ナフサ不足と聞くと、原料が足りず、身近な製品まで作れなくなるように感じるかもしれません。
ただ、いま起きていることは、ナフサが日本からすべて消えたという単純な話ではありません。中東依存を含む調達構造の揺れ、原油やナフサ価格の上昇、トルエン・キシレン・シンナーなど品目別の不足感が重なって見えている問題です。
そのため、「供給は確保されているはずなのに、なぜ現場では材料が入りにくいのか」「プラスチック原料の在庫があるなら、本当に不足しているのか」といった疑問が出てきます。ナフサ不足は、全体の量だけを見ると実態をつかみにくいテーマです。
この記事では、日本のナフサ調達を「中東からの輸入」「中東以外からの輸入」「国内精製」の3つに分けて見ていきます。そのうえで、なぜ供給不安が起きるのか、どの品目で不足感が出やすいのか、塗料・インキ・建築資材などにどのような影響が及ぶのかを確認します。
あわせて、プラスチック原料の在庫があっても、トルエンやシンナーなどの溶剤系不足をそのまま補えない理由にも触れます。ナフサ不足を「足りているか、足りていないか」だけで見るのではなく、「どの調達ルートがボトルネックなのか」「どのような在庫なのか」「どの品目で困っているのか」を解説していきます
【1】ナフサ不足は「全部足りない」という話ではない

ナフサ不足は、ナフサという原料が日本からすべて消えた状態を指すわけではありません。
実際には、輸入ルートの不安定さ、国内精製の前提となる原油調達、価格上昇による採算悪化、トルエンやシンナーなど品目別の不足感が重なって見えている問題です。
そのため、ナフサ不足を「ナフサがあるか、ないか」だけで見ると、政府や業界の説明と現場の声が食い違って見えます。
まずは、ナフサ全体の調達の話と、実際に不足が目立つ製品・材料の話を分けて見ていきます。
ナフサ不足はナフサ全体が消えた問題ではない
ナフサとは、原油を精製する過程で得られる軽質油の一種で、石油化学製品のもとになる上流原料です。
生活の中でナフサそのものを目にする機会はあまりありません。けれど、プラスチック、合成繊維、塗料、接着剤、インキ、溶剤など、身近な製品の材料につながっています。
ただ、ナフサ不足と聞いて、プラスチック製品や日用品まで一気に作れなくなると考えるのは早いです。見るべきなのは、ナフサ全体の調達量だけではありません。
ナフサからつくられる中間材料や下流の製品のうち、どこで詰まりが出ているのか。そこによって、現場への影響は変わります。
ナフサ不足は、「すべてのナフサ由来製品が同じように足りない」という話ではありません。原料、加工、流通、品目のどこかに偏りが出ている状態として見るほうが、実態に近くなります。
ナフサ不足と溶剤不足は分けて見る
ナフサ不足を考えるときは、ナフサそのものの調達問題と、トルエン・キシレン・シンナーなどの溶剤不足を分けて見るとわかりやすくなります。
ナフサは、石油化学の入り口にある原料です。
一方で、トルエンやキシレン、シンナーは、ナフサから複数の工程を経てつくられる化学品や混合溶剤です。出発点は同じでも、途中で分かれたあとの製品は、用途も性質も違います。
そのため、ナフサ全体の供給が一定程度あっても、現場で必要な溶剤が十分に届くとは限りません。反対に、特定の溶剤が不足しているからといって、ナフサ全体が完全に止まっているとも言い切れません。
この階層を分けておくと、「ナフサは確保されているのに、なぜ現場では材料が入りにくいのか」という疑問が見えやすくなります。
ナフサ不足で読者が混乱しやすい点
ナフサ不足がわかりにくいのは、話す人によって見ている場所が違うためです。
政府や業界の資料では、原油やナフサの確保、輸入量、備蓄原油、民間在庫など、比較的大きな単位で供給状況が語られます。
一方で、建築、塗装、印刷、製造業の現場で問題になるのは、今日使う溶剤、来週入る塗料、取引先からの納期回答です。
同じ「不足」という言葉でも、見ている場所が違えば、受け止め方も変わります。
| 混乱しやすい見方 | 見るときの視点 |
|---|---|
| ナフサが全部足りないのか | 全体量と品目別不足を分ける |
| 在庫があるなら問題ないのか | 在庫の段階と使える品目を見る |
| 国内精製があるなら安心なのか | 国内精製は原油確保が前提になる |
| プラスチック原料があるなら代替できるのか | プラスチック原料と溶剤系は用途が違う |
| 政府説明と現場の声が食い違うのはなぜか | 供給確保と個別品目の不足は同時に起こりうる |
ここで見ておきたいのは、「供給はある」という説明と、「必要な材料が入りにくい」という現場の声が、必ずしも矛盾しないことです。
全体の供給量を見ているのか。現場で使う品目を見ているのか。そこが変わるだけで、同じ状況でも違う言葉で語られることがあります。
ナフサ不足は調達構造・採算性・品目別で見る
ナフサ不足を見るときは、ひとつの数字だけを追っても実態をつかみにくくなります。
どこから入ってくるのか、作っても採算が合うのか、実際にどの品目が足りないのか。少なくとも、この3つを分けて考えたほうが判断しやすくなります。
まず見たいのは、調達構造です。日本のナフサ調達は、中東からの輸入、中東以外からの輸入、国内精製に分けられます。国内精製ナフサも、もとになる原油を確保できてはじめて成り立ちます。
次に、採算性です。ナフサや原油の価格が上がると、メーカーは原料を確保できても、採算が合いにくい品目の生産を調整することがあります。原料がゼロではなくても、市場に出る量が絞られれば、現場では不足感が強まります。
もうひとつが、品目別の不足です。ナフサからつくられる製品は、プラスチック原料、溶剤、塗料原料、インキ原料などに分かれます。ある品目の在庫があっても、別の品目の不足をそのまま補えるとは限りません。
ナフサ不足は、全体量だけで判断しにくい問題です。どのルートで入り、どの段階で加工され、どの品目で詰まっているのか。そこまで分けて見ると、ニュースの説明と現場の声を切り分けて受け止めやすくなります。
【2】日本のナフサ調達は3つのルートで成り立つ

日本のナフサ調達は、大きく分けると「中東からの輸入」「中東以外からの輸入」「国内精製」の3つで成り立っています。
ここで見るべきなのは、輸入量だけではありません。どの地域から入っているのか、国内で得る場合は原油を確保できているのか、備蓄でどこまで支えられるのか。そこを分けて見ないと、ナフサ不足の実態はつかみにくくなります。
日本のナフサ調達は中東輸入・中東外輸入・国内精製に分かれる
日本のナフサ調達は、ひとつのルートだけに頼っているわけではありません。海外からナフサとして輸入するルートと、原油を国内で精製してナフサを得るルートがあります。
中東危機以前の2024年平均で見ると、日本のナフサ調達は中東からの輸入が約44.6%、国内精製が約39.4%、中東以外からの輸入が約16.0%でした。輸入ナフサだけに限れば、中東の比率は73.6%と高く、調達構造の中で中東ルートが大きな位置を占めていたことがわかります。
| 調達ルート | 中東危機以前の目安 | 何を確保するか | 役割 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 中東からの輸入ナフサ | 約44.6% | ナフサそのもの | 大きな調達先になる | 中東情勢や海上輸送リスクの影響を受けやすい |
| 中東以外からの輸入ナフサ | 約16.0% | ナフサそのもの | 代替ルートとして使える | 数量、価格、契約条件に左右される |
| 国内精製ナフサ | 約39.4% | 原油を国内で精製して得るナフサ | 国内で得られる部分を支える | 原油確保と製油所の稼働が前提になる |
| 備蓄 | 調達元シェアの対象外 | 主に原油や石油製品の備え | 供給不安への備えになる | ナフサそのものの備蓄とは分けて見る必要がある |
出典:内閣官房「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び流通円滑化に関する関係閣僚会議」資料、石油化学工業協会「石油化学用原料ナフサ」
この表で見ておきたいのは、中東からの輸入だけで日本のナフサ調達が成り立っているわけではない一方で、中東ルートの比重はかなり大きいという点です。国内精製ナフサも約4割ありますが、そのもとになる原油の多くは海外から入ります。国内で精製できることと、原油調達の不安から切り離されていることは同じではありません。
中東からのナフサ輸入は大きな比重を占める
日本のナフサ調達では、中東からの輸入が大きな比重を占めてきました。中東は原油だけでなく、石油化学原料の供給地としても欠かせない地域です。
そのため、中東情勢が不安定になったり、ホルムズ海峡などの海上輸送に不安が出たりすると、日本のナフサ調達にも影響が及びやすくなります。ナフサ不足の話で「中東依存」や「輸入リスク」という言葉が出てくるのは、このためです。
ただ、中東からの輸入比重が大きいことと、日本中のナフサがすぐになくなることは同じではありません。実際の供給は、契約、在庫、代替輸入、国内精製などを組み合わせて維持されます。
注目しておきたいのは、中東ルートが揺れたときに、価格、納期、調達先の組み替えを通じて、どこに負担が出るのかです。
中東以外からのナフサ輸入は代替ルートになる
中東からの調達に不安が出ると、日本は中東以外の地域からナフサを輸入して補おうとします。これが中東外輸入です。
中東外輸入には、調達先を分散する意味があります。ひとつの地域に偏りすぎると、その地域の政治情勢、港湾、輸送路、価格変動の影響を強く受けます。複数の地域から調達できれば、その分だけリスクを分けられます。
中東外輸入は、調達先分散するうえで欠かせない選択肢です。とはいえ、必要な数量を押さえ、条件を詰め、予定どおり届かせるまでには時間がかかります。代替ルートがあることと、現場の不安がすぐ消えることは別です。
国内精製ナフサも原油確保が前提になる
国内精製ナフサとは、日本国内の製油所で原油を精製する過程で得られるナフサです。国内で得られるため、輸入ナフサより安定しているように見えるかもしれません。
ただし、国内精製ナフサは原油確保が前提です。日本は原油の多くを海外から輸入しています。国内で精製する場合でも、もとになる原油が届かなければ、ナフサも十分には得られません。
ここは誤解しやすいところです。「国内精製がある」と聞くと、日本国内だけでナフサをまかなえるように感じるかもしれません。けれど、国内精製とは、原油を国内で加工するという意味です。原油そのものを国内で十分に確保できるという意味ではありません。
たとえば、工場に製造設備があっても、原料が入らなければ製品は作れません。国内精製ナフサも同じです。設備の有無と、原油を安定して調達できるかどうかは分けて考える必要があります。
国内精製ナフサを見るときは、生産量だけでなく、その前提にある原油調達も切り離せません。原油が届き、製油所が動き、石油化学向けに回せる量がある。そこまでそろって初めて、国内精製は供給の支えになります。
石油備蓄とナフサ由来品の供給は分けて見る
ナフサ不足で不安が広がると、「石油備蓄があるなら大丈夫なのでは」と考える人もいます。ここで注意したいのは、原油や燃料油の備蓄と、ナフサ由来の化学品や溶剤は同じではないということです。
日本には、原油や石油製品の備蓄制度があります。ただし、政府資料で示される備蓄日数は燃料油を基準にしたもので、ナフサ等への供給分はその算定に含まれていません。
そのため、国全体として原油や石油製品の備えがあっても、特定の化学品や溶剤が現場ですぐ手に入るとは限りません。備蓄原油があることと、塗料用溶剤やインキ用溶剤が必要なタイミングで流通することは、別の段階の話です。
ナフサ不足を見るときは、「備蓄があるか」だけでは足りません。その備蓄が何を対象にしているのか、ナフサや中間材料に変わるまでに何が必要なのか、現場で使う品目に届くまで時間がかかるのかを分けて見る必要があります。
日本のナフサ調達は、複数のルートを組み合わせて成り立っています。ただし、そのどれも完全に独立した安定ルートではありません。
【3】中東依存の調達構造はどう変わっているのか
日本のナフサ調達は、中東からの輸入を大きな柱にしながら、中東以外からの輸入や国内精製も組み合わせて成り立っています。
供給不安が起きるのは、この調達構造が揺れ、別のルートへの組み替えが必要になるためです。
ただ、調達先を増やせば、現場の不足感がすぐ消えるわけではありません。価格、輸送、原油調達、品目ごとの需給が重なるため、「供給は確保されている」という説明と、「必要な材料が入りにくい」という現場の声は同時に起こり得ます。
中東情勢の悪化で中東ナフサの輸入リスクが高まる
中東からのナフサ輸入は、日本の石油化学産業にとって大きな調達ルートです。だからこそ、中東情勢が不安定になると、ナフサ不足への警戒感も強まりやすくなります。
ここでいうリスクは、ナフサが一気にすべて止まることだけではありません。船の運航リスク、保険料の上昇、輸送日数の長期化、契約条件の変化、価格上昇なども含まれます。
原料が届いていても、以前より高く、遅く、不安定になれば、企業は調達計画を立てにくくなります。
特にホルムズ海峡のような重要な輸送路に不安が出ると、原油やナフサの供給不安は意識されやすくなります。建築、塗装、印刷、製造業の現場では、こうしたニュースが「来月の材料は入るのか」「価格はさらに上がるのか」という不安につながります。
ただし、中東リスクがあるからといって、日本のナフサ全体がすぐに不足すると決めつける必要はありません。見るべきなのは、中東ルートが揺れたとき、その負担が価格、納期、品目別の供給にどう出るかです。
有事前後で見ると輸入ナフサの落ち込みが大きい
有事前後の数字を見ると、国内精製ナフサは大きく崩れていない一方で、輸入ナフサの落ち込みが目立ちます。
経済産業省の石油統計では、2026年3月のナフサ国内生産量は998,953kLで、前年同月比100.0%でした。一方、ナフサ輸入量は1,187,154kLで、前年同月比56.0%まで減っています。国内向け販売も2,210,971kL、前年同月比74.5%に下がりました。
| 区分 | 有事前の目安・実績 | 有事後の実績・見込み | 見るべき点 |
|---|---|---|---|
| 国内生産ナフサ | 2025年3月:999,145kL | 2026年3月:998,953kL | 3月時点では前年同月とほぼ同水準 |
| 輸入ナフサ合計 | 2025年3月:2,121,211kL | 2026年3月:1,187,154kL | 前年同月比56.0%まで減少 |
| 中東からの輸入ナフサ | 2024年:15,122千kL 月平均:約126万kL | 4月以降の国別確報待ち | 平時の輸入ナフサの73.6%を占めていた |
| 中東以外からの輸入ナフサ | 2024年:5,438千kL 月平均:約45万kL | 2026年4月:約90万kL 2026年5月:135万kL超見込み | 代替調達として平時の約2〜3倍に増加 |
出典:経済産業省「石油統計速報 令和8年3月分」、石油化学工業協会「石油化学用原料ナフサ」、ロイター「中東以外からのナフサ輸入、4月は倍増の見通し=経産省」
2024年の輸入ナフサは、全体で20,560千kLでした。このうち中東からの輸入は15,122千kLで、輸入ナフサ全体の73.6%を占めています。中東以外からの輸入は差し引きで5,438千kL、月平均にすると約45万kLです。
ここに、2026年4月の中東以外からの到着見込み約90万kL、5月の135万kL超という数字を重ねると、変化が見えやすくなります。中東外からの輸入は、平時の約45万kLから、4月に約2倍、5月に約3倍へ増やす動きです。
ここで見ておきたいのは、国内生産が維持されていても、輸入ナフサが大きく減ると全体の余裕は削られることです。中東以外からの調達を増やしているとはいえ、輸送日数、価格、契約条件、到着時期まで含めると、現場の不安がすぐに消えるわけではありません。
中東以外からのナフサ輸入は増えている
中東依存を下げるために、日本は中東以外からのナフサ輸入も活用しています。中東ルートが揺れたときに備え、調達先の選択肢を増やす動きです。
中東以外からの輸入が増えることは、供給不安をやわらげる材料になります。ひとつの地域に頼りすぎるより、複数の地域から調達できるほうが、輸送路や地域情勢の影響を分散しやすくなるためです。
ただ、調達先を切り替える局面では、輸送費、到着時期、契約条件の調整が重なります。現場から見れば、「入る見込みはあるが、価格や納期は読みにくい」という状態になりやすいです。
代替ルートを増やす過程そのものが、現場の調達不安につながる場合もあります。
国内精製の維持は原油調達に左右される
国内精製ナフサは、輸入ナフサの不安を補うルートとして見られやすい存在です。
ただし、国内精製を維持できるかどうかは、もとになる原油を安定して調達できるかに左右されます。
国内に製油所があっても、原油の調達が不安定になれば、ナフサの生産にも影響が出ます。また、製油所の稼働状況や採算、石油化学向けにどれだけ回せるかによっても、国内精製ナフサの供給余力は変わります。
国内精製は、輸入ナフサとは別の支えになります。ただし、それだけで海外情勢から自由になるわけではありません。国内で精製する場合でも、もとになる原油を安定して確保できるかが、供給余力を左右します。
政府や業界の供給確保は全品目の安心を意味しない
政府や業界が「供給確保に努めている」「一定量を確保している」と説明しても、それがすべての品目で不足が起きないという意味にはなりません。
供給確保の説明は、多くの場合、原油、ナフサ、石油製品、全体在庫など大きな単位で語られます。一方で、現場が必要としているのは、トルエン、キシレン、シンナー、塗料用溶剤、インキ用溶剤など、もっと具体的な品目です。
大きな単位では供給が維持されていても、特定の品目では不足感が出ることがあります。
たとえば、全体として原料や在庫があっても、ある製品に必要な材料だけが品薄になる場合があります。そのとき、「供給は確保されている」という説明と、「現場ではその材料が足りない」という声は、どちらも成り立ちます。
ナフサ不足を読むときは、供給確保という言葉が、どの範囲の供給を指しているのかを見ておくと判断しやすくなります。
ナフサ価格の高騰でメーカーが生産を絞る場合がある
ナフサ不足は、物理的に原料が届かない場合だけで起きるわけではありません。価格上昇や調達不安が、企業の生産・出荷判断に影響する形で表れることもあります。
原料価格が上がっても、販売価格にすぐ転嫁できるとは限りません。塗料、インキ、樹脂、溶剤などの分野では、取引先との契約や市場価格の影響も受けます。
そのため、採算や契約条件を見ながら、生産量や出荷量が調整される場合があります。この場合、原料が完全にないわけではなくても、市場に出る量が減り、現場では不足感が強まることがあります。
「注文しても納期が出ない」
「いつもより数量を絞られる」
「値上げと品薄が同時に来る」
現場では、こうした形で影響が見えやすくなります。
ナフサ不足の背景には、供給量だけでなく、価格上昇や採算面の問題もあります。原料や製品が一定量あっても、企業の生産・出荷判断を通じて、特定の品目に影響が出ることがあります。
供給確保と現場の不足感は分けて考える
ナフサ不足を理解するには、「国全体や業界全体で供給が確保されているか」と「現場で必要な品目が手に入るか」を分けて見る必要があります。
輸入ルートの変更、国内精製、在庫、代替調達によって、一定の供給が保たれている場合があります。けれど、現場では必要な溶剤や塗料原料が、必要な時期に、必要な量だけ届かないことがあります。
ここが、ナフサ不足をわかりにくくしている部分です。
「在庫があると聞いたのに、なぜ不足しているのか」
「中東以外から輸入しているなら、なぜ価格が上がるのか」
「国内精製できるなら、なぜ安心と言い切れないのか」
こうした疑問は、ナフサ不足をひとつの大きな不足として見ると解きにくくなります。調達構造、価格、在庫の段階、品目別の需給を分けて見ることで、全体説明と現場感の違いを受け止めやすくなります。
【4】不足が目立つのはトルエンやシンナーなどの溶剤系

ナフサ不足の影響は、ナフサそのものだけに出るわけではありません。
現場で問題になりやすいのは、ナフサからつくられる中間原料や、そこからさらに加工された溶剤系の品目です。なかでも、トルエン、キシレン、シンナー、塗料用溶剤、インキ用溶剤などは、建築、塗装、印刷、自動車補修の現場で不足感が出やすい材料です。
「ナフサが足りない」という言葉だけでは、少し遠く感じるかもしれません。けれど、塗料が入らない、シンナーの納期が読めない、インキ用の溶剤が確保しにくいとなると、現場ではすぐに工程の問題になります。
現場で不足しているのはナフサそのものだけではない
現場で困るのは、ナフサそのものを直接使えないことではありません。ナフサをもとにした化学品や溶剤が、必要なタイミングで入りにくくなることです。
ナフサは、石油化学製品の入り口にある上流原料です。そこからエチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの基礎化学品がつくられ、さらに樹脂、塗料、インキ、接着剤、溶剤などへ分かれていきます。
影響の出方は、どの段階で詰まりが起きるかによって変わります。原料の調達が不安定になる場合もあれば、価格上昇によって特定の品目の生産が絞られる場合もあります。流通の途中で在庫を確保する動きが強まり、現場に届きにくくなることもあります。
たとえば、建築現場で問題になるのは「ナフサがない」ことではなく、塗料やシンナーが予定通り入らないことです。印刷会社でも、ナフサそのものではなく、インキや洗浄用溶剤の調達が不安定になることが負担になります。
ナフサ不足は、現場では「実際に使う材料の不足」として表れます。
プラスチック原料の在庫があってもシンナー不足は補えない
政府は、ナフサを含む石油製品について、備蓄放出や代替調達により「日本全体として必要となる量」は確保していると説明しています。また、ナフサ由来の化学品についても、川下在庫の活用や国内精製などをあわせて、国内需要4か月分を確保しているとしています。
ただ、ここで注意したいのは、確保されている在庫の中身です。
ナフサからは、プラスチック原料になるポリエチレンなどもつくられます。一方で、シンナーの原料になるのは、トルエンやキシレンなどの溶剤系の化学品です。どちらもナフサ由来ではありますが、製品としては別のものです。石油化学工業協会も、ナフサはエチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどに分かれ、そこから各種製品につながると説明しています。
| 在庫・材料の種類 | 主な用途 | シンナー不足を補えるか |
|---|---|---|
| ポリエチレンなどのプラスチック原料 | フィルム、容器、包装材、成形品など | 補えない |
| 樹脂ペレット | プラスチック製品の成形材料 | 補えない |
| トルエン | 塗料、接着剤、インキ、洗浄用途など | 原料として関係する |
| キシレン | 塗料、インキ、化学品原料など | 原料として関係する |
| シンナー | 塗料の希釈、器具洗浄など | 現場で直接使う |
出典:経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」、石油化学工業協会「ナフサ分解工場」、石油連盟「ナフサとは」
プラスチック原料の在庫があっても、それをシンナーに戻すことはできません。建築塗装の現場でシンナーが足りないとき、樹脂ペレットが十分にあっても、塗料を薄めたり、刷毛を洗ったりする用途には使えないからです。
経済産業省も、全体量は確保している一方で、一部では供給の偏りや流通の目詰まりが生じていると説明しています。実際にシンナー原料となるトルエンやキシレンについては、国内向け供給が前年実績並みに続いているとしつつ、川中や流通段階で出荷抑制が起きた例にも触れています。
つまり、問題は「ナフサ由来のものが何かしらあるか」ではありません。現場で必要なのは、用途に合う品目です。シンナーが必要な現場にとっては、プラスチック原料の在庫ではなく、トルエン、キシレン、シンナーそのものが必要な時期に届くかどうかが問題になります。
トルエン・キシレン・シンナーの不足が目立つ
ナフサ不足と関連して名前が出やすいのが、トルエン、キシレン、シンナーなどの溶剤系です。
トルエンは、塗料、接着剤、インキ、洗浄剤などに使われる代表的な芳香族系溶剤です。キシレンも、塗料やインキ、化学品原料などに使われます。シンナーは単一の物質名ではなく、塗料を薄めたり、器具を洗浄したりするための混合溶剤です。
これらは、ナフサ由来の基礎化学品や中間原料と関係しています。とはいえ、ナフサがあれば自動的に十分な量のトルエンやシンナーが出回るわけではありません。
製造工程、需要、採算、物流、在庫の持ち方によって、特定の品目だけが不足することがあります。
溶剤系は、現場で「今日使う」「この工事で使う」「この印刷ラインで使う」という形で必要になります。少量でも欠けると作業の段取りが崩れるため、全体の供給状況以上に、不足感が強く出やすい品目です。
| 品目・材料 | 主な用途 | 影響を受けやすい分野 | 現場で起きやすい困りごと |
|---|---|---|---|
| トルエン | 塗料、接着剤、インキ、洗浄用途など | 塗装、印刷、接着剤関連 | 価格上昇、納期遅れ、代替品検討 |
| キシレン | 塗料、インキ、化学品原料など | 塗料、印刷、化学品製造 | 一部製品の調達難、配合変更の検討 |
| シンナー | 塗料の希釈、器具洗浄など | 建築塗装、自動車補修、設備工事 | 作業日程の遅れ、使用量の調整 |
| 塗料用溶剤 | 塗料の粘度調整、乾燥性調整など | 建築、工場、補修、リフォーム | 指定塗料の入荷遅れ、代替塗料の確認 |
| インキ用溶剤 | 印刷インキの調整、洗浄など | 包装印刷、商業印刷 | 印刷スケジュールの乱れ、資材費上昇 |
実際の不足状況は、地域、取引先、契約、在庫量によって変わります。だからこそ、「溶剤系が不足している」という大きな言い方だけでは、現場の影響を判断しきれません。どの品目が足りないのかまで見ておく必要があります。
塗装・建築・印刷・自動車補修は影響を受けやすい
ナフサ不足の影響を受けやすい分野として、塗装、建築、印刷、自動車補修があります。これらの分野では、トルエン、キシレン、シンナー、塗料用溶剤、インキ用溶剤などを日常的に使う場面が多いためです。
建築やリフォームでは、塗料やシンナーが予定通り入らないと、工程全体がずれます。外壁塗装では天候や足場の手配も関係します。材料が数日遅れるだけでも、職人の手配や工期に影響が出ることがあります。
印刷分野では、インキや洗浄用溶剤が不足すると、紙やフィルムがあっても印刷ラインを動かしにくくなります。食品包装や日用品のパッケージ印刷では、印刷スケジュールの遅れが、商品の出荷計画に響くこともあります。
自動車補修では、補修用塗料、希釈用シンナー、洗浄用溶剤が必要です。部品が届いていても、塗装関連の材料が足りなければ、修理や補修の完了が遅れる場合があります。
溶剤系の不足は、一般消費者が直接「シンナーを買えない」と感じるよりも、建築工事、印刷物、修理、包装資材などを通じて間接的に表れやすい問題です。
食品包装や日用品にもナフサ不足の影響が出る
ナフサ不足は、建築や工業だけの話ではありません。食品包装や日用品にも影響が及ぶ可能性があります。
食品包装には、フィルム、インキ、接着剤、コーティング材など、複数の石油化学製品が使われています。日用品でも、プラスチック容器、ラベル、包装材、接着剤、塗装部品などにナフサ由来の材料が関係します。
ただし、ナフサ不足だからといって、すぐに食品や日用品そのものが店頭からなくなると考える必要はありません。
影響は、包装資材の価格上昇、納期の長期化、仕様変更、代替材料の検討といった形で出やすくなります。商品自体を作れても、パッケージに使うフィルムや印刷インキ、接着剤の調達が不安定になれば、出荷計画に影響することがあります。
店頭の商品が急に消えるというより、メーカーや流通の裏側で調整が増えるイメージです。
生活者にとっては、価格改定、容量変更、納期の遅れ、品ぞろえの一時的な変化として感じられるかもしれません。ナフサ不足は原料の話に見えて、日用品の供給や価格にもつながっています。
全体の在庫確保と個別品目の不足は同時に起こる
溶剤系の不足で見落としやすいのは、全体では一定の在庫や供給があっても、個別品目では不足が起こる点です。
トルエン、キシレン、シンナー、塗料用溶剤、インキ用溶剤は、それぞれ用途、需要、製造量、流通経路が異なります。ある品目の在庫があっても、別の品目の不足をそのまま補えるとは限りません。
現場では、全体の在庫量よりも「自分たちが使う材料が、必要な時期に届くか」が問題になります。
建築会社なら塗料とシンナー。印刷会社ならインキと洗浄用溶剤。自動車補修なら補修用塗料と希釈剤です。
ナフサ不足を読むときは、全体の供給説明だけで安心とも不安とも決めつけないほうが見誤りにくくなります。どの品目が、どの分野で、どのくらい調達しにくくなっているのか。現場への影響は、そこに出ます。
【5】ペレット在庫があっても溶剤系は代替できない

プラスチック原料の在庫があると聞くと、「それならナフサ不足は大きな問題ではないのでは」と感じるかもしれません。
ただ、ここで見ておきたいのは、在庫の中身です。
ナフサから生まれる製品は、途中でいくつもの系統に分かれていきます。同じナフサ由来でも、樹脂ペレットとトルエン・シンナーなどの溶剤系では、材料としての役割がまったく違います。
そのため、樹脂ペレットの在庫があっても、シンナー不足をそのまま補うことはできません。
ナフサは複数の基礎化学品に分かれる上流原料
ナフサは、石油化学製品の出発点にある上流原料です。ナフサそのものが、そのまま塗料やプラスチック製品になるわけではありません。
石油化学工場で分解・加工されることで、ナフサはエチレン、プロピレン、トルエンなどの基礎化学品に分かれていきます。そこからさらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、溶剤、塗料、ゴム、電子部品などへつながります。経済産業省の資料でも、ナフサは基礎化学品に分解され、中間製品を経てプラスチック製品などを生産すると説明されています。
つまり、ナフサは「完成した材料」ではなく、さまざまな製品に分かれる前の原料です。
ここを押さえると、「ナフサ由来の在庫があるなら、別のナフサ由来製品も足りるはず」という見方が成り立ちにくいことがわかります。出発点は同じでも、分かれたあとの製品は用途も性質も変わります。
数値で見ると、足りている在庫と詰まっている品目が違う
ナフサ不足をめぐる説明で混乱しやすいのは、「在庫がある」という話と、「現場でシンナーが足りない」という話が同時に出てくることです。
数字で見ると、足りているとされているのは、主にナフサ由来の化学品全体や、ポリエチレン・ポリプロピレンなどの樹脂系の在庫です。経済産業省は、川下在庫の活用や国内精製などをあわせて、化学品全体の国内需要4か月分を確保していると説明しています。また、別資料では、ポリエチレンなど中間段階の化学製品の在庫は約1.8か月分とされています。
| 見る対象 | 公表されている数値・状況 | 何が言えるか | シンナー不足との関係 |
|---|---|---|---|
| ナフサ由来の化学品全体 | 国内需要4か月分を確保 | 全体としては一定量を確保している | 個別の溶剤がすぐ足りる意味ではない |
| 中間段階の化学製品 | 約1.8か月分の在庫 | ポリエチレンなどの在庫は一定量ある | シンナー用途には直接使えない |
| 低密度ポリエチレン(LDPE) | 在庫325.3千トン/在庫率3.4か月 | 樹脂系在庫は比較的厚い | 補えない |
| 高密度ポリエチレン(HDPE) | 在庫188.9千トン/在庫率3.6か月 | 樹脂系在庫は比較的厚い | 補えない |
| ポリプロピレン(PP) | 在庫513.8千トン/在庫率3.2か月 | 樹脂系在庫は比較的厚い | 補えない |
| ポリスチレン(PS) | 在庫77.1千トン/在庫率1.7か月 | 他の3樹脂より在庫率は低い | 補えない |
| トルエン・キシレン | 国内向け供給は前年実績並みに継続 | 川上の原料供給は続いている | シンナー原料として関係する |
| シンナー | 一部で4月出荷を半減した事例 | 不足感は川中・流通段階で強まった | 現場で直接不足として表れやすい |
出典:経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」、経済産業省「素材産業の国際競争力強化に向けた産業政策」、石油化学工業協会「4樹脂生産・出荷・在庫実績」「2026年3月実績概要」
この表で見るべきなのは、在庫の量そのものよりも、在庫がある品目と、現場で困っている品目が違うという点です。
低密度ポリエチレンやポリプロピレンは、プラスチック製品を作るための材料です。2026年3月時点で、LDPEは325.3千トン、HDPEは188.9千トン、PPは513.8千トン、PSは77.1千トンの在庫がありました。石油化学工業協会は、ポリエチレンやポリプロピレンなど主要石油化学製品について、国内需要3か月以上の水準を維持していると説明しています。
一方で、シンナー不足として現場に出ている問題は、樹脂ペレットの在庫では補えません。経済産業省は、シンナー原料となるトルエンやキシレンの国内向け供給は前年実績並みに続いていると説明しつつ、川中や流通段階で4月の出荷を半減した事例にも触れています。
つまり、数字で見ると「足りている」のは、主に化学品全体の確保量や樹脂系の在庫です。
一方で「足りていない」と感じられているのは、シンナーなど現場で使う溶剤が、必要なタイミングで届くかどうかの部分です。
ペレットはある。けれど、シンナーにはならない。
この違いが、ナフサ不足をわかりにくくしている大きなポイントです。
樹脂ペレットは分岐後にできる下流材料
樹脂ペレットとは、プラスチック製品を成形する前の粒状の材料です。メーカーは樹脂ペレットを加熱して溶かし、容器、フィルム、部品、包装材などの形に加工します。
樹脂ペレットも、ナフサ由来の石油化学製品のひとつです。けれど、ナフサから基礎化学品がつくられ、その先でポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂になり、さらにペレット状に加工されたものです。
この段階まで進むと、材料としての用途はかなり絞られます。
樹脂ペレットは、プラスチック成形には使えます。一方で、塗料を薄める、印刷インキを調整する、器具を洗浄する、といった用途には向きません。
そのため、樹脂ペレットの在庫は、プラスチック製品や包装材の一部にとっては安心材料になります。けれど、溶剤系の不足を直接埋める材料にはなりません。
樹脂ペレットではトルエンやシンナーを作れない
樹脂ペレットでは、トルエンやシンナーを作ることはできません。樹脂ペレットと溶剤系の化学品は、ナフサから分かれたあとの製品系列が違うためです。
トルエンやキシレンは、塗料、接着剤、インキ、洗浄用途などに使われる溶剤系の化学品です。シンナーは、塗料を薄めたり、刷毛や器具を洗浄したりするために使われる混合溶剤です。
一方で、樹脂ペレットはプラスチック成形用の固体材料です。加熱すれば成形用の樹脂として使えますが、溶剤として塗料に混ぜたり、洗浄に使ったりすることはできません。
たとえば、建築塗装の現場でシンナーが不足している場合、倉庫に樹脂ペレットがあっても、塗料の希釈や道具の洗浄には使えません。印刷会社でインキ用溶剤が足りない場合も、ペレット在庫では印刷ラインの調整はできません。
「ナフサ由来の在庫がある」という情報だけでは、現場の不足を判断しにくい理由はここにあります。必要なのは、用途に合う品目の在庫です。
在庫は量だけでなく段階と品目を見る
ナフサ不足を考えるとき、在庫は「どれだけあるか」だけでなく、「どの段階の在庫か」「どの品目の在庫か」を見る必要があります。
同じナフサ由来でも、上流のナフサ、中間段階の基礎化学品、下流の樹脂ペレット、溶剤、塗料、インキでは意味が違います。ある段階の在庫が十分でも、別の段階の不足をすぐに補えるとは限りません。
| 在庫の段階 | 例 | 判断するときの見方 |
|---|---|---|
| 上流原料 | ナフサ | さまざまな製品の出発点だが、加工工程が必要 |
| 基礎化学品 | エチレン、プロピレン、トルエン、キシレンなど | どの製品系列に回るかで影響が変わる |
| 下流材料 | 樹脂ペレット、溶剤、塗料原料、インキ原料など | 用途が分かれており、相互に代替しにくい |
| 現場で使う資材 | シンナー、塗料、インキ、接着剤など | 実際の作業可否に直結しやすい |
「ペレット在庫があるからナフサ不足は問題ない」とは言い切れません。同時に、溶剤が足りないからといって、ナフサ全体が完全に不足しているとも限りません。
ナフサ不足を見るときは、在庫の総量だけで判断しないほうがよいです。その在庫がどの段階にあり、どの品目として現場に届くのか。そこを分けて見ると、ペレットはあるのにシンナーが足りない、という状況も理解しやすくなります。
【6】ナフサ不足は全体量より品目別の偏りで判断する
ナフサ不足を判断するときは、「日本全体で足りているのか、足りていないのか」だけを見ると、かえって実態が見えにくくなります。
全体として一定量が確保されていても、現場で使う品目が必要な時期に届かなければ、現場では不足です。反対に、シンナーなど一部の品目で不足感があっても、ナフサ全体が完全に止まっているとは限りません。
見るべきなのは、調達ルート、在庫の段階、そして不足している品目です。ナフサ不足は、原料が一斉になくなる問題というより、必要な材料が必要な場所に届きにくくなる問題として表れやすいからです。
ナフサ不足は全体不足と品目別不足を分ける
ナフサ不足を読むときは、まず「全体不足」と「品目別不足」を分けて考えるとわかりやすくなります。
全体不足は、ナフサそのものの調達量や供給量に不安がある状態です。中東からの輸入が不安定になる、原油価格が上がる、国内精製の前提となる原油調達に不安が出る。こうした要因が関係します。
一方で、品目別不足は、全体として一定の供給があっても、特定の材料が手に入りにくくなる状態です。トルエン、キシレン、シンナー、塗料用溶剤、インキ用溶剤などで不足感が出る場合は、この見方が必要になります。
「供給はある」と「現場では足りない」は、同時に起こり得ます。
どの範囲の供給を指しているのか。どの品目の不足を指しているのか。そこを分けるだけで、ニュースや業界の説明を受け止めやすくなります。
影響を受けやすい分野は使う材料で見分ける
ナフサ不足の影響を受けやすいかどうかは、業種名だけでは判断しきれません。実際に使っている材料を見る必要があります。
確認したいのは、自分の仕事や現場で使う材料が、ナフサ由来のどの品目に関係しているかです。塗料、シンナー、インキ、接着剤、包装フィルム、プラスチック部材、洗浄用溶剤などを使っている場合は、ナフサ不足の影響を受ける可能性があります。
ただし、影響の出方は材料によって違います。プラスチック原料が問題になる場合もあれば、溶剤系が問題になる場合もあります。塗料やインキのように複数の原料が組み合わさっている製品では、一部の材料不足が納期や価格に響くこともあります。
「自分の業界が関係するか」だけではなく、「自分の現場で使っている材料名は何か」を見る。そこから影響の有無を考えるほうが、判断しやすくなります。
代替品の検討は品目ごとに慎重に行う
ナフサ不足が起きると、代替品を探す動きが出ます。けれど、代替できるかどうかは、品目ごとに見なければなりません。
塗料、インキ、接着剤、溶剤は、成分だけでなく、乾燥時間、仕上がり、強度、安全性、法規制、取引先の仕様にも関わります。似た材料に見えても、用途に合わなければ品質不良や作業トラブルにつながる場合があります。
たとえば、塗料用シンナーを別の溶剤に替えると、乾き方やにおい、塗膜の仕上がりが変わることがあります。印刷インキの溶剤を替える場合は、印刷機との相性、乾燥条件、包装材への影響も確認が必要です。
プラスチック原料の在庫があっても、溶剤系不足の代替にはなりません。同じナフサ由来でも、用途と性質が違うためです。
代替品を見るときは、価格や入手しやすさだけで決めにくいところがあります。用途、品質、安全性、取引先の承認まで含めて確認する必要があります。
流通の目詰まりや在庫確保行動が不足感を強める
ナフサ不足では、実際の供給量だけでなく、流通の目詰まりや在庫確保の動きによって、不足感が強まることがあります。
流通の目詰まりとは、原料や製品がどこかの段階で滞り、必要な場所に届きにくくなる状態です。メーカーに在庫があっても、商社、販売店、物流、現場までの流れが乱れると、末端では「手に入らない」と感じられます。
供給不安が広がると、企業や現場がいつもより多めに在庫を持とうとすることもあります。注文が前倒しされると、流通上の在庫が一部に偏り、ほかの現場ではさらに入手しにくくなります。
この場合、原因は単純な生産不足だけではありません。供給不安、価格上昇、納期不安、在庫確保の動きが重なって、現場での不足感が大きくなることがあります。
米不足との比較は流通目詰まりの補助線にする
ナフサ不足を考えるとき、米不足のような身近な品薄と比べると、流通の目詰まりはイメージしやすくなります。
米そのものが完全になくなったわけではなくても、全体の量と店頭で買える量がずれると、消費者には「足りない」と感じられることがあります。全体量の話と、実際に手に入るかどうかの話は、必ずしも同じではありません。
ナフサ不足にも、似た面があります。国全体や業界全体では一定の供給があっても、特定の品目、地域、取引先で入荷が遅れることがあります。現場から見れば、それは十分に不足です。
ただし、米とナフサは性質が違います。米は消費者が直接買う食品ですが、ナフサは石油化学製品の上流原料です。ナフサ不足の影響は、トルエン、シンナー、塗料、インキ、包装資材などに分かれて表れます。
米不足との比較は、あくまで「全体量と現場感がずれることがある」と理解するための補助線です。ナフサ不足では、さらに品目や用途まで分けて見る必要があります。
ナフサ不足は調達構造・在庫段階・不足品目で見る
ナフサ不足を判断するときは、最後に3つの軸で見ると見誤りにくくなります。
ひとつは、調達構造です。日本のナフサ調達は、中東からの輸入、中東以外からの輸入、国内精製に分かれます。国内精製ナフサも原油確保が前提になるため、どのルートがボトルネックになっているのかを見る必要があります。
もうひとつは、在庫の段階です。ナフサ、基礎化学品、プラスチック原料、溶剤、塗料、インキでは、在庫の意味が違います。ある段階の在庫があっても、別の段階の不足をすぐに補えるとは限りません。
最後は、不足している品目です。現場で問題になりやすいのは、トルエン、キシレン、シンナー、塗料用溶剤、インキ用溶剤など、用途がはっきりした材料です。全体の供給量だけでは、現場への影響は判断できません。
ナフサ不足は、「足りているか、足りていないか」の一言では片づけにくい問題です。
どの調達ルートが詰まっているのか。どのような在庫なのか。どの品目で困っているのか。
この3つを分けて見ることで、ナフサ不足のニュースや現場の声を落ち着いて受け止めやすくなります。
編集後記
ナフサ不足のような話は、原料や在庫の数字だけを追っていると、どこか遠い問題に見えます。けれど、塗料が入らない、インキの納期が読めない、資材の価格が変わる。そうした形になると、一気に現場の話になります。
今回あらためて感じたのは、全体の数字と細かい品目の両方を見ないと、何が課題なのかが見えてこないということです。全体では一定量が確保されていても、必要な品目が必要な場所に届かなければ、現場では不足になります。反対に、一部の品目で不足感があっても、それだけで供給全体が止まっているとは言い切れません。
大きく見るだけでは粗くなり、細かく見るだけでは全体を見失います。ニュースを読むときも、すぐに安心するのでも、不安だけを膨らませるのでもなく、「全体ではどうか」と「どの品目で困っているのか」を行き来して見る。そのひと呼吸があるだけで、供給不安の受け止め方は少し変わるのではないかと思います。
参照・参考サイト
資源エネルギー庁・中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/energysecurity/index.html
資源エネルギー庁・石油備蓄の現況
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/
石油化学工業協会・石油化学用原料ナフサ
https://www.jpca.or.jp/statistics/annual/nafusa.html
石油連盟・ナフサとは
https://www.paj.gr.jp/statis/faq/74
経済産業省・赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要
https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2026/20260414001.html
日本塗装工業会・中東情勢に伴う塗料原材料の安定供給及び価格高騰に関する緊急要望
https://www.nittoso.or.jp/3562/


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