的な話題そのものを避ける空気が強まります。
国旗損壊罪を設けるなら、損壊行為そのものと、SNSでの投稿・共有・批評をどう扱うのかは、かなり慎重に決める必要があります。ライブ配信や切り抜き動画の扱いも、正式な法案本文や運用基準を見なければ判断できません。
国旗の表現物まで処罰対象にすると創作や批評に影響する
国旗損壊罪では、本物の日本国旗を物理的に傷つける行為と、国旗をモチーフにした表現を同じように扱ってよいのかも問題になります。
たとえば、政治風刺のイラスト、映画や漫画の演出、抗議ポスター、SNSの画像、舞台美術などで、日の丸を連想させるデザインが使われることがあります。これらは本物の国旗を破ったり燃やしたりしているわけではなく、象徴としての国旗を表現に取り入れている場合があります。
もし国旗風のデザインや創作物まで広く処罰対象になると、作り手は「この表現は国旗損壊と見なされないか」と考えざるを得なくなります。政治的な批評だけでなく、歴史や社会問題を扱う作品にも影響が出るかもしれません。
もちろん、創作物であれば何でも自由という話ではありません。内容によっては、別の法律、会場ルール、プラットフォーム規約が関係することはあります。
それでも、国旗損壊罪の対象として考えるなら、本物の国旗を損壊・除去・汚損した場合と、国旗をモチーフにした表現を行った場合は、別の問題として扱うべきです。
対象外とされる創作物、国旗風デザイン、小さな装飾用の旗などの扱いが曖昧なままだと、表現活動への不安は残ります。作り手が迷うだけでなく、受け手も「これは通報すべきものなのか」と過敏になりかねません。
表現の自由を制限するなら対象行為の限定が必要になる
国旗損壊罪が表現の自由とぶつかる以上、法律化するなら処罰対象を狭く、はっきり示すことが欠かせません。対象範囲が曖昧なままだと、明らかな侮辱行為だけでなく、日常的な廃棄、創作表現、政治的批判まで不安の対象になります。
特に知っておいたほうがよいのは、次のような点です。
| 確認すべき点 | なぜ重要か |
|---|---|
| 対象は本物の日本国旗に限るのか | 国旗風の表現物や創作物まで巻き込まないため |
| 自己所有の国旗をどう扱うのか | 他人の物を壊す場合と、政治的表現として使う場合を区別するため |
| 侮辱目的をどう判断するのか | 政治的批判との境目を明確にするため |
| 公然と行われた場合に限るのか | 私的な処分や日常行為まで広げないため |
| SNS投稿やライブ配信をどう扱うのか | 投稿・共有・批評まで処罰が広がる不安を抑えるため |
| 通常廃棄やポイ捨てとどう区別するのか | 日常的な処分と侮辱目的の行為を混同しないため |
こうした条件が曖昧だと、国旗損壊罪は「明らかな侮辱行為を罰する法律」にとどまらず、「国家に批判的な表現を避けさせる法律」と受け取られる可能性があります。
国旗を大切に扱うべきだという考え方は、軽く扱えません。一方で、国家への批判を刑罰で抑えすぎてはいけないという考え方も、同じように重いものです。
だからこそ、国旗損壊罪の問題は、賛成か反対かだけでは決めにくいところがあります。どの行為を、どの条件で、どこまで処罰するのか。そこを曖昧にしたまま進めると、国旗を守るための法律が、表現を控えさせる圧力にもなり得ます。
【5】海外では国旗損壊をどう扱っているのか

海外の国旗損壊規制は、「国旗を大切にする国ほど厳しく罰する」という単純な話ではありません。
アメリカのように、国旗を燃やす行為を政治的表現として強く保護する国もあります。一方で、ドイツ、フランス、韓国のように、国家象徴への侮辱行為を一定の条件で処罰する国もあります。香港のように、国旗損壊規制が政治的な抗議活動の取締りと結びつきやすい地域もあります。
日本で国旗損壊罪を考えるときも、「海外では罰しているのか、罰していないのか」だけでは判断しにくいところがあります。どの行為を対象にしているのか。侮辱目的や公然性などの条件はあるのか。政治的表現を萎縮させる運用になっていないか。
見るべきなのは、規定の有無だけではなく、その国でどこに線を引いているのかです。
海外の国旗損壊規制は国によって考え方が違う
国旗損壊をめぐる海外制度は、国によってかなり考え方が違います。
アメリカでは、国旗を燃やす行為が不快な表現であっても、政治的なメッセージを伝えるものとして保護される場合があります。政府がその表現を処罰することには、かなり強い制限がかかります。
一方で、ドイツ、フランス、韓国などは、国旗や国章への侮辱行為を処罰する規定を持っています。ただし、どの行為を処罰するのか、どのような目的が必要なのか、公共の場に限るのかといった条件は国ごとに違います。
香港では、国旗や国章への侮辱行為が、国家への反抗や抗議活動の文脈で問題になる場面があります。ここでは、国旗を守る規定が、政治的な取締りと近いところで使われる危うさも見えてきます。
海外比較で見たいのは、「規定があるかないか」だけではありません。表現の自由との関係、処罰対象の絞り方、実際の運用まで見ないと、日本に引き寄せて考えることはできません。
アメリカは国旗損壊を政治的表現として強く守る
アメリカでは、国旗を燃やす行為が政治的表現として憲法上保護される場合があります。代表的な判例が、1989年の連邦最高裁判決「Texas v. Johnson」です。
この事件で連邦最高裁は、抗議としてアメリカ国旗を燃やした行為について、社会が強く不快に感じる表現であっても、その不快感だけでは表現を抑える理由にならないと判断しました。
ここにあるのは、表現の自由は「受け入れやすい表現」だけを守るものではない、という考え方です。国旗は国家の象徴です。だからこそ、それを使った抗議は強い政治的メッセージになります。見る人が反発する表現であっても、政府批判や政治的抗議であれば、国家が簡単に処罰することはできないという発想です。
ただし、アメリカでも何をしても自由という意味ではありません。他人の国旗を壊した場合、危険な場所で火を使った場合、暴力や脅迫を伴う場合は、別の法律問題になり得ます。保護されるのは、あくまで政治的表現としての国旗焼却であって、他人の権利侵害や公共安全の問題まで免除されるわけではありません。
また、アメリカでも国旗焼却を規制しようとする政治的な動きは繰り返しあります。2025年には、当時の大統領が国旗焼却に関する訴追を促す大統領令を出しましたが、その文面も「利用可能な権限の範囲で」対応する内容でした。最高裁判例との関係が、ここでも問題になります。
ドイツ・フランス・韓国は条件付きで国家象徴を守る
ドイツ、フランス、韓国は、いずれも国旗や国章への侮辱行為を処罰する制度を持っています。ただ、どの国も「国旗を粗末にしたら何でも罪」という形ではありません。
ドイツ刑法90a条は、ドイツ連邦共和国や州、その憲法秩序、色、旗、紋章などを侮辱・中傷する行為を処罰対象としています。また、公に掲げられた連邦や州の旗を除去、破壊、損傷、使用不能にすることなども問題になります。
フランスでは、刑法R645-15条が、公共の秩序を乱し得る状況で、三色旗を侮辱する意図をもって、公の場所などで旗を破壊・損傷・侮辱的に使用する行為を処罰対象にしています。私的な場所で行われた場合でも、その映像を拡散する行為が問題になり得る形です。
韓国では、刑法105条が、大韓民国を侮辱する目的で国旗または国章を損傷・除去・汚損した者を処罰する規定を置いています。条文上は「侮辱する目的」が要件として入っており、国旗だけでなく国章も対象です。
この3か国を見ると、国旗損壊を処罰する制度があるとしても、対象や条件はかなり絞られていることがわかります。公然性、公共の秩序、侮辱目的、対象物の範囲。どこで歯止めを置くのかが、それぞれの制度で問われています。
日本と欧州諸国では国旗の歴史的背景が異なる
海外制度を日本に当てはめるときは、その国の歴史や国家観の違いも見ておきたいところです。特に欧州諸国では、国旗や国章が、共和国、憲法秩序、国家統合の象徴として制度の中に組み込まれている場合があります。
たとえば、ドイツでは基本法に連邦旗の色が定められており、刑法でも国家や憲法秩序、その象徴を侮辱する行為を扱っています。国旗の保護は、単なる国民感情だけでなく、憲法秩序や国家制度の保護と結びつけて考えられています。
フランスでも、三色旗は共和国の象徴として強い意味を持ちます。ただ、フランスの規定も、公共の秩序を乱し得る状況や侮辱の意図などを条件にしています。すべての不適切な扱いを、一律に刑罰化しているわけではありません。
この点は、日本で国旗損壊罪を考えるときにも参考になります。
日本国旗を守る必要があるとしても、「海外にも同じような規定があるから」だけでは説明として足りません。日本では、現行法で対応できる範囲、表現の自由との関係、国旗に対する社会的な受け止め方、政治的対立への影響を、日本の制度環境の中で考えることになります。
海外比較は、賛成・反対のどちらかを補強するためだけの材料ではありません。国ごとに条件や背景が違うことを知ると、日本でどこまで刑罰化するのかを、少し冷静に見やすくなります。
香港の事例は政治的取締りへの転用リスクを示す
香港の事例を見ると、国旗損壊規制が政治的な取締りと結びつくリスクも見えてきます。
香港の国旗・国章条例では、国旗や国章を公然と、故意に燃やす、傷つける、落書きする、汚す、踏みつけるなどの行為が犯罪とされています。また、国旗や国章を侮辱する意図で、侮辱行為の画像を公表することも問題になり得ます。
香港では、2019年の抗議活動の中で中国国旗を燃やした13歳の少女に対し、裁判所が保護観察を命じたと報じられています。国旗損壊が、単なる物の破損ではなく、国家や政府への抗議として扱われやすいことを示す例です。
もちろん、日本と香港では政治制度も法環境も違います。香港の事例を、そのまま日本に当てはめることはできません。
それでも、国家象徴を守る法律が、政治的抗議を取り締まる道具として使われる可能性は見過ごせません。国旗を傷つける行為は、政府批判や国家への抗議と結びつくことがあります。処罰範囲が広すぎたり、SNS投稿まで曖昧に対象化されたりすると、政治的表現への萎縮効果が広がるおそれがあります。
海外比較をまとめると、次のようになります。
| 国・地域 | 処罰の有無 | 表現の自由との関係 | 運用リスク |
|---|---|---|---|
| アメリカ | 国旗焼却は政治的表現として保護される場合がある | 表現の自由を強く優先 | 他の違法行為と結びつく場合は別問題 |
| ドイツ | 国家・州の象徴への侮辱や旗の損壊を処罰する規定がある | 憲法秩序や国家象徴の保護と結びつく | 批判表現との線引きが必要 |
| フランス | 公共秩序や侮辱目的などを条件に処罰規定がある | 条件付きで国家象徴を保護 | 映像拡散まで対象になり得る点に注意 |
| 韓国 | 国旗・国章への損傷、除去、汚損を処罰する規定がある | 侮辱目的を要件にしている | 国家侮辱と政治批判の区別が課題 |
| 香港 | 国旗・国章の侮辱行為や関連画像の公表が処罰対象になり得る | 国家象徴保護が政治的文脈と結びつきやすい | 抗議活動の取締りに使われる懸念がある |
この比較から見えるのは、国旗損壊罪の論点が「海外に規定があるかどうか」だけでは決まらないということです。
日本で法律化を考えるなら、どの国の制度に近づけるかよりも、日本で本当に処罰すべき行為はどこなのかを見なければなりません。政治的表現や日常的な廃棄まで巻き込まないために、どの条件を置くのか。そこを曖昧にすると、海外比較はかえって議論を粗くしてしまいます。
【6】国旗損壊罪の運用Q&A|国旗を捨てる・配られる・ポイ捨てする場合
国旗損壊罪の話で不安になりやすいのは、「普通に捨てただけでも罪になるのか」という点です。
たとえば、一般参賀でもらった小旗を家に持ち帰ったあと、保管に困ることもあるでしょう。街頭演説で配られた国旗を受け取るか迷う場面もあります。そうした日常の行為まで、国旗損壊罪として扱われるのか。ここは気になるところです。
ただ、古くなった小旗を家庭ごみとして処分する行為と、人前で国旗を踏みつけたり、燃やしたりする行為は、同じ「国旗を処分した」という話ではありません。
この章では、一般参賀でもらった小旗、街頭演説で配られた国旗、路上へのポイ捨て、会場ルール、通報目的の利用など、日常場面で出てきやすい疑問をQ&A形式で見ていきます。
Q. 一般参賀でもらった小旗を捨てたら罪になるのか
A. 普通に持ち帰って、家庭ごみとして処分するだけなら、国旗損壊罪の中心的な場面とはかなり違います。
ここでまず見るのは、国旗を侮辱する目的があるかどうかではなく、通常の廃棄かどうかです。保管できなくなった、破れてしまった、引っ越しで持ち物を減らしたい。そうした理由で処分する場合は、不要になった物を片付ける行為に近いでしょう。
もちろん、自治体のごみ出しルールには従う必要があります。紙、プラスチック、竹串などが混ざった小旗であれば、分別が必要になることもあります。ただ、これは国旗損壊罪というより、一般的な廃棄ルールの話です。
仮に国旗損壊罪を法律化する場合でも、通常の処分まで処罰対象に含めてしまうと、一般の人が小旗を受け取ること自体に不安を感じるようになります。古くなった国旗や配布された小旗をどう処分してよいのかは、条文や公式説明ではっきり示されるべきところです。
Q. 街頭演説で配られた国旗を拒否・廃棄したら罪になるのか
A. 受け取らないこと自体は、国旗損壊罪とは別の話です。
街頭演説や政治集会で配られた国旗を受け取るかどうかは、基本的には受け取る側が判断することです。不要であれば断る。受け取ったあとに返す。回収場所があればそこに入れる。こうした対応は、通常の受領拒否や処分として見られる場面が多いでしょう。
一方で、受け取った国旗をその場でわざと踏む、破る、燃やす、動画に撮って投稿するとなると、話は変わります。単なる廃棄ではなく、国旗への侮辱目的があるのか、政治的抗議なのか、場所のルールや安全面に問題があるのかが問われやすくなります。
街頭で国旗を受け取らなかっただけなら、まずは受領拒否の話です。人前で破る、踏む、燃やすといった行為とは、同じ線上で扱わないほうがよいでしょう。
Q. 国旗をその辺にポイ捨てしたら何の問題になるのか
A. まず問題になるのは、国旗損壊罪というより、ポイ捨てや不法投棄の話です。
国旗を道路、公園、駅前、会場周辺などに捨てた場合、国旗であるかどうか以前に、不要物をその場に捨てたことが問題になり得ます。廃棄物処理法16条は、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と定めています。
自治体によっては、空き缶、たばこの吸い殻、紙くずなどのポイ捨てを条例で規制している場合もあります。配布された小旗であっても、路上や公園に放置すれば、地域のルールや施設管理上の問題になる可能性があります。
ただし、ポイ捨ての問題と、国旗への侮辱の問題は同じではありません。
小旗を道に捨てる行為は、ごみの放置として問題になり得ます。そこに加えて、人目につく場所にあえて国旗を置く、踏ませるようにする、汚す様子を撮影して投稿する、といった事情があれば、通常のポイ捨てとは違う評価が出てきます。
「国旗を捨てたから国旗損壊罪」とすぐに考えるのではなく、どこに、どのように、何の目的で捨てたのかを見ることになります。
Q. 会場ルールや自治体条例は国旗損壊罪とは別に確認する必要があるのか
A. あります。実際の場面では、国旗損壊罪だけで判断できないことが多いです。
イベント会場で配られた小旗をそのまま会場内に置いて帰れば、会場の清掃ルールや持ち帰りルールに反する場合があります。公園や駅前で国旗を燃やせば、国旗への侮辱以前に、火気使用や安全管理の問題が出てきます。式典会場の国旗を勝手に外せば、所有者や管理者との関係も避けて通れません。
実際には、次のように見る対象が変わります。
| 場面 | まず確認すべきこと |
|---|---|
| 会場で配られた小旗を処分したい | 回収場所、持ち帰りルール、ごみ分別 |
| 公園や道路で国旗を捨てた | ポイ捨て条例、不法投棄、施設管理ルール |
| 国旗を燃やした | 火気使用の可否、消防・安全上の規制 |
| 式典会場の国旗を外した | 所有者・管理者の権限、会場ルール |
| SNSに動画を投稿した | 国旗損壊罪の対象範囲、投稿規約、拡散による影響 |
国旗損壊罪が話題になると、「国旗に関する行為は全部その法律で決まる」と見えがちです。けれど実際には、場所、所有者、管理者、火気、ごみ処理の問題が重なります。
実生活では、「国旗だからどうか」だけでなく、「その場所でその行為をしてよいのか」も見る必要があります。
Q. 国旗を配って相手の反応を通報する使い方は問題ないのか
A. 法律化された場合に不安が残るのは、国旗が政治的な圧力の道具として使われることです。
たとえば、街頭で国旗を配り、受け取らなかった人や捨てた人を撮影する。そして「国旗を侮辱した」と通報したり、SNSで晒したりする。そうした使い方が広がると、国旗損壊罪は本来の処罰範囲を超えて、人の態度を試す道具になってしまいます。
もちろん、国旗を配ること自体がすぐに問題になるわけではありません。国旗を敬ってほしいという思いで配布する人もいるでしょう。
ただ、相手の反応を見るために国旗を渡し、拒否や処分を「反国家的な態度」として扱うようになると、話は別です。受け取らなければ非難されるのか。持ち帰らなければいけないのか。捨てたら通報されるのか。そう感じる人が増えれば、国旗損壊罪そのものより、周辺の監視や炎上を恐れる空気が強くなります。
だからこそ、法律化するなら、国旗を普通に拒否する行為、不要になった小旗を適切に処分する行為、侮辱目的で公然と損壊・汚損する行為は、はっきり区別されなければなりません。
国旗損壊罪の問題は、条文の文言だけでは終わりません。実際にどう使われるかも、かなり重い論点です。
Q. 法律化するなら侮辱目的と対象範囲をどう限定すべきか
A. 国旗損壊罪を法律化するなら、処罰対象はできるだけ狭く、具体的に示す必要があります。
対象が曖昧なままだと、通常の廃棄、ポイ捨て、創作表現、政治的批判まで不安の対象になります。少なくとも、次の点ははっきりさせたいところです。
| 確認すべき条件 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 対象は本物の日本国旗に限るのか | 国旗風のイラスト、画像、創作物を巻き込まないか |
| 自己所有の国旗をどう扱うのか | 他人の国旗の損壊と、自分の国旗を使った表現を区別するか |
| 侮辱目的を要件にするのか | 政治的批判や通常廃棄と区別できるか |
| 公然性を要件にするのか | 私的な処分や家庭内の廃棄まで対象にしないか |
| 通常廃棄を対象外にするのか | 古くなった国旗や配布小旗の適切な処分を明確に除けるか |
| SNS投稿やライブ配信をどう扱うのか | 損壊行為、投稿、引用、批評、拡散を区別できるか |
| 配布された小旗の拒否や処分をどう扱うのか | 通報目的の利用や政治的圧力を防げるか |
この中でも、とくに大きいのは、侮辱目的と通常の廃棄の区別です。古くなった国旗を処分する行為と、国旗を侮辱する目的で人前で破る行為は、同じように国旗を傷つけているように見えても、意味が違います。
本物の日本国旗と、国旗をモチーフにした表現物の区別も欠かせません。お子様ランチの旗、紙の小旗、イラスト、動画内の演出などをどこまで含むのかが曖昧だと、創作や日常行為にまで不安が広がります。
国旗損壊罪をめぐる議論では、「国旗を敬うかどうか」だけではなく、「刑罰を使ってどこまで行動や表現を制限するのか」が問われます。
日常的な処分なのか。侮辱目的の損壊・汚損なのか。政治的抗議なのか。そこを曖昧にしたままでは、国旗損壊罪が本当に必要なのかも判断しにくくなります。
Q. お子様ランチや飾りに使われる小さな日の丸風の旗も対象になるのか
A. まず、本物の日本国旗として扱われるものなのか、単なる装飾用・国旗風デザインなのかを分けて考える必要があります。装飾用の小さな旗を通常のごみとして処分する行為まで、ただちに国旗損壊罪の問題と見るのは広すぎます。ただし、正式な法案本文で対象物の範囲がどう定義されるかは確認が必要です。
編集後記
旗損壊罪について考えると、最初に動くのはやはり感情の部分だと思います。国旗を燃やしたり、踏みつけたりする場面を見れば、嫌な気持ちになる人はいるはずです。その感覚を、ただの感情論として片づける必要はないと思います。
ただ、嫌だと感じることと、刑罰で止めることは同じではありません。国旗は敬意の対象である一方で、国家や政府への抗議に使われることもあります。だからこそ、法律で扱うなら、どこまでを罰するのかを慎重に見なければなりません。
個人的に気になるのは、国旗を守るための法律が、人の態度を試す道具になってしまうことです。国旗を受け取るか、どう扱うか、捨てたらどう見られるか。そうした不安まで広がるなら、感情だけで決めてよい話ではないのだと思います。
参照・参考サイト
e-Gov法令検索・刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
e-Gov法令検索・国旗及び国歌に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000127/
衆議院・刑法の一部を改正する法律案
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18005014.htm
自由民主党・国旗の損壊等に関する制度検討PT 議論の整理と論点を取りまとめ
https://www.jimin.jp/news/information/213121.html
日本弁護士連合会・刑法の一部を改正する法律案(国旗損壊罪新設法案)に関する会長声明
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2012/120601_2.html
e-Gov法令検索・廃棄物の処理及び清掃に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137


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